「弱いところとか、ダメなところとか、フタしないですね。自分が抱えてる問題を、不必要に隠すことはないなって」そう語ってくれた片石貴展さん。ZOZOグループ入りが話題となったyotoriの代表である彼。いかに「弱さ」を捉え、付き合っていくか。片石さんと考えた。
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digital "street" company, yutori
2018年6月創業。「臆病な秀才の最初のきっかけを創る」ことを掲げ “ストリート” をデジタル上でプロデュースしている。『古着女子』は現在約33万フォロワーを抱え、インスタメディアを超えた国内最大規級の古着コミュニティを形成。また『9090』/『spoon store』/『centimeter』をはじめ、複数のアパレルD2Cブランドをプロデュース。現在インスタ累計フォロワー数は80万人を超える。2020年7月、ZOZOグループ入りを発表。
とくにコロナになり、多くのところで「弱さ」や「不完全さ」をどう受け止めるか、扱うか、大切になっている気がします。いかに無理せず、かつ前に進むか。yutoriはナチュラルにそれができているように感じて。
それはそうかもしれないですね。なんていうか、弱いままでいれたほうが、シンプルに生きやすいですよね。
あと、ぼくたちはモノをつくる会社なので、クリエイティブを大切にしていて。創作ってコンプレックス、弱いところ、臭いところを昇華させて生まれると思うんです。そこにフタしちゃうと、どこかで見たことあるものになる。弱さの根っこが、おもしろいものの源泉なのかなって。
片石さんは自分の弱さを、自身で認めている?
弱さを認めるっていうか、できないことに対しては「こんなん、できなくてもしょうがなくない?」と、自分という存在に妥協してる感じですよね。
意外とおもしろいものをつくるために「嘘がない」は大切だと思ってて。嘘のない自分が見えると、コンテンツも、本物が取捨選択できるようになるんじゃないかなと思います。
最近だと、SNSをはじめ、生っぽいもの、素っぽいクリエイティブが注目されているように感じます。
リアリティがあるもの、ピュアなものって直感的に心が動きやすいんですかね。それって今までで言えばたぶん異質だったし、「見たことのないもの」だったのかも。
ただ、リアリティ、生っぽいものって、インフレが起きやすくて、過激な方向にいきがち。もっともっと、と。自分のダメなところとか、過激なところに切り込んでいっちゃったり。社会全体としても、個人としても、ちょっと危うさは感じてます。
ちょうどコロナもあり、どんどんエスカレートするとつらいのかも…。ちなみに片石さんご自身はコロナの時、気持ちの面では問題なく過ごせた?
いや、ぜんぜんダメですね。メンバーに聞いてもらったらわかりますけど、けっこう病んでました。アルバイトの子にも「社長がやばい」みたいに言われてたし(笑)今は落ち着いて、まあ大丈夫ですけど、とくに2月くらい。コロナの直前くらいからやばかったです。
何がそこまでつらかった?
なんだろう、もちろん市場の難易度が高まって、絶対にやり切らなきゃいけない、みたいな使命感、緊張感もそうですし。あとは「怖かった」が正しいかも。
怖った、というのは感染がでしょうか?
というより、「これからやばいことが起こる」という未知への怖さですね。
Twitterで情報摂取していると、イヤでもネガティブな言葉が増えて入ってくるじゃないですか。緊急性が高く、さらに加速度的になっていって。あの空気感で「やばいことになる」と予期しちゃったんで。実際そうなっていったし。
当時はメンバーからは「社長がおかしいことを言っている」みたいな感じでしたが、言ってたことが当たっていったので「まじで預言者」みたいになりましたね(笑)
ただ、その「病んでいってる感じ」も全部メンバーに伝わってる状態だった?
