プログラミング歴、わずか2年。独学でプログラミングを習得し、21歳でスタートアップのCTOへ。こんな稀有なキャリアを歩んでいるのが難波啓司さんだ。趣味は脳波研究。「大学進学に興味がない」と語る彼は、どうやってキャリアを切り拓いたのか。そこにあったのは「偏愛を武器にする」というスタンスだった。
エンタメ力が磨ける『QREATOR SCHOOL』という学校をご存知だろうか。音楽ユニット『いきものがかり』の水野良樹氏や、『進撃の巨人』の編集担当者である川窪慎太郎氏などが講師陣に名を連ねる、ユニークな学校だ。
運営元はFIREBUGというスタートアップ。取締役はPARTYの中村洋基氏、代表は元吉本興業の佐藤詳悟氏が務めている。
そんなFIREBUGにおいて、技術責任者を務めているのが、今回取り上げる難波啓司さんだ。
彼は一風変わったキャリアの持ち主。21歳という若さもさることながらプログラミングを学びはじめて、わずか2年。独学で技術習得し、キャリアを切り拓いてきた。
最近では、同社が提供する動画アプリ「30(サーティー)」内製化のため、開発メンバーのとりまとめを行っている。高校卒業後、大学には進学せず、プログラミングを独学。
19歳で働きはじめ、20歳でフリーランスのエンジニアへ。受託開発でスキルを磨き、さらにオフラインでの講座で人工知能研究授業において教鞭とってきた。趣味は「脳波を使ったインターフェースの研究」という変わり者だ。
「大学に行くといった選択肢はありえませんでした。時間がもったいないと思ったんです」
なぜ、彼はこういった決断に至ったのか。そしてどのようにしてキャリアを切り拓いてきたのか。そのヒントは「偏りこそを武器する」というスタンスだった。
ー エンジニアとして働く多くの人はやはり高専や大学を卒業しているのが一般的だと思います。難波さんはなぜ「進学しない」と決めたのでしょうか?
ただただ、自分が好きなことをやっていたい。むしろそれ以外はできないのかもしれないと感じていて、受験勉強にまったく意味を見出すことができなかったんです。
自分の性格的にも、受験にフォーカスした勉強…とくに暗記科目ってまったく頭に入ってきませんでした。通っていた高校は、地元では有名なかなりの進学高で。当然、高校3年生にもなるとまわりは受験勉強しているわけですよね。ただ、ずっとハマっていたのは物理で、そこにしか興味はありませんでした。
新しい物理の理論って本当に凄くおもしろいんですよ。ニュートンが物理学の体型を作ったことで、当時「神話的な心象」が強かった世間の常識を、物理主義的な流れに変えていった。ここにすごく感動して。
もともと成績をあげるとか、大学に受かるとか、いわば「KPI」を達成するっていうことに単純に興味がなかったのだと思います。それよりもニュートンのように、物理によって真理を突き詰める。そういった研究のほうがよっぽどおもしろい。ぼくは、もしかしたら、自分の中の世界が広がらないことがすごくいやなのかもしれません。
ー進学校のなかで「大学に行かない」というのは、やっぱり異質だったのではないでしょうか。
そうかもしれません。もしかしたら、ぼく以外の「高卒」もいないんじゃないかな(笑)ただ、ぼくは両親から「大学に行かなくてもいいよ」と言ってもらえて、すごく心強かったですね。自分が進もうと思う道を応援してもらえている感覚があったというか。おそらく親が唯一の味方だったと思います。
当然、学校の先生だったり、同級生だったりは「大学に行くつもりはない」という話をすると、「なぜ?」とすごく問い詰めてくるんですよね。「大学は行って当然でしょ?」となんの疑いもなく思ってる。正直、息苦しさもありました。相容れない価値観を持つ人たちだったといってもいい。だから、とりあえず「大学へいく素振り」だけ見せて上京して…あとは好き勝手、自由にやっていましたね(笑)
すごく不思議なのが、なぜそこまでしてみんな大学に行きたいのか。正直、時間のムダじゃないかなって。だってあまり興味の持てない授業でも、教授の話をただ座って聞かないといけないとか、ぼくは本当に耐えられないです。
ー ある意味、高校時代までは「物理おたく」でもあったと。
そうかもしれません(笑)
ー そこから、どのようにしてプログラミングと出会ったのでしょうか。
