人気インスタ『古着女子』などを手がけるyutori。彼らが次につくったのは、コミュニティスペース『pool』だ。なぜ今「リアル」なのか?取材で見えてきたのは、熱狂と共感による新たなつながり方だった。
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国内最大級の古着情報メディア『古着女子』やECサイト『9090』、オリジナルブランド『dabbot.』などを展開するyutoriが、下北沢にコミュニティスペース『pool』をオープンした。
2018年12月には「古着女子」のインフルエンサーによるフリマイベントを実施。入場チケットは約2分で完売するほどの盛況ぶりだった。
今後、『pool』が担うのは、イベントやポップアップショップなど「発信の場」としての機能。加えて、古着をはじめとしたファッションと様々なクリエイターによる「共創の場」も想定する。
また、その後はyutoriと繋がりをもったクリエイターへ、自由な「表現の場」としても提供していきたいとのこと。
なぜ今、リアルな場をオープンしたのか。『pool』プロジェクトに携わった4名に話を伺った。
(写真左から)
・中沢 渉|Communication Planner
・片石 貴展|CEO(チーフエモオフィサー)
・河野 心希|Art Director
・高橋 一生(sui sui duck)|Film Director
――先月オープンした「pool」ですが、フリマイベントがSNSでも話題になっていて。すごく注目を集めましたよね。狙いはどこにあるのでしょうか?
yutori CEO 片石貴展さん(以下、片石):
僕らは『pool』を「溜まり場」と表現しています。"好き”の溜まり場。
だから目的も、いろいろなんですよね(笑)切り分けようとするとつまんなくなっちゃうから、あえて定義もしていません。いろんな可能性があるよねって話をしていて。
yutoriというチームでは『古着女子』だけでなく『9090』や『dabbot.』など、幾つもの事業を展開しているから、いろんな人がいる。自分たちが醸し出す匂いにつられて、人が寄ってきたらいいよねって。
ただ、運営側の意図や目的がありすぎるとダメで。地元に仲間が集まる場所ってありますよね。駄菓子屋とか、コンビニの前とか、公園とか。なにがあるわけでもないけど自然と溜まっちゃう。そのぐらい”ゆるい空気感”がいいと思っています。
――好きな人と目的なく集まる空間って羨ましいけど、維持するのが難しそうです。
片石:
僕らもただ遊びでやっているだけではないので、そこは普通にオフィスとして使っています(笑)。
オフィスを兼ねてしまえば、べつにスペース単体で収益を考える必要はない。スペースでの売り上げ目標があると、売上になることのために稼働させなければいけなくなる。
何が『pool』にとって正しいものか、判断するときに「お金」という基準が入っちゃうことは避けたいと思ったんです。いろいろ試してみて、もし必要ならオフィスを移転すればいいだけ。2019年の3月ぐらいまで時間をかけながら、具体的な活用法を考えていけたらいいと思っています。
片石:
yutoriの働き方自体もちょっと変わっているので、チームでのワークスタイルとしても『pool』のような場所は使えると思うんですよね。好きなときに集まれる「場」があったほうがいい。
今日いる4人のうち、ぼく以外はみんな社員じゃない。それぞれの別の仕事がありながら、yutoriでも活動してくれています。
yutoriのブランディングなど主にPRを担当する 中沢渉さん(以下、中沢):
もう普通に働き方が選べる時代ですし、なにか同じ”想い”を共有しながら、お金とかプロジェクトとかではなく、みんなが集まってくる。ビジネスのサードウェーブ的な感じが、これからの時代や、僕らにはちょうどいいんだと思います。
『pool』で常にyutoriの仕事をしているわけじゃないし(笑)ただ、仲が良いから、好きだからっていう理由で十分で。ここにいることがきっかけでアイデアが生まれるかもしれないし、新しいプロダクトになるかもしれない。働き方とか場所が選べるようになったからこそ。”ゆるく”集まれる場所が欲しいと思ったんです。
『pool』MVのディレクターを担当した 高橋一生さん(以下、高橋):
ぼくは家がすごく近い(笑)だからなんとなく来ちゃうっていうのもあるんですよね。目的がなくてもいれる場所ってじつはあまりない。なんていうのかな…すごく解放された場所?(笑)
もちろん、スタバだってステキな場所だけど、溜まり場とは違うし。ビジネス込みで、もっとゆるく人間関係が繋がっていくような場所が意外と無いと思うんです。
『pool』全体のアートディレクションを担当した 河野心希さん(以下、河野):
僕もフリーランスだからすごくわかるんですよね、その感覚が。意味もなく居られる場所って、めちゃくちゃ大事。「家以外にも、自分の体を置いておける場所がほしい!」みたいな。
片石:
言ってみれば、サメもクラゲもいない社会主義から守られた人工的空間です。このプールは、50m競泳して記録出せとも言われないのが心地いいのかもしれません。
――高橋さん、河野さん、中沢さん、3人はそれぞれ別のところでも働いているそうですが、コワーキングスペースではダメなのでしょうか?
