2020.04.15
淡々とやれることをやるだけ|Kaizen Platform 須藤憲司

淡々とやれることをやるだけ|Kaizen Platform 須藤憲司

企業の事業に合わせ、最適なデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するKaizen Platform。クラウドプラットフォームサービスと、来る5G時代を見据えた動画クリエイティブサービスを開発・提供している。創業者でCEOの須藤憲司さんは、世に提供価値が浸透する前から事業を手掛けてきた。

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会社は、実現したい未来の縮図だ

サービスを改善して成果を高めるグロースハック。デジタル環境下の顧客体験を変革するDX……Kaizen Platformという会社は常に、いつも「一歩先の未来」を提案してきたように映る。日本企業が向かう先を示し、伴走する。それはつまり、未だ価値がはっきりしていないものを世に問い、理解してもらわねばならないともいえる。

「時々で苦労はあったけど、ハードシングスではなかったですね。たとえば、サイトを改善しないといけないのに第三者にはシステムは触らせられないし、データも開示できない、なんて言われたり。でも、そもそも無い概念を持ち込んでいますし、そういう拒否感が起こるのは当然。一歩ずつ丁寧にクリアするしかない」

世界で通用するサービスを。その意図を込め、海外でも通じる“Kaizen”を冠し、事業を率いてきた須藤憲司さん。資金ショートの焦りも経験したが、それらの出来事にくじけるようなことは「まったくなかった」と笑った。

「この前、共同創業者の石橋に『スドケン(こう呼ばれています)はこれからやりたいことってあるの?』と聞かれて、こう答えたんです。僕は今年で40歳で、仮にあと20年働くとすると、その間に未来へ残したくない習慣や文化を全部ぶっ壊したい。社会的に不便だとか、機会の不均衡だとか、前時代的で未来に持っていきたくないような理不尽は、自分たちの世代ですべて終わらせてしまいたいんです」

須藤さんが終わらせたいのは「20年後の小学生が、歴史の教科書で知って驚くようなこと」だ。それは現状の手掛けるビジネスだけではない。ハンコを押すために苦労する文化、投票所へ行く選挙に人力の開票速報……現代の習慣が、未来まで続くなんて限らない。Kaizen Platformは「自分たちが実現したい未来の縮図」だと話す。そこに、ハードシングスを、ハードシングスとは思わずに越えていくための鍵がありそうだ。

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デジタルで「権威主義的」な世界を終わらせる

創業前、須藤さんの胸には「仮説」と「怒り」があった。

「僕はかつて、自分が作ったサービスでグッドデザイン賞をもらったことがありました。表彰式に参加して、周囲を見回してわかったのは、この『グッド』は誰かが権威付けしたもので、消費者や利用者にとって良いデザインというわけでは必ずしもないのだ、と。そういう評価を下す世界はもちろんあってもいいけれど、それだけだと面白くないなぁと思ったんです」

もし、ユーザーの反応がリアルタイムにトラッキングできるデジタルの環境下であれば、「グッドデザイン」と権威付けをする先生よりも、地方都市に住むパートタイマーの素人が成果を上げる可能性も生まれる。成果軸で見た「グッド」が変わりうる世界の実現を、須藤さんは考えた。

「リクルートに在籍してた時、似たような思いを抱いたことがあって。100〜200パターン近くバナー広告を作り、一気に競争させるクラウドソーシングサービスをつくったのですが、社内の制作陣にも加わってみてもらったんです。『この仕事、何年やってると思ってるんだよ?』なんて不遜な人もいて……結果は、その人たちの惨敗。自分たちが生きてきた世界と、これから生きていく世界は異なっていくのだという体験が、僕の根底になったわけです」

データを得られるデジタルの良さを活かし、改善のために誰もが参加できる民主的な機会のもとで、権威主義的な世界に終わりを告げる。Kaizen Platformのテーマが決まった瞬間だ。

このテーマは、言い換えれば「機会の不均衡をなくす」ということでもある。

「僕が思い描いた世界は、Instagramで動画をつくるのが上手い女子高生が、コンビニで働く友達よりもたくさん稼げている姿です。その子が『面接で何かわかるの?履歴書とかウケるー!』って言ってるみたいな(笑)。実績主義じゃないけれど、地方でも、ママさんでも、シニアでも、その人がチャレンジしたいときに誰でもチャンスがある環境の実現です」

