2021.09.15
ガチでスタートアップの役に立つメディアを。平田智基が『スタタイ』に込めた想い

ガチでスタートアップの役に立つメディアを。平田智基が『スタタイ』に込めた想い

ポッドキャストの書き起こし・翻訳記事など、ほぼ毎日更新されるスタートアップ向けメディア『スタタイ』。2021年7月には「スタタイDB」もリリースし、スタートアップ・VCの情報源として注目される。East Venturesで働く平田智基さん(24)が一人で運営する。そこに込められた思いとは?

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▼全2本立てでお送りいたします。
前編:ダメ学生だった僕が、松山太河さんに拾ってもらうまで。Twitterで人生が一変した話
後編:ガチでスタートアップの役に立つメディアを。平田智基が『スタタイ』に込めた想い

リリースしてもPRできない、そんなスタートアップの味方に

ここからは『スタタイ』のお話を伺えればと思うのですが、どんな経緯で始まったのでしょうか?

スタートアップ業界全体に役立つことがしたい、そんなシンプルな思いがきっかけとしてありました。

とくにシードやアーリーのスタートアップってすごい技術やサービスであっても、新聞やテレビなどのメディアに取り上げられることはほとんど無いし、取り上げられたとしても届くべき人に届くかといえば微妙。

自分たちが流したいタイミングでPRできるプラットフォームはいくつかありますが、料金が高いことが多い。たとえ数万円でも、シードのスタートアップからすると苦しい。それなら自分でスタートアップ業界の人たちが多く集まる場をつくりたいと思うようになりました。

そして、前回お話した「中国企業手帳」と「企業ライブラリー」で、ある程度は多くの人に見てもらう仕組みも見えてきていました。それをスタートアップ向けにブラッシュアップしていこうと思いました。

+++「スタタイ」を運営する平田智基さん

「手に入れづらい情報」をテキストで届けていく価値

PRのプラットフォームを目指して始めたとのことですが、現状だと海外の翻訳記事、ポッドキャストの書き起こしも多いですよね。その理由とは?

いきなり「スタートアップ向けのリリース情報、PRが流せるプラットフォームをつくりました」と言ったところで、誰も情報を入稿してくれないですよね。

そこで、まずはちゃんと信頼をしてもらう、注目を集める、カタチを整える必要があると考え、メディアを運営することにしました。

僕自身がコラム的に海外スタートアップの情報を出すのもいいかもしれませんが、おそらくすぐにネタが切れてしまうなと。さらに自分のレベルは有名なテックメディアに勝てるはずもない。「質を担保しつつも、量も担保できる」と考え、海外ブログなどの翻訳をやろうと決めました。

+++「スタタイ」では、海外の投資家、起業家たちの視点、海外テック・スタートアップの動向も積極的に発信している。

ポッドキャストの書き起こしは、後からスタートしているのでしょうか?

そうですね。ログミーさんが先行してやられてきた領域だと思うのですが、「動画や音声をテキスト化する価値」ってあると考えていて。

海外だとSpotifyと契約しているポッドキャストクリエイターの配信は、自動で書き起こしが付いてくるものもあるほどです。

いずれにしてもポッドキャストは最後まで聞いてもらえるケースってかなり少ないと思っていて。なので、テキスト化は役に立つと思いました。

ちなみにきちんと補足しておくと、翻訳にしても、ポッドキャストの書き起こしにしても、ちゃんと許可を得てやっています。

+++

取り上げるコンテンツを選ぶ基準などはあるのでしょうか?

