2015.06.04
元DeNAの参考書作家、船登惟希に聞く「WEB業界で培ったスキルは、他の世界で活きる?」

元DeNAの参考書作家、船登惟希に聞く「WEB業界で培ったスキルは、他の世界で活きる?」

ファーストキャリアはWEB/IT業界。そこから同業界へキャリアチェンジする人は多い。しかし、参考書作家というユニークな道を選んだ人がいる。DeNAでECのネットマーケティング責任者まで務めた船登惟希さんだ。一見アナログな参考書の世界へ活躍の場を移した船登さんに、その理由やWEB/IT業界で身につけて今に活きるスキルは何か伺った。

自分にしかできないことをしたい。異業界・異職種へのキャリアチェンジ

WEB・IT業界からのキャリアチェンジ。そこから同業界へキャリアチェンジする人は多い。だが、そこから「参考書作家」というユニークな道を選んだ人がいる。元DeNAでECのネットマーケティング責任者まで務めた船登惟希さんだ。

まだ20代。東大卒。DeNAのインターンである「StuDIG」で優勝。入社後は、ネットマーケティングの責任者として1年目でMVP受賞。そう書くと、順風満帆な自慢話かと思われるかもしれない。しかし、2年目には独立のため退社。デジタルの最前線から、一見アナログな参考書の世界へ活躍の場を移している。その理由はなにか?参考書作家となった今、WEB/IT業界で培ったスキルは活きているのか伺った。


【Profile】
船登惟希 Yoshiaki Funato

1987年生まれ。東京大学理学部化学科卒業。東京大学大学院中退。株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)を経て独立。参考書作家として小~大学生向けに教育コンテンツの執筆・出版を行なう。
【著書】『宇宙一わかりやすい高校化学』シリーズ、『大学受験らくらくブック(化学)』『大学受験らくらくブック(生物)』(すべて学研)、『サマる技術』(星海社)など

東大に入って自問自答の日々。転機は出版甲子園

― 現在の参考書作家としてのお話を伺う前に、船登さんが大学やDeNAに入社するまで、どんな人生を歩んできたのか教えてください。元々、勉強が好きだったんですか?


最初は、勉強が好きというよりは、誰にも負けない唯一の分野が勉強だったというのが正解かもしれません。と言うのも、幼少期はバスケをやったり、運動しかしていなかったんですが、どれも1番にはなれなくて。でも、負けたくないタイプなので悔しいじゃないですか。それで、どの分野であれば周りに勝てるかと考えた。その時に、ちゃんとやれば満点が取れる勉強ならいけるぞ、と。もともと野口英世やキュリー夫人などの研究者に憧れていたので、社会のためになる大きな研究をしようと大学進学を目指しました。


― それで、東大の理学部に進学された。そこでも1番を目指したのですか?


いや、それが周りの人たちがすごすぎて...。大学では、もう高校生の時から化学オリンピックに出場していたり、何かの領域で研究者として大成するとか、目的意識を持って入学してきている人ばかり。それに比べて僕は、漠然と白衣を着て、化学の基礎研究をするイメージしか持っていなかった。

授業に出ても、試料を量っては、フラスコ回して実験して、結果をまとめて資料を作って、と繰り返す日々。なんのためにここに来たのか、やっぱり別の学部に行けば良かったのかと自問自答をし続けていましたね。夜になると、このまま僕が消えても世の中は何も変わらないし、自分は何も残せていない無価値な存在だなぁと思っていました。


― 当時は、そこまで思い悩んでいたんですか!?


当時だけではなく今もずっと考えています(笑)。ネガティブなんです。けれども、自分が役立った証を世の中に残したいというのは、自身の強いモチベーションなんだと気がつきましたね。

転機になったのは、大学4年生の時に参加した出版甲子園。出版甲子園というのは出版社の編集者が、学生の本の企画を審査して、面白ければ本当に世に出すというイベントだったんです。選択を間違えたかもと思っていた化学の領域だったのですが、せっかくの専攻。これで本を書けないかと思いついて、企画を持ち込みました。

これが、初めての著書「宇宙一わかりやすい高校化学」の出版に繋がり、作家の第一歩に。何もないと焦っていた自分にとって、これは大きかったですね。教育の分野で役に立つものが世の中に出せた。本という形にして残せたのは、社会にも貢献している感覚がありました。その後、修士に進学するのですが、フラスコを回し、実験結果を待つ間は図書館で参考書を執筆するという生活になりました。

ファーストキャリアであるDeNAで学んだこと、できたこと

船登惟希 Yoshiaki Funato


― 作家と院生という二足のワラジ生活となった船登さんが、DeNAに入社したのは何故ですか?


