元メルペイ 松本龍祐さん率いるスタートアップ『カンカク』。飲食サービスのDX化、OMO、D2Cを展開する。アプリでのモバイルオーダー、夜パフェD2Cに加え、運営店舗にておいしいコーヒーを均一に淹れるための最先端マシン導入も。松本さんがつくろうとしている、ウィズコロナ時代の「食」新体験とは?
カンカク
元メルペイ 松本龍祐さん率いる飲食関連サービスのDX化、OMO、D2Cを手掛けるスタートアップ。2019年8月に完全キャッシュレスカフェ「KITASANDO COFFEE」を、2020年2月には新カフェ『TAILORED CAFE(テイラードカフェ)』をオープン。モバイルオーダーアプリ『COFFEE App』ではプレオーダー機能に加えて月額定額プランも提供。その他、夜パフェブランド「parfait✕parfait(パフェパフェ)」など新しいサービスもぞくぞくと展開。2020年9月7日、総額3.5億円を資金調達。コーヒー豆オンラインショップ『Cottea』をM&Aにより事業買収した。
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目次
・キーワードは「探求」
・みんなを元気づける「夜パフェ」を
・フルリモートでの商品開発
・新店舗オープン、D2Cを加速させていく
まずカンカクとして展開する店舗としてカフェ業態、とくにコーヒーに力を入れていますが、背景から教えてください。
私達、カンカクのなかでは「探究する」というキーワードがよく出てきます。とくにコーヒーは、体験すると、自分の好きな香り、味をより深堀りしたくなるんですよね。情報を得て、知る楽しさがある。探求しやすいですよね。
自分にあったものを探す、知っていく。その楽しさって嗜好品ならではだと思います。
たとえば、ある映画を観て「いいな」と思ったら、同じ監督の別の作品を観て「あ、自分はこういうジャンルが好きだ」と知るのも同じですよね。
私はそれが好きだし、 インターネットと親和性が高い。2店舗目の『TAILORED CAFE(テイラードカフェ)』の「テイラー」も仕立てるを意味する言葉です。あなたに合ったものを知っていただいて、体験して、提供をしていきたい。そういった思いが込められています。
夜パフェ「parfait✕parfait(パフェパフェ)」もオンラインで販売していく新しい取り組みですよね。なぜ「パフェ」だったのでしょうか?
パフェの「ハレ感」「非日常感」を届けられたらいいな、と考えました。昔ながらの喫茶店にあるパフェも、日常のなかの「ハレ」から生まれたような気がしていて。
今では当たり前になりましたが、さらにここ数年、華やかなパフェも注目されるようになってきましたよね。一流のケーキ屋さん、パテシェさんが「表現」としてつくることも多く、高いものだと2000円~3000円くらい。あらためて「ご褒美スイーツ」として脚光を浴びています。時代的にもピッタリだと思い、販売に至りました。
コロナになる前から、パフェの販売は計画していたのでしょうか?
本当は2020年の秋から冬にかけ、D2Cとして焼き菓子を販売していく予定でした。その矢先にコロナになり、夏になる前にすぐにでも出そうと、秋冬に向けた焼き菓子商品の構想は一旦白紙にし、ゼロからつくることに。
4月ごろからプロジェクトとしては始まったのですが、ちょうど外出自粛期間中で多くの方々にとって精神的にもつらい時期で。何か勇気づけたり、生活に変化が生まれたりするものを届けられないか。ぼくらとして何ができるだろうと話をしていきました。
食べる=生活の中にある小さいエンターテイメントと考えた時、「家に届いて箱を開けた時の驚き、感動は何だろう」「オンライン飲み会で一緒に食べて一体感が生まれるものがいい」など、オンラインでディスカッションを重ねていきました。
その中で「オンライン飲み会って、終わりが見えないよね」という話が出た。「〆にパフェを食べて、おいしかったね、楽しかったね、で、おしまいになったらいいかも」と、夜パフェの企画につながっていきました。
札幌にも「〆パフェ」という文化がありますよね。お酒を飲んだあと、ラーメンなどの代わりに、パフェを食べて〆る。1,000円~2,000円くらいするけど、〆パフェ専門店もたくさんあって、みんなで楽しんでいて、すごくおもしろい。それを体験していたこともあり、夜パフェを本格的につくることにしました。
食べ物の商品開発、とくにコロナ禍だと、あまりイメージが沸かないのですが…どのように商品化をしていったのでしょう?
