2020.04.09
飲食業界全体で手を取り合うために。いち早く「みらい食事券」をつくった赤坂の名店wakiyaの取り組み

飲食業界全体で手を取り合うために。いち早く「みらい食事券」をつくった赤坂の名店wakiyaの取り組み

新型コロナウイルス感染拡大を受け、飲食店が営業自粛へ。この危機に、赤坂の名店「wakiya」の支配人 萩原清登さんがスタートさせた「みらい食事券」が静かな広がりを見せている。みらい食事券は「1年間有効の食事券」を販売するというもの。そこに込められた思いを伺った。

店を、そして飲食全体を救うための「#みらい食事券」

「この危機的状況を、飲食業界全体で乗り越えたい」

こう語ってくれたのは、赤坂にある中華の名店「wakiya」の総支配人 萩原清登さん。

いつも予約でいっぱいの人気店「wakiya」だが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて客足は減少。

「このままいくと、お店が潰れるかもしれない」

現場に立つなかで、危機感を抱いた萩原さんは3月26日、自身のTwitterアカウントで新たな取り組みをはじめた。

1年間有効の食事券を購入できる「みらい食事券」。

ツイートしてまもなく、hey 光本勇介さんや田端信太郎さんなども購入。ツイートは瞬く間に広がり、わずか1日で1000万円分の食事券が完売した。目標金額に到達したため、現在は購入受付をストップしている。

「光本さんや田端さんがTwitterを見ていそうな時間帯を狙って投稿した」と萩原さん。実際に光本さん、田端さんの目に止まり、購入につながったという。

現在「みらい食事券」にとどまらず、編集者 箕輪厚介さんと一緒にランチデリバリーサービス「#ミノトゥクイーツ」をはじめたり、4月中旬にはオンライン料理教室をスタートしたり。次々にプロジェクトを仕掛けている萩原さん。彼のアクションの根底には「飲食業界みんなで生き残りたい」という強い思いがあったーー。


【プロフィール】萩原清登 wakiyaグループ総支配人 1980年生まれ。2002年法政大学卒業、株式会社Wakiya入社。Wakiyaグループ各店勤務を経て、2008年Wakiya迎賓茶樓に立ち上げに支配人として携わる。その後wakiya一笑美茶樓の支配人を務め、2012年よりグループ統括支配人を務める

みなさんがマネしやすいように。

ーまず取り組みのきっかけから教えてください。

3月の3連休のあたりからご予約のキャンセルが出はじめ、「このままいくとやばいんじゃないか」と危機感を抱いたのがきっかけでした。

連休明けの3月25日、政府から週末の外出自粛要請が出て、自粛ムードの第一波が到来。他の飲食店も次々に営業自粛していくなかで、とにかく早くなにか手を打たなければと、アイデアの糸口を探っていました。

そこで頭に思い浮かんだのが、昔とあるホテルが実施していた会員カードの取り組みです。お金の代わりになるようなカードで、10万円支払うと11万円チャージされるというもの。お客様に「お店に来てほしい」と呼びかけられない状況だからこそ、この仕組みはマッチするんじゃないかと思いました。

それに、他の飲食店にもマネしてもらいやすいと思ったんです。厳しい状況に立たされているのは、僕のお店だけじゃない。おこがましいのですが、飲食業界をほんの少しでも未来に向かっていける取り組みをできればと思ったんです。

ー 実際に、どんな反響が?

飲食店のみならず、旅館からも「マネしていいですか」とご連絡いただけました。僕の許可なくどんどんマネしていただいて大丈夫なので、これをきっかけに取り組みが広がってもらえたらうれしいです。

とはいえ、Twitterの活用方法がわからないお店もあって、「どんな投稿をしたらいいのかわからない」とご相談いただくこともあります。僕自身のできる範囲になってしまうのですが、何件かツイート内容の文面や画像についてアドバイスさせていただきました。

今後はSNS活用の支援もできればと思っています。

「やりましょう!」の2時間後にリリース

ー ツイートしてから、たった1日で目標の1000万円に突破しているのもすごいですね。このスピード感でシェアが広まり、達成できたのはなぜだったのでしょう?

