CS部門において「カスタマーサクセス」を実践する3社が集結した『カスタマーサクセスナイト』の様子をレポート。カスタマーサクセスとは何か?カスタマーサポートとの違いは?CSの常識を覆す「カスタマーサクセス」について熱く語られた夜の様子をお届けしたい。
「カスタマーサクセス」という言葉を耳にしたことがあるだろうか?
これまで、CS(Customer Satisfaction)を担う職種といえば顧客からの問い合わせに対応する「カスタマーサポート」が一般的。同時に、"受け身の仕事”という印象が強い。
そういったCSの常識を覆そうとしているのが、AirbnbやUber、Boxといった海外スタートアップだ。核にある概念こそが「カスタマーサクセス」である。
今回開催された『カスタマーサクセスナイト』では、国内でカスタマーサクセスを実践する3社が集結。カスタマーサクセスとは何か、カスタマーサクセスを実践するうえで欠かせない考え方とは?カスタマーサクセスについて熱く語られた一夜の様子をお届けしたい。
<スピーカー>
株式会社KUFU(SmartHR) 高橋昌臣
株式会社グッドパッチ(Prott) 長谷田貴史
ヴェルク株式会社(board) 田向祐介
<ファシリテーター>
株式会社KUFU 宮田昇始
日本では「CS=カスタマーサポート」という考えが大多数を占めるなか、ここ数年、海外を中心に浸透してきた「カスタマーサクセス」という概念。その概念をいち早く取り入れ、急成長を遂げてきた企業はカスタマーサクセスをこう定義する。
「これは、今まで体験した中で最も優れたサービスですか?」という質問に対して、必ず「はい」の回答を得る。
-「Box」カスタマーサクセス採用ページより
「サポートではなく、成功のプランを設計してあげる。それがカスタマーサクセスの役割だ」
-「Kaizen Platform」オフィシャルブログより
これらをふまえ、イベントではカスタマーサポートとカスタマーサクセスの違いを以下のように図説された。
カスタマーサクセスとは、顧客を成功に導くことが最大の目的。ユーザーの潜在的な悩みに対し、能動的にアプローチし、解決する。そして、将来的に自社の顧客になってもらう。攻めのスタイルでユーザーの悩みを解決してあげるのがカスタマーサクセスだ。
そして、カスタマーサクセスを語るにあたって欠かすことのできないツールがある。それが顧客管理サービスの『Intercom』だ。Facebookのマーク・ザッカーバーグも出資するなど、注目を集めているサービスのひとつで、登壇した3社とも『Intercom』を活用している。
最大の特徴はチャットサポート機能。これまでは、ユーザーからの問い合わせに対し、電話かメールで対応するのが一般的だったが、『Intercom』を使えば即座にユーザーとコミュニケーションを図れる。またチャットを送ってきた相手と、自社サービスのユーザー情報との紐付けも行なえるため、相手の状況を細かく把握したうえでの迅速な対応が可能に。カスタマーサクセスを力強くバックアップしてくれる。
ユーザーとやり取りしている担当者だけではなく、社内のメンバー間で会話できるのも地味に便利な機能。ユーザーへの返答を裏側でこっそり考えることができます。あと、よくある質問に対してはテンプレートを用意しておくことができたり、カスタマーサポートの対応状況を簡単にレポーティングできたりする。こういった機能にすごく助けられています。(宮田氏)
こうしたツールが登場したことで、少ない人数で効率よく顧客対応ができる。『Intercom』導入の最大のメリットはそこにあるのかもしれない。
カスタマーサクセスの重要性はここ数年で説かれる機会が増えつつあるが、導入による具体的な効果が語られることはまだまだ少ない。今回のイベントに登壇した3社はカスタマーサクセスを取り入れることで、社内にどのような効果があったのだろうか?
入退社の書類作成、社会保険の役所の手続きなどの労務手続きを自動化するクラウド型ソフトウェア『SmartHR』を運営する株式会社KUFUの高橋氏は、カスタマーサクセスのメリットを次のように語る。
僕たちは15日間の無料トライアルを行なっていることもあって、その期間中に問い合わせをいただくことが非常に多いです。そのトライアルを経て、実際に契約いただけるのが何よりも嬉しいですね。カスタマーサクセスチームが営業チームと一体となり、サービスをグロースさせている感覚がとてもおもしろいんです。
“トライアル→契約”という一連のプロセスが出来上がっているKUFU。その裏にあるのは、プロアクティブ(先を見越した)なサポートだ。たとえば「従業員を登録しませんか?」というサポートチャットを送信したり、テキストだけでは伝わりづらい作業では説明を手厚くし、実際の手順をキャプチャーした動画も見せたりしているという。そういった対応が実を結び、契約企業数の増加につながっているそうだ。
アプリやサービスのアイデアを素早く形にできるプロトタイピングツール『Prott』のカスタマーサクセスを担当する株式会社グッドパッチの長谷田氏は、仕事の醍醐味について話してくれた。
Prottの場合、”プロダクトを作る前段階で失敗したくない”、“最終的なクオリティを高めたい”といった問い合わせをいただくことが多いです。その人たちに対して、単純なサービスの使い方だけでなく”プロトタイピング”という考え方を広めることができます。社内にプロトタイピングの考え方を普及させることが出来た、と感謝されると嬉しいですね。あとは自分たちも気づけていない使い方を教えてもらえるのも、カスタマーサクセスの楽しさかもしれません。
グッドパッチでは、ユーザーの声をもとに新機能の開発に至るケースも珍しくありません。ただし、全ての声を鵜呑みにするのではなく、週に一度、エンジニアやプロダクトマネージャー、セールス、マーケターそしてカスタマーサクセスのメンバーを集めた「フィードバックミーティング」を実施し、ユーザーからの要望を踏まえて機能開発の優先順位付けを行なっているそうだ。
クラウド型バックオフィス業務・経営管理システム『board』を運営するヴェルク株式会社。カスタマーサクセスの担当が田向氏一人という驚異の体制で運用しているが、対応から契約につながることも多いという(実際にKUFUはヴェルクの対応を参考にしているという)。では、なぜヴェルクの問い合わせ対応は定評があるのか。そのウラにあるのが、“回答時間の公開”だ。
ユーザーから”メールだといつ返事が来るのかがわからない”と言われたことがきっかけで回答時間も公開しました。当時、回答時間を公開しているサービスがなかったので良い口コミになりましたね。“これが噂の即レスサポートか”と(笑)
回答時間の公開は一見、リスクに思えるかもしれない。しかし、データをきちんと公開することでユーザーは安心し、自社のサービスに対して良い印象を抱いてくれる。また、田向氏はさらに一歩踏み込んだコミュニケーションを意識しているという。
ユーザーは自分の要望を的確に言えているとは限らないので、そこは突っ込んで聞くようにしています。その結果、『この会社なら信頼できる』と思われ、契約につながっていますね。また、回答時間を公開していると、ついついその数字に縛られてしまう。その結果、何の情報もない回答をしてしまいがち。それはユーザーのためにならないので、一発で納得してもらえるようにスクリーンショットを使って丁寧に回答することを心がけています。
多くの企業が出来ていない、回答時間の公開と一歩踏み込んだコミュニケーション。これが、ヴェルクのカスタマーサクセスが評価される所以だろう。
さまざまなサービスが誕生している現在、受け身の姿勢で問い合わせに対応しているだけでは、他のサービスのなかに埋もれてしまうだけ。攻めのスタイルで、能動的に潜在的な悩みを解決していく。企業にはこういった姿勢が求められているのではないか。CSの常識を覆す、カスタマーサクセス。今後の動向にも注目していきたい。
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