2023.04.27
資生堂からユーグレナ 執行役員に。工藤萌が目指す、商品が売れるほど「社会が良くなる」事業への挑戦

資生堂からユーグレナ 執行役員に。工藤萌が目指す、商品が売れるほど「社会が良くなる」事業への挑戦

栄養豊富な藻類「石垣島ユーグレナ」で社会課題解決を。サステナビリティを軸とした多様な事業で注目されるユーグレナ社。その執行役員として担うのが工藤萌さんだ。前職、資生堂でキャリアを築いてきた彼女だが、なぜ同社を選んだのか。そこにあったのは、商品が売れるほど「社会が良くなる」事業への挑戦だった。

0 0 0 3

 ユーグレナ社について
・2005年、世界初の微細藻類ユーグレナの食用屋外大量培養技術の確立に成功。
・「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」をユーグレナ・フィロソフィーと定義し、事業を展開。
・微細藻類ユーグレナ、クロレラなどを活用した食品、化粧品等の開発・販売のほか、バイオ燃料の製造開発、遺伝子解析サービスの提供を行う。
・2014年よりバングラデシュの子どもたちに豊富な栄養素を持つユーグレナ入りクッキーを届ける「ユーグレナGENKIプログラム」を行っている。2022年12月には、ユーグレナクッキーの累計配布数が1,500万食を突破。
・2022年11月、ユーグレナ社の国産SAF「サステオ」が政府専用機に給油。本邦の政府専用機にSAFが使用されるのは今回が初。カーボンニュートラル社会の実現に寄与し得る燃料として注目を集めている。
・2022年12月、マレーシアでのバイオ燃料製造プラント建設・運営プロジェクトの共同検討を発表し大きな話題に。

根底にあるのは「市場構造の歪み」への憤り

ユーグレナ社のヘルスケア事業の責任者、そして、執行役員として全社にまたがるブランド戦略を担う工藤萌さん。そもそも、彼女を突き動かす原動力とは。

少し大きい話ではあるのですが、ヘルスケア市場の「構造の歪み」に対し、個人的にちょっと怒っていて(笑)そこは原動力になっている気がします。

超高齢化社会の日本ですが、この20年くらい「平均寿命」と「健康寿命」のギャップが少ししか埋まっていないんですよね。そのギャップは女性だと約9年、男性だと約12年*と言われていて、極端にいえば、車いす生活や寝たきりの期間もそのギャップに含まれます。約10年も長く「日常生活が制限される不健康な期間」を過ごさなければならないわけです。

(*)参照『平均寿命と健康寿命』e-ヘルスネット厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-002.html

なぜ、ギャップが埋まらないのか。約1.3兆円もあるとされる健康食品・サプリメント市場の中*で、あまり「健康寿命の延伸」にアプローチしてこなかったせいとも言えます。市場全体で、どうしても悪いところが出てきたら治す「対症療法」に重きが置かれていると思っています。対症療法のほうが「治った」「治っていない」がわかりやすいですし、儲かる仕組みになっている。本来なら悪くなったら治すのではなく、そもそも病気にならないようにする「予防」や「原因」に重きを置くべき。即効性が見えづらいが故にビジネスになりづらい領域ですが、私は諦めたくない。「石垣島ユーグレナ」が持つポテンシャルやユーグレナ社のテクノロジーがあればそこに大きく貢献していけると考え、ヘルスケア事業に取り組んでいます。

(*)参照『健食サプリ・ヘルスケアフーズレポート2022』
https://www.intage.co.jp/news_events/news/2022/20221212.html

+++
工藤萌さん(執行役員 ユーグレナヘルスケアカンパニーCo-カンパニー長)ユーグレナ社では、2020年にヘルスケア関連部署や子会社事業を統合。ヘルスケア事業の一体的な運用が行える社内カンパニー制度を採用した。カンパニー長がスピーディーな意思決定を行うことで事業推進の速度、強度を高めていく。工藤さんは2022年よりヘルスケアカンパニー長のうちの一人を担っている。

共通人格「ユーグレナさん」ならどうするか?

資生堂時代からマーケティング/ブランド戦略分野でのキャリアを築いてきた工藤さん。ユーグレナ社ではどういった役割を担っているのか。2022年に取り組んだという、マスターブランド戦略について伺った。

この取り組みでいうと、出発点は「ユーグレナ社のファン」と「ヘルスケア商品のファン」をどう見つめるか?というものでした。特に会社としてはバイオ燃料関連のニュースについて多く取り上げられるようになり、認知度が上がっているものの、ヘルスケア商品については知られていない。ここはデータからも明らかでした。

データはもちろん、お客様との会話から、ユーグレナ社への期待は「テクノロジーによるサステナビリティな取り組み・課題解決」だとわかったんです。既存の延長ではないベンチャーマインドによるチャレンジを期待されている。それであれば「人格」として中核に置き、ヘルスケアも同一に見てもらえるようにしていこうと。

たとえば、「この会社が出すヘルスケア商品なら手にとってみたい」という認知を得ることができれば、マーケティング的にもプラス。そう考えた時に中心となったのが、各事業でバラバラの「人格」=マルチブランドで展開するのではなく、「同じ人」=マスターブランドにしてファンになってもらう、いわゆるマスターブランド戦略でした。私たちはその人格を「ユーグレナさん」と呼んでいるのですが、あらゆる事業にまとわせていく。「それはユーグレナさんがやるべき仕事だろうか」「ユーグレナさんらしいね」こういった共通言語化の浸透を図っていきました。それまで部分最適化されてしまっていたので、全体最適を目指して動きだしたのが2022年だったと思います。

