2020.08.28
リリースまで6日、LINE『新型コロナ対策のための全国調査』の舞台裏

リリースまで6日、LINE『新型コロナ対策のための全国調査』の舞台裏

厚生労働省と協力し、LINEが実施する『新型コロナ対策のための全国調査』。2020年8月25日現在、実施された調査は5回。スピーディー且つ正確な全国調査が求められる機能実装、任されたのはPM歴1年半のLINE 岡優実さん(26歳)だった。彼女が担った役割、そしてリリースの舞台裏とは?

2020年3月25日、プロジェクト始動

LINEでの『新型コロナ対策のための全国調査』ですが、1回目は2020年3月31日~4月1日の実施でした。プロジェクトはいつからスタートしたのでしょうか?

今でもはっきり覚えていて、2020年3月25日ですね。前日に上司から連絡があり、「コロナ対策のための全国調査をLINEでやることになったので、そのPMをお願いしたい」と話がありました。

その時は、プロジェクトのメンバーも、具体的にどう進めていくのかも、何も決まっていなくて。

25日の午前中、役員メンバーでミーティングがあり、傍聴することが最初の仕事でした。会話の中から「何かしらキャッチアップしなければ」という気持ちがすごい強かったので、一言一句、ひたすらメモをとりまくったことを覚えています。

+++「PRから開発まで広範囲のメンバーと関わり、ゼロからプロダクトを立ち上げるのは初だった」という岡さん。もともとLINE公式アカウント、いわゆるBtoBのプロダクトを担当。とくにアンケート系の機能リリースの経験があり、プロジェクトにアサインされた。当時の心境について「衝撃でした。私でいいの?みたいな気持ち。何が起こるかわからず、怖かった記憶もあり、今でもはっきりと覚えています」と語る。

締切は無い。ただし、一刻も早くリリースを。

そこからどのようにプロダクトは開発されていったのでしょうか?

まず25日の午前中、役員ミーティングのあと上長から詳細の情報を共有してもらい、「まずは、ここからやろうか」と上司と一緒に「2つ」だけ決めたんです。

・定例ミーティングを設定する
・午前中のミーティング内容を元にTodolistを洗い出して関係者に発信する

正直、具体的な内容を固める時間は全くありませんでした。とりあえず突き進むしかない。やってみて、足りないところがあったら、サポートしてもらう体制でした。

もともとリリース日さえ決まっていなくて。唯一決まっていたのは「緊急事態宣言が出る前に第1回を実施する」ということでした。当時、まさに緊急事態宣言が出るか出ないか、瀬戸際(※4月7日に『緊急事態宣言』が出された)だったので、一刻も早いリリースが求められていました。「1週間以内に」と目安は決めていた気がします。

LINE側で行政との窓口担当を担当していた「公共政策室(*)」の方々が行政側の「クラスター班」等とコミュニケーションをとっていたので情報はもらいつつ、プロダクトは何がなんでも早くリリースする。「リリース日は決まっていないが一刻も早く」というプロダクトをリリースする機会ってそうそうないので、かなり手探りでした。

*公共政策室…政府・官公庁等との折衝・渉外業務を担当する専任部署。本件においては、厚生労働省との窓口となり、協定や規約等の整理、アンケート調査票の整理などを担当した。

R&Rを把握し、浸透させる

プロジェクトを進める上で、岡さんが心がけたことは?

まずはR&R(Role and Responsibility:役割と責任)の把握が必要だと思いました。ただ、これだけ関係者の多いプロジェクトでPMを務めるのは初めて。やるべきことは何か、どう進めるか、正直、さっぱりわかりませんでした。

すでに、チャットルームが1つだけ立ち上がっている状態だったので、はじめに「やるべきことのタスクリスト」をザックリつくり、「わかる人教えてください」と投げ、タスクの洗い出しとR&Rの把握を同時にしていきました。こうした方が、立ち上がりにスピード感を持たせられるんじゃないか、と思ったんです。

+++「この一週間は岡のキャパを空けておけ」とまわりの協力を得てプロジェクトに参加した岡さん。とくに未読のチャットルームを無くす・スピード優先の短文コミュニケーション・情報のサマライズを徹底。「私が持っている情報はコレ。認識としてあってますか?など投げかけていました。私を起点にメンバーの認識が揃っていくといいなと」

「とりあえず岡に聞けばわかる」を目指して

とくに大変だったところでいうと?

正直ずっと大変で、心折れそうだったのですが(笑)とくに、プロジェクトがスタートして2日目、私に質問が集中して「やばい....パンクするかも....」となってました。

プロジェクトメンバーたちは、私以外、ほぼ役職者で超多忙。だからこそ、誰よりも全体を把握して「とりあえず岡に聞けばわかる」と思ってもらえるようには意識していました。実際、みんなに質問を気軽にしてもらえたのは良かったですね。

ただ、私が全て把握し、回しきるのは無理だと最初からわかっていて。とにかく自分がボトルネックにはならないようにしようと決めていました。

たとえば、開発チームで完結できるものは私抜きでいい。開発知識も経験もないですし、私が入ることで別に何も解決しない。

私はそこではなく、関係者・確認のフローが多く、ブーストかけないと間に合わないイシューに積極的に入っていきました。たとえば、調査票の項目変更などは、公共政策室やクラスター班の方々とコミュニケーションをとる必要があるので、関係者の多いイシューから取り組んでいくようにしました。

緊迫したプロジェクトこそ「ニコニコ」を。

緊迫したプロジェクトで関わる人たちも多い。殺伐とした雰囲気になることも?

