2019.08.23
松本龍祐と考える、これからの10年。 「言語化できない楽しさ」の価値が高まる時代へ

松本龍祐と考える、これからの10年。 「言語化できない楽しさ」の価値が高まる時代へ

決済サービス『メルペイ』取締役CPOを退任した松本龍祐さん。新会社『カンカク』を立ち上げ、完全キャッシュレスカフェなどを手掛けていく。彼は「これからの10年」で激動するネットとリアルが混じり合う場所への興味を語ってくれた。

連載『AFTER 2020』2020年からの「10年」をどう生きるか
時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に迫ります。
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《目次》
・不可逆的な「インターネット化」
・「働き方のインターネット化」における伸びしろ
・「うっすらとした共感」から生まれる大きなうねり
・「心地よい距離感」と向き合うプラットフォーム
・ロジカルシンキングのコモディティ化
・楽しく働ける場所が、「世界的なフラットさ」で輝く

不可逆的な「インターネット化」

これからの10年として興味があるのは、「インターネットと非インターネットな場所」、あるいは「インターネットとリアルが混じり合う場所」ですね。

閉じられたものであったインターネットから、「全てがインターネットになる世界」が来たのだろうと思っています。

みんなが当たり前のようにスマートフォンを持ち、インターネットに繋がる状況に慣れたことで、オンラインでもリアルでも意思決定をするようになった。それをソーシャルメディアに共有することで、自らの「体験価値」が確定する時代です。すでにあるD2Cの流れ、さらに来るOMO(Online Merges with Offline)の流れも「インターネットの影響」を感じさせます。

メルペイで手掛けてきた決済サービスも、購買情報がすべてインターネット化する、言わば「IoT的な世界観」のもとにあります。僕はIoTの価値はセンサーにあると思っていて、ユーザーが意図的に情報をインプットしなくても、その人の行動や思考のアウトプットが、インターネットに蓄積されていく。MaaSの流れも同じで、移動に関する情報が全てログとして残るようになります。

だからこそ、プラットフォームビジネスは今後も止まらないでしょう。GAFAほど大規模になり、国家レベルでの規制が入るような事態にならない限りは、プラットフォームに乗っていたほうが基本的には心地良い。僕個人としても、私生活はどんどんGoogleに身を委ねていきたいし、現金を持ち歩きたくないので全てメルペイで決済できるようになったらと願っています。

人によってはプラットフォームに身を委ねることを「管理されているようで気持ち悪い」と感じるかもしれないけれど、日常生活の多くのシーンで効率が上がって心地良いはずです。自動化やAIによって「働き方が二極化する」というのも、その背景はプラットフォームが伸長して、機械で置き換えられるところが増えていくからです。

これまでのインターネットは、プラットフォームを通じて、情報をフラットにすることに価値がありました。しかし、これからは情報だけでなく、あらゆるものが「インターネット化」していく土台が整ってきている。それが現在地点だと思います。2030年までの10年は、これまでの10年以上に、その変化の割合が大きいのではないでしょうか。

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「働き方のインターネット化」における伸びしろ

「インターネット化」は、働き方においても同様です。

北参道で完全キャッシュレスのカフェ「KITASANDO COFFEE」を、表参道に同じく完全キャッシュレスで低糖質ピザの専⾨店「SONOBON」をオープンしました。その際に感じたのは、ウェブスタートアップ業界の働き方は、まだまだ特殊であるということです。僕はSlackとG Suiteで全ての作業をしていると言っても過言ではないのですが、世の中のマジョリティな仕事の仕方とは違うんですよね。

たとえば、エンジェル投資家として起業家に会うとき、名刺交換をしないことがあります。もともとFacebookでつながっていて、その後のやりとりもFacebookがメインになるからです。でも、店舗を開くために異なる業界の方々とお会いするようになると、そうもいかない。

ただ、それらを一つずつ解きほぐしていって、「スタートアップの仕事の仕方」を他にも広げていきたい。僕にとっては、この働き方が効率も良くて気持ちがいいので。

そこで、まずは自分のカフェでも日報を全てSlackで送ってもらい、意地でもFAXを使わずにメールで受発注できるところだけとお付き合いをしています。スタッフとは週に1回全体定例ミーティングをして、店舗にもOKRを導入しています。

日本の労働生産性の低さ、労働者人口が減っている問題に対する解決法は、効率化しかない。だからこそ、「働き方のインターネット化」には伸びしろが大いにあると考えています。そもそも、そこを変えていかないと今後は生き残れないでしょうから。

