2020.02.14
わずか月2時間、水野学氏とのアワード開催で起きた、劇的な組織変化|オイシックス・ラ・大地

わずか月2時間、水野学氏とのアワード開催で起きた、劇的な組織変化|オイシックス・ラ・大地

いかに強いデザイン組織をつくるか。オイシックス・ラ・大地が実行したのは、クリエイティブディレクター水野学氏を招いた「クリエイティブ・アワード主催」という策。「成果は劇的だった」とクリエイティブ・マネージャー 寺内能之さんは語る。プロジェクト全容を追った。

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水野学氏とのアワード開催で起きた、劇的な組織変化

2016年 オイシックス・ラ・大地(就任当時の社名はオイシックス)のクリエイティブディレクターに就任した水野学氏(good design company 代表/クリエイティブディレクター)。

当初、水野氏の役割は「ブランドに対する相談役」と思われていた。ところがスタートしたのは意外な取り組みだった。

「社内で、クリエイティブ・アワードを行なう」

取り組みの成果について、寺内能之さん(クリエイティブ委員会 クリエイティブ・マネージャー)はこう語る。

「費やしたのは月1度、2時間程度。この取り組みは、これまで抱えていたデザイン、そしてチームの課題を劇的に変えてくれました」

一体どんな取り組みだったのか。そしてなぜデザイン組織の改革が加速されたのか。プロジェクトのウラ側を追った。

+++オイシックス・ラ・大地 クリエイティブ委員会 クリエイティブ・マネージャー 寺内能之さん

集結か、分散か。インハウスのジレンマ

じつはオイシックス・ラ・大地のデザインを含むクリエイティブ部署は、破壊と再生を繰り返してきた過程がありました。

当然、事業会社ですから、部署を作ったり、解体したり、別に珍しいことではありません。ただ、自分たちにとってベストなチーム編成は何か。その答えは長年の導き出せていませんでした。

どうしても、インハウスでクリエイティブ人材を抱える会社には、チーム編成のジレンマがあります。

たとえば、各プロダクトに人員を配置する。すると、現場と密接な関係がつくれて、スピーディーに動くことができます。ただ、次第にプロダクトごとの統一感は消失し、メンバーの正確な評価がしづらくなってしまう。

逆に、人材を集結させた部署を作る。プロダクトごとに統一感は生まれ、より正確な評価体制を敷くことができます。ただし、プロダクトに距離が発生し、スピーディーに現場の声を反映しづらくなる。

集結か、分散か。インハウスのクリエイターたちが最も力を発揮し、成長していけるチームの形は何か。そして成長を続ける事業。試行錯誤の日々が続いていました。

+++現在、70人ほどのメンバーが在籍しているというクリエイティブ部署。グラフィック、パッケージデザイナー、UIUXデザイナー、そしてフロントエンドエンジニアという棲み分けがあって。主に自社の3つのプロダクトを手分けして担当しているという。

水野学氏、クリエイティブ・ディレクター就任の裏側

そういった状況の中で立ち上げたのが、「クリエイティブ委員会」でした。

各部署に配置されたメンバーを月に一度集結させ、価値観や制作物の共有を行う。そうすることで、状況の改善を図ろうと。ただ、情報共有に終始してしまうこともあり、それだけでは長年の課題を解決する決定打には至りませんでした。

この頃には経営トップも含めて「クリエイティブの品質向上」と「生産性向上」の打開が、経営における優先事項になっていました。そのような時に共有されたのが、水野学さんをクリエイティブディレクターとして招くという話でした。

じつは、もともと東北復興支援イベントをきっかけに、オイシックス・ラ・大地代表の高島宏平と水野さんは知り合っていて。「いつか水野さんにロゴ・ブランドデザインをお願いしたい」と考え、創業以来初めてとなるブランドロゴ(※現在はOisixサービスブランドのロゴとして使用)の一新が、2016年に実現した経緯もありました。

当時、ブランドロゴを作る過程で、「どうすればクリエイティブ部署のメンバーは最大限の力を発揮することができるか」「デザインクオリティを向上していけるのか」と、チーム作りで直面していた課題も、平行して相談していたそうです。

じつは水野さん自身も、Oisixに対してこんな想いを抱いてくれていました。

「この国の食生活が豊かになれば、この国が良い方向に向かうのは間違いないと思っています。お仕事する前から『Oisix』を利用していましたから、ロゴデザインの依頼を受けた時はとても嬉しかったんです。『Oisix』が大きくなることは世の中がよくなることだから、もしその手助けができることはとても嬉しい」

そんな両者の思いが合致した結果、クリエイティブディレクターに水野さんが就任し、社内デザイナーのスキルアップを推し進めていくことが決まったのです。

「月1度、2時間の取り組み」でも組織は変えられる

実際に水野さんがクリエイティブディレクターに就任すると、当時のデザイナーやチームが直面していた課題感を広く相談していきました。クリエイティブの品質向上と生産性向上のために何をすべきなのか、助言を頂いていきました。

