Code For Japan 2015のセッションをレポート。市民が主体となり、テクノロジーを活用して地域課題解決を行なうシビックテックが盛り上がりをみせている。世界でも先進的な取り組みを続けるアメリカの事例から日本が見出せるヒントとは。
市民と行政がタックを組み、テクノロジーを活用することで地域課題を解決する「シビックテック」が日本でも盛り上がりをみせている。
11月8日〜10日の3日間、豊島区旧庁舎で開催された『Code For Japan Summit 2015』。全国でシビックテックに取り組むエンジニアやデザイナー、自治体職員、さらには海外からのゲストらを含め、延べ1,000人近い来場者を集めたイベントだ。
本レポートでは、Code for AmericaのMolly McLeod氏とGitHubのGovernment Evangelist・Ben Balter氏が語ったシビックテックの最前線をご紹介。世界的なトレンド、市民・テクノロジー・行政のコラボレーションから日本のシビックテック運動のヒントを探る。
「行政の効率化は社会正義の問題」
そう語るのは、2014年にカリフォルニア州ロングビーチでデザインフェローを務め、現在はCode For Americaのマーケティング&コミュニケーションチームの一員であるMolly氏。まずはロングビーチにおけるフェローシップの取り組みから紹介した。
「ロングビーチではまず、ごく少数の市民がER(病院の緊急救命室)に頻繁に運ばれている原因救命と改善策を見出すミッションを担いました。データを見てみると、確かに緊急通報の大半が約10%の住所から発信されていることがわかったんです。彼らは複雑な問題を抱え社会的なケアを必要としている人たちでした。
そこでフェローメンバーたちと作成したのがAddressIQというサービスです。このツールは複数の行政の部署からデータを引っ張ってくることで、職員に対して問題の根源を可視化した状態で提示することができます。
また、データを提示するだけではなく、職員・部署間のコラボレーション・コミュニケーションを促します。例えば、ある特定のデータでシニアセンター内での転倒事故が多いことが分かったとします。すると、ビルの検査員が設備を調べたり、保険当局が転倒防止の講習会を開く、と言った具合に。同じような問題解決でも様々な部署をまたいだ形で提供することができるのです。」
Code For Americaは、積極的なアプリケーションの開発も手がけているが、Molly氏は人こそが変化を促す主体であると話した。
「アプリケーションが全てを解決するのではなく、人こそが変化を促す主体であるのです。Code For Americaの活動が持続可能で成長を続けるには、テクノロジーやデザインのベストプラクティスを用いて行政の中に取り込んで活用可能な状態にしなければいけません。」
※Molly氏のプレゼンテーション資料はコチラ。
続いて講演を行なったのはGitHub社のGovernment Evangelist・Ben Balter氏。既にアメリカ全土及び世界中の1,500の政府機関及び、3万人の公務員に使用されているGitHubは、オープンソース、オープンデータ、オープンガバメントに大きく貢献したとして、Code For Americaの2015 Technology Awardを受賞。アメリカではその他スタートアップ企業や個人のシビックハッカーとのコラボレーションなど、積極的なITの活用・投資が続いている。Ben氏はオープンソース、オープンデータ、オープンガバメントに関連したアメリカにおける最先端のケーススタディを紹介した。
▼analytics.usa.gov
アメリカ連邦政府内のスタートアップ《18F》が開発したWEBサイトのアナリティクスダッシュボード。政府関連サイトの利用状況データをリアルタイムで表示し、開発者向けに一括でDLすることもできる。
行政が収集保有する情報を横断的に収集可能になったたことで、情報テクノロジー分野への投資効率の最適化が図られた。さらにオープンソースプロジェクト化されたことで、州や市単位での活用もみられるようになった。
▼data.gov
デベロッパー/シビックハッカー向けの一元化されたオープンデータ公開用のポータル/プラットフォーム。天気やGPSなど、政府が収集している様々なデータを見ることが可能。
固まった仕様ではなく、完全なオープンな形で制作された。シビックハッカーや市民のフィードバックを得ながら、彼らと一緒に開発されたもので、ローンチ後により多くの改善が行なわれ、利用者も増加した。
▼フィラデルフィア市におけるインフルエンザ予防接種を受ける場所の公開
通常は独自の仕様で開発・公開されるが、フィラデルフィア以外でも同じ課題(ニーズ)が存在すると考え、情報公開を前提にオープンフォーマットで開発。シカゴとサンフランシスコが同じスタンダードを採用。不要な開発コストを掛けることなく、市民に対して最適な情報の提供を可能に。
※『オープンソース文化を政府内に根付かせる方法』と題したBen氏の別セッションも合わせた資料はコチラ。
行政とテクノロジーにおける「Open Culture」が根付くには、アメリカでさえ時間がかかったという。しかし一気に普及する原動力となったのはコラボレーションツールの進化だった。
国内でも「Code For X」の活動が各地に広がり、フェローシップ制度に応募する開発者やシビックテックに携わる人々も増えてきている。
先端の取り組みを続けるCode For Americaの事例や国内各地域で活動を続けるシビックハッカーたちの活動報告を直接訊くことができた今回の機会は、開発者、行政担当者たちにとっても大きなモチベーションになったのではないだろうか。
※その他全てのセッションはCode For Japanの公式Youtubeアカウントに随時アップされている。
『地方創生』が叫ばれる昨今、数多くの行政課題・財政問題を抱える日本では、ことさらシビックテックが持つポテンシャルに、今後より大きな期待が持たれることは間違いないはず。いちエンジニア、デザイナーの「キャリア」としてもシビックテックが存在感を示す時代はすぐそこまで来ているのかもしれない。
文 = 松尾彰大
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