Ingressで観光振興ができるって本当ですか?――こんなテーマのもとで開催された、『Ingress × 地方自治体のセミナー&トークイベント』の様子をレポート!なんと、イベント参加者の約7割が地方自治体関係者。横須賀市はいかにしてIngressによる地域活性化を実現したのか?
Ingressとは、位置情報に基づいたオンラインモバイルゲームのこと。プレイヤーは参加する際に、緑色の「Enlightened」か青色の「Resistance」の陣営どちらかを選び、「ポータル」と呼ばれる拠点を巡って陣取り合戦を行なっていくゲームです。
このIngressを活用し観光振興を実現しているのが、横須賀市。政府が主要な政策として掲げる地方創生に対し、多くの地域が施策を模索するなか、オンラインゲームという方法を選択し、一定の成果を得ています。
そこで今回、kakeru主催で横須賀市の“中の人”こと古崎絵里子さん、Ingressを開発・運営する、Googleの社内ベンチャー≪ナイアンティック・ラボ≫の須賀健人さんが登壇された『Ingress × 地方自治体のセミナー&トークイベント』の様子をレポート!
特に、須賀さん、古崎さんのパートに注目し、Ingressを活用した地域活性のリアルと横須賀市がIngressの活用に成功した背景、実際に運用を開始するにあたりどのような点に苦労したのか、などをご紹介します。イベント参加者の約7割が地方自治体関係者。地方自治体が大注目するIngressの活用方法とは?
まず登壇したのが、ナイアンティック・ラボの須賀健人さん。Ingressの概要から、世界各地で行なわれているイベントの様子、ユーザー(エージェント)数などをご紹介いただきました。
各地でいろんなIngressのイベントが行なわれており、実際人がすごく動きます。2年前に開催された石巻のイベントでは、60~70人ぐらいでした。その次がDarsana(ダルサナ) Tokyoといって、去年の11月に開催したイベントです。このときにはなんと約5000人のエージェントの方々が東京に集合しました。で、今年の3月に、京都でイベントをやったんですけど、さらに人数が増え、5600人以上のエージェントが集まったんです。だからこのIngressの熱がどんどん加熱してきていて、我々としてもちょっと不安になるレベルで人が増えています(笑)。
各地方自治体にも、Ingressを活用していただいておりまして。岩手県庁さんが、岩手Ingress活用研究会をつくってイベントを開催した結果、県内外から50人以上が参加していただきました。別の事例ですと、福岡県の芦屋町という、博多から車で1時間半以上、北九州からも40分ぐらい離れている過疎の自治体がありまして。で、この自治体の方からご連絡を受けまして、イベントをやることになりました。町に魅力的なものはたくさんあるけど、ポータルになってないから、ポータルを増やそうというイベントだったんですね。で、開催したところですね、なんと57人の方が集まりました。エージェントのみなさんの地元熱みたいなものをIngressによって引き出せたのかな、と思っています。
我々がIngressを表現するときに使うのが、「Ingressという存在が最後の一押しになります」という言葉です。Ingressというのはその場にあるよいものを可視化するツールですので、各自治体が持ってる魅力的なものをIngressを通して人に伝え、さらにゲーム化することで、その魅力が伝わって人が来る。そんな感じのプロセスが見えてきています。
もう一つ、現時点ではユーザーさん、自治体さんが結構自由にグッズをつくっていただいています。で、我々は特にロイヤリティーを徴収していないんですね。なぜかと言いますと、Ingressはそれぞれの方が主人公ですので、それぞれの活動を応援したいなと思っているからです。ですから、我々としては「利益を出すような構造にはしないでね」という風に自治体さんとユーザーさんにお願いしているぐらいで。自治体さんがイベントを行なうときには、ぜひオリジナルグッズみたいなものを製作していただいて。ただ、一応我々の知的財産でもあるため、私までご連絡いただければブランド承認をさせていただくんで、どんどんそういったこともやっていただきたいと思っております。
その他、コンビニエンスストアでの活用事例、ナイアンティック・ラボの今後の展開を結びに須賀さんのパートは終了しました。開発・運営サイドでも、Ingressによる地域活性化は手ごたえを感じているようですね。
