2016.08.30
デザイナーはNPOと世の中の橋渡し役になれる|サイカンパニー 生駒浩平

デザイナーはNPOと世の中の橋渡し役になれる|サイカンパニー 生駒浩平

NPOや社会貢献に、デザイナーがスキルを活かし関わっていることを知っているだろうか? サイカンパニーの生駒浩平さんは、かものはしプロジェクト、カタリバ…数々のNPOのサイトやパンフレットを手かげてきた。NPOの活動を支え、信頼を築いてきた生駒さんと共に、社会のためにデザイナーができることを探る。

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デザインのスキルを活かし、NPOと共に働くという選択。

デザインのスキルをNPOや社会貢献に活かしていく。その先駆けとなるデザイン会社がサイカンパニーです。同社を仲間と立ち上げたのが、デザイナーである生駒浩平さん。

「かものはしプロジェクト」ではWebサイト・パンフレット制作を担当。その他にも、教育支援をしている「カタリバ」や子どもの貧困・教育問題の解決に取り組んでいる「チャンス・フォー・チルドレン」などNPO関連のデザインをメインで手がけてきました。

それも無償のボランティアではなく、デザインに対価が支払われるプロジェクトとして。サイカンパニーにはNPOから厚い信頼が寄せられています。

     

「デザイナーのスキルは、社会課題の解決に役立てることができる」


こう語る生駒さん。その言葉に込められた思いに迫りました。


<プロフィール>
生駒 浩平 (イコマ コウヘイ)

サイカンパニー アートディレクター/デザイナー
1982年、東京生まれ。広告会社にてグラフィックデザイナーとして約5年間つとめ、2007年頃からNPO/NGOのデザインを手がける。2009年に退社後、1年半の世界一周へ。2012年、NPO/NGOに特化したデザイン会社サイカンパニーを設立。現在数多くのNPO/NGOのグラフィックやWEBデザインを手がける。

NPOはデザイナーのチカラを求めている

      

生駒さんの写真


    

ー 最初に、NPOにデザイナーとして関わるようになったきっかけから教えていただけますか?


デザインには人の心を動かせる可能性がある。そう身をもって知ったことがきっかけですね。もともとは休日を利用してボランティアでNPOのチラシやパンフレットなどデザインのお手伝いをしていたんです。

その中で、デザイナーの「伝えるチカラ」はとても求められていると実感しました。NPOにおける活動そのものに意義があり、社会にとって必要とされるコトでも、それがきちんと世の中に伝わっていないケースも少なくありません。

たとえばWebサイトひとつとっても、表現が堅すぎたり、ビジュアルや言葉の言い回しがわかりにくかったり。届けたいメッセージがきちんと伝わるように、情報や訴求を整理していく。これってデザイナーにできる大きな役割ですよね。


― もともとボランティアや社会課題といったところに興味があったのでしょうか


そうですね。原点を遡ると、大学生のときに授業のワークキャンプでバングラデシュを訪れ、貧困国の現状を目の当たりにしました。ちょっと手伝いで、メンバー募集用のポスターをつくったことはありましたが…なにをどうアクションを起こしたらいいのか、正直ぜんぜん分らなかったんです。 だから、普通に広告制作会社でデザイナーとして5年ほど働いていました。

転機がきたのは、社会人3年目、デザイナーとして実績を積んできた頃。じつは、僕が学生のときにつくったポスターを見て、後輩がバングラディシュのワークキャンプに参加したことを知りました。たまたま再会した飲み会でその話になって(笑)ダイレクトに人に行動をしてもらえる影響力を感じましたし、やはり社会課題を解決するためになにかしたい、と。

そこから休日に無償のボランティア、「プロボノ」といったりもするのですが、そこでNPOの仕事に関わるようになっていきました。

なんのためにデザインするのか?僕のやりがいはNPOとの仕事にあった

― ボランティアから、仕事としてNPOに関わるようになったのはどうしてですか?


NPOを支援していく、ここを無償のボランティアではなく、きちんと仕事としてやっていきたい。プロとしてやっていきたい、そういった思いが強くなっていったんです。プロボノをしながら、「なんのためにデザインするのか?」を考えていて。

企業との仕事における広告制作も、つくったものが世に出る楽しさがありました。ただ、消費を促すためにデザインするのは自分のやりたいことなんだろうか。なんのために働いているんだろう。こういった思いが日に日に大きくなって、「やっぱり共感できる仕事や活動、そして人の近くで仕事をしたい」と思うようになりました。


― 企業とNPOで仕事に違いはありますか?


