メンバーの「自由」と「責任」を重視。フラットな組織運営で優秀なエンジニアやデザイナーを集めるのがフィンランド発「リアクター」だ。クライアント企業のビジネスを加速するソフトウェアをチームでつくり上げる。東京支社を率いるアキ・サーリネンさんに同社の哲学や組織のあり方を聞いた。
リアクター(Reaktor)は、ビジネス視点でのコンセプトづくりからUI/UXデザイン、高度なテクノロジーを要するソフトウェア開発までを一貫して行う、社員数400人あまりのソフトウェア開発会社だ。
2014年には東京支社もでき、今年5月にはフィンランド発のスタートアップの祭典「Slush Asia」で子ども向けのプログラミング教室「ムーミン・コーディング・スクール」を実施し、注目を集めた。
筆者がリアクターを知ったのは、同社の本拠地であるヘルシンキを訪れた時のこと。「イクメンデザイナー」が所属する会社として紹介されたのだ。
リアクターで働くアレクシ・リンタ=カウッピラさんは、出産後4ヶ月で仕事に復帰した妻に代わって育休中。話を聞いてみると、リアクターは男性社員が育休を取ることにとても協力的だという。それだけではなく、社員の自律性やチームワークを重視し、高い技術力を活かした野心的なプロジェクトに関われるなど、IT系エンジニアやデザイナーにとって非常に魅力的な職場だ。
2000年に創業とWeb系の企業としては老舗で、フィンランド航空やナスダックなどの大企業をクライアントに持つ同社だが、スタートアップ的な文化を保ちつつ成長を続けている。そのような文化のもと、東京進出を果たしたReaktor Japanのアキ・サーリネン代表に話を聞いた。
【プロフィール】
Aki Saarinen(アキ・サーリネン)
Reaktor Japan株式会社 代表取締役
1985年、フィンランドの南西沿岸の群島地域ナウヴォに生まれる。高校入学時に親元を離れ、フィンランド最古の街トゥルク、首都フィンランドで学んだ。18歳でプログラミングに興味を持ち、アールト大学理工学部に進学。機械学習や人口知能を専攻し、2010年にコンピューターサイエンスの修士号を取得。リアクターには在学中の2009年にジョインし、2014年より現職。
― この5月には「ムーミン・コーディング・スクール」を日本の子どもたち向けに実施されましたね。子ども向けプログラミング教室は、社員の方の発案で始まったとか?
はい。もともとはフィンランドではじまったのですが、社員の一人が娘さんにプログラミングを教えた経験がきっかけになっています。それが大きな成功を収めたので、同じ熱狂を広めたいと日本でも開催しました。
― 日本でやってみてどうでしたか? フィンランドの子どもたちとの違いなどはありますか?
フィンランドと日本ということでの違いは特に感じられなくて、みんなすぐにコンピューターの世界に入り込んでいましたね。興味深かったのは、女の子もすごく熱心に参加してくれたこと。とても嬉しかったですね。今回のイベントの参加者は5〜9歳だったのですが、誰も「女の子はプログラミングなんて好きじゃない」なんていいませんでした。今後も開催できるよう、今はパートナーとしてやっていけそうな企業と相談しているところです。
― リアクターは社員の発案を重視するイメージがあります。日本に支社をおくことになったのもアキさんの発案ですか?
