「多様性のある組織は強い」は勘違い?その真意とは一体何なのでしょうか。ココナラ 新明さん、スタンダード 鈴木さん、アトラエ 岡さんのメッセージをお届けします。新規事業を成功させるためのチームビルディングについて知りたい方、必見です!
※2016年10月13日に開催された『Service Design Night vol.3』よりレポート記事をお届けします。
チームビルディングを語るときのキーワードのひとつが「多様性」だ。
ひとつのプロダクトをグロースさせていくうえで、多様な価値観、視点、スキルを有したメンバーを集めることは一見有効そうである。成功しているスタートアップを見ても、多様なメンバーを揃えているところは少なくない。
では、もしあなたがスタートアップを立ち上げるとしたら、もしくは社内で新規事業を任されたとしたら、どうチームビルディングしていくだろうか。もし「成功しているスタートアップに倣って…」と多様な価値観のメンバーを揃えようとしているのなら、少し立ち止まっていただきたい。
新規事業のチームビルディングに関して“「多様性のある組織は強い」は勘違いだ”と警鐘を鳴らすのが、知識・スキルのマーケットプレイス《ココナラ》の新明智さんだ。
rootの西村さんが主催するService Design Night vol.3では、新明さんをはじめ、数多くのサービスのUXデザインを手がけたスタンダードの鈴木智大さん、《yenta》を展開するアトラエの岡利幸さんが登壇。「新規事業立ち上げにおけるチームビルディング」というテーマで行なわれた、トークセッションの様子をお届けしたい。
チームビルディングは、メンバーのパフォーマンスを上げることに比重が置かれる傾向にある。しかし、ココナラの新明さんは0から1をつくり出す新規事業においては特に「メンバーの集め方に比重を置くべき」だと言う。
一般的に「多様性を持った組織は強い」と価値観の違う人たちを集めてチームビルディングをするケースも多いと思うのですが、新規事業においてはこれは大きな間違い。ある人がTwitterで「多様なバックグラウンドと異なる意見とかは、イノベーションでは必須ではなく、むしろ成果を遅く小さくすると最近感じている」とつぶやいていましたが、これは本当にそのとおりだと思います。多くは「多様性の勘違い」から生まれていると思っています。
では、チームビルディングで本当に大切なことは何か。ある起業家の言葉を交えながら新明さんは続けた。
PayPalの創業者であり元CTO Max Levchinはこう言っています。「初期のチームにおいては高度に均一のバックグラウンド、教育、志向、好みなどがあるほうがよい、議論の無駄が省ける」と。そうなんです、ここがすごく大事。多様性というのはスキルや解き方のアプローチを指すのであって、ビジョンや信じる方向性については必要ありません。
要するにプロダクトのつくり方や進め方、伸ばし方などには多様な意見があっていいんですが、そもそもプロダクトに対して「僕にはこんな違うビジョンがある」とか「プロダクトの目指す世界観が信じられない」とか、そういった意見は0から1をつくるフェーズではいらないんですよ。それよりも信じたものを早くつくることが、新規事業では本当に大事なことです。
あと、同じ熱量でコミットできる人がいいですね。プロダクトをつくるとき、コミットできる熱量が同じではない人が一緒にいると、それだけでチームが萎えてしまって新規事業の成功率は下がります。ですから「多様性」よりもむしろ「共通性」に目を向け、メンバーを選ぶべきです。
また、新規事業を成功させるにはリーダーの役割も重要だという。
新規事業は、異なる3点「プロダクト」「ユーザー」「ビジネス」を考えながらつくる必要があります。ビジネスだけを考えていると、ユーザー、プロダクトにどういう価値を与えていくのかが抜けてしまい使ってもらえるプロダクトはつくることができませんし、ユーザーやプロダクトだけ考えていると、サステナビリティがあるか、つまり稼げて、チームメンバーを維持できて、より多くの人に使ってもらえるかという視点がなくなっていきます。
こうした3つの観点を、矛盾も乗り越えながら、統合性をもって進めていくリーダーという存在が必要なのです。新規事業を失敗するケースとしては、ビジネスはビジネスの人、プロダクトはプロダクトの人、ユーザーを見ている人はまた別の人といったケースがほとんど。本当のプロダクトをつくりたければ、そういった矛盾をすべて乗り越えて、統合したものでなければ、あまり意味がないんですよ。矛盾をすべて乗り越えられるようなパッションのあるリーダーの存在が、チームビルディングの出発点だと思っています。
