2019.07.09
二項対立を壊せ! 佐俣アンリが考える、2020年以降の「大企業とスタートアップ」

二項対立を壊せ! 佐俣アンリが考える、2020年以降の「大企業とスタートアップ」

2012年に活動を開始し、ファンド累計約100億円(※)を運用するベンチャーキャピタルファンド『ANRI』。代表を務める佐俣アンリさんは、大企業とスタートアップという「二項対立の終わり」をキーに、日本の未来図を案内してくれた。(※)1〜3号まで

連載『AFTER 2020』2020年からの「10年」をどう生きるか
時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に迫ります。

《目次》
・官と民、大企業とスタートアップ…二項対立の構図を変えていく
・大企業は「本業」を再定義し、スタートアップと合理的に組む
・スタートアップは「イノベーションのツール」として昇華される
・イシューをもとに、正しく手を組み、課題を解決していく
・ベンチャーキャピタルファンドに宿る「美しい」仕事の還流
・マジックワードを自問自答し、未来に向かって真っ直ぐ進め

官と民、大企業とスタートアップ…二項対立の構図を変えていく

「2020年以降の10年」をテーマに伺っていくこの企画。人口減少をはじめ、縮小の兆しが見える日本。その環境下で、佐俣アンリさんはある希望を抱きながらも、僕たちが今すぐにでも変えていくべき「意識」を問うた。

基本的にここからの10年、凄まじい勢いで、日本という国は力を失っていきます。それが耐えきれるのかを問われる世代であり、問われる時代です。2030年までに「布石」を仕込み切れなければ、冗談抜きで地方自治体から順番に潰れていくはずです。それこそ、毎月のように財政破綻のニュースを目にする日常があり得る。

実は先日、40歳以下のメンバーが集う「G1新世代リーダー・サミット」の一環で、政治家や県知事、官僚といった方たちも交えて、3日間の合宿をする機会がありました。そこで話してみると、それぞれの立場で頑張っていて、究極的には向かいたいゴールもテンションもほぼ同じだとわかったんです。

僕らの世代的には官民の二項対立で考えるのではなく、思ったよりお互いをわかりあえている現状が、もっと世の中に広がるといいなと感じています。同様に、大企業とスタートアップが縄張り争いをしている場合でもない。双方の妥結点を見つけて、全員で進まなければ。

人材の交流も進み、2030年までに新しい事業を生むために10年かけて調整していくんです。「スタートアップが世の中を変える」といったメッセージは、良い意味でなくなるでしょう。これまでの20年間で「大企業が古く、スタートアップが新しい」という二項対立で語られてきた環境も変わっていく。

つまり、両者を分けるのではなく、滑らかにつながっていくのが、これからの動きだと見ています。

大企業は「本業」を再定義し、スタートアップと合理的に組む

二項対立を超え、企業がなめらかにつながる時代。その到来とともに、大企業は新たな課題を直面する。今後10年かけて、自分たちが邁進するべき「本業」の見直しが急務だという。

スタートアップも「大企業を倒すぞ!」と言ったほうが短期的にはやりやすいし、見ている方も二項対立が面白いのだけれど、そうするのが正解ではないと思うんです。誤解を恐れずに言えば、日本は大企業で成り立ち、これからも大企業が強い国です。その中で物事を変えていくには、大企業とスタートアップが対話をして、一緒にチャレンジしていかないと。

大企業の中にスタートアップみたいな部署があってもいいし、スタートアップとは思えないぐらい大企業っぽい堅さのある会社があってもいい。それらが、もっと混じり合うようなイメージを持っていますね。この3年ほどで、その空気は確実に生まれてきたと思います。

オープンイノベーションの参入ブームは続きますが、2019年の後半や来年あたりには調整期が来るでしょう。おそらく、2022年にかけて、大企業が生き延びていくための事業領域以外のオープンイノベーションはなくなっていく。言い換えると「10年後や20年後に何をして食べていくのか」というテーマに、経営陣含めて真摯に向き合えている会社が強くなります。このテーマを真剣にディスカッションできる会社は、まだ少ないですね。

そのためには、「本業」の定義が大切になります。たとえば、東京急行電鉄(東急)さんは駅周辺で商売をしているけれど、これ以上は駅を増やせない。そこで、「駅の代わりになるハブ」を考え、彼らは空港運営に本腰を入れているんです。ANRIでは観光サービスの「 WAmazing に出資し、東急さんとも取り組んでいます。「インフラ拠点をつくる会社」として、新規事業をスタートアップと生み出しているわけですが、もっと同様の取り組みが増えていくでしょうし、そういうものだけしか残らないのではないかと。

2020年以降、本業と関連性の薄い「流行り物」への投資は、景気の悪化であっさり終わります。短期的に経済が下がったときにパニックが起こって、大企業がスタートアップを見捨てるようなことは、やはり起きる。だからこそ大事なのは、双方の関係性が冷えたとしても取り組み続ける合理性です。景気の波はあっても、本業は続けていきますからね。

