2019.11.28
ドローンはスマホ化し、生活と混ざり合う|Drone Fund千葉功太郎が見る2020年以降の当たり前

ドローンはスマホ化し、生活と混ざり合う|Drone Fund千葉功太郎が見る2020年以降の当たり前

ドローン・エアモビリティ特化型ベンチャーキャピタル「Drone Fund」創業者/代表パートナーの千葉功太郎さん(「千葉道場」主宰)。コロプラを株式上場に導いた立役者が次に見据えるのは“空”の空き地だ。千葉さんは「ドローンを未来のスマホにしたい」と語ってくれた。

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《目次》
・2030年、「ドローンのある生活」は日常になる。
・ドローンの普及は、自治体、企業、スタートアップの連携で進む
・東京の「価値」と「範囲」は拡張していく
・見たいのではなく、堪能したい。
・輸送コストを圧縮できる「空の世界」
・ドローン航空管制システムをつくる、国家プロジェクト
・「10年後の職業」のための準備を
・無駄を考える妄想力

2030年、「ドローンのある生活」は日常になる。

現状におけるドローン産業はBtoBがメインですが、2030年にはBtoCとCtoCが全盛期になっていると思っています。

たとえば、子供が忘れた「上履き」をお母さんがドローンに乗せ、登校途中に届けられるかもしれません。スマホアプリでドローンを呼び出すとバルコニーまで来てくれて、子供に持たせたスマホのGPSをたどって届け、遠隔で会話もできる。

あとは、メルカリで商品を落札したら、200円くらいの上乗せで「ドローン便」が選べ、都内23区内は10分で取引完了に至る……などが想像できる未来です。

こんなふうに人間とドローンが混ざり合って生活している姿に関しては、ドローン業界でも懐疑的な人は多いと思います。彼らは飛行機が侵入しない、高度100メートルから150メートルを安全に飛ばし、空の物流網を始めとした産業用途をイメージしているでしょうから。

でも僕は、人間とくっつくドローンを実現したほうが、意外とビジネスは大きいんじゃないかな、と。要はドローンがスマホ的になるんです。友達に物を渡す時にドローンが安価に使えたら、スマホ並みに爆発的に市場が広がり、市民権を得ていくはずです。

とくに2020年以降、ドローンは順当に社会実装されると思っています。たとえば、2022年くらいの東京の空ではドローンがピザを運ぶはず。それをみんなが実際に注文するかと言ったら疑問はあるんですけど、2030年には普通にピザを頼んでいるんじゃないかと思います。10年あれば、それくらい浸透する気がしていて。

というのも、この3年間でドローンは実証実験が急速に進んでいます。現在の産業用ドローンの懸念点は、飛行時間に関わるバッテリーの開発と、安全性の担保ですが、技術面としては先行きが見えてきました。

実例のイメージ、それを叶えるための機材、それらをコントロールする安全管理のシステムといった要素に関しては、もう目処が立ってきているんですよ。

ドローンの普及は、自治体、企業、スタートアップの連携で進む

記憶に新しいところだと、日本郵便が福島県で、郵便局における定期的な拠点間輸送を、目視外飛行によるドローンで行うと発表しました。日本で初めて目視外飛行が認可された事例となります。実施者が半官半民といえる日本郵便で、それを支える技術はスタートアップの自律制御システム研究所(ACSL)が提供しています。

ACSLは2018年12月21日、東証マザーズ市場に上場しました。実は、ドローン専業スタートアップとしては、世界で初めての株式上場となります。この流れは、すごく面白い。これをきっかけに、行政とスタートアップが次々とコラボレーションを発表しています。

たとえば、三重県の志摩市と愛知県蒲郡市は、三河湾のアワビ輸送でドローンの定期長距離輸送を行なっていく。地図を見て明らかですが、陸路よりも圧倒的に空路が効率的ですよ。支えるのは通信大手のKDDIと、名古屋のドローンメーカーのプロドローンです。

矢継ぎ早に、自治体、大企業、スタートアップの連携が進んでいます。元ヤフーの宮坂さんが東京都副都知事に就任されましたが、特に東京都はITの導入を含めて先進的な都市になっていくことが期待されている。それに僕も、やっぱり「東京の空」でドローンを飛ばしたいんですよね。東京を発展させるためにも、空をもっと使わなくちゃいけないと思っています。