コミュニケーションを通じて、お互いの理解を深め合っていく。そのプロセスに違いがあるかもしれません。NPOの代表やメンバーを交えて、今の課題は何か、どういうことを伝えたいのか、ディスカッションを重ねていくため、より多くの時間をかけるケースもあります。そのなかで僕たちも共感し、伝えたいことや課題の解決方法としてのデザインを一緒につくりあげていくイメージです。

彼らが取り組んでいるのは、「日本の子どもたちへのキャリア教育」であったり、「インドやカンボジアの児童買春をなくす活動」であったり。時には環境保全活動などさまざま。僕自身知らない課題に取り組んでいることも多いので、分らないことはとにかく聞いて、まずは「知る」ということを努めています。

一つ事例を紹介させていただくと、カタリバが運営しているWebサイトをイチから立ち上げたことがありました。それが中高生向けの施設「b-lab」の サイトです。


b-labのサイト写真


NPO職員の方々にお話を伺うなかで見えてきたのは、中高生がいつでも、なんでも挑戦できる秘密基地をつくりたいという思い。どうすれば中高生が来たくなるのか、そのためにどういうページをつくるのか。

そこで考えたのが「b-labには毎日いろんな人たちが来ている」といった事実を伝えること。TOPページに「今日のビーラボ」というブログが流れるようにしたんです。ブログだと、自分や友達がサイトに載っているかなとか…その楽しさが伝わればまた行こうと思ってもらえますよね。

あとは、リピーター向けにも「こんなイベントがあるんだ!」とb-labに来ることが根付いていくようにページイベント情報やカレンダーも目立つところに持ってきて、サイトを構成しました。

運営者の思いをもとに話し合い、アイディアを形にしていく。そうすることで、子どもたちのことをイメージし、ページを工夫することができたと思います。

なぜNPOに関わるデザイン会社が少ない?

      

生駒さんのサイト写真


― 一方で、NPOに特化しているデザイン会社はまだまだめずらしいですよね。なぜ少ないのでしょうか?


NPOはお金にならないと思われていることが、ひとつネックになっているかもしれないですね。でも、じつは僕たちは特別安い値段で仕事を引き受けているわけではないんです。NPOからちゃんと予算をいただいて、デザインをしています。

かものはしやカタリバのように組織としての規模や認知が広がっているNPOも増えてきています。広報やデザインに予算をかける価値が少しずつですが社会的に広がってきているのかもしれませんね。

とはいえ、まだまだイチ企業と同じレベルで、NPOとデザイン会社がマッチングできているかというとそんなことはありません。だからこそ、僕らは先駆けになりたいと思っています。

そうなることで、NPOが取り組んでいる社会問題にもスポットがあたるし、社会がよくなっていく方向へ向かうきっかけをつくっていければと考えています。

デザイナーがNPOに関わる第一歩とは?

― なるほど。ここまで、デザイン会社について伺ってきましたが、その中で働くデザイナーについてもお聞きしたいです。本業の傍ら、NPOにボランティアで関わるプロボノもありますよね。


僕もはじめはプロボノとしてNPOに関わったので、最初のきっかけとしてはいいことかもしれませんね。ただ、長く続けていくと考えたときに、プロボノとしてNPOと常に良好にやっていくのは簡単ではないとも思います。

NPO側もデザイナーとのやり取りに慣れてないケースがほとんどです。無償だからあんまり頼めないしなぁ…と、「デザイナーにどこまでお願いしたらいいのか分らない」というケースもあります。専任担当者がいることも稀ですし、用語や工程が分らなかったりも当たり前です。

だからこそ、フラットな関係性を築き、なんでも話し合えることが大事で。そういった観点からも、プロボノではなく、きちんとお金を払ってデザイナーとNPOの仕事がまわるようにしていきたいです。


― 最後に、たとえば社会課題の解決に携わっていきたい、そういった方がいた時に、アドバイスなどはありますか?


そうですね…思いももちろん大事なのですが、どうしても経験が浅いうちからやるのは正直、難しい面があると思います。

一度は広告業界やデザイン会社に就職して、世の中の人たちに対してどういう風にコミュニケーションすればいいのかなど、デザインや広告のことを経験してからでもいいと思います。

たまにサイカンパニーでも学生インターンをしたいという声をいただくことがあるのですが、少人数でやっている会社なので、デザインをイチから教えられる環境が整っていなくて。

僕自身も最初に入社した広告会社でいろいろな経験をさせてもらい、そのほとんどが今の仕事の糧になっているし、感謝をしているので、そこからでも遅くないと思います。

そういった前提の上で、僕らの仕事ってNPOと世の中の橋渡し役だと思っていて。いままでいろいろなNPOと仕事をさせていただいて、彼らの信頼感や認知度が上がり、活動を支えてくれる人が増えて、社会が少しずつ良い方向に向かっていくことに、ほんの少しかもしれないけど、役立てていることがすごくうれしいです。

少しずつかもしれないけど「デザインで社会を変えることはできる」と思っているので、もし「社会のためになにかしたい」と思っているデザイナーさんがいれば、経験とスキルをどんどん活かしていってほしいし、そう伝えたいですね。


― NPOの方々の想いカタチにし、世の中に届けていく。デザイナーができる役割はとても大きいと感じました。本日はありがとうございました!


文 = 野村愛


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