オンラインでディスカッションしながら、カタチにしていきました。かなりプロダクト開発と共通項は多いと思います。
たとえば、アプリの設計をしながら、ユーザー体験についてエンジニア、デザイナーとディスカッションするのと同じ。つくるものが料理、相手がフードコーディネーターさんになるイメージかもしれません。
まず「お客様に体験してほしいこと」がゴールとしてある。メルペイなどの決済サービスの場合「決済にエンターテインメント性をどう持たせるか」というテーマがあり、一貫性をもって伝わっているか。曖昧なまま放置しているところがないか。お客様が迷うポイントがないか。メッセージがちゃんと伝わっているか。わかりやすさ、購入体験そのもののワクワクを落とし込んでいくわけですよね。料理でも基本は同じ。
あとは「コスト」や「制約条件」があるなか、優先順位をつけ、ベターな選択をしてリリースをする。
とくに「味」はそれぞれ感じ方が違うもの。そこはどうすり合わせていく?
たとえば、アプリのデザインにもセオリーはありますよね。「デザインとして立体的か」「キービジュアルとそれ以外にメリハリがついているか」「美しい構図か」など。
料理にも似た部分はあって。パフェだと「味」の複雑さ、スプーンで掘っていく「楽しさ」があります。ということは、それぞれの層が、それぞれ違う味、食感を主張しながら、トータルで食べてもおいしいか。まずはみんなで、こういった「パフェにとって大切なこと」の認識を揃えていきました。
あとはそこを軸に「中間層のコンポートはもっと酸味があったほうがいい」とか「クランチの主張を強くしよう」とか「食感としてアクセントがほしいから、この層とこの層を逆にしよう」とか…本当に細かいところの話し合い。
試食はどうしたのでしょうか?
試作品をつくり、メンバーそれぞれの家に配送してもらって、実際に食べてみるということの繰り返しですね。じつは「配送」のテストも兼ねていて、どういった梱包なら崩れないか、箱を開けたときに驚きや感動があるか、といった点も検討していきました。
試食に関しては、スプレッドシートに「味」「食感」「見栄え」など細かな項目をつくり、それぞれがレビューを書き込み、まとめながらディスカッションをする。まさにプロダクト開発と同じですよね。
最後にこれからの展望について教えてください
まず直近だと、店舗をまだまだ増やしていきます。しばらくは路面店、商業施設など、大小問わず、さまざまなパターンで出店したいと考えています。そこで私達もラーニングしていくのと同時に、ブランドとしての世界観や「アプリが使えて、共通の定額プランを持っている」という点をもっと多くの方々に知っていただきたいですね。店舗が増えれば増えるほど、お客様にとって利便性が向上していくという仕組みです。
また、10月下旬からは『KITASANDO COFFEE』で、バリスタの手元の動きをトレースしてコーヒーを淹れてくれるマシンも導入しています。これによって実現できるようになったのが、ハンドドリップのベストなスペシャルティコーヒーをスタッフ誰でも提供できるということ。国内有数の焙煎所さんから、素晴らしいコーヒー豆を仕入れているので、味わいにブレがなく常に良い状態のものを提供することで、その価値をさらに高めていければと思います。
もうひとつ、「parfait×parfait」をはじめとした、オンラインとオフラインをつないでいくような食のD2Cブランドを、2021年にかけてさらに広めていければと考えています。
そして、近い将来、私たちのCOFFEE Appとその定額プランにおいて、それぞれのブランドがつながり、よりお得に利用いただけるようにしたい。その先に、お客様から「ずっとつながり続けたい」と思ってもらえるような存在に早く成長させていきたいですね。
全2本立てでお送りいたします。
【1】飲食サービスのピンチに、インターネット的発想で挑む。カンカク 松本龍祐の視点
【2】オーダーアプリ、サブスク、最先端マシン導入…カンカク 松本龍祐がつくる、ウィズコロナ時代の「飲食」新体験
取材 / 文 = 白石勝也
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