横須賀市のIngressの取り組みは、横須賀市と横須賀市商工会議所と京急電鉄が共同で設立した横須賀市集客促進実行委員会で進めています。今回は、横須賀市の集客プロモーション担当の古崎さんが登壇。Ingressに着目した理由から、実際に運用するまでのストーリーをお話しいただきました。
まず、なぜIngressに目をつけたのかというところなんですけど、2014年7月にiOS版がリリースされ、私が知人から紹介を受け、個人的にゲームを始めたことがきっかけです。でも、1人でやっていてもあまり面白くないので、観光課の職員を誘って、教えながら広めていきました。やっていくと、横須賀市のある三浦半島が千葉県の房総半島や静岡県の伊豆半島からリンクが貼られて、人がかなり動いているゲームだということを感じてきたんですね。観光課のなかでも、「観光振興に活用できるのでは?」ということを考え始めたわけです。
導入するきっかけとしては、岩手県さんに先を越されて「あっ、これはまずい」と(笑)。しかし、実際に導入するにあたりハードルもありました。あらかじめ確保している予算がなく、さらにゲームの内容の説明が難しい。当時ゲームはすべて英語だったので。市長や上司に説明するにもまず難しかったです(笑)。で、Googleの社内スタートアップが出しているゲームなので、ライセンスの問題もあり、確認のフローなども難しかったですね。
最初に取り組んだのが、“ガチのエージェント”へのヒアリングです。直接お会いして、まあどういったことをやれば観光として活用できるのか、どういうことをエージェントは求めているのかということを聞きました。アドバイスいただいたのは、Webサイトにルートを掲載することと、世間一般に知られていない観光資源を活用することですね。
じゃあ予算をかけずに何をやったのか、というところなんですが、横須賀には米海軍の横須賀基地があるので外国人の方が多くいらっしゃいます。日本語のポータルですと外国人の方がなかなか楽しめないので、英語表記の併記を申請しました。それからミッション。こういう風に回ったら面白いよというスタンプラリーのようなものをかなりのデザイナーにつくっていただき、シリーズ物としてリリースしました。Webサイトの作成については、私自身がWebデザイナーで、観光課のホームページがあったので、間借りをしてちょっとした特設サイトを開設しました。で、それに合わせて、京急の中刷り広告を掲出。こちらも横須賀市集客促進実行委員会の枠のなかで行なえるものなので、実際にかかったお金は印刷費のみでしたね。
「自治体がIngressを始めるにはどうしたらいいですか?」というお問い合わせをよく受けるんですが、まず担当がIngressを大好きになることが一番重要だと思います。そして、地域のコミュニティーに参加すれば、10人に1人は課題を感じている人が必ずいます。そういう方を見つけるために、まずは自分が地域のコミュニティーに飛び込んでみることが大事なのかなという気がします。
オフ会に積極的に参加して、アイテム集めるとか、フラッシュファーミングというただハックをしまくるだけのイベントがあるのでそちらに参加するとか。フラッシュファーミングは、東京都内では活発に行なわれているようなので、1度足を運んでみるのも面白いんじゃないかなと思います。
最後、一番大切だったのが、上司に説明する根気強さ、「Google+とは」とか、「デプロイとは」とかを、かなりしつこくしつこく説明をして。ただ1度ハマッてしまうと「1ヶ月でレベル8までいっちゃったよ」なんていう上司もいたりして(笑)。だから、説明が一番大事です。周囲を巻き込めばおそらくお金もかからない事業なので、そんなにハードルは高くないのかなという気もします。
他にも具体的な期間限定ミッションの企画や、プレゼントキャンペーンについてお話しされ、古崎さんのパートは終了しました。まずは「自分がIngressを大好きになる」というのが、地域活性化を推進していくうえで最も重要なポイントだといえるでしょう。
地域創生の起爆剤としての側面を見せてくれたIngress。オープンデータ戦略にも見られるように、今後「行政×IT」は一層注目されている分野だといえます。次に行政とコラボレーションするのは、どんなテクノロジーか。今回ご紹介したIngressの事例が、一つのヒントになるかもしれませんね。
文 = 田中嘉人
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