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理解されないことは、苦労ではなく「当然」だった

2013年に創業したKaizen Platformは、大手企業向けにWebサイトのUI改善を実現するプラットフォーム事業で伸長していく。創業から2年半で、顧客の売上を約240億円増やすほどの改善も実現。事業の成長に寄与する「グロースハック」を世に広め、それを成し遂げるグロースハッカーたちを世界中のネットワークからつないでいった。

折しも2013年末にライアン・ホリデイの翻訳書『グロースハッカー』が登場して注目を浴びたが、その考え方や職種そのものは新しい存在だった。「わかってもらえないという悩みはなかったか」と聞いてみると、須藤さんは首を振るでもなく、淡々と打ち返す。

「僕らは未来のことをやっているから、どうせわかるわけはないと思っていたし、なんの苦労とも思わなかったですね。スマホが出る前に『これからは手の中にコンピューターを持ち歩くのが当たり前だよ!』と言っても理解されなかったのと同じ。未来って、むしろ突然やってくる。理解されないことは苦労ではなく、当然だと捉えていました。自分たちをタイムマシンに乗ってきた未来人だと思っていたくらいに」

未来人は、着々と現代を変えていく。3年あまりで20億円を超える資金も調達した。ただ、スタートアップに付き物ともいえる資金ショートの危機も経験している。

「もともとアメリカ法人でスタートしたのですが、日本法人を親会社とするインバージョンを実施したときに多額の資金がかかりました。その時期が導入企業の決算期末とも重なり、見直しやプロジェクトの終了も相まって、このままでは10か月で倒産する状況。たしかに、つらかったですよ。でも、歯を食いしばって毎日出来る事をやって乗り越えるほかはなかったんです」

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ピンチのときこそ「王道」しかない

たとえ未来人でも、苦境を一気に変えられるわけではない。「社員に申し訳なさを感じながら出社する毎日だった」と須藤さんは振り返る。周囲に「なんとかなるよ」と声をかけながらも、内心では冷や汗をかく。事業は未来形でも、人間としては現在形でしかあり得ない。

「全社員の朝会で窮状を伝えました。『えー、このままだと10か月後に倒産します。アイデアがある人、来てください!』なんて言って、みんなからアイデアも募りました。知恵は現場にありますから。案件ごとの見直し、潜在ニーズの掘り起こし、削減できるコストの確認などを3か月くらいで進めていきましたね」

売り上げを高め、コストを下げて、資金を調達する。やらなければいけない3つのことを着実に進めた。須藤さんは「チャンスは邪道が効くのですが、ピンチのときこそ王道しかない。“ウルトラC”みたいな秘策を狙うのではなく、できることを着実に。それ以外の方法論を僕は知らないから」と言う。結果的に資金を無事に調達し、組織はより筋肉質になった。

ピンチの際に、社員へアイデアを募った姿は、会社運営における「機会の不均衡をなくす」ということのひとつともいえそうだ。

「最初から余白をつくっておこうと描いていました。僕は、自分たちの会社というのは、自分たちが実現したい未来の縮図だと思うんです。たとえば、僕が東京でなければ仕事ができない状況はおかしいから、リモートワークを前提に組織をつくろうとか。僕らは創業から7年間もリモートワークを基本としてきたので、いきなり切り替えざるを得ない企業と比べたら、生産性も全く違う。ただ、その経験と見識を持つからこそ、もっとみんなが働きやすいようにするにはどうしたらいいのか、と考えることも今はできていますね」

資金ショート以外にも危機はあり、精神的に追い込まれて自死を想像したこともあった。ただ、それでは問題は解決しないともわかっていた。だからこそ、成功か失敗かよりも、自分で成せる限りのことをまずは進めようと決め、心を落ち着けて取り組んできた。

「淡々とやれることをやるしかないんです。頂上を目指して足を一歩ずつ前に進める。飯を食い、提案し続け、元気でいること。それ以上でも、それ以下でもないです。だから、この企画を壊すような発言をしますが(笑)、ハードシングスで諦められるくらいなら、やらなければいいんです。むしろ、これからの時代はハードシングスが前提。それで心が折れるくらいなら、そのテーマは一生を使うにはふさわしくなかったんでしょう。そんな時は逃げちゃえばいいんです。次にきっともっと良いテーマが見つかりますよ」

