2014.04.04
『Tokyo Graphic Recorder』清水淳子が語る、“デザイン以外”の価値を見つける方法

『Tokyo Graphic Recorder』清水淳子が語る、“デザイン以外”の価値を見つける方法

清水淳子さんは、会議や講義をグラフィックで記録し発信するメディア『Tokyo Graphic Recorder』として活動しつつ、ヤフー社のUXデザイナーも務める。突出したクリエイターとなった彼女はかつて、いちデザイナーとして危機感に苛まれていた。その時取った行動とは?

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日常業務の疑問を追求することで、違うステージが現れた。

Tokyo Graphic Recorder


会議の議事録、パーティでのパフォーマンス、雑誌のコンテンツ、ジャーナリズム、ファシリテーション…。様々な意味合いで活動をする『Tokyo Graphic Recorder』の清水淳子さん。雑誌「Web Designing」や「ブレーン」などでも取り上げられ、ご存知の方も多いかと思う。

「言われたことをやっているだけで本当にいいのだろうか」という疑問を持つ、いちデザイナーだった彼女が『Tokyo Graphic Recorder』 兼 ヤフー社 UXデザイナーという唯一無二の存在なるまでに起こした行動とは?クリエイターとしての生き方に迷いがある方は、ぜひご一読いただきたい。

はじまりは、「ただのデザイナー」であることへの危機感。

― 今や、いろんな場所に引っ張りだこの清水さんですが、初めから『Tokyo Graphic Recorder』のようなことをやりたいと考えられてたんですか?


全く!(笑)
大学卒業後に、とあるWEB制作会社に入社し、「もらった仕事をどう効率的にこなすか」ということを3年間やってたのですが、お客さんの顔が見えないというか、何というか。例えば、代理店Aから代理店Bに仕事が行って、さらに代理店Cが参加して、制作会社Dにいって、E、F...で、私は“デザイナーH”、あたりの役割だったように思います。

で、「これはデザイナーって言うよりもオペレーターでは…?」「どうしたらもっと世の中と繋がって面白いこと出来るのか?」と日々悶々と考えていました。


― 多くのクリエイターが通る道ですね。清水さんはそこでどうされたんですか。


清水淳子さん

Tokyo Graphic Recorder
/ヤフーUXデザイナー 清水淳子さん

とにかく会社以外の世界に触れたい一心で、Twitterでみつけた『np無料広告学校』に1年間通うことにしたんです。

そこは、元・博報堂のコピーライター小霜和也さんとアートディレクター米村浩さんがやってらっしゃる広告の学校で、学んだのは、戦略を軸にクリエイティブを考える事でした。

毎週いろんな商品の広告戦略を考えさせられて、その戦略自体がユニークじゃないと表現に移っちゃいけないんですね。1年間みっちりとクリエイターの独りよがりの発想ではなく、ロジカルなビジネス観点を用いて発想することを叩き込まれました。

そこで「なぜ私が“デザイナーH”の立場でしか仕事ができないか」ってのが分かったんです。それは「戦略あるクリエイティブ」でビジネスの場に意見できてなかったから。

もっとその辺りを深堀していきたいと思い、WEB制作会社を辞めて『WATER DESIGN』という会社に入社しました。慶応義塾大学SFCで教授をやってらした坂井直樹さんという方の会社でして。坂井さんはコンセプターという肩書きなんですけど、基本的には自分の作業ではモノを作らないんです。どう作るかというと、まずクライアントに対して提案・営業して、土台となるコンセプトを作り、その後に優秀なクリエイターと組むんです。


― 特殊なデザイナーのあり方ですね。


そうなんですよ。そんな坂井さんに言われたのが、「WATER DESIGNのスタッフは、営業、PM、CD、全部できるようになって欲しい」「お客さんと向き合って仕事を取り、プロジェクトをマネジメントしながら、良いモノを形にし、メディアにきちんと伝える。始まりから終わりまで全部一貫してやれずして、クリエイターとは言えない」と。だから私もアカウントセールスとしてお客様に提案したり、スケジュールと予算切って、いくら掛かるとか計算したりしてました。


― なるほど。でもやっぱりデザイナーとアカウントセールスだと、働き方が大きく違うと思うのですが、デザイナーとして気づきってありましたか?


かつての“デザイナーH”だったころの自分って、やっぱり「アプリケーション」だったんだなって気付きましたね。ディレクションする側になると、そう見えちゃうんですよ。

例えば、急いでる時に電話帳をみると、デザイナー一人ひとりの顔ではなく、それぞれの持っているスキル・機能しか思い浮かばなかったんです。「この人は絵を描くのが早い」みたいな。そういう状態になっちゃう仕事って良くないと思います。でもそれで受けちゃうデザイナー側もきっと問題がある。かつての自分は良くない仕事をしていたんだなって思いましたね。

『Tokyo Graphic Recorder』のモトは、暇つぶしから生まれた!?

― 「危機感はあるけど、どう動いていいか分からない」というデザイナーも多いと思います。清水さんが一歩踏み出せたきっかけがあれば教えていただきたいです。


一番最初にいたWEB制作会社に入りたての頃、上司に質問したことがあったんです。「社会人クリエイターとして身に付けるべきことってなんですか?」って。でも「それは自分で見つけるものだ!」とシャットダウンされてしまって(笑)。その時は「なんて意地悪なんだろう」と悲しくなりましたが、いま思えばそれが全てのきっかけですね。一人で困って、まずはあらゆるネットサービスに登録して、発言力の強い人の見たりとか、ソーシャルリスニングみたいなことをはじめていきました。もし代理店とかに勤めてたら素敵なコミュニケーションがたくさんありそうなので、充実して何も調べなかったと思います。


― そうやって情報を仕入れていた中に『Tokyo Graphic Recorder』をアウトプットするきっかけがあったとか?


なんか、これ話すと私寂しい人みたいになっちゃうんですけど…(笑)。情報をインプットして、いろんなことに興味が出てくるとカンファレンスとか行きたくなるじゃないですか。で、行ってみたら、大学時代の友人はみんな、会社の同期と来てるんですよね。だけど私はWEB制作会社時代、同期がいなかったんですよ。なので、私は誰も知り合いもいなく、ひたすら暇で。だからその参加したカンファレンスの内容を、一番後ろの席で一人でひたすらノートに描いていました。それをブログにUPしてTwitterで流したら反応がいっぱいあって、「あれ?このノートがおもしろいの?」ってなったのが始まりですかね。

でも、ほんと最初は誰に見てほしいわけでもなくって。ちゃんとした形でアウトプットしようと思ってなかったんですよ。ただ、「CBCNET」が主催する「APMT」っていうメディアアート系のイベントのも、電通が主催している広告系のイベントのも、HTML5のカンファレンスも、同じようにヒットしたんで、「ジャンルが違ってもみんな面白いって思うんだ~」なんて漠然とは思ったりしてたんですけどね。


― いつから今のスタイルを確立したんですか?


一番始めに面白いと言って下さったのが、np無料広告学校で会った、長谷川哲士さんっていうコピーライターの方。

何度も「これは面白いよ!」と仰っていただいたのですが、嬉しいだけで「ありがとうございます!」くらいにしか思えなくて、まだ自分じゃ価値がわかりませんでしたね。それから1年くらいは何も具体的なアクションはしませんでした。

その後、銀河ライターの河尻享一さんから「B&Bでキュレーションの講義するから、俺の講義描いてくれよ」って声を掛けていただいて。講義自体が面白そうだったので、半年くらい毎週講義を書いてました。すると描いたのが溜まってきてシリーズっぽく見えてくる。そうなると、さすがに、「もうちょっと何かやらなきゃもったいないな」って思えるようになってきたんですね。そこで、『Tokyo Graphic Recorder』って名前を無理やりつけて、ブログにしたっていうのが、去年の2013年3月。それが始まりです。


― なるほど。そこから世間に広まっていって、今では色んな方と一緒にお仕事をされてますけど、声を掛けられるようになった理由ってなんだと思いますか?


うーん...。ソーシャルプルーフって言葉があると思うんですけど、そのイメージに近いです。“デザイナーH”からスタートして、npに通って、コピーライターの人たちと知り合いになって、WATERの坂井さんとかそのお友だちとか、色々人のつながりがあって、河尻さんのお手伝いして。その内容がシェアされて、広まって…、その繰り返しでした。WEB・IT業界ってインフルエンサーの影響が強い。だから、「私が」って言うよりは、周りの人たちの興味関心のつながりの影響があったんじゃないですかね。

世の中で機能するモノを作っていきたい。

― 正直ヤフー社のような大企業に入社されたのがちょっと意外というか…。決め手ってなんだったんですか?


ちょっと前から考えていることがあって。私がやりたいことっていうのが、“Technology”と“Business”と“Design”全てが重なり合っている領域だったんです。そしてヤフーには、この3つの要素に挑戦できる環境があったから、っていうのが理由ですね。

また、所属しているMSC(Marketing Solutions Company)っていう部署で掲げているビジョンのひとつに“Art & Science”というものがありまして、それも気に入っています。私の勝手な解釈なんですが、“Art & Copy”っていう昔の代理店の考え方から、最近はバスキュールとPARTYが始めた学校『BAPA』が掲げてる“Art & Code”ってものがある。で、きっと私たちは、さらに派生した“Science”を考えようとしている。デザインが人の動きや心理状態にどう関わっているかをリサーチしたり、アナリストと組んでデータを集め数値化したり等、あらゆる方法で検証しながら、新しいクリエイティブを作るチャレンジが面白いと思います。


― なるほど。清水さんが考えるデザインやクリエイティブってどんなものなんでしょうか?


ジェイコブスクリーク わ

ジェイコブスクリーク わ

最近は、USAMIブランディング株式会社の宇佐美清さんから習った『Logic & Magic』という考え方でデザインしたいと思ってます。これは、Logicが戦略とか構造とか論理で、Magicが閃きとか表現とか創造で、この2つ が気持ちよく合致するものが良いクリエイティブということらしいです。でも、世の中にあるクリエイティブの多くは噛み合ってなくて歪になっている。

WATER DESIGNの頃にやったワインボトルのデザインはうまくいった例の一つです。私はPMをやって、ビジネス戦略をPernod Ricard Japanの閔さん、クリエイティブコンセプトを坂井さん、デザインは元・佐藤卓デザイン事務所のハナウタワークス・三沢紫乃さんにお願いして 。早い段階から完成形を、メンバー全員で想像しながら育てていけたから、最終的に市場に出して成功させることができたと思います。


― 最後に、この先やってみたいこと・成し遂げたいことはありますか?


うーん…、まだ分からないのが正直なところですが、自分のデザインがちゃんと世に浸透することに興味があります。例えば、山中俊治さんはSuicaの改札をデザインした、そんな事例に憧れますね。ものすごく厳しく難しいことだと思いますが、世の中で機能したものをデザインできたなって思えるようになりたいです。


― 「もっと世の中と繋がっていきたい」という、清水さんが元々考えてらっしゃった部分にもつながりますね。お話を伺って、現状に危機感を持っているクリエイターはとにかく一歩踏み出して みることが大切なんだと感じました。本日はありがとうございました!


[取材] 松尾彰大 [文] 高橋梓



編集 = 松尾彰大


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