東京の「価値」と「範囲」は拡張していく

東京がさらに人口を増やすためには、空を使う以外の選択肢はないはずです。

小池百合子都知事は2018年夏に、Uberが主催する「空飛ぶタクシー」のイベントを東京に招致して、「人間が空を移動するモデル都市に」と基調講演しました。そう語る背景は、日本全体では人口減少といわれていても、実は東京の人口は増え続けているという現象があると思います。2030年には、世界トップクラスの人口になる予測もある。

地震を考慮すると、地上高くに建てるタワーは虎ノ門ヒルズぐらいが精一杯ですよね。移動においても、地下鉄の大江戸線や副都心線に乗って体感するように、地下開発は大深度まで達している。それならば「空の移動手段」を作る他ありません。

都市として、東京を「強い幹」にして、地方創生が実現されていくというのが僕の見解です。しかも、空のインフラ整備は高価そうに思えて、道路や線路よりもコストが抑えられるのではないかと考えています。

見たいのではなく、堪能したい。

今後、移動のニーズはより細分化していくはずです。大都市間を直線で結ぶ移動網ではなく、点から点を無尽蔵に移るようになっていく。交通のあり方も大きく変わると考えています。

たとえば、僕は鎌倉在住で、今は通勤に1時間半かかります。もし、空路の15分で済めば、鎌倉を始めとした地区のバリューは上がり、関東全域が住む場所としての候補に上がってくる。

言わば、東京の「価値と範囲」が拡張するわけです。この考えを実現するには、利用が安価かつ安全でなければいけません。つまり、一部の富裕層だけではなく、通勤や通学で使えるレベルになってこそ起きる変化です。

ドローンに限らず、ロボティクスやAIは、直接的に東京の価値向上に紐付いてくるのではないでしょうか。電動化、AI、自動化によって輸送単価を激減させた上に、シェアリングエコノミーのビジネスモデルを用いてコストを圧縮し、公共バス並の値段を目指していく。ただ、そこまでいくには20年ほどかかる可能性があります。

いま、僕は45歳ですが、20年後だと65歳。僕のモチベーションは、生きているうちにエアモビリティー社会を謳歌し、人生を堪能すること。見たいのではなく、堪能したい。だから、早くしないと間に合わない。堪能する時間が短くなっちゃいますからね(笑)。

輸送コストを圧縮できる「空の世界」

「東京都内の道路」を地価と照らしてみてみましょう。すごく無駄が多いとわかります。ほとんどが地上だけを車や人が走っている、言わば「平屋」。一坪何百万円もする港区や中央区であっても、平屋構造です(笑)。

空間効率として、大変にもったいない。航空法の規定では、高層ビル群の付近を除き、大まかに地上200メートルあたりまでをドローンが使える(*)領域になっています。ここは飛行機も入ってこられない「空き地」のまま。この空き地を多層化したら、何階建てになるのか、といった発想です。

身近なところでたとえると、陸路のバイク便が「300円」だったら、みんな使いたいですよね。でも、それは無理な話です。人間がオペレーションする限り、コスト圧縮にも限界があります。

最近、全日本空輸が成田空港発着の国際線を減便すると決定しました。背景にあるのは、パイロットの人材不足です。これは世界中で起きている由々しき問題なんですよね。しかも、養成には一人あたり数千万円の投資が必要で、「絶対になれる」確証もないのが実状です。

エアラインの現役パイロットたちとお話してみると、将来的には機長は人間で、副機長がAIになると見ている方が多い。つまり、人間を二人備えることが難しく、補佐役としてはAIの方が優れているだろうと。もし実現したら、パイロットの人材不足問題は一気に解決できるはずです。単純に、機長の頭数が倍になりますからね。

一方、ドローンが叶える「空の世界」は、人間が介在しないことが前提なので、急激にコストを下げられる可能性があります。完全電動化で燃料コストも下がり、ドローンは24時間稼働できるので機材への投資対回収も早いはず。当然、緊急時をのぞけば、パイロット問題も皆無です。飛行コストを進化と共に下げていくことが可能なんです。

ドローンの運航はAI制御とGPSの精密管理によって、おおよそ高度20メートル分の空域さえあれば余裕で行うことができます。もし、地上200メートルの「空き地」を管理したとして、ドローンなら「10層」が作れる計算になります。

ジェット機は基本的に航行ルートが決まっていて、すれ違いには高さ300メートルほどの差を付けないといけない。ここは大きな差になるはずです。

(*)150m以上の高さの空域においては、航空局(国土交通省)の許可が必要になる。

ドローン航空管制システムをつくる、国家プロジェクト

さらに、未来のドローンを考える上で大切になっていくのは、いかに密に安全に飛ばせるかです。

2019年10月には、福島県のロボットテストフィールドで、複数の事業者がドローン航空管制システムの大規模な実証実験を行いました。

いま、国家プロジェクトとして、ドローンの航空管制システムを作ってるんですね。

結果として、40機のドローンが1時間に、1平方キロメートルで100フライト以上の飛行試験に成功しました。異なる事業者が、人間を介さずに飛ばしたい方向を明示しても、一機もぶつかることなく相互交通できたのです。

