2024.01.09
微生物を住まわせた「炭」で地球を救え。バイオベンチャー「TOWING」人事責任者に聞く志

微生物を住まわせた「炭」で地球を救え。バイオベンチャー「TOWING」人事責任者に聞く志

農地・畑の土壌づくりに革新を――土壌微生物を「炭」に付与し、培養する独自の技術によって、良質な土壌づくりを約1ヶ月に短縮。カーボンクレジットを創出する次世代バイオ炭(たん)製品の研究・開発・販売を行うのが、ディープテックベンチャー「TOWING」だ。彼らが挑む社会課題とは。CHRO兼広報責任者、藤森華英さんに伺った。

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複数の微生物を住まわせる「炭」で地球を救う

はじめにTOWING社の事業内容・ソリューションについて伺ってもよろしいでしょうか。

わかりやすいところでいくと、炭の小さな穴(多孔体)に特定の微生物群を住まわせた、独自のバイオ炭(*)製品を研究、開発しているディープテックベンチャーです。既に「宙炭(そらたん)」という名称で商品を販売しており、日本全国30都道府県での実証実験を経て、2024年には47都道府県へと展開する予定です。さらにアメリカ、ブラジルを中心に海外進出も計画しています。

(*)バイオ炭・・・木炭や竹炭といった生物資源を材料とした炭化物のこと。「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超えの温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」と具体的には定義される。土壌に施用することで、その炭素を土壌に閉じ込め(炭素貯留)、大気中への放出を減らすことが可能とする。(参照)経済産業省 中部経済産業局 https://www.chubu.meti.go.jp/d34j-credit/platform/column/20211021column.pdf

バイオ炭のなかでも「宙炭」の独自性とは?

TOWINGとして、土壌微生物を培養する独自技術(高機能ソイル技術)があり、それを活かしている点です。じつは化学肥料を用いない有機農地・畑において、一番大変だと言われているのが土壌づくりなんですよね。通常3〜5年ほどかかり、有機野菜の価格が高くなる一因にもなっています。ですが高機能バイオ炭「宙炭」を使うことで、その土壌づくりが約1ヶ月に短縮される。有機肥料を分解できる土壌にできる。ここが革新的なところです。

少し補足をすると、バイオ炭に2種類以上の土壌微生物群を、淘汰し合わないよう、どちらも生かし続けたまま付与し、農地に作用させられる。じつは「日本酒」と「お酢」の研究において「微生物がどう作用しているか」を調べているなかで見つかった技術でもあります。

私たちが調べた限り、複合培養した2種類以上の土壌微生物群をバイオ炭に付与し、展開できている会社は世界的にも見当たらない。そういった意味でも日本発、私たちだから提供できているものだと自負しています。

環境などの課題に対し、どのようなインパクトを与えられるものなのでしょうか。

まず、バイオ炭という大きな括りで言えば、バイオマスの問題に大きなインパクトがあります。たとえば、鶏ふんや牛ふんなどもバイオマスですが、今でも堆肥にし、畑に撒くなどしていますよね。ただ、発酵過程で排出されるガスなどを考慮すると、バイオ炭にし散布することで、炭素貯留できるためCO2削減でき環境にいいとされています。

少し未来の話にもつながるのですが、私たちの技術で「月の模擬砂」を焼却し多孔体にすることで、バイオ炭と同じように微生物を付与し、コマツナを栽培させる実験にも成功しています。つまり、将来、人類が月で暮らしたいとなった時、月の砂で野菜がつくれるため、土や食物の輸送コストを大幅に削減できるということ。こういった研究分野にも積極的に取り組んでいます。

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名古屋大学発スタートアップとして発足したTOWINGが開発した高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」。独自のバイオ炭の前処理技術、微生物培養等に係る技術を、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発した技術と融合し、実用化へ。商品名の由来について「この独自技術が見つかった時、CEO・CTOがビジネスコンテストにて“宇宙農業ができる”というコンセプトでプロダクトとして発表したことに由来しています。2人は兄弟なのですが、子どもの頃の夢は宇宙飛行士になることでした。ビジョンも“持続可能な超循環型農業を 地球・宇宙双方で実現する”とし、宇宙まで見据えているのも私たちならではです」

有機農業のハードルを下げ、新しい「当たり前」をつくる

当然、普及すれば農業界にもインパクトは大きそうですね。

そうですね。とくに今、多くの農家さんは化学肥料の高騰が大きな課題となっていますが、「宙炭」をはじめ、私たちのソリューションでお役に立ちたいです。

普段の生活でも、スーパーで買物をしていると野菜の値上がりって実感しますよね。ただ、小売価格の上限はだいたい決まっており、農家さんたちは利益をギリギリまで減らし、もっと言えば赤字でも出荷するしかない。ぜんぜん儲からないし、続けていくのがすごく苦しいわけです。

どうすれば化学肥料に依存せずに野菜が作れるか。できるだけコストや時間をかけずに有機農業に転換していけるか。土壌づくりを効率化しつつ、収穫量を担保できるか。ここに農家さんたちと一緒に取り組んでいるところ。

全国各地で行っている「宙炭」を使用した実証実験でいえば、農作物の収穫量はほとんど変わらない、むしろアップしているケースもあります。これまでは、有機栽培をすると収量が減ってしまうことが多く、むしろいい野菜が育てられないといった「当たり前」を変えていく。

もちろん化学肥料をゼロにするということではないですし、急に有機農業に替えるのは現実的ではありません。そうではなく、化学肥料に頼らざる得ない農家さんを少しでも楽にしてあげたい、プラスを生み出していきたい。新しい選択肢、可能性を広げるチャレンジを協力者を増やしながらしていければと思っています。

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「TOWINGは、宇宙船を発射台まで牽引するときの車両の名前でもあります。新しい技術を引っ張っていく、そんな意味が込められています」と話をしてくれた藤森さん。2015年、GMOインターネットにてSEO対策を中心としたマーケ支援業務の営業職に従事。その後、複数のIT系スタートアップにてカスタマーサクセス、人事責任者を経て、人事コンサルとして独立。計30社ほどの新卒中途含めた全ポジションの採用業務に従事。2020年10月に娘を出産。シェアショッピングサービス企業を経て、2023年4月より「TOWING」CHRO兼広報責任者へ。

全国の「土」のデータも強みに

今後の事業展開についても伺わせてください。

そうですね。まずは「宙炭」を市場に広めていくところは注力ポイントの一つです。特に「微生物」って目に見えないので「本当に効果があるの?」と思われがち。そのあたりは各事業者さまと協力体制を組ませていただき、まずは小さな農地からでも実証実験を行い、実績を重ねていきます。

同時に、私たちがやりたいのは、ただ単に「宙炭」を売りたいわけではなく、農家さん、農業界の課題解決です。農地の「土」を持ち帰らせていただき、調査、研究をする。どういった栄養が足りていないか、どういった割合でバイオ炭や肥料を使うといいか、作りたい農作物に応じてデータでお渡しするなど、コンサルティングにも力を入れています。

よく「化学肥料メーカーさんと競合するのでは?」と聞かれることもありますが、むしろ良い関係にもつながると考えています。当然、バイオ炭は、全ての化学肥料を代替するものではないですし、混ぜて使うケースがほとんど。私たちが持つ全国の農地・畑における「土」や「微生物」のデータ、ノウハウは化学肥料メーカーさんにとっても有益なはず。あとはどこまで農家さんのお悩みが解決できるか。役に立てるか。ここに真摯に向き合っていければと思います。

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▼第2弾はこちら
微生物を住まわせた「炭」で地球を救え
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/1586


取材 / 文 = 白石勝也


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