今回の施策をリリースするのにあたって、心がけていたことが2つあります。

ひとつは、「スピード感」。思い立ったらすぐに実行することです。じつは今回のアイデアは、「やりましょう!」と決まってから2時間後にリリースしました。

毎日レストランのみんなでまかないを食べているのですが、そのときに僕から提案して。その場で「やろう」と決まって、夕方にはツイートしました。

アイデアはじっくり考えるよりも、思いついた瞬間の熱量を大事にしたほうが広がっていくと思うんです。特にいまの状況において、なにが成功するのか、失敗するのか誰も分からない。刻一刻と時間は過ぎていくし、状況は変わっていく。もちろんお客さんに迷惑はかからないように最善の策を模索しながら、一刻も早くアクションを起こしていくことが大切だと考えています。

もうひとつは、リリースの「タイミング」です。Twitterでどの時間帯がもっとも効果的に拡散できるのかを見極めて拡散すること。光本勇介さん、箕輪厚介さん、田端信太郎さんなどフォロワー数の多い友人たちがTwitterのタイムラインに現れる夕方の時間帯を狙って、拡散しました。実際にツイートも拾って、支援してくださったり、シェアしてくださったことによって広がっていきました。

お客さまの「お得」を考え抜く

ー 他の飲食店が同じ取り組みをする際、ポイントになるのはどんなことでしょうか?

自分たちの都合ではなく、あくまでもお客様の「お得」を徹底的に考え抜くことだと思います。購入してくれるのは、未来のお客さまです。お客さまにどんな体験を届けられたら喜んでもらえるか。たとえば、金額的なお得感もそうですし、実際に予約をしようと思ったときにできるように席数を確保しておくこともそう。

宿泊の場合であれば、5万円の宿泊券をただ値引きして2万円で売るのではお得感があまりない。ディナーと朝食付きで2万円だともっと刺さると思うんですよね。やっていることは同じでも見せ方によって「お得感」は全く変わる。

購入するお客さんの気持ちになって「お得」を考えることが大切です。

ポジティブな発信にこそ賛同が集まる

もうひとつ重要なポイントだと思うのは、前向きな言葉選びだと思います。「この状況を、みんなで乗り越えよう」と、未来に向けたメッセージにすること。

いま飲食店が営業自粛を余儀なくされていて、「苦しいので助けてください」という発信をよく見かけます。その気持ちは痛いほどわかるんです。

でも、お客様もお店にいきたくてもいけなくて我慢している。こんな状況だからこそ、「みんなで一緒に乗り越えよう」と、未来に向けた発信が希望になると思うんです。

「みらい食事券」というネーミングにも、未来に向けた願いを込めました。いつ収束するかわからないけど、いつか来たる未来にみんなで笑顔になって飲食店にきてほしいと。

こうやって新しい取り組みを仕掛けていると、「余裕なのかな?」と思われる方もいるかもしれません。でも、僕のお店も他の飲食店と同じ状況で、正直かなりきついです。お店の規模も大きく従業員もたくさんいるからこそ、個人店とはまた違う厳しさがのしかかってきています。

でも、苦しいからこそ「苦しい」という発信はしたくないなと思うんです。元ZOZOの前澤友作さんとも仲良くさせていただいているのですが、「ネガティブな発信は誰の心にも刺さらないよね」とアドバイスいただいたことがずっと残っていて。

つらくてしんどいときだからこそ、楽しくみせていく。ただでさえ毎日暗いニュースが多いくて、調子も悪くなってしまうから、むしろ開き直って明るくい発信を心がけていきたいと思っています。

飲食店を1店舗も潰したくない。

ー最後に、飲食業界に限らず、なにか仕掛けていこうとしている読者にメッセージをお願いします。

まず飲食業界に携わる方々には、一緒に諦めずに頑張っていきましょうと伝えたいです。

日本の食文化は国の財産だと思うんです。飲食業界の仕事は世界に誇るべきもの。それをここで終わらせてはいけないという使命感があります。みんなで生き残りたい、ただその気持ちだけです。僕自身は、日本全国にある飲食店を1店舗も潰したくないと思っています。

もし他の業界で変革したい人とか、世の中を良くしたい、改善したいと思っている人は一刻も早くアクションに移してほしいですね。やれば変わるし、自分も成長する。ネガティブになって、人の動きを待っていては遅いと思います。

自分がこの状況を打破していくガソリンなんだと思って、実践者として動いていくこと。年齢とか立場関係なく、どんどんチャレンジしてもらいたいです。


取材 / 文 = 野村愛


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