全世界で940万回以上再生された『雪道コワイ』。その生みの親が、BBDO J WESTのコンテンツプランナー・眞鍋海里氏だ。なぜ彼のWEBコンテンツは、これほどまで多くの注目を集めることができるのか。そのヒントを探るべく、眞鍋氏のコンテンツ発想術に迫る。
『雪道コワイ』というコンテンツを見たことがあるだろうか。
全世界で940万回以上再生された、株式会社オートウェイのWEBCMコンテンツだ。このコンテンツを生み出したのが、株式会社BBDO J WESTでコンテンツプランナーとして活躍する眞鍋海里氏。『雪道コワイ』以降、同じくオートウェイのWEBCMとして『いきなりBAN』、そして2014年10月23日に『ラバー』をリリース。いずれも多くの人の目に触れ、オートウェイの認知度アップを実現している。
では、なぜ眞鍋氏のつくるコンテンツは我々視聴者の心に刺さるのだろうか。そこで今回、眞鍋氏にインタビューを実施。コンテンツ発想のポイントを紐解くことで見えてきたのは、広告とWEBの両方の視点でコンテンツづくりに向き合ってきた眞鍋氏ならではの見解だった。
【Profile】
株式会社BBDO J WEST コンテンツプランナー
眞鍋 海里 Kairi MANABE
宮崎県出身。鹿児島大学理学部物理科学科卒。卒業後は、ミュージシャンを目指す傍ら、鹿児島のタワーレコードでバイヤーとして働く。その後、自身の参加していたバンドの解散・タワーレコードの撤退などを受け、ミュージシャンの道をあきらめ広告業界を志すように。WEBプロダクションの営業に転身する。2008年にBBDO J WESTへディレクターとして入社。コンテンツプランナーとして手腕を発揮している。
― 『雪道コワイ』が大ヒットした眞鍋さんですが、普段コンテンツをつくるときはどのようなことを考えているのですか?
基本的に、「自分が見てみたいものかどうか」ですね。仕事柄、やっぱりたくさんのコンテンツを見るじゃないですか。で、大量のコンテンツを見てて、一種の不感症になっているんですよね(笑)。ちょっとやそっとのことじゃスゲーと思わないし。なので、自分が「ちょっと新しいかも」「ちょっと面白いかも」と思える要素が含まれていれば、ある程度皆も面白いと思ってくれるんじゃないかと。そこが1つの越えるべきボーダーラインということは意識しています。
― 眞鍋さんのなかにジャッジポイントがある、と。
そうですね。「あ、これは話題になるな」っていうのが肌感覚でわかるんですよね。だから自分でやってみたい、こんなコンテンツがあったらやってみたいという部分と、クライアントがブランドの課題を解決できるかという部分を両側から照らし合わせて、ハブになるアイデアをどうつくっていくかみたいなところかと。
クライアントが達成したいこととか伝えたいこととかあると思うんですけど、それとユーザーが求めているものとの接着面を探すというか、その両者をつなげられるポイントをつくる作業ですね。クライアントの伝えたいこと、それこそWHAT TO SAY、HOW TO SAYだけではなくて、果たしてそれが受け手側の必要としているものなのかを考えることが大切で、その接着面をどこまであざやかに見つけ出せるかみたいなところだと思うんですよね。
― 『雪道コワイ』でいうと、どのあたりに反映されているのでしょうか?
僕自身、“閲覧注意”とか“グロ注意”とか書いてある動画ってめっちゃ見たくなるんですよね(笑)。あと、SNSで「見たら後悔した…」ってシェアされると見たくなるじゃないですか。そういう点では、自分が見たいものかどうかっていう点は反映されているんですよね。
― 接着面を見つけるって言葉だとカンタンですが、結構難しそうですね。
相当考えますね。毎回ゲロが出そうなほど(笑)。両方のパズルのピースは決まっていて、そこにピッタリをはまるようなピースを生み出す役割なので。自分に見つけ出せるのか、思いつくのかっていう恐怖が毎回あるんですよね。TVCMのようなマス広告だと、ある程度ユーザーにコンテンツが届くっていう大前提があるじゃないですか。でも、WEB上のコンテンツだとその前提はなく、ユーザーとピッタリはまるピースじゃないと話題にならないし、誰にも見てもらえないムダなものになってしまうので、そこを自分に思いつけるかっていう点はいつも不安です。
― マス広告の話が出ましたが、近年大手企業でも広告代理店を介さずにWEBプロダクションと直にやり取りしてプロモーションを仕掛けるケースが増えていますよね。とはいえ、広告代理店のクリエイターのなかには、自分たちももっとおもしろいものをつくりたいと思っている人がいると聞きます。そういう背景を受けて、眞鍋さんの考える広告代理店のクリエイターが抱える課題って何なんでしょう?