実は休暇中に日本を旅行して。そこで今のパートナーと出会ったのです。それから日本にすごく興味を持つようになって(笑)。
リアクターとしてはそれ以前から、自動車関連のソフトウェア開発において日本の仕事はあったのですが、私は正直それほど日本に関心がなかったのです。たまたま韓国のクライアントの仕事でソウルとヘルシンキを行き来するようになり、日本にも旅行したりするようになりました。
もちろん、私的な理由だけではなく、東京に支社を置くことにしたのは、日本のクライアントとのリレーションシップの問題を解消したり、アジアでのビジネスの可能性を探るマーケットリサーチしたりするために良いと考えたから。
ビジネスの可能性を探るためにアジアのどこかへ、という選択肢はあり得たのですが、私のパートナーのことも含め、東京進出は本当にいろいろな出来事が重なって実現したことです。
リアクターは早い時期からアジャイル開発の手法をとっています。まずはトライし、その結果を確認し、少しずつ調整しながら良い方向に進む。それをクライアントとのプロジェクトでやると同時に、リアクター自体の運営でも実践している。だから、「フィンランド以外にどうビジネスを広げていくか」ということになったとき、僕からの東京へ行こうという提案も、「まずはトライしてみよう!」ということで受け入れられたわけです。
― 支社をどこに出すか、そこまでメンバーの意思が重視されるのは驚きました。
人は何かに情熱を抱いて、目的を持って動いている時に高いパフォーマンスを発揮します。
だからリアクターは、仕事に対して真の情熱を持っている人を雇います。個々人がその情熱を元にしたゴールを見つけていく。そして仲間とコラボレーションし、ゴールに到達することを求めます。だからこそ権限を与えるのです。
組織的には CEOやCTOといったかなり上位のマネージャー職を除いて肩書というものがなく、とてもフラットです。プロジェクトごとに、ビジネス、デザイン、技術、データ分析など、異なる専門性を持った5〜8人のメンバーでチームを作りますが、その中で特に上下関係というものはなくて、それぞれがチームとクライアントとプロダクトをリードするという役割を持っています。
そして、オープンなコミュニケーションをとても大事にしていく。社員はそれぞれが何かのプロジェクトチームに属しているのですが、それに縛られることなく、チームを超えてサポートしたり意見を言ったりできます。
コミュニケーションにはSlackの他、色々なツールを使っていますが、全員が同じツールを使い、各プロジェクトの情報をオープンにしているので、誰でも興味があれば他のプロジェクトのディスカッションに入っていけるのですよ。
東京オフィスの仕事にフィンランドのメンバーが関わることも可能。そうすれば、他のメンバーが持っている様々な業界や技術の経験を取り入れることができますからね。
― コミュニケーションの促進のために何か工夫されていることは?
仕事上のやり取りだけでなく、インフォーマルなコミュニケーションも大事にしています。月1回の全社ミーティングの日は、各プロジェクトでの興味深い経験をシェアし、ミーティング後に食べたり飲んだりしながら、普段一緒に仕事をしているチーム以外のメンバーと交流します。
趣味やスポーツをしたり、業務外で一緒にコードを書いたり、こういった活動も奨励していますし、年に2回は、400人あまりの社員が全員参加する週末旅行もします。
それと、変わったところでは、ヘルシンキのオフィスだと毎週木曜日は「サウナとフードの日」としています。オフィスの中にサウナがあるのですが、その日は社外の人も含め、誰でもサウナに入りに来ていいのです。サウナに入ったり飲んだり食べたりしながら、おしゃべりをしています。
― フィンランドではほとんど残業がないと聞きますが、アキさんたちもそうですか?
確かに、フィンランドでは業務時間を厳格に守り、残業をしないのが一般的です。東京だとクライアントからのメールが真夜中に届いたりしますが、そういうのはフィンランドではあり得えません(笑)
こちらでは日本のお客さんがいて、少人数なのでどうしても時間外に仕事をしなければいけないこともあり、完全にフィンランド式にはできていません。
でも、その分後で休む時間は取っていますね。重要なのは、みんなでゴールを共有し、その週にやり遂げるべきことは何かを理解すること、そしてそのためにどうすればいいかを考えること。みんなが健康で、仕事外の趣味や生活の時間も取れるように、ということは気をつけています。
― 他に、日本の企業と仕事をする上で感じていることは?
東京に来てから、これまで以上に日本でのビジネスの可能性を感じるようになりました。日本の企業は長期的なスパンで物事を考える傾向があって、それはリアクターのスタイルとも合っています。それから、他者とのコミュニケーションにおいて、とても謙虚な態度を取るという点が日本とフィンランドは似ています。だから、とても仕事が進めやすいのです。
― そうなんですね。英語が母国語でないという点では同じですが、フィンランドにおけるビジネスパーソンのほうが方よりグローバルな考え方を持っている印象もあります。
確かに、フィンランドは国内の市場がとても小さいので、エンジニアも 含めて海外市場に向けて野心的な人が多いのかもしれませんね。日本の場合はまだ国内に大きな市場があるので、海外に目を向けなくてもやることがたくさんあるのだと思います。
ただ、先日参加したSlush Asiaでは野心的な日本人にたくさん出会いました。それに、「ガラケーしか受け入れない」と言われていた日本でiPhoneが一番売れているように、今後は新しいサービスやプロダクトがどんどん国外から入ってきて、日本と海外の差を小さくしていくでしょう。
こちらで会う企業の方達もみんな、今よりグローバルなビジネスをやっていきたいという意思を持っていて、だからこそ我々のグローバルな視点がお役に立てるわけです。日本のビジネスは今、日に日にグローバルになっていっていると思います。
― リアクターの働き方や仕事観に加え、海外スタートアップから見た日本市場における可能性もとても興味深いですね。参考にできる話も多くいただけたと思います。本日は貴重なお話、ありがとうございました!
文 = やつづかえり
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