現状でも、サービス業ではアルバイト人材を確保できないからサービスが拡大できないという話もよく耳にします。労働人口が減っていくと、「働く人を集められていること」が企業の価値にもなっていきます。仮に同業他社よりも生産性が3割高い会社があったら、時給も3割上げようとすれば実現できる。おそらく人手不足の課題も起きにくくなるはずです。

「うっすらとした共感」から生まれる大きなうねり

D2Cの流れが僕はとても好きなのですが、これも「ユーザーの意思の変化」におけるインターネット化だと捉えられます。

僕の投資先で、品質の高いTシャツやパーカーなどを作る「10YC」というスタートアップがあります。彼らは“10YC=10 years clothing”、10年着続けたいと思える洋服を作りたいという考えで、耐久性の高い服をつくり、カラーリフォームのサービスもしています。

もともと、そんな服というプロダクト自体の品質が世の中に刺さっていると考えていたのですが、ユーザーアンケートをとってみると、惹きつけられる理由の第1位は「コンセプト」でした。国産の生地を使い、職人と良い服を作る過程を見せていく取り組みもしているのですが、それらが大きく作用している。

これって、インターネットで物の良し悪しをじっくり見てから買うようにならなければ、起きていない反応だと思うんです。いま、「エシカル」が良いとされているのも、コンセプトを発信する人がいることと、それに対するダイレクトな反応がソーシャルメディアなどで可視化できていること、その両面がそろっているから起きている。

たとえば、テレビでソーシャルグッドにつながるような取り組みを目にして感銘を受けたとしても、その心の動きが長続きするかは分からない。でも、その取り組みに「いいね」がたくさん集まっていたり、知人がコメントしていたりすると、「周りが肯定していること」を、うっすらと感じられる。広い意味でのコミュニティ感が生まれるんですね。

「KITASANDO COFFEE」でも、「紙ストローが良い」というお客さまからの反応を思ったよりも多くいただいています。僕らは長く続けたいお店であることの表現の一つとして、プラスチックを極力使わない方針を選んだのですが、お客さまにも良い作用として働いているのは驚きでした。

つまり、インターネットで情報がフラットになっていくにつれ、それによって起きる「うっすらとした共感」が、今後の大きな流れを生みやすいのだろうと思います。その流れの一つがエシカルであり、マッチしたサービスは大きくなれる。エシカルは一つの例。それ以外にも価値観が広がりやすくなるにつれ、新しい「共感の波」が次々に訪れるでしょう。

「心地よい距離感」と向き合うプラットフォーム

インターネットによって人と人は常時接続されてきていますが、そもそも「群れたい、繋がりたい」というDNAは今後も変わらないはずです。一方で、それが過接続状態になってしまうと「SNS疲れ」のようなことが起きる。

ただ、人のつながりが拡大していく状態は、おそらく10年後も変わらない。効率よく、ますますシームレスにつながるでしょう。そこで今後は「心地よい距離感」を作ることに、さまざまなプラットフォームがチャレンジすると思うんです。そこへ、生活動線から得られたデータや趣味趣向も全てつながっていきます。

ただ、僕個人としては、インターネットでのコミュニケーションプラットフォームを作ることに、これからの10年で取り組む気持ちはありません。それよりも、プラットフォームを使った行動の変化が、どのようにリアルな社会へ起きていくかに興味があります。

もともと僕はコミュニティファクトリーという会社で、累計1億ダウンロードされるほど多くのアプリを手掛けてきました。しかし、それらのアプリは、現在ほぼ全て終了していて、ほとんど誰も覚えていない。当時、渋谷や代官山にいる10代後半から20代前半の女性の半分くらいは、僕らのアプリをきっと使っていたはずなのに。

それからも、仕事でユーザー体験について考えるなかで、たくさんの人に届けるだけではなく、その人の一生の1ページに残るような体験を、届く範囲はいくらか狭くてもいいから提供したいと、数年前から思ってきました。

そのためには、インターネットよりも実際にある同時的な空間や物の方が、体験としても伝わりやすいだろうと。もちろん、メルカリのようなフリマアプリで生活が変わるのも素晴らしいことですけれど、それは主に利便性による変化です。次は、もっと体験を直接的にデザインするようなことを手掛けたいのです。

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ロジカルシンキングのコモディティ化

そのように考えるようになったのは、メルカリで優秀なメンバーと仕事をしたのもきっかけです。彼らほど、僕は賢くあれないと思う一方で、ずっと気になっていたことがあって。それが「ロジカルシンキングのコモディティ化」です。

たしかにビジネスにロジカルシンキングは必須で、基本となるスキルです。「与えられた情報」や「世の中にある情報」を正しく整理し、不確定要素を抜き出した上で、意思決定するために優先順位をつける。言い換えると、混沌としたものを誰にでもわかりやすく整理することが、僕が思うロジカルシンキングの定義です。そして、基本的には「正解」があるという前提で考えられる。