就職を考え出した際、営利活動は不純で嫌だなと思っていました。非営利のNPOも検討しましたが、世の中の役に立っているのに発信が下手なところが多い。そんな時に「チェンジメーカー」という渡邊奈々さんが書かれた本を読んで、社会起業家の方たちの生き方がかっこいいな、と思いました。世の中に貢献しながら、きちんとビジネスも押さえている社会起業家は、自分の目指したい姿に重なったんです。自分もそうなりたい。そのためにはビジネスがわかっていないとダメだと考えて、DeNAのインターン「StuDIG」に参加しました。インターン中、すごいメンターの方に付いて頂いたり、優勝してシリコンバレーに行かせてもらったりと刺激になることばかりで。内定も頂けたので、入社を決めました。


― DeNAではネットマーケティングの部署に配属されたとのことですが、どんなことを学んだのでしょうか?


一番学んだことは、「シンプルに考えること」。これに尽きますね。社内では、「結局、一言で言うと何?」と徹底的に聞かれますし、ぐだぐだ報告すると「つまり?結論は?」というコミュニケーションがビュンビュン返ってくる。だからこそ、シンプルに考えて結論を出す。そして、「何故?」と聞かれた時に答えられる理由をしっかり持つことが大事でした。これは鍛えられた部分ですね。1年半しか在籍しませんでしたが、今でも後輩に就職先としてお勧めするほどです(笑)。


― 1年半の中で、ネットマーケティングの責任者を経験してMVPも受賞されていますが、どんなことをされたのですか?


既存ユーザーのアクティビティを向上させる取り組みの中で、学術分野の研究を取り入れて、成功させたことが評価されたんです。

スピードを求めるネットベンチャーだと、他社の先行事例をすぐに真似て...と陥りがちなんですけど、自分はアカデミックの研究の中に、まだ見えていない答えがあると思っていたんです。調べてみると、CRM(顧客関係管理)は学術分野でも活発に議論が交わされていて、ユーザーをどうセグメンテーションするかとか、何をすべきか、と事例も含めてかなり研究されているんですね。その話を、じゃあうちならどう当てはまるかとシミュレーションして実行したら、数字として跳ね返ってきたんです。それでMVPを受賞できました。

さらに、社内でも浸透させるために、そういった文献や書籍の要約や、わかりやすく噛み砕いたものをエクセルで作って、メンバー全員に送って、こういう分野面白いでしょ?と(笑)。


― そんな活躍をされていたのに、どうして独立の道を選んだのですか?躊躇はなかったのでしょうか?


そろそろ自分のやりたいこと、好きなことを突き詰めてみたいと思ったことが理由です。さきほど話を噛み砕いて、というお話をしたのですが、自分は難しいことをわかりやすく説明することが好きなんですね。結果、「わかった!」と言われると嬉しい。ずっと好きな、学術、教育の分野で多くの人に「わかった!」と言われたい。そう考えて、独立しました。躊躇はなかったのですが、独立後すぐの頃は、上手くいかないと「なんでDeNA辞めたんだろう」と、またネガティブなことを考えたりはしました(笑)。

異職種である参考書作家にも、WEB/IT業界での経験は活きる

― 参考書作家と言うとアナログな印象があるのですが、デジタルな世界で培った知識やスキルは活きているのでしょうか?


人間の脳が、物事をどう理解して、記憶しやすい、活用しやすいハード・コンテンツを考えて、届けることが自分の仕事です。シンプルに考えることはもちろん、ユーザーである読者のことを考えるという点で、ネットマーケティングなどデジタルの世界で培った経験は大いに活きていますね。

参考書作家を名乗っていますが、作るものは教育関連であれば、ゲームでもアプリでも漫画でも良いと思うんです。最近、EdTechなど教育とデジタルの融合が語られる場面が増えていますが、それは手段が違うだけであって、目的によってもっともわかりやすいものを選べば良いと思うんです。ゲームやアプリだからこそ映像を使ったわかりやすい表現ができるねとか、紙媒体って3次元の情報を持っているから、何ページくらいに書いてあったと記憶できるとか、それぞれの良さがある。それらの良さを考慮して、ベストなものを考えています。

もちろん、コンテンツ内容も重要で。たとえば、化学で元素表ってありましたよね。あれは丸暗記するよりも、元素一つひとつを誰が、どのように発見したとか、歴史を知るほうが覚えやすかったりするんです。なので、ただ丸暗記させるわけではなく、発見に至った歴史や研究者と紐づけたりと、そのコンテンツの持っている面白さや楽しさを最大限に引き出す工夫をしています。

そんなハードとコンテンツ内容が噛み合った、最強の学習コンテンツが作れれば、授業も必要なくなるかもしれませんし、授業がなくなった時間分、自分の興味のあることに時間を使ってほしい。サッカーでもいいし、プログラミングでもいいし……。興味を持った対象に対して、とことん探求できる。そんな世の中になるよう、今後も頑張っていきたいです。


― ありがとうございました。WEB/IT業界からのキャリアチェンジの例として参考になると共に、参考書作家である船登さんの活躍で、教育に変化が起きる予感がしました。今後の更なる活躍をお祈り申し上げます。


[取材・文]手塚伸弥

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