20代の女性起業家として知られる関口舞さん。会社員時代の挫折、そして起業のきっかけについて伺いました。9枚の画像で2015年を振り返ってInstagramに投稿できる「#2015bestnine」、そしてマッチングアプリ「nine」の裏側には関口さんの原体験も?
Tinderをはじめ、日本でもマッチングサービスが流行の兆しを見せている。そのなかでも今回注目したのが「nine」だ。
これは「Instagramに投稿した画像9枚」をもとに、感性を通じて見知らぬ人同士がつながれるマッチングアプリ。じつは事前のサインアップで世界約13万人、現在もユーザー数を伸ばしており、アメリカやインドネシアなど海外で成長しているのも特徴だ。
海外ユーザーにリーチした仕掛けもおもしろい。じつは、オバマ夫人やFIFAワールドカップ、スヌーピーなど公式アカウントも投稿した「#2015bestnine」(7日間で約1500万人が投稿)というInstagramのキャンペーンを基点にしているのだ。同キャンペーンの参加者に承諾を得た上で「nine」への登録を促す導線を用意した。
この「#2015bestnine」と「nine」を仕掛けたのが、関口舞さんと松村有祐さん率いるスタートアップ「Lip Inc.」。今回は関口舞さんにお話を伺ったのだが、じつは中学時代に2ちゃんにハマるなどネットにどっぷりと浸かってきた関口さん。オンラインだけではなくオフラインでの人間関係、交流においても関心を持ち、企画に反映させる。彼女が「人との出会い」にこだわる理由とは? そして彼女の人生を決定づけた出来事とは? 「起業家 関口舞」に迫る。
― 起業家として注目される関口さんですが、過去を振り返って「ここが人生のターニングポイントだった」ということはありますか?
大学を卒業して大手の広告会社に新卒入社したのですが、じつは体調を崩して約半年で退職してしまって…そこがターニングポイントだったかもしれません。
新入社員をちゃんと教育してくれるすごく良い会社だったのですが、逆にそれがすごいストレスになってしまったんです。 新人はできることをやればOKという恵まれ過ぎた会社員生活が本当に辛くなっちゃって。
毎日「今日も何もできなかった」と落ち込んで眠れなくなって、だんだん呼吸が浅くしかできなくなって。体調も崩しがちだったし、会社でも「ちょっと変わった人」と見られるようになっていきました。正直、すごく人間関係を気にする方なので本当に申し訳なくて…みなさんと仲良くやりたかったのにごめんなさいって。
― 起業されている方なので、勝手に精神的にもタフで…と想像していました。
わりと繊細というかまじめで…って自分で言うなって感じですね(笑)やっぱり新入社員だし、ちゃんとしなきゃってずっと思っていたんですよね。でも、どうしても上手くやれなかったですね。
よく実家の母に泣きながら電話していたし、学生時代の友だちは「さっさと会社なんか辞めちゃえ」って言ってくれたけど、そう簡単じゃない。実際、今まで生きてきたなかで一番か二番目に辛かった時期でした。 「会社を辞める」って美談になりがちじゃないですか。そのあと起業したら「かっこいい」とか言われて。でも、悲しい側面もある。みんなに出来てなんで私だけ会社でやっていけないんだろうって思いつめていました。
ちょうどそういったタイミングでお医者さんから肺に水がたまる肺水腫という病気と診断されました。症状は大したことなかったのですが、「もしこのまま悪化したら呼吸ができなくなって死んじゃうのかな…私」そんな風に自分自身で思ったらすごく怖くなっちゃって。幸い初期だったので完治しましたが、 「いつかやろう」って思っていたら、いつまでもやりたいことはできないんですよね。明日生きているなんて限らない。そう思って会社を辞めることにしました。
― その後、起業するという道につながっていくわけですね。
はい。将来的にはベンチャーに携わりたいと思っていたので、学生時代から起業家やベンチャーの知り合いが多くいたことは本当に救いになりました。尊敬している方が経営する会社で、企画のお手伝いをさせていただき、そこから私自身も就活系メディアを立ち上げ、起業につながっていったという感じですね。
― なぜ、起業だったのでしょう。起業って精神面でも大変なイメージがあります。
転職にしても、結局どういった配属か、誰と働くかわからないですし、何より 起業しようと決めた時、勇気とか全然いらなかったんですよね。「よーし、とりあえず船出だ!海賊王になるぞ!」という感じで…少年漫画のヒーロー的な思考とか冒険とかが大好きなんです(笑)
いろいろな人から「起業は辛いことの連続」「絶対やめたほうがいい」とも言われました。でも、起業してから2年くらい経ちますが、会社員時代よりも辛いことって今のところないんですよね。
もちろんスタートアップなので取引でモメてしまったり、サービスを閉じなきゃいけなくなったり、大変なことはあります。ただ、いろんな壁にぶつかるたびに「ちゃんとリスク対処しよう」「成長の余地がある」「もっとかんばろう」って思える。 失敗したって「全部自分のせいなんだ」と言えることが幸せなのかもしれません。
― 「女性が20代で起業」ということで注目される反面、偏見があったり、バッシングがあったりはありませんでしたか?
