「会社から◯km圏内に住めば家賃補助」など、近距離通勤を推奨する会社はWEB・IT業界でも多い。そんな業界において、逆に茨城~東京と通勤に毎日1時間半かけているのがシックス・アパートに勤める早瀬さんだ。そのきっかけと「遠距離ツーキニスト」になるためのポイント、実践ノウハウを伺った。
【プロフィール】シックス・アパート株式会社 製品企画マネジャー 早瀬将一
MovableType.net、Lekumoを中心とした製品企画担当。ShortNoteでは、UI/UX、デザイン、コーディングも担当。個人活動として、インタラクティブ作品やソフトウェアの制作をブログで発表している。
― 茨城のご自宅から東京のオフィスへ、ドアtoドアで約1時間半、距離にて約50kmの遠距離通勤を実践されているのですね。そのチョイスの理由を教えてください。
以前は都内の中野区に住んでいたのですが、子供ができたタイミングで茨城に引っ越しました。一番の理由は、私も妻も茨城出身で田舎育ちだということ。東京の人混みは二人とも苦手な方で、地方のジャスコ(現イオン)とかの方が落ち着くんです(笑)。 常に自然が感じられて、近所に公園がたくさんあり、環境の良いところで子育てをしたいという想いから、都内から茨城へ引っ越すことにしました。子育てという面では、実家の両親にサポートしてもらえるメリットも非常に大きいです。
― 実際に田舎暮らしをしてみて感想はいかがですか?
もともと茨城出身なので田舎暮らしのイメージがあり、ギャップに戸惑うということはありませんでした。実感するメリットとしては、安く広いところに住めること、車ベースで行動できるので活動範囲が広くなること、そして自然が多く安心して子育てができること等ですね。また、私が住む沿線はTX(つくばエクスプレス)沿いなので、快速に乗れば秋葉原まで40分で出られますし、東京までのアクセスは割と気軽なんです。
― 通勤時間はどのように過ごしているのですか?
家にいると子供3人の相手があるので、通勤時間というのは「自分のために使える時間」として、私にとって非常に重要な位置づけなんです。
ブログを書いたり、プログラミングしたり、勉強時間にあてたり……ときどき仕事もしています。それらを実行するためには「40分」のまとまった時間を確保することが重要でして、始発の各駅停車の列車に乗れるように、家を出る時間、オフィスを出る時間、ホームで並ぶ時間…など色々計算しますね。
― ある程度のまとまった時間というのが重要なのですね。
そうですね。秋葉原駅からオフィスまでの間はそれなりに混みますし、10分ほどのタイミングで乗換えもある。その間隔だとブログを書くにしても、勉強するにしても、ちょうどエンジンがかかってきたところでブツ切りになっちゃうじゃないですか。ニュースアプリをチェックしたり、SNSをみたり、スマホで漫画を読んだりするのには問題ないですが、何か生産的な、有効な時間活用ができたなと実感するには、最低でも30分はまとまった時間が必要かなと思います。
― お仕事面で、遠距離通勤をスムースに実現するために工夫していることはありますか?
まず会社の風土の面でいうと、当社の場合は長時間残業が日々あるようなかんじではないので、「帰りやすい雰囲気」というのはありますね。飲み会がある時も、周りの人の方が「終電大丈夫?」って心配してくれます(笑)工夫ってわけではないですが、そういう風土に恵まれているかどうかは重要だと思いますね。
制度の面でいうと、2011年の震災により節電に努める機運が高まったタイミングで、7月~9月の夏場は、毎週水曜日は全社員が自宅作業OKな制度ができました。現在もその制度は継続中です。平日に自宅作業ができるのは、遠距離ツーキニストとしてはすごく助かっています。例えばですが、午前中に地元の歯医者に通い、午後はそのまま自宅でリモート作業……ということが可能になります。そういう日が週に1度あると、計画的・効率的に時間が使えますし、能率も上がると思うんですよ。当社もだんだん家族を持つ社員が増えてきましたし、平日に地元で片づけたい用事って何かとあるじゃないですか。そういうコトが「水曜日ならできる」と思うと、仕事面でも良いリズムが生まれてくる感覚があります。
― たしかに、自宅作業を推奨する制度があると、遠距離通勤のハードルはさらに下がりますね。作業効率を上げるためのツールなども導入しているのですか?
開発系スタッフは、社内コミュニケーションにSlackやGitHubを使っているので、社内にいようと、社外に出ていようと基本的なやりとりはそうした企業内情報共有ツール上で完結することが多いですね。VPNを使えば社内ネットワークにアクセスすることもできますし、Googleハングアウトを使って会議をすることもできます。こうしたツールは、もともと自宅作業・遠距離通勤を推進するために導入したというわけではないですけどね。リモートでも作業しやすい技術・ツールが整備されてきたという環境の変化は実感しますし、「リモートだからできない仕事」というのは特になくなってきているんじゃないでしょうか。
― 一方で、遠距離通勤を実践する上でのデメリットも聞いておきたいのですが。
やっぱり座れないと疲れますよね、体力的に(笑)。普通に考えて1時間半も立ちっぱなしだと、足腰に疲労がたまりますし、周りに人がいて、できることも制限されるわけですからストレスもたまります。通勤区間の全てじゃなくても良いとは思いますが「座れる」というのは大事なことだと思いますね。 始発駅の電車に乗るとか、通勤時間帯をズラすなど工夫次第でなんとかなるルートを選ぶことは大事だと思いますね。
― 今後、遠距離通勤を検討している人に向けて、アドバイスはありますか?
正直、遠距離通勤や自宅でのリモート作業に向いている業種・職種というのはあると思います。私の個人的な経験からですが、受託系の案件が多い制作会社などの場合は、お客さんとのコミュニケーション、社員間のコミュニケーションはリモートだと不都合なケースは多々あると思いますね。当社のようにインターネット系のソフトウェア・サービスを提供している事業会社で、制度・ツールが整い、コミュニケーションがしっかりとれるようになっていれば、極端に言えば週に一度の出社でも成り立つと思います。今後は子育て、介護など様々な理由で遠距離通勤、リモート作業を求めるニーズは高まってくるでしょう。IT系企業が率先して、そうした多様なライフスタイルに柔軟に対応していけるようになると良いですね。
― 遠距離通勤、自宅リモート作業を実現するためのヒントがたくさん伺えました。本日はありがとうございました!
文 = 鈴木健介
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