2015.04.30
「エンジニアの理想郷づくりのために」 さくらインターネットの代表が人事部長になったワケ

「エンジニアの理想郷づくりのために」 さくらインターネットの代表が人事部長になったワケ

日本を代表するエンジニア社長として高名な、さくらインターネットの田中邦裕さん。じつはちょうど1年前に代表取締役と兼任するカタチで人事部の部長ポストに就いていた。その狙いと取り組みとは?一体どんな成果が?会社の変化、そして「エンジニアにとっての理想郷」となる職場について伺いました。

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「人」を見つめ直す、そのプロセスとして人事部長に就任

さくらインターネットのトップである田中さんが、あえて人事部長のポストに就かれた理由を教えてください。


はい。もともと経営者として、当然人事には関われるので、あえて人事部長になる必然性はなかったとは思いますが。社内外へのメッセージとして、「社長自身が人事のことを高い優先度で考えているんだという姿勢を示したい」という想いが第一にありました。

「こういう風に社員は扱われるべき」「こういう風な会社になるべき」「こういう風な評価をされるべき」みたいなことに関しては、以前から当然制度を作っていたわけですけども。100パーセント私の考えに沿っていたわけではなく、私の考える「さくらインターネットの人」を見つめ直すプロセスとして、人事部門を直接みることが重要だったんです。

とはいえ、今までの制度が悪かったのかというと、そういうわけではなくて、「ちょっと違うな」と感じることが多かったんです。「さくらの人事はこうだ!」という言葉が私にあれば良かったんですけど、それほど意見を持てていなかった。深い「想い」はあるけど具体的な施策を持っていたわけじゃなかったんですね。

私は普通の会社で働いた経験がないですし、ずっと経営者しかしてきていないので、どういう人が評価されるべきだとか、現場の想いに寄り添えていませんでした。そこで現場のことをよく知っている人事部門と、ひとつのチームとして一緒に仕事をするというプロセスを経れば、私の想いと現場の実情を寄り添わせた、さくらインターネットらしい方向性が打ちだせるだろうと。私の想いを施策に変えるための取り組みをやろうと考えたのが最初のスタートです。

みんなで成長していけるように。キーワードは「教育・訓練・成長」

田中邦裕さん

― 具体的には、どのような施策を進めているのでしょうか?


色々あるのですが、まずは働きがいに関するアンケートを社員にとりました。すると「社会の役に立てている」「この会社で長く働きたい」といった、会社全体のことに対して高評価をする人が多い一方、自分の周囲5m~10mの環境に関することとなると、一転して低評価という結果になってしまったんです。


― さくらインターネットのパブリックイメージからするとやや意外ですね。


自分たち自身で、自信を持って働ける会社に変えていかないといけないと思いましたね。そこで「教育、訓練、成長」をキーワードに据え、みんなで成長していけるように会社主導で取り組む方針に転換しました。

施策のひとつとして、コーチングの導入があります。

スタッフと部門長による30分前後の面談を月に1~2回程度実施し、また部門長同士のミーティングも毎月数時間とるようにしました。さらに部署の壁を超えたワークショップも実践するようにして。積極的に取り組むところと、まだそれほどでもないところがあるのは事実で、教育に協力してもらう雰囲気の醸成も大事だなと感じています。

組織というのは、上から良くなるし、悪くもなるので、まずは部門長たちから意識改革をしていこうとしています。「教育自体が業務なんだ」「スタッフの成長を促すことが業務の一環なんだ」ということを、言い続けて、徹底していかないといけないですし、言い続けてもダメなら、その部門長を変えるくらいの強い心づもりで取り組んでいます。

幸い、コーチング導入の成果は少しずつ表れてきています。実際、部署内での発言がポジティブな方向に変わってきたとか、他部署の人たちの考え方がわかるようになってきたとか、そういった声も現場から聞こえてきています。

人を引きつける力、想いを伝える熱量を評価していきたい

― そうした改革をしていくと、部門長に求める資質も変わってくるのではないですか?

そうですね。「マインド」「パッション」が大事になってきますね。人を引きつける力や、想いを伝える熱量を持っていることが重要になってきます。当社は社員の7~8割がエンジニアなので、エンジニア寄りの話になりますが、業務ができる、技術が優れているだけでは不十分なんです。「一流は一流を採用し、二流は三流を採用する」という話がありますが、本当に優秀な人というのは、より優秀な人を求めるもの。自分がスキルで一番だと思ってしまうと、他の人のスキルを認められなくなってしまうので、そういう人は部門長には向かないと思いますね。

エンジニアって「自分がいないとダメなんだ」ってエゴイスティックに考えがちなんですよ。そうすると仕事を離さなくなりますし、プロジェクトのボトルネックになることもありますし、長時間労働の温床にもなりうるんです。長時間労働って、百害あって一利なしだと私は思っているので、それを肯定するようなマインドは変えていきたいと考えています。

会社としては、モチベーションの総量を上げていくことが組織の成長につながるので、ジョブ・ローテーションは常に行いつつ、エンジニアには「この仕事は、自分じゃなきゃできない」ではなく、「この仕事は、他の人でもできることだけど、自分がやった方がより良いんだ」っていうマインドをもてるようにを意識改革を進めていきたいなと思っています。


― 「マインド」と「パッション」に注目された理由とは?


ビジネスプランコンテストの審査員をさせていただく時にもよく言うんですが、私はビジネスを成功させるには「プラン、スキル、パッション」の三つが重要な要素なんだと思っています。

アメリカのベンチャーの場合、約93%は、最初のビジネスプラン通りにいかない…つまりビジネスプランを描いて、その通りにいくケースはたった7%しかないらしいです。
逆説的に言うと、プランはもちろん大事なのですが、第三者が模倣しようと思えばできるわけで、プラン自体が成功の大きな要因になるわけではないということですね。

では何が大事なのかというと、まずスキル。人脈や経験等も含めて、その人が持っている能力ですね。プランとスキルが結びつくことです。そして推進力となるのがパッションです。この三要素が揃って、成功の方程式が描けるようになるわけです。その意味で、当社にはプランとスキルはある程度備わっていて、伸ばすべきはパッションだと思ったのです。

私の場合、さくらインターネット創業時より、自社でデータセンターを運営するサーバ事業者になるというプランがあり、自分には当時希少価値のあったサーバエンジニアのスキルがあり、サーバが好きだというパッションもありました。そのおかげで、創業時のプラン通りに進んでこれたのだと思っています。

途中で色々と多角化するプランを加えて失敗もしてきましたが(笑)それも振返るとプランはありながら、その事業を統率するスキルやパッションが足りなかったのかなと思います。


▼インタビュー第二弾はコチラ
「エンジニアの理想郷づくりのために」 さくらインターネットの代表が人事部長になったワケ

[取材・文] 鈴木 健介


編集 = 鈴木健介


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