・ワークフローの整備
・ディレクター/デザイナーの役割定義
・評価指標を改善
・知識を増やすための書庫を作る etc

さまざまな取り組みの中で生まれたひとつが「クリエイティブ・アワード」でした。この取り組みこそ、私たちがずっと変えられなかったチームのジレンマを解いていくことになりました。

アワードは、

・既にリリースされた自社のクリエイションを会議室に張り出す
・メンバーが一同に介する会議室で担当者が制作背景をプレゼンする
・どんなことに悩み、何を意識したのか。
・最後に1つだけ水野さんに聞きたいことを質問する

こういった形式で発表を行うカタチにしました。水野さんは、必ず作品の良い部分を見つけ、褒めていく。その上で「僕ならこうする」と具体的なフィードバックをしてくれました。改善よりも「教育」に比重が置かれたフィードバック。若いメンバーが楽しんで参加している様子が手に取るようにわかりました。

私達にとって、水野さんのお話を聞けるだけでもかなりモチベーションが上がるもの。メンバーの参加率は必然的に高くなっていった。さらに、実際にリリースされている作品へのアドバイスなので、必要なピンポイントな指摘を毎回新鮮な気持ちで吸収できる。こうして欠かせない取り組みとなっていきました。

どうしても作れなかった「統一感」が醸成された

結果的にチーム内では、これを起点に良い影響がいくつも生まれました。中でも大きかったのが、これまでどうしても作れなかった「統一感」の問題が解消されていったことです。

クリエイティブ・アワードでは、毎月優れた作品を表彰する形を取っています。継続していくと「目指すべき指針」が自然に根付いていって。より具体的な自社コンテンツを事例に、毎月順位が付けられるので、意識すべきポイントが統一されていくわけです。

各プロダクトが実現したいことを理解した上で、オイシックス・ラ・大地として大事にする軸を意識できるようになった。非常に大きな変化だったと感じています。

+++水野さんに表彰されるクリエイティブ部署のメンバー。

「超一流の意識」が教えてくれた、クリエイティブとの向き合い方

もうひとつ、インパクトがあったのが、社員のクリエイターとしてのスタンスが劇的に変わっていったことです。

水野さんはフィードバックの中で、デザイン・ブランディングにおける根本的な在り方に関しても、真摯に伝え続けてくれています。「デザイン云々以上に、良いクリエイションを生み出すには、知識を増やすこと、勉強するってことが何よりも大切」というメッセージを伝えてくれているんです。

実際に、水野さんの意見を聞いていると、重みを持ってその言葉が理解できます。

もっと知識を深め、技術を高め、作品をもう一段レベルアップさせられる。毎月その現実と直面するので、経験豊富なメンバーでも既存のやり方に固執することなく、挑戦に貪欲になっていきました。そのベテランの姿勢、プレゼンを見た若手がさらに吸収していく。クリエイションが完成するまでの背景や想いに触れていく。このサイクルは、クリエイター全員の目線を明らかに高めてくれました。

「クリエイティブの完成は、納期がきたら終わり」

これは水野さんが僕たちに伝えてくれた言葉の中で、最も心に残っているフレーズです。水野さんほどの方でも、納期ギリギリまで最善策を考える。「もっと完成度を高められるんじゃないか」と試行錯誤を繰り返しているわけです。いま現在、多くのメンバーが肌でそのスタンスを貫けている。ここが私たちのチームの大きな価値になっています。

+++社内で対等な評価される「クリエイティブ・アワード」という取り組み。「健全な成長意欲が掻き立てられました。チーム作りのジレンマだった、クリエイターのキャリア形成やスキルアップも解消されました」と寺内さん。

チームの成長は、予想を遥かに超えていく。

これはあくまで個人的な意見ですが、デザイナーとして本人が成長できるかどうか、突き詰めていくと「自分次第」なのだと思います。もちろん、チーム構成を考えたり、モチベーションが維持できる環境をつくったり、マネジメントの役割です。ただ、環境を整えることしかできないんですよね。人から教えてもらうだけだったり、与えられるだけでは成長はできません。最終的には本人がどれだけ成長を志して、努力ができるか。

当然、クリエイティブ・アワードのためにコンテンツをリリースしているわけではありません。ただ、アワードがあることで緊張感、信念を持ち、妥協のないリリースができています。

正直、どこの企業でもこういった取り組みをやったほうが良いとは言えません。ただ、チームの成長は、自分たちが予測で出来る範囲を遥かに超えていける。会社のポテンシャルだけで「成長の天井」を決めない方がいい。

当然、私達の組織も完璧ではありません。課題もあり、模索を続けていく。常識や前例に囚われず、チームの問題を解決するために、本当に正しいクリエイティブのあり方と組織を探り続けていく。そうすれば、チームは何度でも再生し、強くなっていく可能性を持っていると思います。

+++


編集 = 白石勝也
取材 / 文 = うすいよしき


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