2015.04.22
「SIer から WEB業界に転身するために準備しておくべきこと」Crevo CTO 工藤陽

「SIer から WEB業界に転身するために準備しておくべきこと」Crevo CTO 工藤陽

動画制作クラウドソーシング『Crevo』CTOの工藤陽さんは、NTTデータで7年間SEとして経験を積んだ後、Crevoの創業と同時にジョインしたエンジニアだ。「SIerからWEBへ」一見するとキャリアの可能性が広がるイメージだが...その難しさや現実とは?

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【プロフィール】工藤陽 Akira Kudo
2004年、NTTデータに入社。金融ビジネス事業本部(当時)にて都銀のシステムアウトソーシング事業に従事。2009年、第一金融事業本部(当時)に異動。全銀ネットワークの開発に携わった。2012年、PurpleCow株式会社(Crevoの前・社名)創業とともに入社。CTOに就任した。

業界の中でしか生きられない、SIの世界に身をおく不安

― 本日のテーマが「SIerからのWEB業界への転身におけるメリット、デメリット」なのですが、工藤さんがNTTデータを退職され、スタートアップにジョインされたきっかけから伺ってもよろしいでしょうか?


31歳でNTTデータを退職したのですが、もともとSIというビジネスモデルに問題意識があって、「この先30年を見据えると業界の存続さえ危うい」と考えていたんです。システム開発の手法や要素技術にイノベーションが起き続ければSIの需要は減少するでしょうし、自分は放り出されてもおかしくない。

業界が縮小すれば面白い仕事や優秀な人材も集まりにくいし、自身の成長機会も限られてくる。今後の自分のキャリアを考えたときに、そういう業界に身をおくのは良くないのではないかと思いました。

あとは組織構造に閉塞感を感じたことでしょうかね。SIerで働く若手にもたまに相談されるのですが「昇進の順番待ち」みたいなものがあって、何年後に自分がこれくらいのポジションで…と大体わかる。

例外はあれど基本的にはその通りに進むので自分の能力開発や成果を生み出すことに意欲が湧かないんですね。そうやって組織に最適化された人材になるのは自分の可能性を限定するようでちょっとつまらないな、と思いました。もし研究開発部門やビジネス開発の部門に居てやりたいことにチャレンジできる環境ならばまた違うのかもしれませんが。

なぜ転職ではなく、スタートアップに挑戦したか、という部分で言えば、純粋に自分がエンジニアとしてどこまで通用するか試したかったからです。NTTデータのような大企業にいると会社の看板で仕事ができるし、ものづくりの方法論もある程度決まっているので、イチから自分で試行錯誤する機会はなかなか無いんですね。

それだと自分の限界というのはわからない気がして、反対に自分でなんでもやる環境ならば、自分の得手不得手や興味範囲も明確になるんじゃないか、と。スタートアップはリスクも大きいですが、失敗しても死ぬ仕事じゃないですし、ちゃんと『これで生きていく』という道を自身で決めたい気持ちが強くありました。





Crevo 実績まとめ

SIer時代に身につけた「技術」は全く役に立たなかった

― 実際、SIerからWEBの世界に来て、どういった部分が活かせましたか?


ITに関する基礎知識やシステム開発ノウハウはベースとして活きていますが、いちばん役に立ったのはビジネス系のスキルとプロジェクトマネジメントのスキルですね。SIerでは金融インフラなどの巨大プロジェクトに関わっていたので、状況を俯瞰して捉えたりリスクを予見して先手を打つ感覚や、ステークホルダーとの条件調整などのテクニックは今でも活用できていると思います。

また、規模は違えどスタートアップで行われる施策や機能開発もひとつの「プロジェクト」と見なすことができるので、プロジェクトマネジメントの方法論をそのまま持ち込むことが可能です。


たとえば、サービスのリリース日が一ヶ月後と決まっているのであれば、自分たちの開発リソースから考えて実装できる機能の量と品質を予測することができます。

もしそれがサービスレベル的にNGだったら、スケジュールを伸ばすかリソースを集めるか...と、取るべき策を検討できるようになりますよね。こういったアプローチや思考プロセスはプロジェクトマネジメントそのものだったりします。


Crevo_工藤陽


― 逆にSIerでの経験が活かせなかった部分はどのあたりでしょうか?


プログラミングや設計などの技術系スキルですね。頭では理解していても、実際に自分が手を動かして設計や開発をした経験がないと、正直、全く役に立ちません。

創業当初は、人もお金も時間もないので、「エンジニアだったらひたすらコードを書く」という話しかない。むしろどれだけ早く自身で実装できるかが勝負です。SIerでプロジェクトマネージャをやっていると「自分でやらずに適任者にやってもらう」というのが基本的に正しいのですが、スタートアップに関わるならその考え方はすぐに捨てるべき。

今できなくても、1週間後に何とかできるようになってみせる。いざとなったら自分でなんとかできるように勉強しておく。そういう努力をするしかない。そのマインドチェンジが一番大変かもしれませんね。


― ただ、なかなか変われないのが人の常ですよね...。


なので、生半可な気持ちは捨てて、自らすすんで「崖っぷち」に立てるどうか。これが全てだと思います。そういう状況に身を置くと自分でもビックリするくらい成長できます。全く原因がわからないバグに24時間寝ないで立ち向かう覚悟があるかどうか。そこを誰かに任せず自分で取り組めば、その問題に関してはとてつもない量の知識が得られる訳で、その積み重ねがスキルとなって現れてきます。

そうやって一歩一歩着実に成長している実感を楽しめるなら、SIerからの転職に限らずうまく振る舞えるようになるんじゃないでしょうか。こういった感覚がなければ逆に何をやってもうまくいかない世界だと思います。

無収入を覚悟できるなら、修行期間をつくるのも手段のひとつ

― 「SIer時代の技術は全く活かせなかった」というお話がありましたが、工藤さんご自身はどのようにスキルを身に付けていったのでしょうか?


NTTデータを退職してからしばらくはビジネスコンテストに参加したり、プログラミングを勉強し直したり、修行期間のようなものを作っていたのである程度はそこで身につけました。

また、Crevo(『前PurpleCow』)の創業前からチームに関わっていたこともタイミングとしてよかったです。少人数だったので必要な能力を磨きながら新サービスを作っていくことができました。逆にすでに組織ができあがっているスタートアップに転職していたら、何もできなかったと思います。

そういう修行期間を設けるのはいい手だと思う一方で、無収入になるケースもあると思うので、それが許容できるかどうか。ジョインした直後から収入を得られたとしても基本的に待遇は悪化すると思ったほうがいいですし、覚悟が問われると思います。


― 確かにNTTデータに7年もいれば給料も悪くないはずで...それが一気にゼロからのスタートですもんね。


そうですね。創業時は当然無収入ですし、はじめての月給も数万円程度でした。しかも当時はサービスの売り上げが僅かなので、会社の状況を考えると「もらっていいのだろうか?」という感覚ですよね。

「やったか、やらなかったか」が大きな差になる

Crevo_工藤陽


― 伺ってきて、工藤さんのケースでは「SIerからWEBへの転身も甘くない」ということが感じられました。ただ、それでもキャリアの可能性を広げる選択肢の一つであることは間違いないですよね。同じようなキャリアを考えている方にアドバイスなどはありますか?


一言でいうと、やったか、やらなかったか、ただそれだけで「未来における自分の立ち位置」が決まると思っています。ITに関しては、現在ビジネスを始めたり、スキルアップしたりする環境としては恵まれていると思っていて。会社に身をおきながらでも自分の腕を磨いたりサービスを公開することはできると思うんですね。

本格的な事業化を考えなければひとりで週末を使って始めることもできるし、そこで使うテクニックやツールはおそらく僕達スタートアップが普段使っているものと一緒だと思います。ということは、少しでもやっておけば、転職でも、起業でも、決意した時に比較的スムーズに入っていけるはず。やはり最終的には「自分がどれだけのことをやってきたか」という部分に帰結すると思います。

SIのような業界だと、組織も大きくビジネス構造も決まっているが故に『言いわけ』もできてしまうんですよ。「業界が悪い」「会社が悪い」「あの人が悪い」など...それはそうかもしれないんですけど、そもそも「そんな会社の中でしか生きられない人でいいのか?」と。辛辣な言い方かもしれませんが、「会社の批判をする暇があったら自分の力でなんとかしたらどうでしょうか」という気はしますね。会社に依存せず、自分で道を切り拓いて行きましょう。


― 「SIerからWEB業界への転身」を考える人はもちろん、そうでない人もスキルに対する考え方など参考になる部分も多かったと思います。本日はありがとうございました!


[取材・文]白石勝也


編集 = 白石勝也


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