そうですね、殺伐とまでいかないですが、スピードが重要で、調整や交渉も多く、議論を重ねないと進まない場面も多くありました。

ただ、そういった時にこそ「嫌な感じを出さない」は意識していました。聞きにくい雰囲気は絶対につくりたくなかったんですよね。意見を尊重する、進んだことに対してお礼を言う、ニコニコとごきげんでいる…当たり前のことは気をつけました。

私自身、人に聞くことに対してけっこう心理的なハードルを感じるタイプなんですよね。もっと自分で調べなくていいのかな…とか、いろいろ勘繰ってなかなか質問できない。でも、そういった細かい迷いもロスタイムになるので、可能な限り省きたかったんです。

そこには岡さんに対する信頼もあり、まわりは質問したり、頼りやすかった?

どうなんでしょうか…正直そこはあまりなかったかもしれないですね。信頼されるかどうか、正直「実績」ありきですよね。それはあとからついて来るのかなって思っていました。

+++「プロジェクトの成果、回答数など数字の共有もこまめに行ないました。そこからLINEのトークルームに回答者数を通知するシステムも開発の人がつくってくれて。やったね!うれしい!ミーティング前にいっかいみんなで喜びましょう!とかやっていましたね。みんなでちゃんと喜べる空気、文化も大切ですよね」と岡さん。

スピードは大切だけど、「伝わること」はもっと大切

LINE上で行うアンケート、プロダクトとして重視したポイントがあれば教えて下さい。

伝わりやすさはプロダクトとしてこだわってますね。アンケート対象が、全国民なので、どんな人でもアンケートをやる意義や項目内容を理解してもらえるかどうか。

もともといただいていた調査項目って「あなたの2月頃の生活の人と接する度合いを100とした時」など前提条件が非常に多く、理解しづらいものだったんです。パッと読んで理解できるように、できるだけやさしい言葉を噛み砕いて、厚生労働省に意見を伝えながら、ひとつひとつ表現を伝わりやすいものに変えていきました。

また、アンケート項目も必要なものだけに回答すれば完結できるように設計を工夫しました。

具体的にはどういったUIを検討したのでしょうか?

はじめはメッセージをLINEの「トークルーム」に送り、全員共通のアンケートフォームに遷移する導線で進めていたのですが、見直しました。

そもそもトーク上のボタンをまずタップしないとアンケートに進めない。一番大事なことは「体調がいいのか、わるいのか」なので、「トークルーム」上で聞けたほうが回答数が集まりやすい。

ユーザーとしてもよくわからないアンケートフォームに遷移させられるより「トークルーム」で完結できたほうが負荷が少ないですよね。そこから分岐させたら、それぞれに出すアンケートフォームの内容も変えられる。なので、「体調ごと」に必要なアンケート項目だけを聞く仕様につながりました。

また、2回、3回と続けていくなかで、改善していったポイントも多くて。「伝わりやすさ」は必ずしも「わかりやすさ」だけではないんですよね。ユーザーが受け取って「ちょっと嫌だな」と不快に思うと、伝わるものも、伝わらなくなってしまう。

たとえば、アンケートで職業を聞く項目があったのですが、一般的な職業ですが、はじめの案では項目にない業種があって。もしかしたらちょっとムッとして回答してくれない方がいたかもしれないと後から追加しました。

あとは「体調がいい」と答えているのに、細かい体調の質問されると嫌ですよね。なので、こういった部分にも配慮して、必要な項目だけにして負荷を下げるようにしています。こういった部分も反響を見てわかっていったことですね。

+++「Flex Message」の質問で分岐があり、ボイスオーバー(音声読み上げ機能)でも内容が伝わるように改善されたUI。細かい部分も実施回数を重ねるたびに改善しているという。

プロダクトを、きちんとした状態で世に送り出す

最後に、岡さんがこのプロジェクトに向き合うモチベーションとは?

「ユーザーのみなさんのため」と言えると素敵なのですが(笑)もちろん、その思いはありつつ、PMとしてのモチベーションは、多くの関係者が関わり、全員で真摯に向き合ってつくったものだからこそ、きちんとした状態で世の中に出さないといけない。そういった使命感だったと思います。

私よりも早くに初期段階からディスカッションに関わっていた人、開発メンバーたちも先に動いていて。時間を注いでつくっているプロダクトだから、誰にも文句は言わせないぞ!というつもりで頑張れたというか。駆け抜けられたのは全員が向き合って動いてくれたからなんですよね。

正直、やることは山ほどあるし、どうしよう…みたいな場面も多かったですが、振り返ると楽しかったんですよね。振り返ったときに「あれはツラかった」と笑顔で振り返れる仕事は、いい仕事ができたということ。むずかしい仕事のほうが楽しいですよね。簡単に終わっちゃう仕事のほうがつまらないなって。

私は開発ができるわけでもなく、特別な知見があるわけでもありません。ただ、いろんな人と協力して何かをつくるのはすごく楽しい。みなさんがちゃんと飛躍してもらえる環境をつくる。心地よくプロダクトに向き合ってほしい。ここはPMとしてずっと大切にしていきたいですね。

+++


文 = 白石勝也
取材 = 野村愛


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