シャープで働きながらアートユニット「電化美術」のCTOも務める 中田裕士氏。デザイン協力した住宅「コンセントハウス」での経験を語った。「家」をデザインしたのは初めてだった中田氏。予算オーバーに工数オーバー、サイズが大きい分、失敗の規模も大きい。
※2017年6月に開催された「UX Failcon 〜先人たちの偉大な失敗と成功〜」よりレポート記事をお届けします。
シャープ株式会社のUXデザインスタジオでUI/UXデザイナーとして働く傍ら、有志で立ち上げたアートユニット「電化美術」での活動にも勤しんでいる、中田裕士氏。
電化美術がデザイン協力を行った賃貸住宅「コンセントハウス」での経験を語った。このコンセントハウスは、昭和時代に建てられた鉄工所の独身寮のような物件をメディアアーティストやプロダクトデザイナーなど、さまざまな分野のクリエイターが“住宅への新しい知覚”をテーマにデザインする、というもの。
中田氏は旧知の仲であった「ファブラボ北加賀谷」とタッグを組み、住宅の一室をデザインすることに。それにあたってクライアントから、とある条件が提示された。
「完成したものは、単なる作品ではなく、賃貸住宅として貸し出され、実際に人が住む。最低10年程度が変更なしで維持できるようにしてほしい、と言われたんです。この時点で、普段我々がやっているようなインタラクティブなものを表現するのは無理だ、ということでかなり悩みました」
どんな部屋にするのか——中田氏らはアイデア合宿を行い、さまざまなアイデア出しを行っていった。その過程で、コンセントは家の中の決まった位置にしかなく、それが家具の配置や行動動線に制限を生じさせていることに気づく。
「この問題を、僕らが日頃行っているプロトタイピングや、ファブラボ北加賀谷のデジタルファブリケーションの技術を活用して解決できたら良いのではないか、と。そこがアイディアの切り口になりました」
板の表面にあるたくさんの穴に部品を差し込むだけで電子回路を作れる「ブレッドボード」という道具がある。住んでいる人自身が家具や行動導線を自由に組み替えられる住宅のイメージと、ブレッドボードを使ったハードウェアプロトタイピングのイメージが結びついた。
その結果、出来上がったコンセプトが「コンセントハウス」だった。
「一般的なコンセントとしての使い道だけでなく、これを1つの引っかける穴のように利用することで絵を掛けたり、時計を掛けたりできるようにしてしまおう、と。また、コンセントという汎用的なモジュールを利用し、何度でも自由に組み換えが可能で、なおかつ3Dプリンターを使って誰もが自由に追加の部品を出力できる。そんなアイデアにしました」
中田氏は施工業者と打ち合わせを重ねながら、コンセントの仕様を詰めていく。順調に進んでいくかと思いきや、2つの”壁”が中田氏を待ち受けていた。
「最適なコンセントの配置間隔を現場で確認しながら決めたら、最終的に1部屋に必要なコンセントの数が400個以上になった。これが最初のしくじりなのですが、いきなり予算をオーバーしてしまったんです。」
予算オーバーの失敗を乗り越え、お披露目に向けて準備を進めていった中田氏だが、コンセントの施工を行う際に、またしくじってしまった。
「『こんなに大量のコンセントを施工したことないから間に合わないよ』と大工から泣きが入ってしまって。完全に作業工数の見積もりが甘かったですね。会社の仕事が終わったら、夜には部屋に集まってみんなで作業をする。これを繰り返していき、なんとかお披露目に間に合わせることができました」
2016年4月にオープンし、誰もが契約できる状態に。その後、1年以上の間、内覧は頻繁にあったが入居者は決まらなかった……。しかし、奇しくもUX Failconの数日後、ついにコンセントハウスの入居者が決まったという。(2017年7月時点)
「予算超過や工数の見積もりの甘さもありましたが、プロジェクトの目的である『住宅への新しい知覚』を実現できたと思っています。押入れがないところが微妙かもしれませんが、天井に付いているコンセントを使って仕切りみたいなものも作れます。ぜひクリエイティブな発想で空間を活用していただきたいですね」
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