一人でやっているので、完全に「自分軸」ですね。自分で読んだり、聞いたりして発見があるか、学びになるか。ただ、ひとつ意識しているのは、仮にタイトルがすごくキャッチーでも中身が無いものはやらないこと。たとえば、「PMFとは」みたいなタイトルの記事って注目を引くかもしれませんが、中身がなければ、結局誰の役にも立たないですよね。むしろ、読者の時間をとってしまった分マイナスかもしれない。

翻訳も、書き起こしも、やってみると死ぬほど大変。なのでバズらせたいみたいな気持ちだけじゃやってられない。「これは絶対みんなに知ってほしい」という気持ちがないと心が折れてしまいますね(笑)

海外スタートアップのリサーチの入口に。「スタタイDB」立ち上げ

2021年7月には、「スタタイ」から派生した新サイト「スタタイDB」もリリースされています。どういったものか説明をお願いしてもいいでしょうか。

そうですね。わかりやすくいうと、海外の有名VCがどういった企業に投資しているか、その投資先スタートアップの事業内容が日本語で知れるデータベースです。おいしいところだけ集めている感じです(笑)

もう少し詳しく説明すると、Sequoia CapitalやY Combinator、Andreessen Horowitzのような誰もが名門だと認めるVCだけを30社程度厳選し、彼らの投資先をまとめている海外スタートアップデータベースです。

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おそらく海外のスタートアップを調べる時によく使われるのは、「CrunchBase」です。ちゃんと利用するには年間3万円以上かかるとはいえ、課金している方も多くいます。

ただ、資金調達額や投資家などを網羅的に検索できる一方で、肝心の事業内容についてはほとんど説明がありません。リサーチする人がもっとも知りたいのは事業内容なので、ないなら自分でつくろう、と思ったのがきっかけでした。

スタタイDBで掲載しているすべての企業には、日本語で事業内容をできる限り詳細に記しています。また、プロダクトがどんなものかを理解するにはデモ動画を見るのが手っ取り早いので、YouTubeからデモ動画や解説動画を引っ張ってきて埋め込んでいます。

現状では日本語で読める海外スタートアップデータベースはあると言えばありますが、法人向けのものがいくつかあるだけ。個人が利用しやすいものはありません。Notionであればカンタンに見やすく、無料でポップにつくることができる。こうすることでよりたくさんの人に手に取りやすいと考えました。

海外スタートアップのリサーチの入口になるデータベースとして使っていただけたらうれしいです。

もっと間口を広げていくために。

最後に『スタタイ』運営に込めた思いがあれば教えて下さい。

もっと業界の間口を広げていきたいという思いは強くあります。

もともと僕自身、大学時代に散々遊んだ後、23歳でスタートアップ業界に足を踏み込んだので、若手が多いこの業界の中では遅い方です。もちろん最初はVCにも、スタートアップにもまったく詳しくなかった。だからこそ思うことでもあって。

新参者にとっては、スタートアップ用語とか、固有名詞などの情報が整理されていなくてキャッチアップが大変だったりします。

他にも、会計やファイナンスの知識もしっかり学べる場所にしていきたいという思いもあります。たとえば、一言で「企業価値」といっても、そこにはちゃんと計算式があるわけですが、意外と知らないままに使ってしまうケースが散見されます。

でもこれはある程度仕方ないことだとも思っていて。若いうちからやりたいことをやるために起業して、自分の時間のほとんどをそこに注ぎ込む人がほとんどなので、そういう固い勉強は後回しになりがちです。そこで、スタタイがスタートアップに興味を持った人がとりあえず訪れる場所になれたら、勉強のハードルを下げられるはずだと思っています。

まだまだ構想段階ではありますが、『スタタイ』版のWikipediaをつくりたいんです。スタートアップ用語から会計やファイナンスなども含めて、起業を考えてる人が知っておくべき知識や情報を全てコンテンツにして出していきたい。そのためにも僕自身もっと学んでいきますし、将来的には各業界のプロフェッショナルにもお力添えいただきたいと考えています。

もちろんすでに役立つサイトや情報もたくさんありますが、より手に取りやすいカタチで提供し、もっとスタートアップのことを知ってほしい。リテラシーを高められる場所と言ったらおこがましいかもしれませんが、スタタイとして作ったコンテンツをきっかけに新しいアイデアが生まれたり、良い会社が生まれたらこんなに嬉しいことはありません。

(おわり)


文 = 白石勝也
取材 = 野村愛


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