オンラインプログラミング学習サービスの《Progate》が学校向け事業を昨年11月にスタート。リリース後4ヶ月で12の高等学校に導入されている。なぜProgateは教育現場で受け入れられるのか。その裏側には、学校現場ならではの先生たちの悩みに向き合い、一つひとつの声に応えていく地道な努力とサービス設計があった。
小・中・高等学校での必修化が検討されている「プログラミング教育」。教育の現場で生徒に教える先生たちにとって強い味方がオンラインプログラミング学習サービスだ。
なかでも今回注目するのが「Progate」。2017年2月に1億円を資金調達したことでも話題になった。2016年11月より、学校向けのアカデミックプラン「Progate for School」をスタート。2017年3月現在、提供開始4ヶ月で12校へ導入するなど順調な滑り出しをみせている。
このアカデミックプランでは、Progateで学ぶことができる11のプログラミング言語のうち、2つの言語に関するレッスンを無料で導入することができる。
もうひとつ、教育現場の教員たちに支持されるのが、生徒たちの学習状況が把握できるダッシュボード。先生だけでなく生徒同士も進捗やランキングを閲覧できる。生徒たちが楽しみながら、競い合い、自発的にプログラミングスキルがアップする。この設計は先生にも好評だという。
授業で用いる教材に関して、文科省が定めた授業のカリキュラム通りに進める必要があったり、融通が効かなさそうなイメージがあったり、スタートアップが介入するのは至難の業のように感じる。
Progateは、なぜ学校に受け入れられるのか。同社のCOOであり、アカデミックプランの統括を担う南部 旭彦さんにその裏側を伺った。
― まずはアカデミックプランをはじめたきっかけから教えてください。創業当時から構想されていたアイデアなのでしょうか?
最初から学校の授業用の展開を考えていたわけではありませんでした。きっかけは、学校の先生から直接要望をいただいたことです。
2016年の夏、島根県にある浜田商業高校の先生から「学校の教材としてProgateを利用したい」と問い合わせをいただいて。Progateが学校の授業でどのように使われるのか興味があったので、「とにかく使ってみてください」と、ご提供することにしました。
先生から感想をヒアリングしていると、なかなか好感触だったんです。そこから「学校向けもいいんじゃないか」と考えるようになり、徐々に事業化に向かっていきました。
― 先生からの問い合わせがきっかけとは面白いですね。
その先生はもともとProgateを利用してくださっていた方で…すごくプログラミングのレベルも高い方です(笑)。授業に使えるかもしれないと問い合わせてくださいました。
― どのような関係で導入は進められていったのでしょうか?
ぼくたちは学校教育の現場を知らなかったので、先生に色々質問させていただきながらアカデミックプランの中身を練っていきました。コミュニケーションもFacebookのメッセンジャーで気軽にやり取りしたり。こちらから質問するだけでなく、先生方からもぼくたちへご質問いただいたり、相互に意見する関係が築いていけたと思います。
その当時は、ほんとうに教えてもらってばかりだったのでおこがましいですが、いまは先生とぼくたちは「生徒」という共通のユーザーを持ったパートナーのような関係だと思います。
― 先生からはどのようなフィードバックや意見をもらうことができたのでしょうか?
学校の先生がどうやって授業のカリキュラムをつくっているのか。Progateはどう活用されているのか。良かった点、課題に感じた点など。ざっくばらんにですね。
特に具体的な話を伺えたのは大きな収穫でした。商業高校では全商検定の試験を受けるんですが、試験対策としてProgateが活用されていて。試験合格のためと実際に作れるようになるためでは学習方法が異なるので、Progateの活用法も変わってきます。
さらに細かいところでいえば、学科によってプログラミングも「必修言語」と「選択言語」が異なりますし、どのレベルの資格を目指すか学校によっても異なります。普遍的に語れない部分においてProgateが提供する教材でどこまでカバーすべきか。こういったことを検討する材料として、とても貴重な意見でしたね。
― Progateをもともと知っている先生の反応はイメージできますが、Progateを知らない先生たちにとってはどうなんでしょうか?
Progateを知らない先生がいる場所にも出向いてヒアリングをしましたが、そこでお話した先生方の反応としても、スタートアップであるProgateに抵抗を示す雰囲気はなかったですね。
たとえば、文科省や総務省のコンソーシアムや、東京都高等学校情報教育研究会という硬派な会にも足を運んだりしました。主に情報処理の授業を受け持つ先生が集まる場なんですが、「よりわかりやすい授業にしたい」「もっと生徒の将来に役立てたい」、こういった考えを持っている方ばかり。
総務省がICT活用教育を牽引していたり、文科省が必修化に向けて進めていたり。実は、イーラーニングやオンライン学習サービスは多くの先生が注目しているポイントなんです。教科書だけを使うのではなく、民間のサービスを導入する学校も増えていますね。
― 先生たちの意見を汲み取ったサービスが好評で、授業への導入が進んでいると。
もちろんそれだけではなく、「無料」という料金設定によって先生たちが抱えている課題をクリアできたのもあります。
現在、一般ユーザー向けのProgateは11のプログラミング言語に関する46の講座を用意しています。学校向けにおいては、そのうち2言語まで無料で選択し利用できるようになっています。
学校に導入してもらう際に「有料」にするとかなり難易度があがってしまう。全国規模の事業を展開している大手の企業ですら、最初の1年はお試しで無料で提供しています。学校の先生ってすごく忙しいんですよ。有料にすると、校内での承認を取って、その教育委員会での承認を取って、さらに保護者の承認を取って……。とやることが急に膨れ上がって、結果導入しづらくなってしまう。
授業を通して高校生にプログラミングを届けることが「Progate for School」最大の目的です。機能制限してでも無料で出すのがベストだという答えにたどり着きました。
― 導入ハードルを下げるためとはいえ、学校向けのサービスにおける収益は諦めたということでしょうか?
学校の授業での利用が無料なのは事実です。でも授業を受けた生徒のうち、プログラミングの楽しさに気づいて、Progateの有料ユーザーになってくれる方もいます。
これはぼくがプログラミングを好きになった経験からの話ですが、楽しくなっちゃった子は、2つの言語までしか勉強できないとなると、絶対我慢できないと思うんですよ。Progateは学習コンテンツを強みにしているので、そこには自信があります。
さらにいえば、Progateが学校向けに展開している意義は、プログラミングの楽しさを伝えることなので、収益とコストがトントンでも全く問題ないと思ってるんです。
こういった背景もあり、いまこの段階で、無料で提供することに対し、ぼくらはあまりネガティブには捉えていません。プログラミング教育は「これから必ずくる市場だ」というのはありますし、可能性がある分野です。実はすでに黒字転換の見込みもあります。
むしろ懸念してるのは、必修化が進んだときのプログラミングの授業が面白くないものになってしまうことです。
政府がプログラミング教育を盛んにしようすることも義務教育化することもとても喜ばしいことだと思います。しかし、生徒にとってプログラミングの入り口である授業が面白くないとなると、好きになれず、エンジニアになりたい子がいない、というワーストケースも起こり得る。それだけは何としても避けたい。
だからこそ、プログラミングって楽しいんだなって、自分でもできそうだなって、そう思ってもらえる体験をProgateを通して提供していきたいです。
(おわり)
文 = 大塚康平
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。