ちょうど高校を卒業したくらいのとき、「VR・AR」や「AI」というキーワードが出てきて。興味を持つために十分な時期や状況だなと考えて独学をはじめました。
今だと「シンギュラリティ」という言葉が流行っていますが、すごいワクワクしたんですよね。人工知能の研究が進むことで、人間とは何か?という真理が問われていく時代になっていく。本当にその通りだよなって。
だから、ぼくがプログラミングにハマった理由は「物理」にハマった理由と同じなんですよね。新しい発明によって、制度と文化が再構築されて、人間の心象が変化する。プログラミングは、これから新たな発明を生み出しうる分野である。そういう意味でぼくにとってはどちらもクリエイティブなことなんです。
もうひとつ、実際的なところでいえば、知り合いのフットサルチームのWebサイトを自前で構築していて。「コーディングができるなら働いてみないか」とスタートアップの方に声をかけてもらうことができた。これがWebで仕事をするようになったきっかけです。
そこからはフリーランスや受託開発を経て、気づいたら、クライアント先だった「FIREBUG」でCTOを任されるようになっていました(笑)
ー 本当に独学で習得されてきたんですね。…余計なお世話かもしれませんが、物理にしても、プログラミングにしても、大学にいけば本格的な研究ができた可能性もあったのでは?
本格的な研究…ぼくとしては自分がやりたいように仕事もしたいし、研究もしたいんですよね。もし、ガチで研究に没頭するとしても、やはり大学に所属するという選択はとらないと思います。聞く限りですが、予算にせよ、スピードにせよ、教授との人間関係にせよ、日本の大学にはあまりにも制約が多い。
たとえば、自ら会社をつくり、資金を調達したほうが自由な研究ができるんじゃないかとさえ思うんです。究極的にいえば、Googleのような形が理想だと思います。自分たちで稼いだお金を、自分たちがやりたい研究にあてていく。かっこいいですよね。
実際、ぼくも2015年に出資も受けて、「脳波」の研究をしていたことがありました。今でも趣味として研究は続けています。
ー 研究の中身について、もう少し詳細を伺ってもよろしいでしょうか。
あまりおもしろい話ではないかもしれませんが…VR、ARの入出力インターフェースとして「脳波」を活用するというものです。「ブレインマシンインターフェース」と呼ばれている領域。VR・ARにおいて、どんなインターフェースでマシンにアクセスするか。ブレイクスルーは「脳波」だと考えています。
これはぼくの予測なのですが、インターフェースは、どんどん直接的になる。そしてUXは洗練されていくと思うんです。何かをイメージするだけで、マシンが動かせるって画期的ですよね。ただ、これはとても自然な発想ですし、いずれあたり前になっていく。FacebookやGoogleも開発に乗り出している分野です。
当然、彼らと同じようなレベルのインターフェースがつくれるとは思っていません。ただ、近づくことはできる。本気でそう考えて取り組んでいます。まだ研究段階にある技術ですが、オープンされた時、彼らと自身の技術力の差についても、知ることができるかもしれませんね。もちろん、欲をいえば、彼らより先に、世界を変えるテクノロジーを発明したいですが(笑)
ー ちなみに「学歴」に対するコンプレックスや、大学進学しなかったことへの後悔は?
まったくありません。日本って言われているほど学歴社会なのでしょうか。正直、あんまり実感したことってないんですよね。もしかすると、学歴って人材採用などで「評価する軸」がないとき、判断材料のひとつになっているだけなのかもしれません。
就職活動が象徴していると思うのですが、そもそも自身の価値がわかりやすく示せるものがないからこそ、どの大学を出たか、アピールするわけですよね。
ただ、クリエイターはアウトプットで、すべての評価が決まるものだと思うんです。本当にもうそれだけ。どんなサイト、アプリのどの部分をどうやって担当してきたのか。Githubやポートフォリオサイトで、ただ発信すればいい。そう思うと、凄くやりやすい時代なのかもしれないですね。
(おわり)
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