2014.05.08
テクノロジーを駆使して、地域に貢献する|Code for Japanの試み

テクノロジーを駆使して、地域に貢献する|Code for Japanの試み

市民が主体となり、テクノロジーを活用して公共サービスなどの地域課題解決を行なう「シビックテック」。デジタルクリエイターの活躍のフィールドは、WEB・IT業界のみならず、行政や市民を巻き込んだ国や地域にまで及んでいる。

0 0 28 3

シビックテックの潮流

「シビックテック」という言葉をご存知だろうか?市民が主体となり、テクノロジーを活用して公共サービスなどの地域課題解決を行なうこの取り組み。

行政に対して優れたエンジニアやデザイナー、起業家といった面々が手を貸し、地域の課題を自分たちの手で解決するという、「新しい行政と民間の協働の形」が始まっている。

日本でもCode for Japan(以下CfJ) という団体が昨年10月に設立された。「ともに考え、ともにつくる」というテーマの下、様々なバックグラウンド・所属先の異なるメンバーがフラットかつオープンに地域の課題を解決する為の場作りを行なっている。

今回お話を伺ったのは以前CAREER HACKでも「Hack for Japan」の活動を取材させていただいたCfJ代表の関治之さん。

エンジニア・デザイナーの活躍フィールドは、WEB・IT業界のみならず、行政や市民を巻き込んだ、国や地域にまで及んでいる。そう語る関さんに、シビックテックに参加することで得られる経験、行政・市民・デジタルの領域に関わる人々に期待されていること、抱える課題を伺った。

ボランティアだけでは、大きな変化を生めない。

― さっそくですがCfJを設立したきっかけは何だったのでしょうか?


以前からHack For Japanなどの活動も含めて、技術を使って地域の課題解決を様々な形で行なってきました。

しかし、被災地支援にしろ何にしろ、「ボランタリーな努力だけでは、長期的な変化・改善には結びつかない」という課題意識を、これまでの活動を通して抱いていました。ピンポイントで何かの役に立つことはできますが、何かを劇的に、根本から変えるということは非常に難しい。

関治之さん

Code for Japan 関治之さん

特にネックだったのが運営主体の不在です。作って終わり、その場に行って終わりではなく、継続的な運用が非常に大事で、その部分を担う役割が必要だと感じました。東京でどんなにすごいエンジニアを集めても、なかなか運用フェーズまで携わることは、既存の枠組み・組織では難しかったんです。

そんな時、Code for Americaのやり方を知ったんですね。彼らは行政と市民を巻き込んで、構造的な変化を生み出していた。そこで、彼らのエコシステムのあり方などを勉強させてもらい、日本でもCfJを立ち上げました。


― 日本でも少しずつシビックテックの話題が聞こえ始めましたが、アメリカではどんな事例が生まれているんですか?


例えば、アメリカにはフードスタンプ(低所得者向けに行われている食料費補助対策制度)という仕組みがあるのですが、そのシステムが非常に煩雑で、更新手続きがうまくできずに、食料を突然もらえなくなるということが起こっていたんです。

その課題に対して、SMSなどで情報を届けるシステムを導入し、ユーザーも行政側も管理・利用しやすくなり、より効率的に行政手続き・サービス提供ができるようになったり。

また、ボストンでは居住地によって通える公立学校が変わるのですが、それが非常に探しにくいという課題がありました。みな分厚い本を読み込んで、条件にあった学校を見つけて、役所でまた煩雑な入学手続きをして…と。それを、すべてウェブサイト上で検索から応募手続きまでできるようにしたり。

あと多いのが、311システムと呼ばれる、市民自身が携帯電話などを通じて行政に対して要望を伝えたりするものですね。こちらは日本でも「ちばレポ」という取り組みが既にスタートしています。

― 今冬の大雪被害の際、長野県佐久市の市長がTwitterのハッシュタグを使って、災害状況の共有・発信を市民の手を借りて行なっていたことに近いですね。(※参考記事:大雪の佐久、市長のツイッター活用に称賛の声


キャリア選択の一つになり得る「フェローシッププログラム」。

― CfJが取り組み始めたフェローシッププログラムとは?


地域の課題解決とシビテックの活用に高いモチベーションを持った人材の派遣制度です。

アメリカでは広がりを見せている仕組みですが、日本では初めて。福島県浪江町への派遣プログラムとしてスタートしています。今回募集しているフェロー人材は3名。キャプテンと呼ばれるプロジェクトマネージャーとエンジニア、デザイナーです。彼らは復興庁の職員として現地に1年間滞在し、様々な方と協力しながら地域の抱える課題の解決をはかっていきます。


― エンジニアやデザイナーがフェローとしてそういう活動をすることで、自身のキャリアにどんな影響をあたえるのか?という事も考えてみたいです。
例えば、説明会に参加されている方の持つ動機ってなんなのでしょうか?


