「インターネットが不自由になってきた」こう語ってくれたyutori 片石貴展さん。ただ、悲観するのではなく、自分たちの居場所を作るために「リアル」で仕掛ける。インターネットに求めていたことはいま『現実空間』にこそある? ハイパー銭湯『BathHaus』を立ち上げたroseさんとの対談をお届けする。
前略プロフィール、mixi、アメブロ…
ぼくらがかつてインターネットに求めていた場所は、いま一周して「リアル」にこそあるのかもしれない。
「インターネットが大衆化し、逆に閉塞的な場所になってきたように感じるんです」
こう語ってくれたのが、yutori 片石貴展さん。いまリアルな「場づくり」に活路を見出す。
時を同じくして、ハイパー銭湯『BathHaus』を立ち上げたroseさんも、
「『現実空間』にこそ、求めていたものがある気がした」
と話をしてくれた。
オンラインを飛び出した「リアル」でこそ生まれる空気。価値観でのつながりをテーマに、注目の若手起業家、二人の対談をお届けする。
[プロフィール]
rose|chill & work代表(写真 左)
片石貴展|yutori CEO(写真 右)
ー 今の「リアルでのつながり」がキーワードになっていると考えています。お二人とも「場」をつくられていますよね。とくに若い世代だと、どんな価値観の変化や揺り戻しがあるのでしょうか。
rose:
息抜きできる場所があるといいなって思うんですよね。つねに人と群れていたいわけじゃないけれど、たまに気軽に立ち寄れるみたいな。
片石:
言葉は悪いけど、悪口を言い合える場所とかだって、必要なのかもしれない。僕らも表現こそポップにはしていますが、何かしらアンチテーゼを持っていたり、怒りからいいものが生まれたりしていて。
みんなそういう場所を求めていて。今定義されている「コミュニティ」って高め合える場所が多いけど、僕らは学校で話すようなテンションで人とつながりたいんですよね
rose:
放課後の教室みたいな?
片石:
そうそう!高校生以前は中身のない話ばっかりしてたけど、社会人になると評価しあうことばかりで。大学が唯一のモラトリアムなのかなあ。
rose:
大学だと、休憩用の椅子が置いてある場所があって、誰かを誘うまでもないけど、そこに行けば誰かいて。まさに、溜まり場ですよね。
私が運営する『BathHaus』という銭湯&ワークスペースの常連さんに美容師さんがいて。SNSでの集客に注力されているらしく、じつはSNSマーケティングにめちゃくちゃ詳しい。立ち話をしていた流れで偶然ノウハウの話になって、さらっと教えてくれたりするんです。そういった出会いも『BathHaus』ならでは、だと思います。
rose:
リアルより、インターネットの方が実名性が高く、値踏みしやすくなってしまった気がして。
今のインターネットって、多様に見えて、じつは同質化された意見しか生まれない。もっとフラットな状況で話をすることで、新しい発見があるはずなんです。
たとえば、飲み屋で知らないおじさんと話す方が昔のインターネットに近いんじゃないかな(笑)『BathHaus』のワークスペースも、仕事だけを目的にくるわけじゃなく、お風呂に入り来たり、ビールを飲みに来てくれる人もいるから、ゆるくつながれる。クローズドなコワーキングが苦手な人も来てくれているし。
片石:
今のインターネットって、味気ない人間が量産される場所になったような気がするんですよね。「今すぐに価値を示さなければいけない」っていうか。だから、短期的な視点でしか考えられないことも多い。
rose:
SNSでもそうですが、自分の価値観に近い人しかレコメンドされないんですよね。本来、多様である価値観がすごく見えづらくなって。
ご飯とか、旅行だって、自分で体験した「絶対評価」が大切なはずなのに、口コミに従った「相対評価」ばかりが出てきますよね。ジョージ・オーウェルの小説『1984年』の世界に近づいているなって。世の中が絶対的な存在による監視社会になると、みたいな。まさに今のインターネットって近いよなって思うんです。
片石:
むしろ、今はリアルが一番“インターネット的”なのかもしれないですね。
片石:
最近、リアルな「場」をつくったり、いろんな人に会ったりして思うのが、“リアルの方が、人は優しい”ということなんですよ。ネット上だと粗探しばっかりしてる人も、会ってみたらいいやつだったとか(笑)
ネットってすごく記号的で、表層しか見えないのかもしれない。ギスギスしちゃうんですけどリアルのエモさが逆説的に価値を持つ時代なんだと思います。
僕が好きなのは、新しい概念を打ち立てて、そこに共感なり、惹きつけられて集まってくれた人を“神的視点”で眺めることで。今でいうと、それがリアルな「場」のほうがすごくハマる気がしているんです。
rose:
その感じ、すごくわかります!以前、ソーシャルゲームを作っていた頃に「ソーシャルゲームは一つの社会だ」と言われていたんですよね。そのなかで「欲」と向き合って、対価を得ていく。課金の方法などが問題視された部分はもちろんありましたが、本質は「社会」と「欲」である、と。
じつは「店舗づくり」ともすごく共通している。一つの社会を作って、来る人が何を求めているのか、それをPM視点で眺めていくことが大事なんですよね。だから、アプリも、店舗も、プロダクトが変わっただけでやり方は一緒なんだなと思います。
固定費という意味では家賃ってサーバー代みたいなものだし、大工もエンジニアと似ている。常連になってくれるお客さんが増えることも、アプリのユーザー継続率が上がることも、共通して「居心地の良さ」が大事だと考えています。
私はどちらにしても、企画をしたり、スケジュールを引いて管理をすることが仕事ですから。むしろ今までの経験があったからこそできている。コミュニティを作る本質は変わらない気がしています。
ネットだとフィードバックもデータから読み取るしかないけど、店頭だとお客さんの反応を肌で感じられる。だから、アプリを作っていた頃より、確信を持ってやれている気がします。リアルも面白いなと。人と直接会って話すことの大切さとか、リアルの良さをまさに今感じているところです。
片石:
ただ、リアルで難しいなと思うこともあって。目的の明確性を求められないところなんですよね。『古着女子』でいうと、「コーデを投稿するアカウントだ」というように、1つの個体に対して明確な体験が必要です。リアルでは必ずしも目的が明確化されていないことが重要だったりしませんか?
rose:
たしかに、私も「コワーキングスペース」とは言わないようにしていて。なんとなくクローズドな雰囲気になってしまうから。ワークスペースにお風呂とかバーみたいなオープンなコミュニティをくっつけたい。誰でもフラッと立ち寄れるようにしたい。まずは「銭湯ができた」とゆるく場所を知って、そのあとにワークスペースも使ってみようというお客さんは多いですね。
片石:
そうそう。リアルで「〇〇セミナー」とかって決めちゃうと「意識高いから行きたくない」と思う人もいて。目立つことは必要だけど、目的を絞りすぎるとダメ。曖昧さを残しつつ、どう匂いを出すのかがネットと違って難しいなあと思います。『pool』も“溜まり場”でしかなくて、ある程度解釈の幅を残しています。「クリエイター発掘のためのコミュニティー」とかって言っちゃうと、反発する人もいるし。だから、ふらっと訪れたくなる場所って、シャープすぎてはダメだと思うんです。
片石:
ここまで「インターネットが不自由だ」と批判みたいな感じになりましたが、小学生の頃からSNSがあったし、あたり前にあったものという感覚で。すごく楽しかった。モバゲーでアバターが可愛い女の子と仲良くなったりもしたし(笑)
僕も学校のクラスという狭い空間に鬱々としていたので、前略プロフィールやったりアメブロで友達増やしたり。インターネットに救われた人生だったなと。
rose:
インターネットとの付き合いは…私もまあいろいろあって(笑)12歳くらいからパソコンオタクで。毎日朝までサイト作ったりにのめり込んでたんですよ。そのまま頑張って続けていればエンジニアになっていたのかもしれない。
でもある日、サイトを作ってることが中学の同級生にバレて。みんなから「オタクだ」って言われて、現実につかう時間を増やしましたね…(笑)。大学生になって、パソコンを使う授業でサイトを作ってたら、まわりの友達より完成度が高いもの作ってまた「オタク」って言われちゃって(笑)。
だから、じつはちょっと距離をおいていたんです。
そんな中、2010年にポーランドに留学していたときのこと。モロッコのサハラ砂漠のど真ん中で仲良くなった遊牧民から「Facebookでつながろう」と言われたのが衝撃でした。「やっぱりインターネットはすごいじゃん!」と。なんていうんだろう。封印されていた気持ちが解放された気分でした(笑)
片石:
前提として、インターネットは好きなんですよね。ただ、いまのインターネットは便利なもの、インフラになって大衆化した。大勢に馴染めない一部の人のものだったインターネットはもう無いんだと思います。
10年前のインターネットにあった匿名性や公平性のあるコミュニティはリアルな場に求め、インターネットには利便性を求めている。うまく使い分けていけたらいいですね。
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