2020年3月24日―― Loco Partners創業社長 篠塚孝哉さんが代表退任を発表。「後発の宿泊予約として不利」と言われながらも『Relux』を育てあげた張本人だ。なぜ、このタイミングでの退任なのか。ありのままを伺った。
全2本立てでお届けします。
[1]「後発だから勝てない」なんて信じなかった。宿泊予約『Relux』成長の裏側、篠塚孝哉と振り返る9年間
[2]9年間のスタートアップ人生が僕に教えてくれたこと。篠塚孝哉が、Loco Partners 代表退任を決めた日
特別な宿泊施設を予約できる『Relux』。運営元Loco Partnersの創業社長が篠塚孝哉さんだ。この春、彼はゼロからつくりあげた同社の代表退任する。そこには『Relux』をさらなる成長の軌道に乗せるための判断があった。
まず「続ける」という選択肢ももちろんありました。ただ、「僕が続ける」と「続けない」を比較した時、会社としてどちらがより大きな成長カーブが描けるか。
現在、会社は順調に伸びているし、伸びている時にきちんと引き継いで、後任に任せるほうがいいんじゃないか、と秋頃から考えるようになりました。
逆に会社が落ち目にいたり、沈みゆく船であったりしたら、後任に引き継ぐってことはできなかったと思うんです。そこの責任はちゃんと果たすべきと思っていました。次の3年間の数字で言えば、僕がいなくても確実に伸ばせる。それならば今は、一番引き継ぎやすいタイミングだと思うようになりました。
じつは最終的に意思決定したのは2020年の年明け。選択肢として、4月以降も社長をやる、顧問、会長、社外取締役として残るなど…いろいろ考えたのですけど。KDDIの皆さまとも議論を重ねて、Loco Partnersの経営から100%身を引くことにしました。
役員任期が3年間だったので、一つの節目ではありました。任期が近づくにつれて自然と「どうしましょうか」も話し合いができて。KDDI側との関係性もすごくいいので、フランクに皆さんと話ができました。
退任した場合の売上カーブも想像よりも上下レンジがそんなにないと思えてるんですよね。僕が今日バサっと退任したとしても、いきなり明日の売り上げは落ちないわけです。なぜなら、そういう強い仕組みが構築されていて、頼もしく強い仲間たちが事業を創ってくれているからなんです。僕はもうほとんど何もしておらず、全部メンバーのおかげなんです。そうすると、回り回って僕の存在価値ってなんだろうっていうところの疑問、考えが出てきて。
じつは『Relux』誕生前、篠塚さんは起業したものの「ここで勝負する」と事業ドメインを定めきれない時期を経験している。Loco Partners創業の2011年~2012年、SNSを活用したコンサルティング業をメインで提供してきた。当時のことを振り返ってもらった。
ちょうどTwitterやFacebookなどがユーザー数を伸ばし、プロモーションやマーケティングにおいてSNSの影響力が高まっていた時期で。
当時27歳で、貯金の半分、200万円をつかって起業しましたね。その時に決めていたのが「資本金が底をついたら、サラリーマンに戻る」ということ。もしお金がなくなったら、単に経営センスないんだと思って諦めようと思ってたんです。
ただ、現実的に「残り3万円」というところまで来て。このときはめちゃくちゃ焦りました。P/L上は黒字だったのですが、広告費や制作費をバンバンと先払いして。気づいたら手元の資金がなくなってしまった。お恥ずかしいのですが...そのときはじめて「キャッシュフロー」がなにかを知りました(笑)経理とか財務とか法律とか何の知識もなく起業していたので、瀕死状態だったんですよね。
売掛金と買掛金の違いすらわからなかったし、契約書の作り方や請求書を送るタイミングなども分かっていませんでした。僕はいろんな創業社長の中でも最も経営能力が低かったと思います。
SNSのコンサルティングでも稼げるようにはなっていたのですが、「ここで勝負する」という事業ドメインはなかなか見つけられていないくて。2013年になって『Relux』をリリースすることができました。
SNSコンサルを2年、『Relux』リリースから7年、計9年間スタートアップの経営者として歩んできた篠塚さん。その中での大きな失敗、得た学びは何だったのだろう。
今となっては「たられば」でしかなく、意味のない議論ですが…たとえば、『Relux』ってアプリのリリースが遅れてしまって。もし2012年~2013年の「iPhone大普及前夜」にアプリに絞っていたら、今の数倍の規模になっていたかもしれない。
WEB版のリリースから2年後、2014年にAndroid、iOSと出していて。当時、僕らは「SNSが勝ち筋」だと考え、舵を切っていて判断が遅くなってしまいました。
こういった大きな後悔もあり、考えるようになったのですが、失敗って区分すると「氷山モデル」みたいになっていると思うんです。見えている氷山の頭のところは「顕在化した失敗」で、水面下にあるのが「潜在化した失敗」。
じつは、目に見える「顕在化した失敗」は解決するための糸口がある。バグが出てしまったら修正する。交渉で揉め事が起きてしまったら謝罪や補填をする。
ただ、「潜在的な失敗」は「何かしないことによる失敗」です。それを見逃していないか、ずっと恐怖にも似た感覚を持っていた気がします。
かなり前、松山太河さんがお話してくださった「VCにおける最大の失敗は何か」というお話にも似ていて。「投資してお金が0になった」がVCの失敗と思われがちだけど、実はそうじゃないんだ、と。「投資のチャンスがあったのにせずに、その会社がスーパーメガヒットしたこと」とお話をされていたんです。
たとえば、「Googleに投資するチャンスがあったのに、当時、ガレージで意味不明なギークたちが仕事していた。こんな会社、怖くて投資できない」と。「もし投資してたら僕はこんなところにはいない(笑)」と笑い話としてされていたのですが、起業家もまさにそれだなって。
だからこそ、多方面から着想を得て「他を知る」は意図的にやってきたかもしれません。経営していると、炎上もしないし、トラブルにもなっていないけど、「見えてない機会損失」が山のようにある。失敗したと気づいてないだけで実は大失敗でした、みたいな話ばかり。
「知らなかった」とか「これやってたらもっとスムーズにまわったんじゃないか」とか、後悔はしたくない。これからどうするか、まだ明確に決めているわけではないですが、「潜在的な失敗」については、たぶんこれからも考えていくと思います。
(おわり)
>>>[前編]「後発だから勝てない」なんて信じなかった。宿泊予約『Relux』成長の裏側、篠塚孝哉と振り返る9年間
取材 / 文 = CAREER HACK
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