クックパッドのおでかけサービスHolidayのiOSアプリを手掛けたのはデザイナー!?「デザイナーという職業や職域に関してはちょっとした問題意識は持っていた」と語るデザイナーの多田さんと、室長の友巻さんにアプリの開発経緯から、デザイナーとしての職域、組織マネジメントまで幅広いお話を伺いました。
3月に満を持してiOSアプリをリリースしたクックパッドの新規事業・Holiday。
このアプリ開発の鍵を握った人物は、開発工程まで手を出す「デザイナー」だったという。
もともと前身となるサービスを手がけていた学生たちがプロダクトとチームごとクックパッドに新卒入社し、発展させてきたHoliday。(※クックパッドの新規事業を新卒が立ち上げたワケ)
実はクックパッドに入社する昨年4月のタイミングで、チームに「デザイナー」がジョインしていた。その人物こそ、14年入社の同期である多田圭佑さん。なぜ多田さんは「デザイナー」という肩書をもちながら、開発工程などへの積極的な関与を行なうなど「役職による職域の線引」をせずに動けたのだろうか。
Holiday事業室・室長の友巻憲史郎さんとともにお話を伺った今回のインタビュー。話はデザイナーとしての役割の話題から、スモールチームにおけるマネジメントにまで及んだ。
― もともとHolidayチームにはiOS開発者が不在だったそうですね。どんな経緯でiOSアプリを開発する事になったんですか?
友巻:
WEB版を昨年9月にリリースしてから、投稿者にとってより良いサービスとなるように改善と機能追加を積み重ねていく中で、自然とアプリの開発をしていこうという流れになったんですね。
多田:
ただチームにiOS開発者がいなかったので、CTOの舘野まで相談しに行ったんです。すると、「君たちでやればいいじゃん」「別にiOSだろうとAndroidだろうとすぐできるようになるから」と一蹴されて(笑)。
友巻:
でも、その言葉の裏には常日頃から言われている、「ユーザーに価値を届けることに貪欲になれ」ということを伝える意図があったんだと思います。チャレンジしている中で困ったり相談したいことがあれば、いくらでも協力してもらえる環境があるのに、やる前からガタガタ言うなってことだったのかなと。
多田:
ぐうの音も出ないってこういうことかってね(笑)。とは言え、僕がすべて開発するとなると時間がかかりすぎる。そこで週2−3日コミットしてもらえるiOS開発者にお願いをして、特に基本的な機能を実装してもらいながら、僕がプロトタイピングを続けて細かい開発まで手を出していくというスタイルでリリースまでこぎつけました。
― 多田さんってデザイナーですよね。「開発なんて…」「自分の守備範囲じゃない」という意識はなかったんですか?
多田:
デザイナーという職業や職域に関してはちょっとした問題意識を持っていたんです。個人的にはデザインという言葉が、まだまだ単純なビジュアルデザインやUIとしか捉えられていないと感じていて。
クックパッド社内ではよく、「ユーザーの抱える問題をどう解決するか、これこそがデザイナーの責務なんじゃないか」という話をするんです。
その前提に立てば、ユーザー体験を高めるためには、よりよいプロダクトでなきゃいけない。デザイナーという枠組みから一見外れることであっても、できることは何でもやるべきなんじゃないかと。
言い換えれば、デザイナーというのは、最終的なプロダクト、完成品までちゃんと責任を持つべき。だから、「見た目はこんな感じで…、あとはじゃあ、エンジニアが実装してリリース」っていうのは、やっぱり違う。最終的な完成物を出すために必要なことを考えると、自然とエンジニアリングのほうもやらなきゃいけない…となった感じです。
― フルスタックデザイナー…とでもいえばいいのでしょうか。任せるのではなく、自分で何でもやりたいと思ってしまう感じですか?
多田:
いや、やる必要があるからそのスキルを身につけて実行するイメージですかね。ユーザーインタビューにもどんどん参加するし、プロトタイピングもツールを最大限活用して早く回す。プログラミング関連の話題もインプットして、自分で手を動かしてテストしてみる感じです。
― なるほど。その背景には、単なる「デザイナー」という職種や領域に対する危機感みたいなものがあったんでしょうか?