この3年ほどで、各社が本業を見つめ直しながら、スタートアップとも取り組んでいく時代が来ます。2030年へ向かって、その動きが完成していくのではないかと見ています。

スタートアップは「イノベーションのツール」として昇華される

「大企業の国」である日本で、いかにスタートアップビジネスを展開するか。佐俣アンリさんは大企業を打倒する路線ではなく、「本業への侵食」を志向する。

もっとも、大企業とスタートアップの関係では、あらゆる「在り方」は考えられるけれど、僕としては歩み寄って合体していくのが現実的なのだろうと、両者を見ていて思います。

日本に起こる大変革を前に、優秀な人が一生懸命に頑張ったとしても、全員が近視眼的になったら負けてしまう瞬間ってあるんです。そのしがらみから抜けやすいのがスタートアップの良さなんですよ。

「出島効果」とでもいうのかな。要は、背負うべき諸条件を取っ払い、世の中のあらゆるものと短期的にカニバリズムが起きたとしても、好きな人材を集めて推進して良いのがスタートアップというビジネスモデルです。このビジネスモデルを大企業がうまく使えていくんだったら、結構楽しくなりますよね。

大企業では各々のスタートアップが「飛び地」のように見えても、20年くらい掛けることで一つの円になっていく。ただ、そのためには時間が必要ですから、長いスパンで物事を見なくてはいけません。現在の大企業は経営陣が3年ほどで入れ替わりやすいので、なかなかその立ち位置を保てないんですね。たとえば、創業家が代々継ぐオーナー社長の企業は、長い目で物事を見やすい面はあるでしょう。

この経営の流れ自体を変えるのが難しければ、本業へ侵食していける領域を、スタートアップと組んで育てていくんじゃないかと思います。僕としては、新しいイノベーションのツールとしてスタートアップが昇華されていくのでも良いと考えているんです。

僕らは途上国に生まれたわけではないし、テクノロジーが既存のインフラを追い越すようなアフリカに住んでるわけでもない。日本という国で事業を成し、スタートアップを続けていくことを考えるのであれば、その方が結果的に強いのではないかと。

2019年6月に正式オープンとなったインキュベーション施設「Good morning building by anri」。独立系ベンチャーキャピタル『ANRI』が、”起業家同士が高め合い、未来を共創するコミュニティを支援したい”という思い込められたリアルスペースとなっている。(photo by Kim Yansu)

イシューをもとに、正しく手を組み、課題を解決していく

二項対立の垣根を超えていくのは大企業とスタートアップばかりではない。佐俣アンリさんも関わっているというNPO法人や地方自治体も連携先だ。

混ざり合う営みによって、大企業も自分たちを再定義します。スタートアップも、自分が向かっていく先の定義を考える。お互いがお互いの事業の20年後を考え合い、双方の時代観をすり合わせて、ロングスパンで考えながら会話する時期が来たんです。

今、大企業がスタートアップをM&Aせずに出資で終わっているのは、どこの大企業も本業が見定まり切っていないからでしょう。本業にする自信があるなら、すぐに買うはずですからね。

大企業でも、KDDIさんはスタートアップに本気で取り組み、M&Aをしているのは、それが将来の食い扶持になると分かっているからでしょう。

要は、スタートアップへの関わり方を「弱者救済」と捉えないことです。たとえば、僕が務めていたリクルートという会社は、創業期に高卒社員と女性を積極的に採用していました。当時の自社が持つ能力において、最も優秀な人を採用するための選択肢として、その人材に注力したわけです。ゴールドマン・サックスの日本支社が女性を積極採用したのも、ユニクロの障害者雇用率が高いのも、そこに「強み」があると分かっているからに他なりません。

スタートアップでも同様に「社会貢献」という関わりではなく、「勝ちにつながるから取り組む」とKDDIの髙橋誠社長は腹を決められている。その意味でも、断トツの会社ですね。

大企業側ではなくスタートアップを見れば、出資先ですから手前味噌にはなりますが、ラクスルは良いですね。自社を拡大していく過程で、物流はヤマト運輸と組むなど、フラットに見定めながら選択できている。眼前の月商1千万よりも、5年後の業界マップを高い視座で捉えていますね。たしかにラクスルの経営陣は、創業期からそういうタイプでした。

強みを知り、「正しく手を組む」のは、他の分野でも進んでいます。僕は非営利セクターの支援が好きで、NPO法人でも一緒に活動させてもらっているのですが、あるイシューに対して、NPO法人、地方自治体、スタートアップを連携させて取り組む手法が、かなり開発されてきました。

つまり、目指しているものに対して、もっとみんなで手を組める時代が来ています。自分の性格も「お見合いおばさん」だし、ベンチャーキャピタルファンドは全体図を俯瞰しやすく、彼らのハブになれる仕事ですから。

