2016.10.13
プロダクトマネージャーはビジョナリーであれ!土屋尚史×田川啓介×坂本登史文×犬飼敏貴×及川卓也

プロダクトマネージャーはビジョナリーであれ!土屋尚史×田川啓介×坂本登史文×犬飼敏貴×及川卓也

インターネット業界でもプロダクトマネージャーという存在への注目が高まっている。グッドパッチ、DeNA Games Tokyo、freee、FiNC、Increments各社が考えるプロダクトマネージャーの役割、そして定義とは?ヒットプロダクトを生み出す人物像に迫る!

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優秀なプロダクトマネージャーの条件とは?

多くのプロダクトが生まれては消えていくなか、大きなヒットを記録するプロダクトには、ある共通点があるようだ。それは、優秀なプロダクトマネージャーがプロジェクトを指揮していたということ。

株式会社FiNCにて開催されたイベント『白熱プロダクト教室』では、これまで数々のヒットプロダクトを生み出してきた登壇者たちが、優秀なプロダクトマネージャーの資質や条件、成功するプロダクトを作るためのチームビルディングについて語った。


[登壇者]
●株式会社グッドパッチ 代表取締役社長・土屋尚史氏
●株式会社DeNA Games Tokyo 代表取締役社長・田川啓介氏
●freee株式会社 執行役員・坂本登史文氏
●株式会社FiNC Producer・犬飼敏貴氏

[モデレーター]
●Increments株式会社 Product Manage・及川卓也氏

プロダクトマネージャーは"何でも屋"ではない

プロダクトマネージャー(以下PM)とひと口に言っても、その定義はさまざま。まずは、登壇者自身、もしくはそれぞれの企業におけるPMの役割について話が及んだ。

FiNCが考えるPMの1番大きな役割は、とにかくアプリの質を高めるということです。ユーザー視点で考えて、エンジニアやデザイナーに指示を出していきます。(犬飼)

freeeはPMとエンジニアで回しています。課題を発見するのがPM、それを解決するのがエンジニアと、はっきり役割分担ができています。(坂本)

ゲーム業界では、プロダクトを実際に制作していく部分はディレクターが、そのプロダクトをどうやって売っていくかという部分はプロデューサーが責任をもって回しています。PMはその間に立って、目指すべきビジョンに向かって全体を指揮していく役割です。(田川)

実は社内にPMという立場を作ったのが最近なので、まだ確立された役割はないです。ただ、僕の中では、会社のビジョンに沿ってストラテジーを作っていく人というイメージがあります。(土屋)

同じPMという肩書でも、その定義に明確な共通項を見つけるのは難しいようだ。また、所属している組織の規模や事業のフェーズによってもPMが担うべき役割は異なってくるという。

グッドパッチ 土屋さん

グッドパッチ 土屋さん

Prott」を作りはじめたとき、PMがエンジニアリングとデザイン以外、スケジュール管理から営業まで何でもやっていました。しかし、マネタイズがうまくいってビジネスが回るようになったら、PMは現場から離れてビジョンを固めていくことに注力した方がいいと思います。(土屋)

はじめは、ひとつのゲームを3人で3か月で作る、という感じだったので、役割分担なんかをする余裕はないですよね。そこから徐々に人数が増えていって分業が進むにあたって、PMという役割も切り離していきました。(田川)

組織がある程度の規模になったらPMは現場から切り離すべき、という考えは登壇者の4人もモデレーターである及川さんも共通して持っているものだった。現場を意に介さないというわけではないが、PMが現場に入り込みすぎるとその存在価値は希薄になってしまうのだという。

とにかく”いいプロダクト”を作るのがPMの仕事ですから、ビジョナリーでいなければならない。すると、どうしてもクリアすべき無理難題が出てきます。現場に入り込みすぎていると、エンジニアやデザイナーにそれを求めにくくなってしまうのです。(犬飼)

明確な定義がないからこそ「何でもやる」というイメージがあるPM。それは間違いではないが、スケジュールや進捗の管理といった現場の範疇に踏み込みすぎることは、本来求められている役割ではない。登壇者たちの言葉からわかるように、PMが意識すべきは実現可能性や進行状況ではなく、そのプロダクトが目指すビジョンやその先の成功のようだ。

優秀なプロダクトマネージャーに専門性は必要か?

Increments 及川さん

Increments 及川さん

それでは、ビジョン持ってプロダクトの成功に導く優秀なPMには共通する能力や条件はあるのだろうか。

PMは映画プロデューサーの仕事と近いと思います。いい作品を作るために最適な俳優や脚本家、監督をアサインしたり、資金を集めたり、多くの収益を出すために、プロモーションの方法も考える。インターネット業界でのPMも、与えられた役割をこなすのではなく、良いプロダクトのためにできることはすべてやる。それを会社のビジョンに基づいてやるということは”ミニCEO”とも言えるかもしれません。(及川)

いいプロダクトのために、自分の役割を臨機応変に変化させていくPMはスペシャリストというよりジェネラリストとしての側面が強い。しかし、PMのほとんどは、エンジニアやデザイナー出身だという。

自分に専門性がないと、チームのなかでプロフェッショナルだと認めてもらえない可能性が高い。PMは周囲を巻き込んで事業を進めていく存在なので、チームの信頼を得られるだけの専門性が必要だと思います。(土屋)

