2019.11.14
リア充ではなく、バーチャル充たちの理想郷を|國光宏尚が見つめる「電子国家」誕生へのカウントダウン

リア充ではなく、バーチャル充たちの理想郷を|國光宏尚が見つめる「電子国家」誕生へのカウントダウン

「gumi」の代表取締役会長である國光宏尚さんは、ソーシャルゲームやVRゲームの企画・開発を手掛けてきた。常に「新しいテクノロジー×ソーシャルエンターテイメント」の領域を開拓してきた中で、次に見据えるのは人類に訪れる“劇的に暇になる未来”への選択肢だ。その先には、幸せのあり方の変化さえ表れてくる。

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連載『AFTER 2020』2020年からの「10年」をどう生きるか
時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に迫ります。
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《目次》
・劇的に暇になる未来
・産業革命から次のフェーズへ!追求する「精神的なるもの」
・5年以内にリアルとバーチャルの差が(ほぼ)なくなる
・「複数の自分」で生きる
・「データ」を資産に変える
・電子世界で「国」が生まれる
・自己実現を軸に、生まれる次なる「つながり」
・リア充だけでない「バチャ充」のための場所を




劇的に暇になる未来

これ、初めに言いますが、僕が追い求めていきたいテーマは、これから劇的に暇になる人間が、いかに有意義な人生を過ごして楽しくなるのか、です。

ここからの5年や10年を考えたときに、「物をつくる」という領域で、AIやロボットが代替できない仕事って、ほぼ見当たらないと思うんです。工場はオートメーション化していきますし、飲食店や士業の類も含めて、多くの仕事が代替可能になってくる。

世界的に見ても、圧倒的に暇になってきていると感じるんですね。企業勤めだと実質的にでも「週休2日」って、今はほぼ当たり前でしょう? それが3日になり、4日となり……労働時間も短くなっていくと。

そうすると、暇になった時間の有意義な過ごし方が、人生の幸福にも直結してくるはずです。そこで重要なのが、多様性だと思います。要するに、それぞれの「楽しさ」に合わせた過ごし方を、一人ひとりが選び取れるようになることです。

産業革命から次のフェーズへ!追求する「精神的なるもの」

産業革命以降の200年あまりは、「物質的に豊かになると、人生が豊かになる」という価値観において、経済成長と国民の幸せが完全にイコールな時代でした。でも、それ以前の中世の時代って、びっくりするぐらい暇だったんですね。テクノロジーの進化が止まってしまい、生産性が上がらなかったからです。

ところが、産業革命が大成功した結果、物質的に豊かになった現代では、みんなが「物質ではないもの」を追い求め始めたと感じていて。ひょっとしたら、趣味のごとく新しい未来に挑戦する起業家は、その筆頭なのかもしれないですけどね。今の若い世代でも「物質的に豊かになっても、人生の豊かさには関係ないのでは?」と気づき始めているでしょう。

産業革命の時代って、物質的な発明は数多くあったけれど、新しく偉大な「精神的なるもの」は生まれてこなかったと思います。宗教も、哲学も、芸術も、スポーツも生まれていない。ほとんどが昔からの延長なんですよ。たとえば、日本が暇だった平安時代の芸術を見るとびっくりしますよね。暇な貴族は、だいたいが芸術か恋愛に打ち込んでいますし(笑)

つまり、暇になると、人間は「考えること」を始めるんでしょうね。全人類が追いかけてきた「金を稼ぐ」や「物質的な豊かさ」から、置き去りにしてきた「心」を再び追求する。生きていく意味、自然との調和、芸術感や宗教感……それらを考えることで、新しく偉大な「精神的なるもの」が生まれるかもしれない。

僕らが手掛けていて、別のインタビューでも話したVR世界をブロックチェーンで補完する“オアシス構想”も、新たに始めた「FiNANCiE」も、全く同じ考えのもとから生まれています。空いた時間の豊かな過ごし方が、次の10年では決定的に重要になるからこそ、一番注力しているのですね。

5年以内にリアルとバーチャルの差が(ほぼ)なくなる

そもそも、テクノロジーの歴史を振り返ると、最初は全て「ゲーム」から始まっています。みんながPCを買ったのもゲームを遊びたいからで、いきなりExcelやWordなんてやっていません。インターネットも、ガラケーも、スマホだって同じです。