注目してもらえるうちが華ですし、ありがたいという気持ちが大きいですね。それで多少誤解を生む側面があったとしても我慢です(笑)
…もちろん本音をいえば「女の子なのに大丈夫?」と言われることもあって。 メラメラと志が燃えているんですけど、表に出づらいから、みなさん心配して言ってくださっているのかもしれません。
ただ、ちょっと上手くいったら「女の子はいいよね」って言われたり、「女の武器を使ってうまいことやっているんじゃない?」と見られたりすることもありますが、世界中で使ってもらえるサービスをつくろうと思ったらそんなに甘くない。だから、 結果を出すしかないのかなって。
たとえば、私が40代、50代になった時、もう「若い女社長」とかで注目してもらえなくなって。その時、もし私がFacebookの創業者だったら、「女社長」とは言われず、「Facebook創業者」と言われると思うんです。そう言ってもらえるようなモノが作れるか。 プロダクトで勝負していこうって自分の中ではすごくフラットですね。
― 関口さんはこれまでずっと「マッチング」や「人との交流」にこだわってきましたよね。その理由とは?
全てにおいてですけど、基本的に「人に会って話を聞く」って一番信頼しているんですよね。あとは ネットであれ、現実世界であれ、「生の人」が本当に体験して発信していることがおもしろいし、興味があります。私自身、新卒入社で失敗をしてしまったことも大きいですね。表面的な情報にしかアクセスできず、良いところしか見ようとしなかったから。
― みんなが本音でぶつかっていたり、語れる場が好きだったり?
そうかもしれないですね。それも「マッチング」へのこだわりにつながっているのかな
― 日本だとまだまだ「Webで知らない人と会う」ことに抵抗感を持つ人もいます。
アメリカだと若い人が比較的カジュアルに使っていますが、日本だと「ネットでの出会い」っていうと身構えちゃう人が多かったり、婚活、恋活っぽさがあったり。それこそ少し前まで「援助交際の温床」みたいなネガティブなイメージもありましたよね。
でも、どんどん気が合う人を普通にネットで見つけて友だちになったり、仕事につながったり、もちろん恋人になってもいいし、親友を見つけてもいいし。 「やっぱりネットっていいツールだね」ってなっていくと思いますし、そうしていきたいです。
そう思った時に、いきなり「あなたの顔写真で」とか「年収を書いて」だとハードルがあがってしまうので、既にネットで公開しているインスタでやろうというのが「nine」が狙っているところですね。
― 最後に、今後のマッチングサービスの展望、取り組みたいことなどあれば教えてください。
たぶん世界でも、日本でももっと「ネットでの出会い」は広がっていくと思います。ただ、つながりが増えれば増えるほど人生が豊かになるわけじゃない。ヘタをすると「とりあえず知り合っただけの人がただ増える」という世界になっちゃうんじゃないかなって。1回会ってお茶して、「もうこの人はいいや。おしまい。次の人…」と、どんどん薄っぺらい関係が増えても、それって本当に幸せな世界なのかなと思うんです。たとえば、 いま既に自分がつながっている人、いま持っている関係性をどう深めるか。知り合いがどう友だちになるか。友だちがいつ恋人になるか。そっちにイノベーションが起きるんじゃないか、何かイノベーションが起こせないか、考えていきたいですね。
― より濃い関係、つながりにも注目するということですね。関口さん自身が人間関係について真剣に考え、壁にぶつかったこともサービスに反映されているのかもしれませんね。nineの成長、そして今後の展開、とても楽しみにしています。本日はありがとうございました!
文 = 白石勝也
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