2019.02.07
心のままに。オリタケイの「好きなこと」から紡がれる絵の世界観

心のままに。オリタケイの「好きなこと」から紡がれる絵の世界観

イラストレーターとして人気を集めているオリタケイさん。「あっ、これ次の個展のポスターなんです!」と無垢に微笑む姿からは、今を精一杯楽しんでいる様子がひしひしと伝わってきた。なににもとらわれず自由に、等身大で生きる彼女の世界。そこには、「”仕事”と”好き”の境界線」を上手に歩くスタイルがあった。

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純粋でまっすぐな心のままに進むのがオリタケイ

取材場所に向かうと、ふわふわのコートに身を包んだ女性が出迎えてくれた。屈託のない笑顔で天真爛漫といった雰囲気の彼女は、「オリタケイ」が描く女性によく似ている。

オリタケイさん、23歳。平日は少数精鋭のスタートアップでデザイナーとして働きながら、イラストレーター「オリタケイ」として活躍している。

彼女の作品は、独特の作風や柔らかい表情が「おしゃれでかわいい!」とSNSを中心に人気沸騰中だ。個展を開催すれば、地方からわざわざ足を運ぶファンも珍しくない。

「あ、これは前回の個展の画集です。ペンや原画も持ってきましたよ〜!」と、大きなスーツケースからアイテムを紹介する彼女。話しながら、ワクワクした表情を浮かべている。

彼女はなぜ、こんなにも楽しそうなのだろう。見ているこっちまで開放的な気持ちにしてしまうその魅力は、同世代の私から見て純粋に憧れるものだった。

「デザインもイラストも、両方を心地よく続けていく。難しく考えずに純粋に心のままに進んでいるので、毎日が楽しいのかもしれませんね」

と無邪気に話す。趣味だとか、仕事だとか彼女の前では、そんなものは全く関係がないのかもしれない。自分の好きなことを思いのままに進むことこそが、作品の表現にも繋がっている気がした。

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【プロフィール】オリタケイ(23)
大学卒業後、2018年4月にheyに新卒入社。同年6月には、パッケージをデザインしたheyオリジナルキットカットがSNSで話題に。現在は、picon社にてデザイナーとして働いている。イラストレーターとしては、大学在学中から本格的に活動を開始。現在は漫画やグッズの制作、個展の企画・開催などを中心に幅広く活動している。

「好きなことをしているだけ」でもいい

最近Twitterでよくオリタさんの名前や絵を見かけます。やはり、これだけ活躍されているとかなりの時間が絵を描く時間になってるんですか?

いやいや!イラストを描いているのは生活の2割くらいです。描きたいときに描くっていうスタイルですね。土日とか、めっちゃ寝てますよ(笑)

どちらかというと、週5日はWebサイトやiOSアプリのデザイナーとして働いてるので、デザインをしてる時間の方が長いです。

そうなんですね!デザインをしつつイラストも描かれているのはなぜですか?

わたしの中でイラストは「自分のため」、デザインは「人のため」の活動という立ち位置なんです。イラストやアートイベントは「好きなこと」なので、自分が思い切り楽しんでいる様子を人様に見ていただけている...という状況ですね(笑)

デザインをする時は、むしろ一切の好みを排除します。デザインをしていく中で「個人的な好み」や「独りよがりの感覚」はむしろ邪魔になることも多いんです。

なので、イラストは好きを溢れさせて、デザインは誰かのためにと切り分けています。

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絵を描くのは、溶けきれない想いを伝えるため

オリタさんは、まだ社会に出て1年も経っていないということですが...“駆け出し”には思えないほど、「働くこと」を楽しんでいるように見えます。

そんな風に見えているとは、嬉しいです。ありがとうございます!(笑)

いまは先ほどお話させていただいたように、デザインと絵をうまく自分の中で共存させられているんですが、ずっとそうだったわけではないんです。

実は、新卒でデザイナーとして入社した会社を2カ月くらいで辞めてしまったこともあって......、当時は絵でも連載のお仕事をもらっていたので、平日は仕事、土日や仕事終わりは絵を描いてと隙間のない生活を送っていました。そんな生活を繰り返していたら、体調を崩してしまいました。

そうなんですね!いまのオリタさんからは想像もつかないです......

会社を辞めたタイミングで、デザインや絵、自分自身について一度全てリセットして考えてみたんです。私は何がしたいのか、どうなりたいのか。自分の気持ちはどこへ向かうんだろうか。

そこで分かったのは、私は絵を書き続けたいということでした。この世で自分しか生かすことができない、「オリタケイ」という存在を守りたいと思ったんです。

+++写真提供:yansuKIM

そのとき、「絵を描いて食べていこう」と思ったんですか?

仕事として食べていこう、という決意というよりも絵を通して自分の中にある熱量や溶けきれない想いを伝えたいと感じたんです。だから、それができればいい。逆に、それができないのなら絵を描く意味はないと思いました。

もちろん働きながら絵を仕事としてさせては頂いていたので、まったく描けていなかったというわけではありません。でも新しく考え直してたときに、決まった通りに描くよりも、自分は何を描くか、どう伝えるか?を考えることにパワーを注ぎたかったんです。

だったら自分の好きな絵を描いてTwitterやnoteで発信して、個展をやって、自分の絵が欲しい人に自分の手で作品を届ける。そんな風に「オリタケイ」を知ってもらえるのが、ハッピーだと感じました。

私にとって絵を描くことは、小さい頃からずっと「自分が自分でいるため」の手段みたいなものだったのかもしれません。

ある意味「壁にぶつかった」経験があったからこそ、今のスタイルが生まれたんですね。

そうですね。何かを諦めたとか、割り切ったとは全く思ってないです。ただベストな距離感が見つかりました。

これは仕事だとか、これは趣味だとか、パキッと切り分けてしまうと逆に苦しくなるんじゃないかなって。だったら、無理に型に当てはめなくていいって思ったんです。

デザインも絵も、ただ好きだからやっている。でも、それぞれエネルギーの向かう先が違って、だからこそ「心地よい距離感」もちょっと違うって感じですね。

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自分が「憧れる人」になれる生き方を見つける

そういえば、オリタさんのnoteで、「美大進学を諦めた」という記事を拝見しました。イラストの道に進むオリタさん的に後悔はしていないんですか?

すごく後悔した、という気持ちはないです。もちろん、専門知識を学ぶ彼ら彼女らを「羨ましい」と感じるし、尊敬もします。

でも、その道だけが正解じゃないから、別の「幸せな道」を考える。正解じゃなくて、自分にとっての最適解を見つけにいく。

美大に行くのと行かないのと、どちらのほうが「総合的に幸福か」を考えてみたとき、たどり着いたのが「行かない」という選択でした。

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そんなオリタさんは、これからどうなっていくんですか?

正直なところ、「まだしっくりくる自分に出会えていない」という感じです(笑)

この一年で、正直自分でも驚くくらいたくさんの人に「オリタケイ」を認知してもらえるようになりました。今回の個展『オリティズム』も、前夜祭から始まり、すでに多くの方に来場していただいています。

でも、まだまだ伝えたいことが表現し切れているとは思いません。だからこそ、今年はもう少しじっくり自分と向き合って、「憧れる姿」を見つけていくのが目標です。

よく、「諦めたら試合終了」って言うじゃないですか。でも、そんなことないと私は思います。一度諦めても、やりたくなったらまた再開すればいい。やり直した先に、何か気づくものもあると思っています。

私も、今は積極的に商業用の絵を描いているわけではないですが、どこかでコロッと気が変わるかもしれません(笑)そのためにも、型にはまらず「憧れる自分」を探し続けていけばいいんじゃないかな、と思います。

少なくとも私は、そう思うことでゆるくまっすぐに進めていると思います。

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文 = 長谷川純菜
編集 = 野村愛


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