2021.04.21
すべては日本の「プロダクトマネジメント」を良くするために。Tably 小城久美子さんの生き方

すべては日本の「プロダクトマネジメント」を良くするために。Tably 小城久美子さんの生き方

新刊『プロダクトマネジメントのすべて』を共同執筆した小城久美子さん。プロダクトマネジメントの領域で少しずつ存在感を放つ彼女だが、1年半前まではPMとして奮闘する日々を過ごしていた。取材を通じて垣間見えたのは、プロダクトマネジメントに傾ける並外れた情熱、そして何事も愚直に取り組むスタンスだった。

0 0 20 3

PMとして悩んだ日々を糧に。

プロダクトマネジメントとはなにか?
その中で、PMが果たすべき役割とはなにか?

多くのPMが向き合い、しばしば迷走するこの問いに対して、分かりやすく、丁寧に解説された一冊が2021年3月に刊行された。

その名も『プロダクトマネジメントのすべて』。

プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで

及川卓也さんとともに書籍の執筆に携わった一人が、小城久美子さんだ。「日本のプロダクトマネジメント」を少しでも良くするべく、Tablyで企業向けのプロダクトマネジメント研修の講師やアドバイザリーをしている。

その他、いままで体系化されていなかったプロダクトマネジメントの領域についてnoteでまとめて情報発信もしていて、イベント登壇にも引っ張りだこ。個人の活動として、プロダクトづくりを学びたい人のためのコミュニティづくりにもチカラを注ぐ。

+++プロダクトづくりに携わる人のためのSlackコミュニティ「#プロダクト筋トレ」。コミュニティを立ち上げた理由を、小城さんは次のように語った。「エンジニアコミュニティは多くあるのに、WhatやWhyを考える方が気軽にやり取りできる場が少ないと感じていました。また、その課題感は私だけのものではなく、「プロダクトづくりについて相談できる場が欲しい」という声を何名かから頂いたため、Slackという形で始めました」。

プロダクトマネジメントの領域で少しずつ存在感を発揮しつつある彼女。ほんの1年半前まではいちPMとして奮闘する日々を過ごしていたという。

「PMの仕事はとてもやりがいがある一方、壁にぶつかることもありました。当時はプロダクトマネジメントについて体系化されている書籍も少なく、何をどうすれば良いプロダクトがつくれるのか...迷子になってしまうこともありました」

そして、いちPMから、PMを支援する役割へ。いかにして彼女は新たな道を切り拓いていったのだろう。

取材を通じて垣間見えたのは、彼女の並々ならぬプロダクトマネジメントに対する思いと、ひたむきにできることを見つけていくスタンスだったー。

+++【プロフィール】小城久美子 (こしろ・くみこ) ソフトウェアエンジニア出身のプロダクトマネージャー。ミクシィ社、LINE社でソフトウェアエンジニア、スクラムマスターとして従事したのち、BtoCプロダクトを中心にいくつかの新規事業にプロダクトマネージャーとして携わる。そこでの学びを活かし、Tably社にてプロダクトマネジメント研修の講師、登壇などを実施。

「プロダクトマネジメント」の方法論と、徹底的に向き合いたかった

小城さんはもともとPMをされていたと伺いました。いちプレイヤーから、PMを支援するアドバイザーにどうしてジョブチェンジされたのでしょう?

もともとずっとプロダクトをつくるのが好きだったので、現在のようなPMに向けてアドバイザリーをするとは、まったく考えていませんでした。現場でプロダクトを作ることが自分の仕事だし、やりたいことだと思っていたんです。

BtoCプロダクトを中心にいくつか新規事業の立ち上げに携わっていたんですが、何度か壁にぶつかり、その根本原因は同じではないかと感じていました。

なぜ失敗してしまったのか、次に同じ過ちをしないためにはどうするといいのか。社内で企画を通すことばかり注力してユーザーに向き合うことができていないという課題に対して、どのように働きかけたらいいのか。

勉強会に参加したり、本を読み漁ったりもしましたが、当時は「プロダクトマネジメント」について体系化された書籍も少なく、次にもっと良いプロダクトをつくるためにはどうすればよいのかが分からなくて。何か得た知見があったとしても日々忙しくしているチームに取り込むハードルも高く...正直迷子になっていました。

悩みまくっている私を見兼ねた当時のプロダクトの事業部長から、及川卓也さんをご紹介していただきました。事業部長と及川さんはGoogle時代の元同僚だったとのことで、「悩んでいる部下の話を聞いてほしい」と声をかけてくれました。

いま思えば本当に自分が恥ずかしいのですが、気づいたら及川さんにものすごい勢いで質問しまくっていたみたいで...会食の席でガチの悩み相談にのっていただいていました。及川さんにとっては、きっとあまり楽しくない食事会だったのではないかと...(笑)

それだけ「プロダクトマネジメント」と真剣に向き合いたかったんですね。

そうですね。PMがどんな知識を身に着けなければいけないのか。PMとPJMのマインドセットの違いはなにか。意志決定はどのようにすればいいのか。当時、課題意識のあったところを相談しまくっていましたね。そのときに及川さんから、たくさんアドバイスをいただいて、背中を押していただいたのを覚えています。

しばらくして、及川さんのもとでもっとプロダクトマネジメントの方法論と向き合う時間を持ちたいと思い、最初は副業で携わらせていただいていました。携わらせていただくなかで、たくさんの学びがあり、一度プロダクト開発をいったんお休みして徹底的にプロダクトマネジメントの方法論と向き合おうと思い、2020年2月から社員として働いています。

「私にアドバイザーなんて...。」

Tablyでは、主に企業向けのプロダクトマネジメント研修の講師をしたり、アドバイザリーをしたりされていると伺っています。なかなか稀有な存在だと思うのですが、実際にお仕事をされていて、悩む部分はありましたか?