スピーディーな初期プロダクトの開発が求められるスタートアップにおいて、多様性とはスキルやアプローチのことを指す。従来のチームビルディングでは、ビジョンや信じる方向性における多様性を重視してしまいがちだが、それは逆にチームの初動を遅らせ立ち上がりの妨げになってしまう。それゆえ、立ち上げ前にいかに「共通性」のあるメンバーを集めるかが重要になってくるのだろう。
次に、新規事業の目的やその決まり方についてスタンダードの鈴木さんはこう語った。
新規事業の目的の決まり方には2通りあります。一つはトップダウン。経営者が目的を決めて、「じゃあ君やってよ」という感じでおりてくる場合。もう一つは、ボトムアップ。社内コンペや本当にやる気のある人から自然発生的な提案や、スタートアップがあると思います。トップダウン型だと担当者自体の問題意識がなかったりするので、モチベーションに違いが出てくると思っています。
目的でいうと、どちらが良い悪いではなく、ユーザー目線もビジネス的な視点も両方あると思っています。市場の環境や戦略によって、どちらを優先するかが変わってきますが、あまりにも片方だけに集中してしまうと、目指すべき場所がブレ、チームがバラバラになってしまいます。バランスが必要ということですね。
また企業文化は新規事業に関係してくるケースも多いと言う。
そもそも大きい会社とスタートアップでは性質が違います。
大きい企業だと事業基盤や期待が大きすぎて、失敗ができないんですね。失敗を恐れるがゆえ、どんどん自主的な提案がしにくくなっていく。こういった環境で新規事業を立ち上げるために必要な人材を集めたとき、社内調整の担当が必要になることもあり、そうなると必然的にチームメンバーも増えていき、結果的に初期から大規模のチームになりやすく、新規事業で必要なスピード感が失われる。さらに既存事業の強みを活かしてはじめる場合が多く、理解がある人をチームに巻き込むことが多いですね。
その反面、スタートアップは変化を見越しているので、比較的失敗には寛容ですね。既存の事業の強みがない状態からのスタートになるので、まずは少人数でも熱狂的なファンを獲得することから始めるケースが多いのですが、より多くの人にリーチさせるようになる場合には、ニーズ自体が多様化していきます増えていきます。スタートアップでは少人数での強みを活かし、スピード感を保ったうえでどう意思決定していくかが大切になりますね。本当にやりたいメンバーを集めるとモチベーション自体があがりやすく、短期でリリースして学習することが可能になります。
新規事業の立ち上げにおいては、経験の有無も大事なのだそうだ。その理由について鈴木さんはこう語る。
経験があったとしても、新しい視点を盲目的に見逃していく。逆に非経験者がやるからバイアスがなく、新しい視点が生まれてくることも多いんだと思います。女性向けのサービスを男性が行なうことも同様。一概にどちらがいいとは言えません。だから、共感するところの根本を同じとした多様な人材を集めてバランスの良いチームにするのか、それとも狙いによっては「特化型」のチームにするのかが、チームビルディングの人員の編成に役立つと思っています。
トップダウンなのかボトムアップなのか、ユーザーとビジネスどちらを優先させるのか、大企業なのかスタートアップなのか、メンバーはエキスパートなのかビギナーなのか。事業の目的やその決まり方、そして企業規模やチームの構成メンバーによって、状況は全く変わってくる。だからこそ、その時々の状況を見極め、自社に最適なチームビルディングの手法を選択し、実行していくことが重要だといえるだろう。
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最後はアトラエの岡さん。テーマはチームビルディングにおける“心理的安全性”だ。岡さんは「“心理的安全性”とは何か」から話した。
心理的安全性というのはカンタンに言うと、「敵がいない」とか、「何を言っても安心」とか、「チームが家族である」とか、スポーツチームとか、何か目的があって自己実現しようと思っている人間が集まったチームほぼ全てにあてはまる要素なんですよね。
チームメンバーを大事に選ぶことを大前提にしたうえで、岡さんはより強固で、より大きなことを実行するチームづくりのために最近実践した事例について紹介した。