それほどにゲームはテクノロジーとの相性がいいし、ゲームユーザーはITリテラシーが高いのもあって、その関係性の間でテクノロジーはどんどん磨かれていく。ある程度成熟してくると、ビジネス向けにも使われるようになる……という繰り返しだと感じますね。

現在のVRテクノロジーでいうと、視覚は「片目で4Kの解像度」になると、現実との区別がほぼつかない。しかも、それが実現するハードウェアが399ドルで手に入る未来も、4~5年以内には確実に来るでしょう。

さらに5年以内には、触覚の再現度もかなり高くなります。ただ、嗅覚と味覚は、まだ難しい。それを再現しようと思うと、今のようなヘッドマウントディスプレイでは無理です。イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグが取り組んでいるような、脳直結型のニューロインターフェースが実用化されてからですね。

つまり、5年以内には視覚、聴覚、触覚において、リアルとバーチャルの差はほぼなくなります。それらは、リアルの世界での価値も低くなるのではないでしょうか。リアルなビジネスで勝負するならば、VRで再現が難しい嗅覚と味覚が良いと思います。匂いと味の価値は高まって、驚くほどの成長産業になるはずですよ。

「複数の自分」で生きる

VRの価値は、リアルとバーチャルの差がなくなることだけに留まりません。今後の10年で、人類始まって以来の「見た目が関係ない世界」が生まれることだと思っているんです。

たとえば、VR Chatというコミュニティサービスでは「おじさんが美少女になる現象」がよく見られます。ユーザーはアバター選択の際に9割が美少女アバターを選ぶのですが、その中身のほとんどはおじさんなんですね。もちろん最初は言動もおじさんっぽいのですが、慣れてくると、どんどん仕草や話し方が可愛くなってきます。美少女のアバターを選ぶと、周りも自分を美少女として扱ってくれるから、おじさんの意識としても「美少女にならなきゃ」と変わっていくみたいです(笑)

さて、ここで思うのが、果たして「自分の性格とは何だろう?」と。このリアルな世界で、僕らは自由に生きているようで、そうではないのかも。持って生まれた外見と社会性との関わりにおいて、期待されている「自分の性格」を演じているだけなのかもしれません。

リアルな社会で、みんなが息苦しさを感じているのは「単一の外見、単一のコミュニティ、単一の性格」に縛られて、抜けられないのも原因のはずです。これがVRで「複数の外見、複数のコミュニティ、複数の性格」を選べると、より自由に生きられるんじゃないかと。

今すでに、Twitterで複数アカウントを使い分けたり、リアルな世界ではコミュニケーション下手な人がオンラインゲームで輝いたり、萌芽はあるんです。しかも、バーチャルであればリセットが効くんですよね。リアルでは、なかなかリセットって難しいじゃないですか。

「データ」を資産に変える

僕らがVR世界で考える“オアシス構想”は、映画の『レディ・プレイヤー1』や、アニメの『ソードアート・オンライン』からもインスピレーションを受けています。

VRとブロックチェーンが結びついて形作られる世界が実現すると、複数の経済圏も選べるようになるはずなんですよね。今のところの経済圏は資本主義ですが、それは産業革命に紐づいています。要するに、物をいっぱい作り出した人が儲かるルールです。

ここに、バーチャルの世界で新たな経済圏が立ち表れてくるときは、ブロックチェーンの大きな特徴のひとつである、コピー不可能なことによるデータの資産性が生きてきます。つまり、作り手側が供給量を制限できるということです。

あるゲーム空間で、その人に特有の素晴らしい家を作れるようになったら、リアルな建築家と同じように「VR建築家」という職業さえ生まれるかもしれない。新しい絵画、新しい服、新しい家具……何でも同じです。今までは物を作れないとお金を得られなかったのが、バーチャル空間でも稼げるようになってくると、経済圏にも多様性が出てきます。

電子世界で「国」が生まれる

経済圏の拡充でいえば、FiNANCiEも同じです。FiNANCiEは、個人がトークンを発行し、賛同する人を集めて、夢を実現するドリームシェアリングサービスです。

スタートアップを例に挙げると、起業家のビジョンに賛同する人が集まり、それぞれが特技を発揮して、投資家がお金を出す。会社が大成功すると、株を持っていたりするみんながハッピーになるという図でしたが、それを「人」にも活かすイメージですね。