最初は、「私ごときが人様にプロダクトマネジメントを教えるだなんて...」と恐れ多い気持ちもありました。

自分が研修の講師として、人様に、それも大手企業様や今をときめくスタートアップの皆様に、プロダクトマネジメントについて一体なにをお伝えできるのだろうか...と。

その分、少しでもお役に立てるようにアドバイザリーでは自分のすべてを出し切ります。これまで多くの失敗をしてきたからこそ、生々しい経験を元に伝えられることもあります。

インプットにはより一層時間をかけたので、プロダクトマネジメント情報の引き出しは随分多くなりましたし、今は第三者だからこそ気づいたり、背中を押したりできることもあると思うようになりました。

また、私のやっていることは「プロダクトマネジメントを教えること」だけではなく、「普段忙しいPMが、なかなか時間をとって向き合えないプロダクトの本質や手法について考える時間」をつくっているんだと捉えるようにしていて。教科書的な知識を伝える講師の帽子とファシリテーターの帽子を使い分けています。

仕事をする中で、小城さん自身にとってはどんな学びがありましたか?

本当に日々学びだらけなのでなんですけど、たとえば、研修でのワークの成果物に対して、及川さんがレビューしているのを横で聞いてるのはめちゃくちゃ勉強になります。

及川さんは視野が広すぎて、1年半以上一緒にお仕事をさせていただいていますが、未だにどこからボールを投げてくるのか全く予測がつきません。そして、私も及川さんと違うボールを投げることを意識したり、及川さんからの無茶振りに鍛えられたりして、投げることができる球種が増えた気がします。

プロダクトマネジメントを優しく言語化していく。

小城さんのnoteや本を見ていると、とても分かりやすく言語化されていて、PMではない私でも理解が進みました。プロダクトマネジメントについて言語化していく上で、大事にされていることはなにかありますか?

褒めていただき、ありがとうございます。とても嬉しいです!

私自身、試行錯誤しながら書いているのですが、ひとつ自分のなかで心がけているのは、書籍もnoteもプロダクトとして向き合うことです。

ターゲットユーザーとなる「読み手」は誰か。
その人は、どんなペイン・ゲインを抱えているのか。
どんな状態にできると幸せになるのか。
そのためにはどんな内容を、どう伝えるといいのか。
こんなふうに文章に落とし込むようにしてています。

たとえばnoteだと、今振り返ると最初は自分の書きたいことを書いていたなと思います。でも、全然読まれなかったんですよね。それから、読者の「知りたい」とか「読みたい」と思ってもらえるものを書こうと思っています。

ペルソナにしているのは、だいたい3年前の自分です。PMとして悩んでいた自分がどんなことに悩み、どんな失敗をしていたのか、その悩みや失敗と向き合いどのような視点を持っていたら解決できたのかを日々考えています。その自分に届けたい考えがまとまったときにnoteを書いています。ペルソナが身近な存在なので、内容が具体的にかけたり、共感してもらいやすいのかもしれません。

すべては、日本の「プロダクトマネジメント」を良くするために。

最後に、今後の展望、これからやっていきたいことについて伺いたいです!

今まさにチカラを入れて取り組んでいることが2つあります。ひとつは「プロダクトマネジメントクライテリア」、もうひとつは「コミュニティ」です。

一つ目の「プロダクトマネジメントクライテリア」は、簡単にいうとプロダクトをつくるチームのためのチェックリストです。

+++

プロダクトマネジメントの領域は、いままでPMを主語に語られることが多かったと思うんです。PMの役割だったり、もとめられるスキルだったり。もちろんPMがプロダクトを成功へ導くのは重要なことですが、やっぱりプロダクトをつくるのはPMを含めた「チーム」だと捉えています。

また、PMに求められる領域は、ビジネス、技術、UXの3つの交叉部分だといわれていますが、たったひとりでは全てを深くまでカバーしきれません。なので、いかに人を巻き込み、意志決定していくかがプロダクトの成功の鍵を握ります。PMだけでなく、「プロダクトチーム」としてプロダクトを良くしていくための方法論を体系化したり、情報発信をしていきたいです。

もうひとつ、「コミュニティ」に関しては、昨年の12月にプロダクトづくりに携わる人のための「プロダクト筋トレ」というコミュニティをつくりました。

Slackを開設して、半年弱ですが、すでに600名を超える方にご参加いただいています。PMだけでなく、BizDevの方だったり、UXデザイナーだったり、多種多様な職種の方が集まっています。

このコミュニティでは、「プロダクトづくりに関する知識を広げ、深め、身につける」ことを目的にしていて、気になった記事のシェアをしたり、輪読会をしたり、さまざまな取り組みをしています。

プロダクトを作る上で必要な知識は、ひとりでプロダクトライフサイクルのすべてを経験することも難しいので、自分の経験だけではなく他者の異なるプロダクトからこそ、お互いに学び合えることがたくさんあります。より良いプロダクトをつくるために、切磋琢磨できるような場にしていきたいです。

いま自分がプロダクトをつくることから離れているからこそ、プロダクトづくりに日々向き合われているみなさんに対して少しでも役に立てることがしたいなとおもっています。すべては日本のプロダクトマネジメントを良くするために、できることをたくさんしていきたいと思っております。

(おわり)


小城久美子さんが共同執筆した書籍『プロダクトマネジメントのすべて』はこちら!

プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで



取材 / 文 = 野村愛


関連記事

特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから