クックパッド、ランサーズを急成長に導いた山口豪志さんへのロングインタビュー後編。エンジェル投資家、スタートアップのコンサルタント、インキュベーション施設のマネージャーという顔を持つ山口さんに、ビジネスサイドの仕事だからこそ生み出せる価値について伺いました。
▼山口豪志さんへのロングインタビュー前編はこちら
スタートアップ成長請負人・山口豪志がクックパッド、ランサーズを経て得たキャリア[前編]
そして私は自ら「時間と場所に囚われない働き方」を実践するべく、2014年の10月にランサーズを退職し、フェローという立場で関わりはじめました。フェローというのは外部アドバイザーのような立ち位置です。
実はランサーズの退職タイミングは入社した時から決めていたことでした。もちろん社長である秋好さんに「3年以上はやらない。でも、3年で必ず結果を出してランサーズの理念を実現させるために貢献する」と伝えた上でジョインしました。なぜ3年かというと、私にはやりたいことが多すぎるのです。
その一つが、憧れの人と一緒に仕事をすること。デフタパートナーズの創業者、原丈人という男です。2009年ごろに糸井重里さんと原の対談記事をみてからもう大ファンなんです。彼は考古学を志しながら、その費用の捻出のために事業を起こして売却し、今度は新しい事業や基礎研究に投資してアメリカ・シリコンバレーを本拠にして高い成果を出してきた人物です。
私は彼が手掛けている横浜のインキュベーション施設、横浜グローバルステーション(YGS)のリニューアルと運営を任せてもらい、マネージャーとしてイベントを開催したり、あらゆる側面からスタートアップの支援をしたりと、様々な活動を行なっています。
私にはいま、3つの顔があります。一つは、インキュベーション施設のマネージャー。2つ目はエンジェル投資家、3つ目はスタートアップ・WEBベンチャー企業で培ったノウハウを企業に伝えるコンサルティング活動です。どの仕事にも共通することは、自分の経験を後進に伝えながら新しい価値を生み出すことを楽しめていることです。
このように、私は一言では言い表せないような働き方を実践しています。私はWEBベンチャーやスタートアップで働く人たちにとっての「あしながおじさん」のような存在になりたいのです。夢だけではなかなか生きていけません。でも夢を語り実行する人ってかっこいいんです。私はそんな、不器用だけどかっこいい人を影から支えるもっとかっこいい人間になりたい(笑)。
私は、クックパッドやランサーズでビジネス周りのことを幅広く手掛け、濃密な時間を過ごしてきました。そして、会社の成長を自らになってきたという自負があります。その経験を少しでも還元したいのです。
よく、WEB・IT業界ではプロダクトが作れるエンジニアやデザイナーの活躍が強調され、営業や広報的な働きをしている人がフォーカスされることは少ないですよね。
でも私はこう思うんです。例えばエンジニアがエンジニアリング以外のことをやるというのはすごく難しい。でもビジネスサイドの人間はファジー、定義がすごく曖昧だと。
総務、人事、営業、広報…。私がランサーズに3人目で入った時に何をやっていたかというと、徹底的な玉拾いなんです。引っ越しするときは業者に連絡するし、掃除だってする。仕事でも営業から広報までなんだってです。やっぱり専門職じゃないビジネスサイドの人間にはこういったことが1番求められるんじゃないかなと思います。玉拾いする中で成果を出して、自分の立ち位置を見つけていく。
まず1回やったうえで、自分も評価するし、周りも評価する。結果的には最適化されていくと思います。どんな仕事も必ず会社の中にいる人員でまかなわないといけないので、何であっても積極的にやろうという意識は必要だと思います。
船長(社長)が1番偉いって思っている人も多いかもしれませんが、本当はコック(メンバー)の方が全員のご飯を作るという意味では重要かもしれません。例えば、「俺が毒入れたら死んじゃうぞ」みたいなことだってあり得なくもないですよね(笑)。どんな立場であっても自分の仕事にプライドをもって取り組むこと。何を任されても俺はやるんだっていう気概があるかないかでビジネスサイド・バックオフィスの人間のキャリアはずいぶん変わるのではないでしょうか。
私がキャリア選択で強く意識しているのは「時間の有限性」です。口で言う人は多いですが、私の場合は死ぬことを前提で生きています。いつ自分の人生が終わるか分からないという意識がすごくあるため、同じ会社で同じことをやり続けていると、すごく不安な気持ちになるのです。
ずっと同じ会社にいると、お給料は毎年ちょっとずつ上がってくかもしれないし、ポジションもあがり、色んな影響を与えられるかも知れない。けれど、自分の人生の3年5年使って、その価値だけでいいのか?っていう不安な気持ちになるんですよね。
「会社の立場よりも自分個人の名前を売ろう」というのが私の持論です。
「お前とだから仕事したい」と思わせられるかどうかという話です。会社は世の中の胎動に合わせて、色んな事を言われます。そういう前提がある中で、自分の価値観でお客さんと会話ができるかどうか、これはすごく重要です。肩書きなどではなく、自分にプライドを持って仕事やること。
ランサーズに勤めているときによく言っていたことは、「別に俺は掃除の係になってもいい。お前らと一緒に新しい世界を作るために、俺が必要なのが掃除の係であれば、俺は掃除の係でもいい」と本音で言っていました。会社が実現しようとしているビジョンや目標としていることに対して、自分が最も貢献できる立ち位置に立って、やり切ることで会社が伸びるんであれば、それが1番いいわけです。
立場がどうとか、そんなことではなく、山口君と仕事したいから、そう言ってくれる人と一緒に仕事をすることが、人生で1番の楽しみです。
[取材・文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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