そう語る土屋さんだが、現在社内にいる2人のPMのうち、1人はなんと専門性を持たない新卒だという。

彼女は、技術も未熟で専門性も高いわけではありませんが、チームの信頼を勝ち取れるだけの”人間力”があると感じたんです。それに、学生時代からインターンとしてカスタマーサポートをやっていて、ユーザーのことがよくわかっている。事業への思いやコミットも群を抜いているので、PMとしての資質が揃っていると考えました。(土屋)

また坂本さんも、新卒をPMに抜擢した経験があるという。

プロダクトに対しての執心がすごかったんです。人はなぜ経費精算を嫌がるのか、どうしたらその手間から解放されて自分の事業に集中できるようになるのか、本当にずっと考えてる。事業のビジョンへの共感度もプロダクトへの思いも誰よりも強いので、まさにPM向きだなと思いました。新卒でPMというのはベンチャーでも珍しいのではないでしょうか。(坂本)

前述の内容から、エンジニアやデザイナーとしての専門的な経験よりも、PMにとって重要なことを及川氏は語った。

専門性が役に立つのは間違いないですが、向き合うすべての職種について秀でることは難しい。となると、足りないスキルは人間力で埋めてチームとしての信頼関係を築くことからは逃がれられません。最後はみんなが言うように、PMに必要なのは事業に対する共感や影響力なのだと思います。(及川)

勝てるプロダクトを生み出すためのチームビルディング

事業全体を指揮し成功に導くのがPMの役割だが、もちろんひとりでプロダクトを作ることはできない。プロダクトの成功のために最適なチームビルディングを行うのもPMの重要な役割である。

そもそも、プロダクトの成功のために目指すべきチームとはどういったものなのだろうか。

freee 坂本さん

freee 坂本さん

必要なのはバトルだと思います。たとえば、PMはとにかく良いプロダクトを目指す、それが実現できるかどうかはエンジニアが判断する。このとき、お互い踏み込んでバトルすることでより良いプロダクトが作れるはずです。(坂本)

たしかに、ただの仲良しチームは無意味でいい意味での緊張感はないとダメですね。衝突できないチームのプロダクトはたいてい失敗します。(及川)

チームの中にはさまざまな役割、立場を持った人間がいる。それがいい意味で衝突することでより洗練され、質の高いプロダクトが実現されるようだ。いいチームにはバトルが必要、とはいえメンバーそれぞれが見ている方向がバラバラであっていいということではない。

”いいプロダクト”の定義がきちんと共有されているかは大前提です。ビジョンからブレイクダウンして、そのプロダクトが目指すべきゴールをチーム全員が理解しておく必要があります。(田川)

それでは“いいプロダクト”を作れるチームビルディングを行うためにPMができるのはどんなことなのか。

FiNC 犬飼さん

FiNC 犬飼さん

誰をチームにアサインするかは重要です。そのプロダクトを成功させられる意志と技術があるかどうか見極めるのがPMの仕事。そういう優秀な人をアサインするために、直接声をかけに行って事業への共感度を高めてもらうことも必要です。(犬飼)

アサインする人を妥協したプロダクトは必ずと言っていいほど失敗します。そもそも、社内外の優秀な人材がやりたいと言ってくれなかったら、その時点でそのプロダクトの可能性は限定されますね。(田川)

PMって営業としての側面が強いのかもしれないです。まず優秀な人材や資金を集めるために自分のアイデアをアピールして、プロダクトが完成してからは世の中に向けて売り出していかなければならない。PMの仕事は最初から最後まで営業だと言っても過言ではありません。(及川)

ただ、アサインのハードルを乗り越えて優秀な人材をチームに集められたとしても、チームビルディングにおけるPMの役割は終わったとはいえない。プロジェクトが動き出してから多くのPMがぶつかる壁が、エンジニアとの関係だ。

この点に関しては、会場からも多くの質問が上がっていた。具体的は、PMにエンジニアリングの技術がないと、チームのエンジニアをうまく指揮できないのではないかということだ。

DeNA Games Tokyo 田川さん

DeNA Games Tokyo 田川さん

PMに求められるのは
・意思決定に必要な技術力
・プロジェクトメンバーとのコミュニケーションを円滑にするために必要な技術力
のふたつ。それ以上は必要ないと考えています。(田川)

私自身まったくエンジニアのバックグラウンドはないのですが、重要なことは、エンジニア特有の考え方を理解して同じ言葉で話せることじゃないでしょうか。(犬飼)

コミュニケーションが取れるということが大切で、PMに卓越したな技術力は必要ないと思います。問題なのは、技術がわからないからといってコミュニケーションを投げてしまうこと。理解しようという姿勢があれば、チームは円滑に回ると思います。(坂本)

前述したとおり、PMに求められる本来の役割は現場に入り込んで手を動かすことではない。だからこそ大切なのは技術があるかどうかより、チームメンバーに対してどれだけリスペクトを持ってコミュニケーションが取れるかということのようだ。

技術がまったくないPMで大きな成功を収めている人もいる。プロダクトが成功すればそれでいいんです。必要最低限の会話が成り立って、信頼関係が築ける。そしてチーム内で自分はどんな役割を担うべきかを理解し、臨機応変に対応する。それがチームビルディングにおけるPMの存在意義です。(及川)

ひと口にPMといってもその役割は、プロダクトの種類や組織の規模、チームメンバーによって、臨機応変に変化していくもの。ブレないビジョンを持ちつつ、ひたむきに”いいプロダクト”を目指していく意志の強さがヒットプロダクトを生み出すPMの共通点のようだ。

(おわり)


文 = 近藤世菜
編集 = 大塚康平


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