だからこそ、私は「弱者救済」ではなく、ベンチャーキャピタリストとして勝つためにNPOに関わらせて貰っています。

ベンチャーキャピタルファンドに宿る「美しい」仕事の還流

2012年から活動を始めたANRIは、予算規模も増加しただけではなく、資金の預かり先に変化が表れているという。その動きは、佐俣アンリさんが目指す理想の還流に近づいている。

ANRIもファンドを8年続けてきて、お預かりしている予算の規模も、やれることも増えてきました。だからこそ、「解決すべき課題のために、どこへ向かうのか」を、ちゃんと10年や20年のロングスパンで定めないといけません。自分のビジネスマンとしての能力は、ここから10年でピークへ向かっていくはずですしね。

学生の時、僕はベンチャーキャピタルファンドを知って、ある「美しさ」を感じたんです。大学や年金の基金を預かってイノベーションを起こし、その対価がまた戻っていくという循環を、とても美しいと思った。今のANRIは、社会として必要なシステムになりつつあり、ようやくそのレベルの活動ができるようになってきました。

これまでは上場企業や個人投資家のお金をお預かりしてきましたが、今はかなり公的なお金も増えてきました。今後の10年は、もっと大きなことに取り組めるし、もっとサスティナブルにできるはずです。その活動が、あらゆるお金として日本国へ返っていくのだと思えば、自分がよりプライドを持って仕事に取り組めますしね。

責任のあるお金を預かって、自分が好きな人たちと世の中を良くすることができ、それでまたお金が儲かり、世の中へ返せる。この還流は楽しいし、こんな素敵な仕事って他にはないんですよ。すごく良い仕事じゃないですか? 

ベンチャーキャピタルにもそれぞれの美学があると思うんですけど、僕は「まだ何者でもない人たち」と世の中を本当に良くすることにチャレンジしていきたい。渋谷に設けたインキュベーション施設のGood Morning Buildingもその一環です。今後も10年スパンで取り組んでいけることに、楽しさを感じています。

マジックワードを自問自答し、未来に向かって真っ直ぐ進め

世の中に来たる変化に向けて企業の営みも見直さざるを得ない。では、その状況下で個人はどう生きるべきか。大切なのは、近視眼的にならず、未来を考える習慣を持つことだった。

「30年後を考えてください」というテーマを、ちゃんと自分に振ってあげることが大事だと思います。人間って、放っておくと1カ月先くらいまでのことを、すごく頑張っちゃうじゃないですか。あらゆる締切に追われていく中で、あえて自分からぼんやりと「5年後までにやらなければいけないことは?」と考える。僕は悶々と考えるその時間が好きですね。

考え方のヒントとしては「5年後に理想的なゴールを達成した時、ヒーローインタビューを受けたら何と答えるか」を考えてみることです。「なぜ、あなたは今のポジションにたどり着けたと思いますか?」と聞かれて、そこで話す言葉が今後取るべきルートの正解になる。そこで、あえて驚くほど恥ずかしいことを言ってみるんです。

これは昔、ある方に聞いた話ですが、孫正義さんは「自分の事業を倒す方法」を一生懸命に考えているそうです。そこで結論が出たら、自らが本当に実践してしまう。そうすると、いつまでも誰もが自分を倒せない上に、事業はどんどん強くなっていく。僕もそれを教えてもらったときは感心しました。

ピーター・ティールの「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」という問いや、『7つの習慣』に出てくる「自分の墓標に書かれたい言葉は何か?」と考えるのも近いですね。死後の自分をどのように語られると幸せなのかを話すことで、人生のゴールが見えてくる。そういうマジックワードも僕は好きなんです。

マジックワードからの自問自答を繰り返しながら、3ヶ月後の勝利と、3年後の勝利と、10年後の勝利と、30年後の勝利を定義して、ぼんやりと眺めながら意思決定していく。それはベンチャーキャピタルファームの創業者がやるべき仕事の一つだと考えています。

例えば、先日、ANRIに河野純一郎が参画しました。もし、ANRIが日本でもトップのベンチャーキャピタルに今後5年でなれたとしたら、「5年前に日本屈指のベンチャーキャピタリストを4人揃えられたことが勝因ですね」と、たぶん答えるはずです。僕はそれに向けて全力で走り続けているし、定期的に自問自答しています。自分の頭をロングスパンに切り替えながら、日々、ぼんやりとでも考えていくんです。

綱渡りって、足元ではなくて、ずっと遠くを見ているから安定するわけです。昨今言われる「不確実性が高い」という状況は、ロープが揺れていたり、風が吹いていたりするのと同じことです。でも、遠くを見て、まっすぐに進んでいくと安定するのは変わりませんよね。

よく聞く言葉でもありますが、未来を最も正確に予想するには、自分で未来をつくることです。「そんな馬鹿な!」と思う反面、それはなかなかに正しい。ほら、自転車だって、止まっているのに跨り続けるのは難しいけれど、ペダルを漕いでいたら安定するじゃないですか。風を感じて、未来をつくるために進んでいる最中が、何より安定するんですよね。


編集 = 白石勝也
写真 = 大塚康平
取材 / 文 = 長谷川賢人


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