ビジョンを持ってる人がいて、賛同する人が特技を生かしあいながら、夢を叶えていく。応援する人数が増えれば、発行されるトークンの価値も上がって、みんながハッピーになる。そこからどこかのタイミングで、このコミュニティの中で飲食店を経営している人が「うちでの支払いはトークンでもOK」と言ったりするかもしれません。

「通貨とは信用の証」ともいいますが、その意味するところでは「通貨を受け取っていいと思える人数の多さ」が最も重要だと思うんですよ。この流れが進んでいくと、FiNANCiEの中にいる個人の賛同者が、リアルな街や国よりも人数が多くなることだってあり得ます。

ある意味では、国家自体が電子化されていき、小さな国がたくさん生まれるともいえる。そういうふうになってくると、国の中で一緒に仕事をするときも、お互いのトークンを交換し合えばいい。裏切ったら損をするのは自分だから、みんなが得するようにお互い協力する体制もできてきます。

「企業から個人の時代へ」と言われ始めているけれど、その真の到来は、企業や国よりも国民が多い「個人」のトークンが、法定通貨よりも流通している状態かもしれません。インフレを起こしているような法定通貨よりも、バーチャル国家のトークンのほうが、信用も流通量も多い……みたいな。

自己実現を軸に、生まれる次なる「つながり」

FiNANCiEを運営する上で、僕が重要になると思うのが、やっぱり「自己実現」だと思うんですね。今までのSNSを含めた物質的な時代は、源泉が承認欲求なんですよ。これは断言するけれど、SNSではInstagramが一番危ないと思っていて。

たとえば、おいしい料理を前に写真と撮ったり、素晴らしい景色をカメラ越しにばかり見たりするのも、その写真によって「いいね」が得たいがためです。それよりも温かいうちに食べて、見逃せない一瞬のために目を開こうよ、と。しかも、その写真は、ネット上のどこかにあって、誰かがもう撮っている。そうして「撮る意味」が薄くなっていくと、承認欲求に対する価値が、ほぼなくなってくるのではと。

これからの時代で重要なのは、達成感なども含めた、自己実現のはずです。自分の夢に向かって挑戦したり、他人の夢を応援したり。スポーツは好例だと思うけれど、自己実現しようとしているのは選手です。でも、選手を必死に応援して、そのことで自分も明日から頑張っていこうと思える心情も確実にあるじゃないですか。言い換えると、自己実現を応援することでの自己実現もあると思っていて。

僕は、それこそ現代に空海や最澄がいたとしたら、おそらくFiNANCiEなどを使って、「時代にあった新しい仏教を発明する」と、仲間や資金を集めていくと思います。最初は10人しか共感しなくても、みんなの努力で100人、1万人と増えて、今の宗教を超えるような大宗教が生まれてくるかもしれません。

リア充だけでない「バチャ充」のための場所を

リアルの悩みを解決するための新しい哲学を考えたり、コミュニケーションが苦手な人でも入れるようなコミュニティを作ったりする人も、さらに出てくるでしょう。

とにかく今までは、働くことでみんなが忙しかったし、学校も忙しいから、「こぼれた人」を拾っていく暇さえなかったんですね。でも、圧倒的な暇を得る今後は、誰かひとりが新しいビジョンを掲げれば、それを起点に世界も変わっていく。

100万人いたら、100万通りの幸せの形がある。それこそが多様性だと思っていて。今は幸せの定義も、どこか画一的だったと思うんです。これからは「自分にとっての幸せ」が許容される社会にもなるでしょう。その許容は、リアルでもあり得るかもしれないけれど、バーチャルならば、さらに受け入れやすい状況を作れるとも感じています。

その意味では、FiNANCiEは「リアルな世界に価値観を持っている人」が挑戦するプラットフォームともいえるので、「リア充」を志向した場所です。一方、VR世界では、「バーチャルな世界をより充実させたい」という「バチャ充」が選べる場所にしていきたい。

リアルとバーチャル、どちらの世界を選ぶかは、人によります。僕らとしては、両方の選択肢が豊かになるように作り上げたいですね。


編集 = 白石勝也
取材 / 文 = 長谷川賢人


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