関治之さん

様々ではあるんですけど、復興支援をお手伝いしたいという思いは多くの人にあると思います。ただ、それが単なるボランタリーのようなものではなく、社会を変えるチェンジメーカーとして、チャレンジが出来るというところに意義を感じている方が多いと思います。正直、給料はそんなに高いものではないですし。

あとは、チャンスと捉えている方もいるのではと思います。問題はとても複雑ですが、職員としてITを導入する新たな仕事をCfJと一緒に、1年にわたって今まで日本で前例のない仕組みをつくっていく事自体が、おそらく今後の仕事、自身のキャリアを考えていく上でも貴重な経験になると。

CfJとしても、「こんな人材がこんな問題を解決して、次のキャリアとしてこんな道に進んだ」という前例・新しいキャリアパスのようなものを提示できればと思っています。


― 求める人物像というか、どういう人が向いているかという点ではいかがでしょうか?


スキル面では、キャプテンはアジャイル開発のプロジェクトを何年か経験している人、エンジニアフェローはフロント側のスキルが高い人、デザイナーはグラフィックだけでなく、UI/UXも含め手がけられる人が理想です。

ただ一番重要なのは自分で仕事を作れる人だと思っています。どちらかと言うと起業家タイプといいますか。

自分は技術者だから、プロマネだからといって、それに固執するのではなく、とにかく現場に入ってみんなの声を聞いて…やれることをやっていくと。調整力というものが最も求められると思います。また自分なりの考え方を持っている人、例えばCfJ的な考え方とは何なのかとか、シビックテックとは?市民を巻き込むには?とか。自分なりの哲学みたいなものがある方が適任だと思います。


― 「自分で課題を見出し、仕事をつくって成果を限られた時間で出す」そんな人材はどんな場所でも活躍できそうですね。


市民・行政・IT業界の人々は相互理解を深めるべき。

― よりマクロ的な視点の質問をさせてください。いま行政(国・地方公共団体)・市民・エンジニア、クリエイター(WEB・IT業界)が抱える問題点を挙げるとすると、関さんどんなものを思い浮かべますか?


前提として「お互いがお互いをわかっていない」という状況があるのかもしれないですね。

まず行政に関して、例えば「オープンデータを公開します!」と言ったりしていますが、もっと俯瞰的に見た「オープンガバメント」の文脈に沿ったデータの公開には至っていないと感じます。

雇用創出やビジネス、防災など、分野によってはデータを使う動きが出ていますが、多くはデータを公開しているだけの状態。それはひとつ、政府・行政側の課題としてあるのかなと。

市民側の問題でいえば、よく海外と対比して、シチズンシップがあまりないと言われていますよね。政府を自分たちで作っている、自分たちも政府の一員だという意識の低さ、それは投票率の低さにも現れていると思いますが…。

エンジニア、デザイナーになると、最近はCfJのような活動に興味を持っていただける方も増えてきたんですけど、アメリカに比べると政治のわかる方々が少ない。例えばアメリカや英国だと、政府のCIOの技術レベルがすごく高いんです。

ヴィヴェク・クンドラはワシントンD.C.のCTOを務めて、オバマ政権ではCIOを務めた人物ですが、その後セールスフォースに席をおいて活躍している。そんな感じで、民間と政府を行ったりきたりしている例って結構あるんです。


― 先日、米・ライス元国務長官がDropboxにジョインされたニュースも大きく報じられていたのを想起しました。


アメリカではそれほど珍しい話ではありません。で、それって結局ロビー活動にもつながっていくんです。

例えばアメリカ政府が普通にGitHubのリポジトリを持ってたりするんです。GitHubの中にはHead Government Geekという役職があって行政とのつながりをもってたり。

日本では、上場している大手メーカー系の企業は当然そういう活動を経団連などを通じて行なっていますが、WEB・ITの企業となるとまだまだ。近年はヤフーや新経済連盟なども出てきましたが、これからは、もっと現場のエンジニアが興味を持っていくこと。要は政治はちょっと違うと思っている人がきっと多いんですね。めんどくさいことには関わりたくないと。その線をいかに超えていけるかが大事かと思います。


― なるほど。最後に、CfJの活動における手応えと今後についてどうお考えですか?


立ち上げから1年せずしてフェローシッププログラムをスタートでき、手応えは非常に感じています。設立当初は2年目に行なう計画でしたので。

また、Code for X …例えばCode for Kanazawaなど地方を中心に10以上の団体が生まれています。準備しているところを入れれば、30以上。そういう意味では、テクノロジーを駆使して行政・市民の課題を解決することを求めている人、やりたいと思っていた人がもともと多かったんだなと感じています。

そこでもちろん重要なのは、継続性です。そのためにも活動がビジネスや新しいエコシステムの創出にまで昇華することも目指していかなければいけませんね。

CfJはCode for X、行政、市民、デジタルクリエイターたちを様々な形で支援し、シビックテックが一層盛り上がるように活動していきたいと思います。


[取材・文] 松尾彰大



編集 = 松尾彰大


特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから