日本を代表するクリエイティブカンパニー、面白法人カヤック、PARTY、バスキュールの代表が集結。TWDW2014レポート第4弾は『才能を探す。日本を代表するクリエイティブカンパニーの実践』パネルディスカッションを書き起こし形式でお届けします。各代表が語った採用・教育、その問題点とは―。
[登壇者]
柳澤大輔(面白法人カヤック 代表取締役)
1974年生まれ。1998年に「面白法人カヤック」を設立。ユニークな会社制度、そしてWebサイト、スマートフォンアプリ、ソーシャルゲームなどを発信。2014年12月25日、東証マザーズへの上場を果たす。
伊藤直樹(PARTY 代表取締役)
1971年生まれ。Wieden+Kennedy Tokyoを経て、2011年にクリエイティブラボ「PARTY」を設立。これまでにナイキ、グーグル、SONY、無印良品など企業のクリエイティブディレクションを手がける。国際的にも高い評価を得ている。
朴正義(バスキュール 代表取締役)
1967年生まれ。デジタルプロモーション・インタラクティブコンテンツの旗手「バスキュール」を2000年に設立。国内外、代表的なクリエイティブアワードを多数受賞。近年では“テレビ×インタラクティブ”といった最先端のライブエンターテイメント分野で注目される。
小島幸代(ベンチ 代表取締役) ※モデレーター
米国法人にてクリエイティブに特化した採用コンサルタントを経験。2012年にベンチ設立。国内外1000名以上のキャリアコーチング、400件以上の雇用契約実績を誇る。近年ではクリエイター採用における企業ブランディング、コンサルティングを手がける。BAPA運営。TWDW主催。
小島:
今の時代、誰でもできる仕事を頭数で採用するのではなく、「あなたの考え方、想像力、才能を取り込みたい」という採用にシフトしていますよね。優秀ならプロジェクトベースで一緒に仕事をしましょうという時代にも来ていて。そこをわりと早い段階から意識をしているお三方でじっくり話す機会を持ちたいと「才能を探す」をテーマにしました。まず会場にいるみなさんの質問からスタートさせていこうかと。
― (会場より)皆さんはどのようにおもしろい人材を発掘しているのでしょうか?
小島:
いきなりの直球で来ましたね(笑)伊藤さん、どうですか?
伊藤:
正直に思うのは、働いてみないとわからないですよね。美大を主席で卒業して「こいつは凄い」という子が入ってきたけど、寝坊グセがあるとか(笑)。どんなに才能がある人でも慣れるまで時間が掛かる。ポートフォリオや履歴書じゃわからないです。少なくとも3ヶ月、理想は6ヶ月くらい一緒に働いてみないと。海外のクリエイティブの会社だとインターンでそのまま流れ込むスタイルが当たり前ですよね。もちろん中途だと話は全然違いますが。
柳澤:
カヤックの場合、ニュースや思いを自分たちのサイトから発信していることが大きいですね。「入社したらこれだけは約束する」をはっきり言っている。それを読んで「よし乗ってみよう」という人が来てくれて。
むしろ、入ってからどうなるか?のほうが重要で、実績は凄そうだけど入ってみたら合わなかったり、逆に何も実績がないけど入ってみたら実力を発揮したりすることもあるし。
カヤックは独立や起業を目的とした退職を推奨していて、入って出て、入って出て、それがカヤックの生態系みたいになればいいなと思っているんですよね。辞めた人たち同士で仕事が紹介できたり、そういう体制がこの17年で出来ているから、退職って悪いことじゃないんですよ。そういう意味で言うと、つくることに対して真摯であれば、入社してもらってから見極めるっていうほうに近い。「つくる人を増やす」という理念もあって。
小島:
学校みたいに、どんどん人を入れてどんどん出す。それでいいと?