この前実際に行なったチームビルディングも含めたyentaのチーム合宿の話をすると、大きく分けて3つのステージに分かれています。ファーストステージは思っているよりエモーショナルな話。立ち上げ当初は当然ビジョンが明確なんですが、プロダクトが上手くいきはじめたとき、つまり次のフェーズではまた違うコミットメントが必要です。そのタイミングで僕らは6つの質問にチームメンバーそれぞれが答えて、それに対して議論をしながらお互いの個性や想い、こだわりなどを共有します。
具体的にyentaの例でお話しすると、「なぜyentaやってるんですか?」「他のプロダクトに何を実現されたら悔しいですか?」「自分だけでは解決できない社会的な課題は何ですか?」「yentaで達成したいゴールは何ですか?」「そのゴールを達成するためにチームがどんな姿になっているべきですか?」「その上で自分に足りないものを直したいところはありますか?」という6質問。
みんなで紙に全部書いて、それぞれ発表・議論をしていきます。すると、相当一致しているはずの新規事業プロダクトチームでも、微妙なニュアンスで価値観が違うとか、目指しているゴールのレベル感がほんの少しだけ違うといった目線ですり合わせができます。これが結構大事な要素。たとえば、世界中で使われるプロダクトをつくろうとゴールを共有したつもりのチームでも、ゴールへの向かい方が微妙に異なることがあります。いきなり世界一を目指しにいきたいと思っている人と、まずは日本一を目指さないと世界は目指せないと思っている人がいて、それを共有できていないと、議論をしていてもどちらかが腹落ちして、どちらかがどこか不安な心境で終わることが多いと思います。この状態では、チーム全員が本気で走ることはできません。こういうレイヤーで意見をすり合わせてみると、yentaらしいチーム像が見えてくるわけです。
ファーストステージで全員が一定のコンセンサスをとった上で、次のセカンドステージへと進む。
セカンドステージでは「理想の自分にならないとyentaがゴールに達成しない。では理想の自分になるために何をした方がいいのか」といった話になります。私たちは4人でyentaをやっているんですが、1人ずつ部屋から出て、他の3人が部屋から出た人が理想とする人物像になるための改善点を全て洗い出します。それを1人ずつ繰り返し、別の3人からフィードバックを受けるんですけど、これが結構痛いことまで言われるんですよね。
たとえば私はリーダーなので、世界に出せるプロダクトをつくることができなければなりません。当然リーダーがそのレベルに達していなければ、チームメンバーとして引き上げる必要がありますよね。ここはそのための強烈な自己認知ステージ。自己認知がズレていると、なかなか成長できないですからね。あとはこれをやると、言えないことを言える状態をつくることができれます。言えないことがなくなるというのは、チームとして生産性が高い状態なのではないでしょうか。
ファーストステージとセカンドステージで自分の今の状況と理想の人物像を認識。最後にサードステージへ。
最後にサードステージでは、どんなところにコミットするかを共有します。たとえば、「責任持ってここやります」、もしくは「ここまで伸ばしたいからちょっと手伝って」といったことですね。共有することでチームの相互理解は深まります。サードステージを終えると、腹の底から納得いくビジョンがあり、かっこいいチーム像が全員で共有できている状態になります。圧倒的な自己理解・相互理解ができ、言えないことがない状況ができるので、そういうチームは楽にチームのプロダクトが前に進んでいくのだと思っています。
お互いの価値観を共有した上で、自分の今の状況を理解し、理想の自分へと進んでいくのがアトラエ流のチームビルディング。チーム全員が弱点まで全部理解し合っているからこそ、より強いチームが形成されるのだろう。
>>アトラエ 岡さんの発表資料はこちらから!
新規事業立ち上げのスピードが重視されている昨今、事業構築やプロダクト構築のプロセスに課題を抱えている企業も多いことだろう。チームビルディングに正攻法はないかもしれない。しかし、業界の最前線で活躍する登壇者3名の話からは、「強い組織」をつくるヒントを得られたはずだ。ぜひ自社に最適な方法を取り入れ、一体感のある組織づくりに活かしてほしい。
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