2014.01.10
まだ職種に名は無い―PARTYとBasculeが思う理想のクリエイター。

まだ職種に名は無い―PARTYとBasculeが思う理想のクリエイター。

これからの時代に求められるクリエイターの資質やスキルは何か。そのヒントを探るべく、バスキュールとPARTYが開く学校『BAPA』の説明会に参加した。『WIRED』編集長の若林恵氏を招き、催されたパネルディスカッションでは、次世代クリエイターの理想像について語られた。

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▼『BAPA』レポート第1弾
バスキュール×PARTYが開く学校『BAPA』の狙い。
デザインとプログラミングの境界線は無くなるか。

ART&CODEが一人で出来れば表現の可能性は広がる。

もしたった一人でデザインとプログラミングを高次元で両立できれば、表現の可能性はさらに広がるのではないか。そんな次世代のクリエイターを育成できないか。

こういった期待を込めて立ちあがった学校が『BAPA』。仕掛けるのは、デジタルコミュニケーションの旗手であるバスキュールとPARTYだ。

12月26日に開催された『BAPA』開校に伴う概要説明会では、パネルディスカッションも同時に開催された。登壇したのは、バスキュールの朴正義氏、PARTYの伊藤直樹氏、そして『WIRED』編集長の若林恵氏だ。彼らの視点で語られた「これからのクリエイターの理想像」に迫る。

空港、牧場、農家…あらゆる領域を活躍の場に。

若林:『BAPA』の説明で一つわからなかったことがありました。それは、この学校を卒業したら、その人は何になれるのか?ということ。「単純にインタラクティブな広告やキャンペーンがつくれる人になれる」というのは趣旨と違う気がして。


伊藤:まだ具体的には決まっていないので変わるかもしれませんが、『スター誕生!』みたいなオーディションをやろうかなと。優秀なクリエイターがいたら、採用したい会社の人が手を挙げる。クリエイティブ業界以外の企業も興味があれば参加してもらって。

だから、空港の職員になっているかもしれないし、牧場で働くかもしれないし、農協とかに入っているかもしれないし。そこで化学変化が起きて、言葉としては陳腐ですが、イノベーションが起こるかもしれない。もちろん一番優秀な人はウチにほしい。みすみす他にとられたくないです!


会場:(笑)


若林:『BAPA』を卒業して独立したり、そういう人がいてもいい?


朴:そうですね。「新しいことを始めたい」と言ってくれれば趣旨に合うし、人的ネットワークとしても繋がれるから。デザインが求められる場はどんどん増えていますし。


若林:もともと広告のクリエイティブからスタートした領域が、もっと横断的になっていますよね。この状況はますます加速すると思うのですが、これからのクリエイターって世の中に対して何をする仕事になるのでしょう。


『WIRED』編集長 若林恵氏


伊藤:イノベーションとか、デザインとか、すごくいい言葉ですけど、いろいろな局面で使われるじゃないですか。意味がどんどん広くなっている。デザインって結局何することだっけ?という定義が拡張している。もう職種は無いですよね。

ぼくらがプロトタイプを作る理由はそこにあって、世の中に求めても出てこないから、逆に試作品をつくっちゃって見せる。「ほら、こういうのいいでしょ」「こういう仕事しませんか」とお誘いしたり。「それができるならプロジェクトに入って」となることが結構大事かなと思います。

そのとき、一人でデザインとプログラミングを高次元で両立できたら、どんな表現が生まれるのか。自分のものづくりのアプローチもそうですけど、普通は「できないことはやらない」という方法を選びますよね。できない部分はうまく諦めて、やれるところで突き進む。でも、できたらどうなるのか。これを見てみたいんですよ。もしかしたら、ぼくらが死んだ後にそういう人が花開くかもしれないですけど。

朴さんが「BAPAは“気づくチャンス”」とおっしゃっていましたけど、すごく大事なことで。私たちが学生だった頃って、インターネットのことなんて全くわからなかった。ロールモデルさえない。先の見えない暗い世界で「何を見ればいいんだよ」っていう感じ。

たとえば、ドイツの写真家でアンドレアス・グルスキーという人がいますが、同じく写真家のベッヒャー夫妻に師事した。それが、ある種の希望の光になったというか。ぼくらをベッヒャー夫妻とは言いませんが、暗い世界のなかで少しでも光を当てたい。「何をやったらいいかわからない」「本当はART&CODEが一人で出来た方がいいんじゃないか」と思っている人にとってのチャンスになると思うんです。

日本独自のカオスな環境から、突出した才能は生まれる。

若林:お二人ともよく海外に行かれて、各国のクリエイティブの動向も見ていると思います。海外だと、日本よりもクリエイティブの分断というか、領域の壁は壊れ始めている気がしますが、どうですか。


伊藤:個人的には逆の印象なんです。海外だと美大を出ないとデザイナーになれないし、アドスクール出ていないと広告の業界でも働けない。学生時代に選んだ道でほぼ決まる。60年代からある「ART&COPY」の考え方って、はっきりした機能分化なんですよね。つまり「君はアートディレクター。君はコピーライター。職能を分けてやりなさい」というやり方。

ただ、デジタルって「何でも一人でやっちゃう」みたいに、機能が曖昧な中で育ってきたところがあって。手探りでやってきたんですよ。だから、デジタルの世界には突出した人がウヨウヨいる。日本人ってカオティックなところで育つから、突出した才能が多いのかもしれません。カオスだからこそ、先に進んでいるんじゃないかとさえ思っていて。


PARTY 伊藤直樹氏(左)、バスキュール 朴正義氏(右)