柳澤:
そうですね。でも、いい関係性なら、誰かが辞めた時も、別の辞めた人に頼んでチームが組めるとか、全体で見たら強くなる。一時的に外に頼むのは高いかもしれないけど、ぐるぐる回ると安定化するんですよ。
小島:
朴さんはどう思いますか?入って出ていく循環について。
朴:
うーん…ウチはやめられるとホントにダメージが大きいし、さみしいですね。
ただ、僕自身が「飽きたら会社を潰す」って思っているし、社員が辞めようと思うってことは「お前つまらないぞ」って言われているのと近いのかもしれません。
バスキュールには「新しいコンテンツフォーマットをつくる」という目標があって、実現できないなら、会社なんて潰れちゃえばいいと本気で思っていて。このプロジェクトをキープできるかが大事。もし実現できなさそうなメンバーばかりになったら、僕は先に逃げようと思っています(笑)
若いスタッフに「何をつくりたい?」って聞いたら「将棋をこえるものをつくりたい」って言われたことがあるんですよ。凄いですよね、将棋って何年続いているんだろう。ネット時代のお祭でもいいんですけど、三社祭やねぶた祭りみたいに何百年続くみたいなものを作れれば、会社なんて別になくなったっていいやという思いはあります。
だから、常にイケてるお題を出し続けられるか。無名から始まった経緯もあって、普通の仕事だけやってもやっぱり才能は集まってこない。何様だと思われてしまうかもしれませんが、「わかる人にはわかる」という仕事に気づいてもらう感じですね。そういう意味でプロジェクトとして捉えて「プロジェクトメンバー募集」に近いかもしれませんね。
伊藤:
狭義のプロジェクトでいえば、海外だとプロジェクト雇用できて、日本にはそういう制度がなくて。雇っちゃったらすぐには外せない。それは流動性を失うことでもありますよね。
私が前に働いていたWieden+Kennedyを見ても、もう当時のメンバーはほぼ残っていないんですよ。つまり流動性を前提にしている。人はどんどん入れ替わるけど、ブランドの人格がキープされればいいんです。だから、やめることも気楽に思える会社のほうがいい。そのほうが、PARTYなら『PARTY』という存在のレベルを結果的にキープできるというか。日本の場合、そこで働く人がいてこそ成り立つということが前提になっている気がしますよね。
小島:
それでいうと、退職を推奨する柳澤さんと同じ感覚ですかね。
柳澤:
ある意味終身雇用と真逆ですからね。カヤックは、もともと友だち3人で始めたということもあって、経営者も社員もそれぞれウィンウィンでいようという意識はあって。経営者としては、“カヤック”って名前が履歴書に入ったら色々な人が会いたいと思ってくれる、そういう会社にする責任がある。そこにコミットしていますね。
あと朴さんがおっしゃったように、自分たちでつくったものを発信するのが最大の方法ですよね。それを見てこういうのを作りたいという人が入ってくるわけです。
小島:
朴さんと伊藤さんは『BAPA』という学校を運営していて、指導がおもしろいと思ったんですけど、わりと「好き嫌い」で言いますよね。「これ嫌い」とか。あれはわざとですか?
伊藤:
若い子が多かったんですけど、クリエイティブディレクターと一緒に働く経験をほぼしていないんです。経験しないと免疫がつかない。実際、会社に入ったらバッサリ切られるし、いちいちカチンと来て説得に掛かられても、つまらないものはつまらないんですよ。
こっちも主観で言うわけではなく、客観性を積み重ねてきたものから言っていて。それに慣れて打ち返すうちに、ヒットが打てるようになるんですよね。
小島:
柳澤さんは、成長や評価のためにやっている事って何かありますか?
柳澤:
僕は、評価が文化をつくると思っていて、カヤックはサイコロ給が有名ですが、「評価をしない評価」なんですよ。
「会社にこれだけお金がありますよ」という時、そのお金を誰にどう分配するか。たとえば、いい物をつくる奴が偉いならそこに分配されるし、物を売る人が偉いならそっちにいく。評価が文化をつくるってそういうことで。サイコロ給は「評価をしない評価」なので、それはつまりどういう人が偉いとか、どうすれば成長するかとか、会社から提示はしないということです。全員を対等でフラットにしたくて。
…と、僕は思っていたんですけど、現場にはいち早く戦力化したいんで教育も大切って言われますね。
小島:
ちなみに、評価なしだと「おれ、こんなにがんばったのに…」っていう人も?