高橋:
…なんかそれは違うんですよ(笑)。コワーキングスペースってお金を払って仕事をする場所。お金を払っている以上、その分の生産性を出さなきゃいけないと思ってしまう。意識せずとも、目的が発生しちゃってるんです。
河野:
仕事のやる気スイッチをオンにしなきゃいけないってなっちゃう。コワーキングだと精神的に苦痛を感じる(笑)
高橋:
僕らのスイッチはグラデーションなんだよね。フェーダーみたいな感じ。パチッ、パチッって切り替えるんじゃなくて。『pool』はオン・オフをゆらゆら行き来できる。
河野:
SNSなど、オンラインに常に「居場所」がある僕ら世代って、ずっとオンの状態を強いられている感じなんだと思います。繋がっているのが当たり前になった結果、SNSでの発言なんてがっつりオンの状態じゃないですか(笑)。
中沢:
だからみんなそうゆう空気には疲れている気がして。オフな状態になれて、さらに仕事ができる『pool』がちょうどいい。もうオン・オフって簡単な分け方じゃないんですよね。ゆとり世代ならではの、ゆるく流れる空気感が大事で。
――もうひとつ、『pool』のプレスリリースにMVを使ってますよね? なかなか会社がMVつくるってことない気がします。
片石:
「このMV出してる感じの会社と仲良くなれるやん」みたいな。「Good Vibes Only」です。好きっていう愛だったり、一緒にやりたいって熱狂したり。まずはMVからバイブスを感じ取ってもらいたいんです。
人がつくった作品やクリエイティブが匂いになって、自然に仲間を連れてくる気がしますね。「絶対仲良くなれる」「一緒になにかやりたい」を感じ取る。それは自然と受け取るものなので押し付けがましくない。
高橋:
いかに中身を削ぎ落とせるか、それがMVのポイントだったと思うんです。『pool』の役割が変わっていくこと踏まえてあえて意味を持たせすぎないようにしました。たとえば、着ている衣装を全部白にして、かけかえるメガネもなるべく同じデザインで抽象的にするとか。決め付けずに。
――同時に、どこか生々しさ、リアル感もありますよね。
高橋:
スタビライザーを使用せずに完全に手持ちにしていて。撮ってる人がいることを感じ取ってほしかったんですよね。色味も、コミュニケーションしてるような”生感”と、僕らが好きなデジタルを混ぜていて。
あとは出演している女の子が時間が進むごとにちょっとずつ笑顔になっていくのは、この場所にいけば何か楽しいことがあるかもしれないという期待感が表現できたらいいなって。
河野:
誰も入っていないプールに「めちゃくちゃ楽しいプールです」って看板に置いてあるよりも、サイズはちょっと小さいけど、誰かが楽しそうに遊んでるプールのほうが入りたくなると思うんです。
「スペースがオープンしました」というプレスリリースってイメージ画像を載せて、「場所をつくったからおいで」みたいなものが多い。それだと冷たくて一方的だなと思っていました。
中沢:
MVをつくることで、まず僕らがそこに熱狂しているところ見せることで、温度のある伝え方ができるかなと考えました。僕らが大切にしたいのは、共感。yutoriのファンや仲間を増やすための、プロモーション施策でもあるから。
yutoriは会社というよりアーティストのようだと捉えています。片石はポエマーだし、言うことに愛があるストーリーテラー。でもそれを会社のメッセージとして伝えていこうとすると距離を感じて冷たくなる。なので、yutoriではプレスリリースとメディアでの露出を逆の扱い方を意識しています。自分たちが主体となって発信するものはだれにとっても分かりやすいものではなく、そこに感じられる温度や共感性を大切にしています。
そこから感じた思いやyutoriの哲学に共感してくれて、宣教師みたいになってくれると理想ですね。そこから僕らの波が広がっていけば良い。
片石:
僕らはクリエイティブのアウトプットでつながっていると思っていて。初対面のときも「あなたがつくった映像好きなんです」という状態から入ってる。僕ら世代はみんながクリエイターな時代だからこそ、「つくる世界観が好きだから一緒にやろう」がやりやすいです。
河野:
『pool』というネーミングも、yutoriの誰かが波をつくり、その波を受けた人が「こうやって好きを表現できるんだ」と思ってくれたらいいねっていう想いがあるんですよね。誰かの波を見て、自分の波と近いと感じればその波に乗っかってもいい。受け取った人が今後は自分の波をつくって広げていく。
『pool』での波は”好き”を形にしたもので、”好き”を認知できたり、”好き”を表現できる場所になれたらいい。好きに生きてる人とか、好きなものをつくってる人とかが集まるためにも『pool』があると思っています。
高橋:
上下でも並列でもなく。いろんなところに点在していて。誰か一人が起こした波を感じ取って勝手に乗って。次は自分が勝手に波を起こしていく……みたいな”ゆるさ”。
そういう意味だと『pool』をデザインした心希は、ここで生まれた一人目の波だと思うんです。yutoriは片石の想いが共有され、それが伝播して表現されたものがほとんど。その波を受け取って、いいものをつくり、次の波につなげてくれたらなって。
片石:
いいものつくれる、そのためには条件があると思うんですよね。「つくる理由」と「どれだけの自分の色をのせられるか」、両方が高く融合すること。うまく合わさったときに、いいアウトプットが出せる。
自分たちがなぜこれをやるのか。自分の言葉で語れる。そして、好きだから自然に楽しんでやっているから、自分らしく表現できる。結果としていいアウトプットになる。yutoriにも、いいものが還元されるんだと思います。
ただ、気をつけないといけないのは世の中への伝え方ですよね。あまりにストレートすぎると、ただただ、意識高い人が集まって、意識高いものが生まれているように見えてしまう。
あえてすごくポップな身ぐるみをかぶせるというか。真面目なものほど、かわいく楽しく”ゆるく”伝える。その二面性を、yutoriとして出すものには常に意識しています。
中沢:
いかにビジネス的にすごいか、いかに戦略が深く考えられているか、見せつけるって…あまりイケてないなぁって思っちゃうんですよね。たとえば、上の世代に媚びを売るみたいな感じも嫌ですし、「僕らすごいでしょ?」っていうやり方も違う。僕ら自身がこれだけ熱狂していて、愛を持ってやってる。ただそれだけを発信していけばいい。わかる人にわかってもらえるように、温度を持ったものを愛を込めて出していくことが大事だと思っています。
文 = 大塚康平
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