朴:うちのような小さい会社が電通さんとコンペになったり、そういうことは海外だと少ないのかな、という印象はありますね。チャンスは多い。ただ、日本だと行動する人が少ない。業界のしきたりみたいなところを見て、やれないと思ってしまうのかもしれません。


伊藤:出る杭は打たれるみたいな文化が邪魔しているのかな。あと西海岸を中心とした「スタートアップしてなんぼ」みたいなアントレプレナー志向が日本は弱いかもしれません。そのへんは欧米のほうが分がありますよね。何でもやっちゃえみたいな。

ビジネスの仕組み、そして生き方を変えるクリエイター。

若林:作ったもん勝ちでのし上がれる人をどんどん増やすというか。あとは、アイデアをすぐカタチにするスピード感が求められるようになっていく感じでしょうか。


伊藤:そう思うと、クリエイティブの研究開発みたいなことをしないといけないんですけど、プロトタイプを作るにもコストは掛るんですよね。プレゼン費がもらえるわけでもないから、お金は出ていく一方。それでも実験は続けないといけない。

今までだと、ニーズがあって、ブリーフをもらい、オリエンがある。で、コンペで勝って、モノを作って初めてお金がもらえるというフローだったと思うんです。でも、このフローだと成り立たなくなっているんじゃないですかね。クライアントも、私たちも。

月々の契約にしたり、ロイヤリティをもらうことだったり、一緒に事業をやることだったり。座組みを変え、根本のやりとりを変えない限り、難しい局面にきていると感じます。


若林:昔だったら「絵が描くのが好き」で美大に入って、一生懸命描いていれば仕事にありつけたかもしれないけど。今は「クリエイティブの仕事でどうお金をもらうか?」まで考えなきゃいけない。それ自体がクリエイティブの一部な気がします。…でも、それってけっこう大変ですよね。


朴:バスキュールだと、それこそ、油絵の人が日本画に転向するより、もっと全然違うことをやらなきゃいけない状況は前からあるんですよ。

2000年代の前半くらいは「Flashといえばバスキュール」みたいな評判でやっていましたが、いまや「Flashって今後どうなる?」みたいな時代。今、フラッシャーとしてウチに来ても、PCさえ見ないとか。

例えですけど、自分というOSをアップデートしたり、OSを二つ持ったり、それができるかどうかが大事で。環境の変化についていけない人、羽ばたけない人は、OSが古かったり、乗り換えられていないのかな、と。それに気づかない人もいるから、『BAPA』が気づけるチャンスになればいいですよね。


伊藤:きっとBAPAの武器を身につけてくれれば、働き方、暮らし方、生き方も変わると思うんですよ。もしART&CODEが一人で全部できたらオフィスもいらないですよね。朴さんは昔、「船を本社にしたい」みたいなことを話していましたけど(笑)

もうノマディックなんて当たり前に言われているし、どんどん移住型のワークスタイルになる。時代の流れは絶対にそっちですよね。東京に暮らす必要はなくて、地方に暮らしてハングアウトで打ち合わせして、映像編集なんてFinal Cutでやって、Colorはロスに送って戻してもらうみたいな。ホントにその場にいる必要はなくなりますよ。


若林:最後にひとつだけ聞きたいんですけど、ぼくはずっと編集の仕事をやってきたので、自分を編集者だと思っていました。でも今はWEBも見たり、イベントの事業化のミッションが降りてきたり、名前のない仕事になってきているなぁと感じているんです。…ちなみにお二人は合コンに行ったとして、どういう肩書きを名乗るんですか?


朴:合コンでは言わないかもしれないけど「社長」ですかね…プロジェクトをつくる人と言うか…うーん、なんですかね。自分の会社が何屋か説明できないくらいですからね(笑)


伊藤:とりあえず「クリエイティブディレクター」とか言いますけど…クリエイティブディレクターって何?って感じですよね。社会的に肩書きが認知されるのは、世の中にわかりやすいロールモデルが出た瞬間じゃないですか。アートディレクターも佐藤可士和さんが登場されたからわかるようになっていった。クリエイティブディレクターがそうなるかもしれないけど、BAPAを卒業する人は、デザイナー?プログラマー?と職種で括れない存在。職種もそうですし、建築業界、広告業界、放送業界も全てネーミングが古い。そういう名前や概念を書き変えていくようなクリエイターがBAPAから生まれたらいいですよね。



CAREER HACK編集部 レポート後記

もし、「あなたの職種は何か?」と問われた時、どう答えるだろう。エンジニア、デザイナー、プログラマ、ディレクター…これからの時代、職種の区分は意味を成さなくなるのかもしれない。さまざまな領域でスキルを磨き、さらなる高みを目指す。そう遠い未来の話ではないし、他人事ではないはずだ。

特に印象的だったのは、伊藤さんが語った「普通は「できないことはやらない」という方法を選びますよね。できない部分はうまく諦めて、やれるところで突き進む。でも、できたらどうなるのか。これを見てみたいんですよ」という言葉だ。

もちろん、それぞれのキャリアに正解も不正解もない。ただ、できないことを諦めていないか。そのせいで自ら可能性を狭めていないか。変化が激しい業界を生き抜くために、全てのエンジニア・クリエイターにとって重要な問いになるのではないだろうか。


[文]白石勝也



[BAPA概要]
http://bapa.ac/
https://www.facebook.com/bapa.info

[受講内容]
期間:2014年3月中旬~(約3ヶ月間)
回数:全10回(予定)
時間:隔週水曜日 19:00~21:00
会場:バスキュール(神谷町) / パーティー(代官山)
人数:30名
受講条件:29歳以下の学生、社会人 
受講料:88,000円(バパ価格) 
※受講料免除の特待生制度あり

(現在募集は終了しております)


編集 = 白石勝也


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