多田:
危機感まではいきませんが、デザイナーの立場がもっと高まってもいいんじゃないかと思っています。一概には言えませんが、ここ数年でエンジニアの立場や価値って一気に上昇したと思っています。一方で、ものすごいデザイナーさんであっても、なかなか正当な評価を得られていなかったり、スポットライトが当てられていないんじゃないかと。それはなぜかと考えたとき、やっぱりいわゆる分業とかで価値が削られているんじゃないかって。
― たしかにエンジニア・技術領域ではCTOという役割が一般的になってきましたが、例えばCCO(Chief Creative Officer)などはまだまだ少ない印象です。多田さんの考えはクックパッド社の中でも共通認識のようになっているんでしょうか?
多田:
だと思います。クックパッドの「デザイン部」は2014年2月頃に「ユーザーファースト推進室」と名前を変えて、よりデザイナーがユーザーに寄り添う形になったと思います。つまり、表面的なデザインだけを担う職種じゃないことを明確にしたんじゃないかと。
また、ユーザーファースト推進室の部長である池田が執行役に就いたのも、クックパッドの文化を象徴しているかもしれません。
― なるほど。気になるのはプロデューサーのような職種の人がある意味フルスタックデザイナーのような方をどう考えるかということです。友巻さんはどう受け止めたんですか?
友巻:
プロデューサー専業であることの意味というのが、すごく際どいなと思っていて。メンバーをまとめ、プロダクトの方向性を提示して、ユーザーに提供する価値を伝える。チームを引っ張っていくという名目はありつつ、全員がオーナーシップを持っていたら、専任のプロデューサーはいらないかもしれないな、と。
今の僕は「プロデューサー」ではないんです。肩書も「室長」。それこそ多田やメンバーのパフォーマンスが120%になるなら、黒子に徹して、こぼれたボールは全部拾う意識でやっているんです。
― 改めて多田さんのような意識を持ったメンバーと一緒に働くことで、自分の役割を再定義し直したと言うか、いま模索してる段階だと?
友巻:
本当にユーザーに価値を届けたいとか、こういう問題を解決したいって、本当に心の底から思っていることが達成されたら、肩書や決められた役割なんて正直なところ何でもいいんですよね。
だから、僕が言った機能が実装されたとか、機能を決めるのに自分が入ってなきゃ嫌ってことは、全くない。個人個人の動き方どうこうではなく、ユーザーに提供できる価値を最大かつ最速にすることが最も大事。メンバーみんなのベクトル、意識を合わせる。
現在は、組織をマネージメントする立場として、大きなサービスの方向性は僕自身が表に立って示しています。一方で、具体的にどんなアプリにしていくか、機能を追加していくか、といった方針は多田を含めたメンバーに任せています。
例えば今回リリースしたアプリも、プランを投稿してもらうユーザーをまずは大事にしていくという方向性を僕が示し、どんなアプリにするかということは多田に一任していましたね。
― そういったコンセプトを据えて開発するにも、チームとしてベクトルが合っていないとできないですよね。
多田:
これからはより一層、素敵なおでかけプランを投稿してくださる方、そして集まったプランをみつけて休日をより良く過ごす方、どちらのユーザーにも最大限の価値を最速で提供できるようにチームとして頑張っていきます。
― 特にデザイナーという職種に就いている方、スモールチームで開発をしている方にとっては刺激的なお話だったと思います。個人の動き方から、チームとしての方向付けまでお話ありがとうございました!
[取材・文] 松尾彰大
クックパッドが新卒採用を強化中!2016年はエンジニア・デザイナー・総合職合わせて約20名の採用を見込んでいるとか。今回お話を伺ったHolidayチームもクックパッドの14年新卒メンバーで構成されています。応募条件によると新卒者だけでなく、既卒者、留学生もOK。2016年4月の入社が可能で、応募時点で29歳以下であること。だそうです。興味のある方は是非チェックしてみては?
今回お話を伺った友巻さんも登壇するCAREER HACK BASEMENT Vol.2【U25限定】WEBベンチャー・スタートアップに新卒で入るって実際どうなのよ!?の詳細はこちら!
編集 = 松尾彰大
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。