柳澤:
サイコロ給は手当の一部ですから、あくまでシンボリックなものです。カヤックにおける評価は、成長のための評価と報酬のための評価と分かれていて、成長のための評価はカヤックの場合、全員が人事部ですから、360度評価で新卒から社長までお互いに自由に指摘し合い、それが全部オープンになっています。一方で、報酬のための評価はシンプルな仕組みなんですけど、同じ職種間でそれぞれが社長になったつもりで報酬順に並べてもらって、みんなの評価の平均がその報酬順になります。たとえば、エンジニアならエンジニア同士で評価されたいですからね、「自分が社長になったつもりで、エンジニア全員を給料順に並べてください」ってやるんです。
小島:
PARTYでいうと、どう教育したり、評価しているのでしょうか。
伊藤:
辛さを見せるために若手と社長プレゼンに行って、僕が困っているところを見せたりしますね。その帰りにはもう目つきが変わるんですよ。ガード下で串かつを食べながら「プレゼン参考になりました」と、遅刻がパッタリなくなったり。
今年、入社2年目のメンバーに、かなりの予算の社長案件で映像のディレクターを任せたんですよ。絶対ミスできないから大人たちが寄ってたかってアドバイスをしまくって(笑)
もうそいつの仕事と呼べないのかもしれませんが、「これはお前の仕事だ」って言い続けていく。そうすると自信につながるんですよね。才能はすごくあるから、自信さえ持てれば絶対にディレクターになれる。きっかけだけなので、あえてやらせる。で、最後はその社長からも「傑作をありがとう」と言われて涙目になっていました。
それが成長だと思うので、才能って探すというより、原石が磨かれて宝石になるかどうかが問題だと思っています。腐ってやめていく奴もいるし、原石のまま来ちゃうやつもいるし。それを何とか宝石にしてあげたいんですよね。
小島:
柳澤さんはそういった教育はやらない?
柳澤:
そうですね。ただ、たとえば自社サービスなどで失敗をするというパターンもあります。一切指導をせず、最速で失敗してもらおうと。それも、やりたくてやりたくてしょうがない人だけ。実際成功するかどうかは出してみないとわからないけど、失敗しそうなものの方がみえてたりするんですが、いくら言っても聞かない場合は、外にサービスを出してみて体験するしかない。
もちろん失敗しそうなとき、しつこく反対してそれで引き下がるぐらいなら、それはそれで失敗させる時間がもったいないのでいいと思います。あとは「この失敗したら立ち直れなくなるかもしれない」「潰れる」という時も止めますね。
小島:
そろそろ時間もなくなってきたので、もし会場から質問があれば受け付けたいと思うのですが…
― (会場より)私はロサンゼルスでデザイナーをやっているんですけど、近くでやれるパートナーを探していて。会社をはじめようという時、仲間やパートナー探しで気をつけることがあれば教えてください。
小島:
朴さん、どうですか?
朴:
僕はとにかくお金を一切見たくなくて。だから、信頼してお金を全部あずけられる人がいたおかげで「あとは何を冒険してもいいや」って出来たのが大きかったですね。最悪の想定はその人がしてくれて。
柳澤:
今、思い出してみると、創業して最初の頃に採用したのは、フラフラしていて何もしていない奴。「とりあえず採用してみた」という理由で採用して許される人でしたね。明確な目標がある時はちゃんと採用したほうがいいと思います。
伊藤:
それ、けっこう真理ですよ。カヤックは上場して「潰れない感」満載じゃないですか。バスキュールも虎ノ門に大きいオフィスがある。PARTYなんて本当に人気ないんですよ。できたばかりだし、社員30人だし。最初は採用側も勇気いるから、ちゃらんぽらんじゃないけど、そういう人を雇ったほうがいいかもしれません。
小島:
PARTYの場合、どうメンバーを集めていったのでしょうか。
伊藤:
僕は誘った身なのですが、その人の才能に惚れられるかどうかで来ちゃったんですよね。性格云々って全然気にしなくて。若いデザイナーでも作品が愛せるか。人間だからしょうがないですよね、ウソをついて愛せないですよ。それにウソをついたらPARTYという人格が破綻しちゃう。
柳澤:
僕も伊藤さんと同じ感覚で。でも、やっぱり最終的には「現場の人たちが楽しく働けるか?」そこだけかな。だからなるべく多くの人に面接してもらうし。皆が見つけてくる。カヤックは「全員人事部」ですから。
今回のレポートでは『才能を探す。日本を代表するクリエイティブカンパニーの実践』パネルディスカッションの様子をお届けした。3社の代表、それぞれが考える採用手法やマネジメントなど、より具体的な事例を交えて語られた。会社のカルチャーや目指す方向性によって取り組みや考え方は異なったが、共通している部分として感じたのは「ゼロからイチをつくりだす人材」に活躍の場が開かれているということだ。また、日本を代表するクリエイティブカンパニー3社の経営者の人材に対する考え方を知ることで、これからの時代に求められていること、期待されることも感じられたのではないだろうか。エンジニアやクリエイターにおける採用・教育の話がメインだったが、職種の枠に関係なく、活かせる考え方なども多かったはずだ。ぜひ、今後のキャリアを考えていく上で参考にしてほしい。
編集 = 白石勝也
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