ただ、世の人々が「フレームワーク」で思考したり、SWOT分析をかけたりする競争の激しい中で、これからの自分は戦いたくないとも思って。そこで、僕は決断を失敗しない程度のロジカルさはあれど、不確実なものは不確実のままに、もっと自分の感覚で決めていくように舵を取りたくなりました。今となってはこの方がユニークです。自分自身のキャリアにおいても、ユニークなことを手掛けているほうが価値になってきた経験もあります。

だから、僕の新しい社名は「カンカク」なんです。「この決定は僕の感覚だから、仕方ないじゃないですか」って、社名に書いてあれば相手にも伝えやすいな、と思って(笑)。

何よりも、スタートアップビジネスにおいては、多くの人が「正しい」と思うロジカルな積み上げの場所に相場を張っても、差別化になりません。あえて別の場所へ張るリスクがあるからこそ、大きなリターンに見合うわけです。

現在25社ほどに投資していますが、だいたいが「人」を見て決めています。たとえば、Craftieはアートやクラフトのワークショップを予約できるサービスなどを手掛けています。代表の康瑛琴さんはとてもロジカルな方で、事業モデルもしっかり組んで、これから伸びる市場なんです、と語ってくれるのですが、ハンドメイド業界が「伸びる」と確信を持ってる人は多数派ではないですよね(笑)。ブロックチェーン業界とか、わかりやすい業界はたくさんあるでしょう。

でも、Craftieのワークショップを体験したら、絶対にSNSでシェアしたいと思える。人が集まり、楽しく作って、子供とも一緒に手を動かす感じが、なんだか気持ちいい。そういう「インターネットっぽく無いこと」を、しっかりやり切っている康さんの姿勢に対して投資をしたいと感じました。

ここ最近の投資先はリアルが絡んでいる企業が多いのですが、それは意思決定のスピードが早いインターネット企業の人たちが「面倒でやりたがらないところ」に、張っておきたいからです。しかも、「それほど大きくならない」と思われている市場のほうが、明らかにチャンスは感じるし、やるべきだとも思う。

なぜなら、ロジカルに考えられてしまう市場は、大手企業が入って過当競争になる可能性が高いからです。参入される前に自分たちの強みや価値を作っておけば、本当に市場が大きくなったとき、大手企業が「これなら買収したほうがいいのでは?」と判断するでしょう。

楽しく働ける場所が、「世界的なフラットさ」で輝く

カンカクの新しい会社のあり方として、僕がイメージしているのは他業種展開する「スタートアップスタジオ」です。これも、一般的なスタートアップであれば、ドメインを決めて集中すべきという論理の逆張りですね。

もっとも、スタートアップスタジオでいえば、どんどん分散をしていって、資本主義的に効率が悪いとか、リスクや利益のフェアな分配とか、いろいろと難しいことも当然ある。

ただ、共通の価値観・体験を元に事業を作れば、ブランドが作れるかもしれない。プラットフォームビジネスと違い、ブランドはそれぞれ連携をしていけると考えています。なにより、ドメインを決めない「スタートアップスタジオ」って楽しそうなんですよね。「僕たちは楽しいから集っています」という仕事をしたいんです。

これからの働き方って、仕事をする人が楽しんでいることが大前提になるはず。特に優秀な人と働きたければ、楽しい環境を作るのが最重要。これまでは、ビジョナリー・カンパニーとして大きな「バス」を作り、誰を乗せて走るのかで価値が決まった。でも、現代は「バス」だらけ。だからこそ、「このバスは最高に楽しい!」という状況にしておかないと。

それともうひとつ、リアルな店舗に積極的なのは「大都市にいる人が似てきている」と感じたのも大きいです。東京や大阪、ソウル、上海、サンフランシスコ、ニューヨークと、色々なところへ旅してみると、大都市にいる同年代の人たち、特にミレニアル世代以降の人たちは、ライフスタイルもサービスの使い方も似ている。Instagramのタグで検索してレストランへ行き、Uberが呼べるならためらわずに乗る。そこに「世界的なフラットさ」を感じます。

つまり、その人たちに刺さるサービスを一つ作れたら、他の国でも自然と刺さるんじゃないでしょうか。そうすると、インターネットよりも制限が多いと捉えられがちなリアルのビジネスから、世界的になれるものだって作れるんじゃないかと思います。

この考えは、10年前だとピンとこなかったはずです。今だからこそ信じられるし、10年後だと遅い感じがしますね。

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取材 / 文 = 長谷川賢人


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