土田あゆみさんは、アートディレクター/デザイナーとして異端だ。まだまだWebのスキルとファッションの知見を兼ね備える人材は多くはないとも思える。そういった中、GAPのキャンペーンをはじめ、活躍のフィールドをファッション業界でも着実に広げる彼女。彼女の強さ、ブレない生き方ができる理由とは?
「ファッションが好き」
彼女はまっすぐ私の目を見てこう語ってくれた。ファッション業界で活躍のフィールドを広げる土田あゆみさん。注目のアートディレクター/デザイナーだ。ファッションの世界で働くプロフェッショナルと肩を並べ、魅力的な作品を次々に手がけている。彼女のような仕事をしたいと夢見るデザイナーは少なくないと思う。
直近では、GAPのMusicプロジェクト『1969RECORDS TV』に参加。サイトのアートディレクション、デザインと同時に、若手音楽アーティストのミュージックビデオ・Lookbookのアートディレクション・デザインなども担当した。
華々しく見える彼女の仕事。ただ、客観的にみる限り、歩んできた道は決して平坦とは言えないものだ。
筑波大学芸術専門学群を卒業後、Web広告代理店に新卒入社。Webデザイナーとしてそのキャリアをスタートさせている。もちろんポートフォリオも、ファッション業界との接点もほぼない状態からのスタート。わずか数年で今のような仕事ができていることに驚かされる。
だが、不思議なくらいに淡々と土田さんは語ってくれた。
「私も全然まだまだです。自分の進みたい方向性に向かって、いろんなことを決断してきただけで」
ブレずに決断していく。その“強さ”には正直、まぶしさを感じるほどだ。自分とはほど遠いところにいるようにさえ思える。けれど、彼女が放つ「かっこよさ」の正体に少しでも近づいてみたい。
【プロフィール】
土田あゆみ アートディレクター / デザイナー
筑波大学芸術専門学群ビジュアルデザイン領域にて、ブランディングやグラフィックデザイン、イラストレーション、フォトグラフィーを学ぶ。広告代理店でディレクター/デザイナーの経験を経て、2014年独立。
▼ポートフォリオサイト
http://ayumi-tsuchida.com/
▼Instagram
https://www.instagram.com/ayumit0/
― ファーストキャリアはWeb広告代理店でデザイナーだった、と。ファッション業界との接点も特になかったと伺いました。
そうですね。3年間、会社で働いて、その後フリーランスとして独立しました。
独立してはじめの1年間はIT系の仕事のオファーがほとんどでした。Webの仕事はとても面白いですし、それは今も同じです。新しいWebサイトだったりサービスのデザインを考えるのはワクワクします。技術も日々進化しているので、新しいWebの表現を取り入れたり、移り変わりの早いUIのトレンドを追求していくのはとても新鮮です。
そして、ファッションが好きなので。Webでもファッション系のお仕事はさらに気持ちを掻き立てられますね。
独立当初は実績も経験も浅かったので、見せられるような十分なポートフォリオさえなかったし、ファッションの仕事はなかなか増えませんでした。当たり前ですが。
― どのようにしてファッションのお仕事のきっかけを?
あまり「これ」といったきっかけはないです。意識的に寄せて行っているだけで。ただ、ファッション業界において、Webを本当に理解していることは私の強みのひとつだと思っています。フロントの構築までやる事もあります。ファッションとWebをしっかりと両立できている人ってほとんどいないので、今はそれがオファーしていただけるきっかけになっているかもしれません。また、ブランディングを何度もやってきた経験から、ロゴからグラフィック、Webまでをトータルでディレクションできるので、それもきっかけのひとつになっているかなと思います。
― どうやって今のパイプを築いている?
ブランドやデザイナーに自分から連絡をとって会いに行ったり。展示会に足を運んだり。あとは「ファッション系の仕事がしたい」といろんな人に伝える。なにがやりたいのか、自分はなにができるのか。をはっきりと断言していくことは今後必ずプラスに働くと思っています。
― 途中でめげてしまうことはなかったんですか?
ないです。やりたい事をやっているので。はじめからなかなか思うような案件が降ってくるわけじゃないのですが、それは当たり前な事なので。特にめげるとかはないです。努力も行動も全然まだまだ足りてないですし。
― Webの業界だとアートディレクションのポジションが明確に置かれないことも多い気がします。
日本はWeb業界でいえば、そうかもしれませんね。
ただ、単に呼び方の問題かもしれません。Web業界でも、どんな業界でもビジュアル的なデザインが絡んでくるプロジェクトには「アートディレクター」というポジションを明確にし、世界観やビジュアルに関しての全責任を持つ人が必要だと私自身は考えています。いるのと、いないのではアウトプットにだいぶ差が出てくる。これは非常に普通のことなんですけどね。
― とくにWebとファッション、両方を強みにアートディレクションが手がけられる存在は数少ないですよね。領域を横断して仕事をするうえで、土田さんが心がけていることはなんですか?
自分の知識やスキルは日々高めるようにしています。プロフェッショナルと一緒に、最高のものづくりがしたい。逆に、自分自身がそう思ってもらえる存在でなければいけないので。
実際に店舗に足を運んで空間デザインのヒントを得たり、国内外問わず雑誌には頻繁に目を通したり。最新のコレクションや演出は、たくさん見てインプットしていく。
ファッションデザイナーだけでなく、フォトグラファーやスタイリスト、メイクアップアーティスト、クリエイティブディレクター、エディターなど、ファッションに関する様々な職種のプロフェッショナルとされる方々のアウトプットはなんでも見るようにしていますね。
そういったところから、ヘアメイクやカメラマン、スタイリスト、ブランドの担当者の方々と繋がり、ひょんなことから連絡がきて「一緒にやりませんか?」と声を掛けていただけることも増えてきました。特にフリーランスは人との出会いや繋がりで仕事が成り立っているので、出会いは大切だと思います。
― そのアグレッシブさ、すごいですね。
2016年にアメリカに何ヶ月か滞在していて、そこでの刺激や経験は大きいかもしれません。同年代のアートディレクターやデザイナーたちがかなり活躍していました。クライアントの知名度によらず、作り出すビジュアルがめちゃめちゃかっこいい。
彼らと対等に議論したいなと思いました。自分で道を切り開いていくのが当たり前の世界です。そんな世界のトップレベルでやっているプロフェッショナルとの議論や会話は最高に面白い
自分のやりたい仕事を、本気でやりはじめて、やっと仕事は面白くなると思う。今年もNYへ行きましたが、アメリカにいくと自分がどれだけ未熟かを痛感します。
― 独立から新しい挑戦。怖くなかったですか?
幼い頃から、勇気とか自信みたいなものだけで突っ走ってきたところがあるので。どうなったとしても、その時考えよう、みたいな。ひとつひとつの物事をそんな重く考えないです。
というか、まだそんな大した事やってないですし。もっと挑戦しないとだめですね。
自分がどうありたいのか明確にして、そこへ道筋を立てて、じゃあ今何をするべきなのか、を決めているだけ。迷ってる時間ももったいない。「とっとと決める。」これが、私なりのフットワークよくテンポよく進んでいけるシンプルな考え方です。
文 = 野村愛
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