バイオ燃料や「からだにユーグレナ」などのヘルスケア商品で知られるユーグレナ社。同社の執行役員を担う工藤萌さんは、前職、資生堂にてグローバルブランド等の責任者として働いてきたキャリアを持つ。彼女はこれまでの仕事で「ぶつかった壁」をどう突破してきたのか。そんな「ブレイクスルーの瞬間」に迫った。
ユーグレナ社について
・2005年、世界初の微細藻類ユーグレナの食用屋外大量培養技術の確立に成功。
・「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」をユーグレナ・フィロソフィーと定義し、事業を展開。
・微細藻類ユーグレナ、クロレラなどを活用した食品、化粧品等の開発・販売のほか、バイオ燃料の製造開発、遺伝子解析サービスの提供を行う。
・2014年よりバングラデシュの子どもたちに豊富な栄養素を持つユーグレナ入りクッキーを届ける「ユーグレナGENKIプログラム」を行っている。2022年12月には、ユーグレナクッキーの累計配布数が1,500万食を突破。
・2022年11月、ユーグレナ社の国産SAF「サステオ」が政府専用機に給油。本邦の政府専用機にSAFが使用されるのは今回が初。カーボンニュートラル社会の実現に寄与し得る燃料として注目を集めている。
・2022年12月、マレーシアでのバイオ燃料製造プラント建設・運営プロジェクトの共同検討を発表し大きな話題に。
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資生堂からユーグレナ 執行役員に。工藤萌が目指す、商品が売れるほど「社会が良くなる」事業への挑戦
「ブレイクスルーの瞬間」をテーマにした今特集。今回お話を伺ったのはユーグレナ社執行役員の工藤萌さん。前職、資生堂時代に「ぶつかった壁」とは――。
前職では、資生堂でシェアナンバーワンのコスメブランドを担当していたのですが、どんどん新ブランドや商品が競合から発売され、シェアが脅かされる、という時期を経験しました。できることは全部やりましたし、他の誰よりも考え抜いている自負もありました。いろいろなトライをしたのですが、すぐ後ろまで競合が迫ってきている、という状態でした。やはりマーケットシェアはお客様から「満足いただけた結果」でもあるので、絶対に譲れないところ。ただ、もう自分のなかに手札がなく、焦りと限界を感じていました。
その壁を突破するきっかけになったのが、たまたま参加させてもらった外部講師によるマーケティング講座です。現役で活躍されているマーケターの方が講師だったのですが、稲妻に打たれたような衝撃がありました。講座は、外資のマーケティングプロセスを解説した内容で、いわゆる「マーケティング・サイエンス」の領域まで踏み込み、再現性のある施策に落としていました。「他社はこんなところまで考えているのか」「もっと勉強しないと自分の考えるビジョンに近づけない」「お客様を喜ばせられない」と痛感しました。
そこからすぐに夜間のMBAスクールに通うようになり、あらためてマーケティングやブランド戦略について体系的に学び始めました。
ただ、当然、学ぶだけでは事態は好転しない。彼女が「ラッキーだった」と語るのは、2014年4月、資生堂の新社長として就任した魚谷雅彦氏のもとで働けたことだと振り返る。
すごく良かったと思うのが、「学び」と「実行」を両輪でスピーディーに回せたことです。そこに快感もあり、歯車が回り始めた感覚がありました。
私がラッキーだったのは、魚谷社長による改革の目玉*の一つとして担当していたブランドがあったこと。社長直轄のプロジェクトに入り、目の前で就任したばかりの魚谷社長の変革を見ることができたことは、私にとってすごく大きな経験でした。
*2014年4月、資生堂では初めて役員経験のない外部人材として魚谷雅彦氏が社長に就任。「マーケティング改革」プロジェクトを推進し、大成功へと導いた。
魚谷社長と働いたことで得られた一番の学びは「変えられないことなんてない」ということです。約140年の歴史がある大企業でも劇的に変わることができる。「変えていくべきこと」を口に出していい。行動していい。それらのことが怖くなくなり、高い次元で実践していく。この一連のプロジェクトは、私の仕事人生のターニングポイントになった気がします。
結果、担当したコスメブランドは過去最大の売上を記録。プロジェクトは成功を収め、数年後には競合も撤退していったという。
もう一つ大きな学びだったのは、「組織」もブランドの一部であるということでした。大企業に多いのが「マーケはマーケ」「営業は営業」と、いわゆる縦割りの組織になっていること。そうではなく、ブランドを育てていく上で、タッグを組まなければいけない。マーケターの仕事は営業へのパスではなく、「いい形でお客様の手元に商品を届けること」「感動してもらうこと」にあります。じつは営業とゴールは一緒なんですよね。ただ、組織のトップになると、それを忘れてしまう瞬間がある。そうならないためにも、当時「一丸プロジェクト」と呼んでいたのですが、私自身、全国の事業所を行脚しました。全国の美容部員であるみなさん、営業のみなさんを巻き込みながら「こういった伝え方をすると魅力が伝わるはず」「お客様の反応はどうだったか」「できることがあれば一緒にがんばりたい」と伝えていきました。
資生堂には1万人ほどの美容部員がいるのですが、一人でも多く、実際に会って高い熱量で伝えていく。そうすることで、組織がみるみる変わり、一体感が生まれていきました。もちろん商品も非常に良いものと自負していましたが、組織力で勝つことができたと思っています。
その後、ユーグレナ社に入社し、新たなミッションに挑んでいる工藤さん。彼女が仕事に向き合う上で大切にしてきたこととは――。
私は、自分にとって意味がないことはしたくないんです。だからやはり自分自身にしても、組織にしても「使命」が大事なのだと思います。個人としての使命で言えば、社会課題の解決、サステナブルなのですが、もう少し具体的なところでいうと、「健康寿命の延伸」を掲げています。ちなみに前職時代は「女性のエンパワーメント」でした。
人間誰しも「やりなさい」と言われてやることって限界がありますよね。ですが、自ら決めた使命ならやれるもの。もし使命がないのなら作ったらいいのかなって思います。使命があれば、自分に対しても「使命だから、つべこべ言わずに当たり前にやるべきこと」と言い聞かせることができますよね(笑)
自身の「志」に対し、現実のスキルが追いつかないといったことは無かったのだろうか。
はじめのうちは武器がなくて当然かなと思います。だからこそ、武器を増やしたくて「勉強していこう」と。そして知識だけではできるようにはならないので、あとはどれだけトライできるか。打席に立てるか。
前職担当していたブランドだと、当時、年間6~8回くらいは大規模なプロモーションしていました。他のブランドだと年間2~3回くらい。それだけ多くの「打席」に立てたし、学びと実践の掛け算ができました。本当に運が良かったと思います。ただ、何度もトライしていると心が折れそうになる瞬間は誰にでもあるもの。やはりそういった時に自分を支えてくれるのが「使命」なのだと思います。
自ら使命を掲げ、そのために仕事と向き合っていく。言葉にするのは簡単だが、実践できる人はそう多くないだろう。彼女の「使命」の源はどこにあるのだろう。
なんでしょうね…ただただ本当にもう「湧いてくる」としか言えないんですよね。世の中には幸せな人もいますが、不幸せになっている人もいる。そういった幸せじゃない状態をできるだけなくしたい。だから、私はそもそもの「幸せの総量」を増やしていきたいのだと思います。
今思い出したことでいうと、私の父は少し変わった人で。小さい頃から「お前の使命はなんだ?」と事あるごとに問われて育ってきたのも関係あるかもしれません(笑)。当時は「何を言っているんだろう」と反発していましたが、たぶんそこに原点はあると思います。
もう一つ、4年前に子どもを出産したのですが、それも自分のなかでは新しい使命感につながった気がしています。まず「こんなに大変なことを世の中のお母さんたち全員がやってきたのか!すごすぎる!」と、お母さんたち全員に感謝の気持ちが湧きあがりました。非常に感覚的ですが、いろいろな人たちに助けてもらってきたので、微力だけど、何か恩返しできないか、世の中全体の課題に対して少しでも減らせたら、より良い社会に近づけるんじゃないか、みたいな気持ちがあるんですよね。
当然、子どもたち世代にもちゃんとバトンを渡したい。自分は朽ちていくけど、誰かの栄養になっていけば…というような感覚に近いのかもしれません(笑)。世の中に対して自分には何ができるのか。ずっとマーケティングをやってきしたし、マーケティングには人の認識と行動を変える力がある。その力を何に使うか。それがやっぱり社会課題の解決だし、サステナブルな社会のために、といったことなのだと思います。
最後に伺えたのが、工藤さんの仕事に対する価値観について。彼女にとって「仕事」とはどういったものなのだろう。
仕事は人生の中でとても大きい時間を占めるので「ワークライフバランス」ではなく、ライフの中にワークがあっても違和感がないくらい楽しいものにしたいなと思っています。もちろん仕事なので大変なこともありますが、それを凌駕するぐらい楽しいこと、嬉しいこと、素敵な出会いのほうがたくさんあります。ですので、働くこと自体が大好きだし、もう「ライフ」なのだと思います。得意なことで人に喜んでもらえるのってシンプルに楽しいこと。勝手に自分で喜びを見出しているだけかもしれないですね(笑)
(おわり)
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資生堂からユーグレナ 執行役員に。工藤萌が目指す、商品が売れるほど「社会が良くなる」事業への挑戦
取材 / 文 = 白石勝也
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