「産めない可能性があります」医師から告げられたのは、坂梨亜里咲さんが26歳の時。そこから3年、壮絶な不妊治療と向き合ってきた。不妊治療を経て、彼女がつくったのは医師・専門家が監修するウーマンウェルネスブランド『Ubu』、子どもを望む女性のための「サプリボックス定期便」だ。そこに込められた彼女の思いを追った。
全2本立てでお届けします。
[1]「産めないかも」から3年。不妊治療を経て、私が「子どもを望む女性のためのサプリ定期便」をつくるまで。
[2]医師、管理栄養士、薬学博士が協力! 子どもを望む女性向けサプリ定期便『Ubu』に集まる共感の声
今年で30歳。筆者(女性)である私は、彼女の言葉にドキッとした。
「どこか自分の身体を過信していたのかもしれません。欲しいと望めばまだまだ子どもはつくれるし、きっと産めるだろうって。でも、そうとは限らなかったんですね」
こう語ってくれたのが、MEDERI株式会社・代表の坂梨亜里咲さん(30)だ。
まさに自分が思っていることを突かれた気がした。「出産はまだ先のこと」と妊娠や不妊について深く考えたことがなかった。
坂梨さんはこう続ける。
「医師から"産めない可能性があります"と告げられたのが26歳の時。そこから3年間、不妊治療を行なったのですが、体力的にも精神的にもどんどん追い詰められていきました。こんなに大変だなんて思ってもみませんでした」
ひと呼吸をおいて彼女は言う。
「もっと早くに知っていたかった。後悔もある。だからこそ、私と同じような思いをする人がひとりでも減ったらいいな。たくさんの人に知ってほしいと思うようになったんです」
そして彼女は、自らの思いを込め、子どもを望む女性のためのサプリメント『Ubu』を立ち上げた。妊娠に向けて摂り入れたい栄養素を得つつ、妊娠について正しい情報も知れる「サプリボックス定期便」だ。
なぜ、子どもを望む女性のためにブランドをつくる、という決意をしたのか。またなぜサプリメントというカタチだったのか。
「女性はもちろん、よりそうパートナーも、少しでも多くの人が早いタイミングで妊娠について関心を持ち、考えられる世の中にしたい。妊娠のこと、不妊治療のことをもっとたくさんの人に」
そこには彼女の実体験にもとづく強い思いがあった。
Ubuとは 医師・専門家が監修したサプリの定期便。妊娠・出産の知識がまとまった冊子と、専門家が監修した「コーチングカード」が同封されて自宅に届く。クラウドファンディングによるプロジェクト開始から1日で目標金額へ到達。応援者からは「将来のことはまだわからないけど、まずはUbuを飲む所からはじめたい」「奥さんと一緒に使いたい」などの声が寄せられた。(画像は2020年3月17日時点のものです)
── じつは取材者である私自身、最近結婚したのですが、今まで不妊という可能性について考えたことがほとんどありませんでした。
そうですよね。私も「まさか自分が」という感じでした。もちろん知識もない。
26歳で医師から「産めない可能性がある」と知らされて。治療し始めたのですが、体力的にも、精神的にも、どんどん追い詰められていってしまったんです。
「なぜ、こんな大事なことを知らなかったんだ」と自分を責めた時期もありました。どこか自分の身体を過信していた部分があったのかもしれません。最先端の治療技術もあるから「きっと大丈夫」と。ただ、妊娠ってけっして確率が高いことじゃない。身体にはタイムリミットもあるんだ…と。不妊治療をする中で、身をもって知りました。
まず時間とお金がすごくかかる。仕事をしながら週1回、遠方の病院に通っていました。お腹に注射したり、採卵したり。毎月20万円以上、多い時は60万円かかった月もあって。
治療を進める中では「体外受精にしますか?」と急な選択を迫られることもありました。メリット、デメリットのこともよくわからなかった。
インターネットで検索しても、わかるのは表層的なこと。当事者になってはじめて「本当にほしい情報がない」と思い知らされました。
学校でも、避妊の仕方は教わるけど、どうしたら産まれるのか、なぜ産まれないのか、教わらないですよね。大人になった今も、どこかタブーのような空気がある気がして。これって女性にとってはもちろん、世の中にとって大きな課題だと感じるようになりました。
── そもそも「産めないかもしれない」と知ったきっかけは?