そうですね…、まずはメディアフィーで収益を得るという広告代理店の構造は大きくあると思います。デジタルをやっても…という雰囲気というか。あとは、WEBコンテンツはテクノロジーについての理解があるかないかで考え出せるアイデアも異なってくると思います。広告的な感覚とテクノロジーの知見を内包できているクリエイターはさほど多くないという現状が代理店のなかにはあるんじゃないですかね。
― なるほど。今後、どうしていけばいいのでしょうね?
どうしたらいいんですかね?まぁ、単純な話、もっとユーザー側の視点があればもっと変わってくると思うんですけど。WHAT TO SAY、HOW TO SAYを考える力はすでにあると思うので、あとは「それが本当に世の中の人に受け入れられるものなのか?」を考える力をつければ。
逆にテクノロジーどっぷりな人たちは、そこが苦手だったりするわけじゃないですか。ユーザーにウケるものはすごい理解している。でもまず第一に、クライアントやそのブランドの課題を見つける作業のほうが大事なんじゃないかなって思っていますね。そこは経験の蓄積とかが大きく関係してくるところなので。テクノロジーの仕組みを学ぶことは大切ですが、それは後からでもできることですし。
あとはアウトプットするときに、果たしてユーザー側が必要とするものなのかというところを考えればいいだけだと思います。ネットの世界だとまず“届けること”が必要になってきます。TVCMの考え方でネット上のコンテンツを考えちゃうと危険。ちゃんとWHAT TO SAY、HOW TO SAYはできているけど、じゃあそもそもそれをユーザーが見に来るのか?、届くのか?ってところを。やっぱりユーザーがチョイスできる時代になってきているので、ユーザーが手を伸ばすものなのかっていう判断基準をシビアに考える力を持てれば全然大丈夫だと思います。
― 逆にWEB業界のクリエイターの課題って何だと思います?
素晴らしいクリエイターの方々が沢山いるので一概には言えませんが、業界の傾向として、ただ面白いだけ…ただ拡散すればいい、ただバズればいいというのがゴールになっているところですかね。もちろん、無名なブランドがステージアップするためにバズるコンテンツで名前を知ってもらうという目的ならいいと思うんですけど、見ていると「それは商品やブランドにとってどんな課題解決になっているの?」って思うことが多いんです。なにか手法が目的化してないかと。
記事もコンテンツも面白い。でも、課題を解決するコミュニケーションなのかっていう軸で考えるとちょっと疑問です。それは僕自身、もっと突き詰めていかなければいけない部分だと思うんですけど。
広告業界とWEB業界の足りない部分って、翻って両者の強みでもあるんですね。僕はよく「広告露出狂になるな」ってことを思うんですけど、話題をつくるって結構簡単なことで、きわどいものや下世話なものって見せればみんなビックリして話題になるじゃないですか。でも、果たしてこれで課題を解決できているのかって考えると違うんですよね。まぁ極論ですけど、「犯罪を犯して有名になる」ってこともできるわけで。そういう風にはならないように、と僕は毎回思っています。
― そういえば『雪道コワイ』、『いきなりBAN』と来て、『ラバー』はテイストが違いましたね。
『雪道コワイ』や『いきなりBAN』のときはオートウェイの認知度が低いという課題があったので、タイヤを変えるタイミングで想起されるブランドになるために名前を知ってもらいましょうということで、バイラルの手法を取り入れたんです。広告予算もほぼ無いという状況だったので。
一方、今回の『ラバー』はバイラルを目的にしてないんです。『雪道コワイ』や『いきなりBAN』である程度オートウェイという名前は知ってもらうことができたので、次はユーザーにタイヤを替える目的意識を明確にして上げること。「知ってもらう」というところからワンステージ上がった深いコミュニケーションをゴールにしてるんです。
その手法として今回はMV(ミュージック・ビデオ/メッセージ・ビデオ)というのをテーマに制作を進めていきました。メッセージを強固にするために長い時間、この動画の世界に“没入”してほしかったんです。
そして、最終目的は「ユーザーひとりひとりの(スマホの)音楽プレイヤーのなかに入ること」。
問い合わせもすごく多いんですが、アーティストのカンバスと一緒に創った楽曲「ラバー」は、特設サイトでフリーダウンロードができるようにしています。それは、広告が音楽として(スマホの)音楽プレイヤーのなかで再生されればより深いコミュニケーションが図れるんじゃないかなって思ったんです。音楽プレイヤーのなかって広告のライバルいないじゃないですか。どこでも聞けるし。それができれば、相当強固なコミュニケーションになるなって。
同じオートウェイの動画なんですけど、『雪道コワイ』と『ラバー』では、解決したいところ、目指すところが違うんです。
― 課題解決ということを常に意識し、バイラルから次の手法に取り組んでいるのが非常に興味深く思います。確かに、『雪道コワイ』と『ラバー』では、コンテンツの“読後感”みたいなものが全然違いますね。眞鍋さんのお話から、クリエイティブの本質を垣間見ることができたと思います。ありがとうございました。
[取材・文] 田中嘉人
編集 = 田中嘉人
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