+++2020年3月には 『90日で成果をだす DX(デジタルトランスフォーメーション)入門』 『ハック思考〜最短最速で世界が変わる方法論〜 (NewsPicks Book)』を出版。

「視線の移動」で課題解決の糸口をつかむ

しかし、「淡々とやる」とは言えど、そこで「何をやるか」は別軸の話だろう。須藤さんは問題に直面したときに、いくつかの考え方も心得ている。大切なのは視点の移動だ。

ひとつは「時間軸を伸び縮みさせる」こと。自分が見える範囲や時間の流れだけで考えると、視野が狭まって袋小路に入りやすい。そこで、「人類4000年の歴史から見たら一瞬の揺らぎの一つだな。過去にも似たような人がいて自分だけではなかったな」といったように長い目で見てみたり、あるいは「とりあえずお昼は何を食べようかな」と超近視眼的になってみたりする。時間軸をずらすことで、解決の糸口が見えてくることがあるのだ。

「内から外に目を向ける」のも大事だという。自分だけの考えに陥らず、「たしかに自分も大変だけれど、世の中にはこれほど困っている人がいる」と目線を変えると、成すべきことがより発見しやすくなる。

目線を変えることに関連して、「本当の問題は何かを見極める」ことも大切。仮に資金ショートに直面したならば、「環境要因のせいかもしれないし、事業が投資家にアピーリングじゃないのかもしれない」と問題を状態のままにせず細分化する。

また、須藤さんが日常的に行う習慣に「未来から今を見る」がある。これも視線移動の一種といえる。先述したInstagramで稼ぐ女子高生のように、目標に掲げるならリアリティーのあるシーンを伴うことが肝要だ。

「些細な日常の1コマに、未来の良さは表れますから。僕はそういったリアリティをつくるのは、毎日を頑張るためにも必要だと思うんですよね。モチベーションを保ったり、問題に行き当たっても暗くなりにくかったり。自分のマインドのためにも、リアリティを大事に」

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「キャリアの下駄」をいかに脱げるかがハック

今でこそ経験を積み、視点の移動についても分析する須藤さんだが、それは起業後に後天的に身に着けていったという。かつてはリクルートで新規事業を手掛けてきたのも、「今思えば、その頃の苦労は例えるなら子ども用プール。足がついていて、冷静になれば溺れないから」。

起業後は、アメリカや中国さえ相手になるほどのスタートアップという殺伐とした資本主義で、世界や文化の違いに触れ、常に比較を続けてきた。背景や風土が異なる人々とも仕事をする“unconfortable(快適でない状態)”に身を置くことで、経験は磨かれていった。

須藤さんは、リクルートで培った成功体験やポジションといったキャリアは「下駄」だったとも振り返る。そして、ハードシングスが生じる瞬間とは、往々にしてこの下駄を履いた人が、自分や周囲に期待していることが裏切られた状態を指すのではないか、と言う。

「下駄を脱いだ時の自分はどれだけの価値があるのか? マーケットを変えて戦うでも、海外へ行くのもいいですが、そこで初めて自分を客観視すると見えてくる。起業家だけでなく、自分とは何者かを考えるのは、キャリアを見つめる上でも大事だと思います。ただ、僕も偉そうなことを言っていますけど、レールも確証もないから、未来はわかりません。僕の発言は妄想かもしれない。でも、僕らは妄想を現実にしていくしかないんです」

進んだ道が正解なのだと、選んだことを正解にするのだと、自分で証明していくしかないと須藤さんは話す。明日もわからないような時代であり、進むべきレールも見えない。もし、レールが目の前に見えているのであれば、それは崖につながっているかもしれないのだ。

「下駄をいかに脱ぎ捨て、レールを下りて、素足で新しい環境に踏み出せるか。それこそが、これからのキャリアになる。そもそも、careerの語源は車輪が通った跡を指す“轍”のこと。つまり、自分の『後ろ』にできるものがキャリアなんです。みんなは『前』に悩んでいるようだけれど、それは誤解なのだと思います。やりたいことがなくても、まずはやってみて、初めてわかることがある。今は下駄を高くすることより、いかに下駄を脱いでどこに踏み出すかを考えることが、本当の“キャリアハック”に繋がるんじゃないでしょうか」


取材 / 文 = 長谷川賢人


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