空がドローンだらけだったそうです。

それこそ、エンターテイメントの分野では数百機のドローンを一気に飛ばして模様を作るという試みも成功していますよね。あれは航空管制とは違うのですが、狭い空間に大量のドローンを安全に飛ばす技術ですから、無視はできません。

「10年後の職業」のための準備を

ドローンに限らず、これからの時代を生き、仕事をしていく世代に伝えられることがあるとするなら、「未来の当たり前になっている職業のために、今から準備しておく」だと思います。その職業を想像し、勉強したりスキルを積んだりして、対応できる能力を身につけていきましょう。

たとえば、10年前にYouTuberはなかったけれど、今では稼げる職業の一つです。AIの機械学習をサポートする“学習指導者”も出てきています。教師データになる画像を判別しながら、ひたすらAIに教える係ですね。

実際に、僕もファッションのトレンド調査AIの学習現場を見てきました。オフィスにずらりと並んだ彼らが、InstagramやTwitterに流れているファッションの画像を学習させ、来季のトレンド予測につなげていた。この仕事も、10年前にはありませんでした。

つまり、新しく生まれるトレンドから、何を身につければ、これからの時代に輝けるのか。自分というブランドやキャラクターを持ち、競争優位を保ち続ける仕組みを作れる人は強いですよね。

新時代の“YouTuber的存在”になるために、観客の興味を惹きつけられる企画力や実行力を備え、柔軟性を持った上で、どんな能力を身につけるべきか。考えてみてもいいと思います。

世の中が自動化するほど、価値が高まる職業も

大きな流れとしては、「個」がキーだと捉えています。現在の職業と関係なく、いかに「個」を価値に変えるプロフェッショナルであれるかを考えていくことです。

フリーランスなんて言葉より、もっと「個」です。フリーランスは特定の職業を宣言しているプロフェッショナルな個人ですよね。でも、そんな大層な感じではなく、高校生がTikTokで1億円稼いだっていいわけじゃないですか。

たとえば、超高速でドローンを操作する「ドローンレーサー」という人々がいます。先日行われた日本大会の上位入賞者は、10歳、11歳、16歳、22歳です。

今後、ドローンの航空管制システムができ、1万機のドローンが常に空を飛ぶ世界が来たとしたら、管制官だけでなく緊急時に遠隔操作できるパイロットも高給取りになるでしょう。

エアモビリティを大量生産できるハードウェアエンジニアだけでなく、ドローンレースで入賞するほど操縦技術が高い人のニーズは非常に高い。

世の中が自動化すればするほど、その人たちの需要は高まり続けるでしょう。現在ならクラウドサービスのエンジニアに近しいものがありますよね。

無駄を考える妄想力

僕は「移動時間」が最も無駄だと思っていて、それを圧縮できたら人間の生産価値は上がると信じているんです。これこそ、本当の「働き方改革」です。

ほとんどの仕事は無駄に包まれていて、それが当たり前だと思ってしまっている。今後に大事なのは、「何が無駄か」を考える妄想力です。本質的に仕事につながっていない、見えないところに、たくさんの時間を掛けている現状に気づくこと。「いや、これって無駄ですよね?」と提言できる新世代こそが、ビジネスのチャンスを生むかもしれない。

AIとロボティクスの恩恵は、「働き方改革」というキーワードに照らし合わせると、全ての職業の未来に対して影響があるんです。既存の職業であっても、ドラスティックに変わっていくはずです。何より時代が変わった時には、新しい職業が生まれます。若い世代には、その変わった先で起こり得る「たられば」を積み上げて、何かを見つけてほしいですね。

[参照メディア]
・ウーバーは「悪者」イメージを払拭できるか 「空飛ぶタクシー」で描く未来の新戦略
・「東京都の人口(推計)」の概要(令和元年8月1日現在)
・2030年は何位に? 世界で最も人口が多い「東京都市圏」
・全日空、パイロット不足で成田国際線を減便へ
・一般のドローン事業者も参画したドローン運航管理システムの相互接続試験に成功

連載『AFTER 2020』2020年からの「10年」をどう生きるか
時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に迫ります。
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編集 = 白石勝也
取材 / 文 = 長谷川賢人


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