すぐに子どもがほしいと考えていたわけではなかったのですが、「結婚することが決まったから、ブライダルチェックはやっておいたほうがいいかな」と。26歳のとき、産婦人科で検査を受けてみたんです。
そうしたら「産めない可能性がある」と。ショックで頭が真っ白になってしまった。あまりに突然のことで。
自分にとって「いつか大好きな人と結婚して、子どもを産む」が当たり前だと思っていたのかもしれません。
治療を続けていくなかで「私が女性に生まれたことの意味ってなんだろう」とか「自分はダメな存在なんじゃないか」って思いつめたりしていました。
── そこから「サプリブランドをつくる」につながっていくわけですね。
そうですね。26歳から3年の治療を経て、30歳になるタイミングで。これまでの自分の人生を肯定して、30代を迎えたいと思うようになったんです。
当時は本当に苦しくて。ただ、単に「苦しかった」で終わらせたくない。もういっそのこと「神様からもらった機会だったのかもしれない」くらいに思うようにして。
私と同じような境遇の人が世の中にはきっといる。その人たちのためにできることをやる。誰かを幸せにすることしか、私の中で幸せになる方法が見当たらないなって。
── なぜ「サプリメント」だったのでしょうか?
まずはじめに、私自身の妊娠準備スタート期に、産婦人科医から「栄養を効率よくとるために必要なもの」だと知識を得られたこと。同時に、定期便にすることで継続的に「妊娠・出産」について知ってもらうきっかけが届けられると考えたからです。「サプリメント」と「セルフコーチングカード」を定期便にして届けたらどうか、と発想していきました。
── とくにサプリメントと一緒に届く「セルフコーチングカード」がユニークですよね。
そう言ってもらえるとうれしいです。「Ubu CARD(セルフコーチングカード)」と名前をつけているのですが、カードにはご本人や、パートナーへの「問い」が書かれていて。たとえば、パートナー向けでいうと「どんなパパになりたいですか?」など。
子ども、どうする?って女性側からパートナーに聞くのって、プレッシャーを与えているみたいで話しづらい、という声もあって。自然と、パートナーとも話し合いやすくなる工夫はできないかな?と、カードを思いついたんです。
裏側には、自分たちの「答え」を手書きで残しておけます。たとえば、「どんなパパになりたいですか?」という質問には「かっこいいパパ」とか、ざっくりとしたことでもいい。不格好な字でも、それにほっこりすることってある。言葉じゃなくてイラストでもいいんです。相手がわざわざ書いてくれる。それってすごく嬉しいんです。
妊娠準備期間中って強い孤独感があったり、辛くなる時期もあったりして。「妊娠したいのって私だけなのかな」とか。そんな時、パートナーが書いてくれたカードを見返せば心によりそえるかもしれない。お守りみたいになったらいいなと思っています。
── これから『Ubu』をどういった存在にしていきたいですか?
子どもを望む女性のためのブランド、としているのですが、結婚前からぜひ手にしてほしいと考えているんですよね。「そろそろ結婚かな」という人、「どんな人と結婚するかまだ分からないけど、子どもは産みたい」という人、パートナーが妊娠を望んでいる人…そういった広義での「子どもを望む女性のため」をもっと周知していければと考えています。
妊娠や出産は、いざ、その場面になってやっと知ることも多い。たとえば「葉酸」ですが、赤ちゃんができてから摂ればいい、と思っている方が多いと思うんです。ただ、実は赤ちゃんを迎える数カ月前から摂取しておきたい成分と言われています。むしろいつか子どもが欲しいと思っているのならば、定期的に摂っておきたい栄養素なんですよね。
そういった意味でいうと、自分自身や、パートナーだったりの「考えるきっかけ」にしたい。毎月『Ubu』が届くタイミングで「私の体調って今月どうだったかな」とか「また質問が届いたからやってみようかな」とか。「Ubuを飲んでるから良いことありそう」と、「将来へのお守り」みたいな存在にしていけたらいいなって思っています。
>>>後編 医師、管理栄養士、薬学博士が協力! 子どもを望む女性向けサプリ定期便『Ubu』に集まる共感の声
編集 = 白石勝也
写真 = 黒川安莉
取材 / 文 = 平野潤
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