+++
ユーグレナ社の祖業であるヘルスケア事業。その主力なっている食品ブランド「からだにユーグレナ

好きでいてくれるお客様を第一に。関係人口を増やしていく

先のマスターブランド戦略を踏まえ、具体的にはどういったことを行なってきたのか。2022年にスタートした取り組みについても伺うことができた。

2022年は、「共に旅を楽しむ」というコンセプトで「ユーグレナ・エアポート」というファンコミュニティを立ち上げました。私たちが日々何を考え、何にチャレンジしているのかをプロセスを含めて公開しています。特に、商品や会社のことを好きでいてくださるロイヤル顧客様との対話を大切にしていければと始めた取り組みです。

じつは、それまでテスト運用していたFacebookグループのなかで「バイオ燃料で飛行機が飛んだことを記念して、『からだにユーグレナ』のパウダーを使って“飛行機クッキー”を焼きました」と画像付きで投稿してくださったお客様がいたんですよ。このことがすごく嬉しくて、本格的にファンコミュニティ化していくことにしました。

+++
ユーグレナが掲げる「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」に共感してくれる人、一緒に目指す人を「ユーグリー」と定義し、誰もが旅を共にする「クルー」となれるファンコミュニティとして立ち上がった「ユーグレナ・エアポート」。「立場は違うけど、志が同じ仲間が増えると社会変革を一緒に起こせるチームになれるはず。そのためには「What」ではなく「Why」をちゃんと伝えていきたい。もっと知ってもらう、そしてアクションが生まれていく基地として捉えています」

実際、このコミュニティ運営による良い循環も生まれていると工藤さんは語る。

そもそも、ユーグレナ社のヘルスケア商品は、非常にリピート率が高いのですが、データから「会社全体の取り組みへの共感度が高いと、ヘルスケア商品のリピート率も高い」とわかったことも、取り組みの後押しになりました。実際、お客様との対話が増え、商品の改善点も理解しやすくなりました。さらにお一人あたりのご購入金額も上がり、ビジネスの成長ドライバーにもなっています。お客様も喜んでくださるし、売上が伸びるほどユーグレナ社が目指す「Sustainability First」に近づく。これも「ユーグレナさん」という人格があるからこそできていることだと思います。

 ヘルスケア商品を購入いただく時、当然、ご自身の健康・カラダが一番の関心事ではあります。ただ、私たちがつくったバイオ燃料で飛行機が飛んだことを一緒に喜んでくださる方々は、サステナブルな社会を作っていく「仲間」としてタッグを組んでいける。共感からつながり、関係人口を増やしていく。そのためにまずはロイヤル顧客様を第一にしていく。そしてファンがファンを呼ぶ状態にしていきたい。「好き」という熱意が染み出せるようにしていきたい。それがこれからの挑戦ですね。

+++
「私たちは会社のフィロソフィーとして「Sustainability First(サステナビリティ ・ファースト)」を掲げているので、あらゆるビジネスが社会課題の解決に立脚しています」と語ってくれた工藤さん。「一方で、それぞれの事業で何を成し遂げたいのか。どう成し遂げられるか。それが「Sustainability First」にどうつながっているのか。まだまだお客様の便益にまで落としこんで伝えきれていない。さらに広く知っていただけるよう、取り組んでいかなければと考えています」

「Sustainability First」を、広く世の中へ

 マーケティングやブランド戦略のバックグラウンドを活かし、組織風土づくりまで含めて活躍している工藤さん。彼女が考える「ブランド」とは――。

変な言い方かもしれないですが、ブランドは、自分たちが大切にしたい想いや魂のこもった「精霊たち」を世の中に放っていく感覚なんですよね。その結果、購買行動につながり、価値観に気づいてもらったり、共感してもらったりする。全ての人が「便益」以上の価値に気づいてくれるわけではないですが、一人でも気づいてくれたらいいなと思っています。

仲間一人ひとり、ホームページ、メディアに取り上げられるニュース、商品のパッケージ…全てが「精霊たち」、ブランドなのだと思います。

ただ、いきなり価値観や考え方は伝わらないですし、広まらないですよね。やはり大切なのは、お客様にとって便益があること。それをいかに伝えていけるか。かなり高い意識を持った方は別ですが、「サステナブルだから買います」という方はそれほど多くないはず。特にヘルスケア商品の場合、多くはnice to have(なくてもよいが、あると良い)なものだと言えます。なので「おいしい」「カラダにいい」など、そのカテゴリーにおけるコアバリューをしっかりと満たしていく。高い品質のものを手に取っていただいた結果「気づいたらサステナブルな社会が作れていた」というのが、直近では目指していくやり方だと思っています。ですので、本質はお客様からのユーグレナ社に対する期待にちゃんと応えられるよう、実力も伴わせていくこと。その便益を知ってもらった上で手にとってもらい、あとは「精霊たち」が想いまで運んでいってくれる。それがブランドにできることなのだと思います。

▼第二弾記事はこちら
資生堂出身のブランド責任者が語る「ブレイクスルー」の瞬間。自分の「限界」が教えてくれたこと


取材 / 文 = 白石勝也


特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから