WEB制作スキルがコモディティ化するいま、WEB制作会社とそこで活躍するエンジニア・クリエイターには「変化を起こす活動」が求められているのではないだろうか?博報堂アイ・スタジオの「HACKist」という活動から、彼らの新しいキャリアを探った。
国内に数多ある“WEB制作会社”。ホームページなどのWEB制作スキルがコモディティ化するいま、受注したWEB制作だけを行なうことに、会社や自身が留まることに危機感を抱いているエンジニア・クリエイターも多いことだろう。
今回ご紹介するのは、博報堂アイ・スタジオの「HACKist」という活動。有志のクリエイター・エンジニアが、“ちょっと変わった新しい実験”を通常業務時間外に行ない、その情報を発信するというものだ。例えば、Kinectを使った新しいインタラクティブコンテンツやNFCのちょっと変わった利用の仕方を紹介している。
大手広告会社のグループ企業として、多くの制作物を手がける彼らはなぜ、このような取り組みをはじめたのか?HACKistの初期メンバーとして活動を引っ張っているインタラクティブクリエイティブディレクターの望月重太朗さん、テクニカルディレクターの一階武史さんへのインタビューから、WEB制作会社で働くエンジニア・クリエイターの新しいキャリアづくりに迫った。
第一弾の本レポートでは、HACKistの活動を始めるに至った背景と思いと具体的な活動内容、そしてWEB制作会社内で自主プロジェクトを立ち上げるポイントを伺った。
― まず、HACKistの活動をはじめた背景を伺えますか?
望月:
端的に言えば、「危機感」と「好奇心」です。
ご存知の通り、WEB制作会社は主にWEBサイト、アプリの制作を手掛けていますが、WEB制作を取り巻く環境はここ数年で非常に拡大していますよね。デジタルで扱える領域が多岐にわたり、新しい技術やアプローチもどんどん生まれてきている。
そんな状況に身を置く中で、ただ目の前にある仕事だけをこなしていると、結局制作会社としての博報堂アイ・スタジオもクリエイターとしての自分も、どんどん取り残されていくんじゃないかと。
そういう危機感を感じながら、同時に自分がまだ触れていない新しいデジタル領域に対してすごく興味が沸いてきて。そういった好奇心も同時に生まれてくると、もう「自発的に動いて、何か“モノ”を作っていく取り組み」を行なっていかなければ、と思って。
一階:
エンジニアも同じです。わたしは転職組で、以前は防衛システムの開発をしていました。その頃から、様々な技術にふれていたんですね。しかし、WEB制作会社という枠だと、あまりにもできることが少ないと感じていました。
また反面、デジタルがどんどん幅広く、技術が深くなった今、自分がふれてきた技術がもっとWEB制作会社でいかせるんではないかとも思っていました。
望月:
博報堂アイ・スタジオっていい意味で分業化されてて、マークアップ・Flash・開発・運用など、それぞれのスペシャリストがいるんですね。でもそれが一つの弊害となり、業務内で新しいチャレンジをするには難しい状況がありました。そこで、まずは少ない人数でもいいから有志を募り、違うスキルをもってる人が集まって、お互いが「興味のあること」を業務外で実験的にやってみようと。本当に同好会・部活動に近い感じで始まりました。
― 具体的にはどんなカタチでHACKistの活動を行なっているんですか?
望月:
固定でメンバーになっているのは10-15人くらい。エンジニアとクリエイティブ半々です。いわゆるプロデューサーの人間はあまりおらず、何かしら手を動かすスキルをもってるメンバーばかりです。そういえば昨日は、クリエイティブの人間がハンダ付けをしてました(笑)
基本的にはユニットを組んで、週に1度のMTGで現在取り組んでいるプロジェクトの進捗や、いま興味を持っていること、カンファレンスなどの情報を共有しています。そして、各々で“モノ”の制作に取り組んでいます。
― 制作されるネタや方向性はどんなところから着想を得るのでしょうか?
一階:
わたしは完全に自身の興味からです。HACKistの活動で制作したWindows Phone・Windows8アプリが賞を受賞したりすると、カンファレンスで登壇する機会も増え、会社の名前も広がるきっかけになりました。その他、技術的なもので言えば、KinectやNFC、Bluetooth 4.0などですね。
望月:
僕の場合は、クライアントに提案して採用されなかったものを、カタチにしてみようと考えることが多いかな。担当クライアントの業界は多岐にわたるので、いろんなアイデアがネタ帳に溜まっていくんです。例えば『ちょいキス』というアプリは、クライアントに提案したアイデアを一階に話したことがきっかけで生まれたもの。アプリを起動して画面を頬に触れさせると、萌えボイスが流れるというおバカ系のアプリです(笑)。これを試しにリリースしてみると数十万のDLを記録したんです。
こういった細かな実績を積み重ねていくことで、会社にもHACKistの活動が認められ、社内でも一定のプレゼンスを出すまでになってきています。
― その点で言えば、会社との距離感も気になるところです。業務時間外に活動しているとはいえ、会社とはどのような関係で活動されているのでしょうか?
一階:
HACKistをはじめた頃は、ちょっと冷たく扱われていましたね(笑)。でもきちんとモノを作って実績を出すと、新しいチャレンジをする際に機材購入などを補助していただけるようになったり、より自由に動けるようになるというか。でも、あくまで『業務時間外』の活動。何よりも「通常業務に支障をきたさない」ということが大前提なのは変わりありません。だからこそ、会社には「どんな技術をHACKistでチャレンジするか」というテーマに関して、強く干渉しないで欲しいと伝えています。
― WEB制作会社の中には、自主的な取り組みを始めようにも始めらず、悶々としている方もいらっしゃると思います。HACKistでの経験を通じて学んだ、社内で自主プロジェクトを始めて継続させるポイントがあれば教えてください。
望月:
まずは、自分の持っていない武器を持っている人を仲間にすることでしょうか。数は多くなくていいです。2人か3人で小さく始め、まずモノを作る。そして外に出すんです。アプリをリリースしたり、展示会に出展したり、ハッカソンに参加したり。一度動き出すと、だんだん要領がわかってくると思います。まず仲間を見つけて第1歩を踏み出せるか、ここが重要かと。
社内的な立場に目をやれば、理解ある上長の存在も意外に大事なのかな。きちんと自分の思っている気持ちをぶつけることができ、共感してもらえるような。
一階:
実績という既成事実を作ってしまうことかな。別に社内評価がほしいわけではないので、第3者から評価される活動をして、認めてもらう。加えて、エンジニアのメンバーによく言っているのは「自分のポートフォリオになるプロダクトをつくろう」ということ。それくらい自分のスキルや仕事を意識しようと。
― 経験に基づくアドバイス、ありがとうございます!
(つづく)
▼博報堂アイ・スタジオ「HACKist」のインタビュー第2弾
社内自主プロジェクトをシゴトにつなげる方法|博報堂アイ・スタジオ『HACKist』[後編]
[取材] 梁取義宣 [文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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