そうですよね。ひっくるめて全部話せる仲間がいたのはすごくでかい。話しても大丈夫と思える人に囲まれてたっていうか。結局、他人をどこまで信用するか、という話でもあって。自分をさらけ出す範囲と、他人への信用度って相関だと思うんですよね。
たとえば、「自分がちゃんとしなきゃダメ、やらなきゃダメなチーム」とか、自分でそう思ってたら、そうなるんですよ。勝手に自分の中で閉じこもって。まわりのみんなも気付きますよね。あ、閉じこもってるなって。もし自分だったらわかるし、バレるわって。だったら、さらけ出したほうがシンプルにラクですよね。
もちろん、そもそも相手へのリスペクトがないとか、八つ当たりするとか、論外ですけど。自分が抱えてる問題を、不必要に隠すことはないなっていう感覚です。
そういう意味でもyutoriのメンバーたちは「同僚」っていうより、「仲間」っていうほうがあってる気がしますね。
そうですね。意図的にマネジメントとか、管理とか、そういう言葉も使わないようにしているし。その概念ってクリエイティブと真逆ですよね。
ただ、よく誤解されるんですけど、yutoriって会社としてはきちっとしてるんですよ。ぜんぜんゆとらない(笑)10時に必ず朝会をやってるし、日報もちゃんと書いてもらってるし。その日に何をやったか、何を感じたのかとか。ちょっと古い会社が当たり前にやってることを、意外としっかりやってたりもして。
オフィスもちゃんと設けていて。
そうですね。オフィスのほうがみんないるし、仕事ができるじゃないですか。リモートでもいいじゃん、みたいな感じもあると思うんですけど、前提、人間は怠惰だと思っていて。自分自身がそうなのと、出社したいって人もすごい多かったんですよ。みんな一人暮らししてる20代ばっかりだし。
リモートが多くなって、むしろ「リアル」で仕事する価値が逆に見直されてる気がします。会えば、その人がどんな状態か、シンプルによくわかるし。
そうですね。もともとyutoriをつくったのも、お互い、感覚的に伝わったり、一言言ったらわかるっていう環境を作りたくて。その方がやってて楽しいし、仕事のし甲斐があるし。あまりに背景、バックグラウンドが違う人が集まりすぎると、当然コミュニケーションのコストはかかるじゃないですか。あと何かつくる時も、世の中っていうか、そもそも身近な友達とかで起こってることを事業そのものに取り込むのが大切だろうなってあったんですよね。事業、会社を成長させたいともちろん根幹にあって、そのためにも、同じ感覚を共有できたほうが良くて。
自分が伝えきれなかったりとか、不安とかストレスみたいなの全然あるんですけど、あって普通なんで。完璧な状態じゃないけど、そこを目指して、本当に頑張ってるっていう感じですね。
事業の側面から見たとき、もし、2020年以降での戦い方として考えていることがあれば教えてください。
今って状況が刻一刻と変わる、戦争じゃないですけど、有事ですよね。世の中がめちゃくちゃ流動的。先を見据えて…っていうより、いま起きてることにフォーカスして、それをどう積み上げるか。完璧を目指さないっていうかな。いつでも柔軟に動けるようにしておくっていう感じですね。
たとえば、商品の企画とか、1ヶ月とか2ヶ月前に作ることが多くて。シーズンで、とかは作っていない。臨機応変に。ただ、ファッションブランドなので、マーケットに寄り添いすぎるとブランドとして成立しない。
たぶん、どんな状況になっても、ファッションへの情熱って絶対なくならないと思っていて。自分をよく見せたいという欲求だし、その方向はいっぱいあるし、多様化してていいと思うし、多様化してるけど、理想の自分になりたいって気持ちですよね。
ファッションが廃れることは100%ないと思うんですよ。どんな便利なものが出てきてもそう。じゃあ「なんでヒールブーツ履くの?」とか不便だけど表現として履くわけですよね。便利さ、効率、合理性とは全く違う、根幹的な欲求にも寄り添うものですよね。
ただ、それを提供していく側の構造が、いまの時代にフィットしていないというだけだと思うんですよね。店舗がたくさんあり、そこに並べるために大量に在庫を作って。このやり方だと、1年前から企画しなきゃいけないじゃないですか。
だけど、一瞬、トレンドなんてすぐ変わるし。たとえば、音楽とかもそうですよね。SNSメインに売れた人たちもこの数ヶ月の出来事じゃないですか。だから事前に世の中を予測して、出すってことは無理なのは明白で。なんでその行動をとれないか。やっぱり「SNSで売る」よりも前の「店舗で売る」という産業がベースになっているので。
予測できて準備して当てられたら最高ですけど、無理なんで、生存戦略として「いま起きてるところにフォーカスする」やり方しか今はない気はします。事前に作ったほうがラクだと思うメンバーもいるだろうし、ぼくもそう思うし。ただ、究極的には、いまの動向を見て、いま必要なものを今出せばいい。これがシンプルな結論で、近づける努力を今はしています。
やっぱり洋服はすごい好きだし、ぼくは洋服にめちゃくちゃ情熱を持ってるんで。コロナ後、オンラインをメインにしたアパレルの会社で、その代表として資本市場でも認められるところにチャレンジしたい。あとは、もっと同じような人が出てきて、楽しくやりたい、みたいなことはすごく思いますね。
>>>後編「言葉が雑な人は、いいリーダーになれない」yutori 片石貴展の「言葉」との向き合い方を変えた一言
取材 / 文 = 白石勝也
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