2017.12.05
24歳の青年が抱く、理不尽な世の中への怒り。『ブロックチェーン入門』著者、森川夢佑斗の野望

24歳の青年が抱く、理不尽な世の中への怒り。『ブロックチェーン入門』著者、森川夢佑斗の野望

「複雑な家庭環境でした。だからこそ見えてきたものもある」 自身が育った環境について悲観するでもなく、フラットに語ってくれた森川夢佑斗さん。24歳にして著書2冊を出版、ブロックチェーン・暗号通貨の有識者として知られる若者だ。「格差や既得権益に抗いたい」そう語る彼の鋭いまなざし、その奥に秘めた野望とは?

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[プロフィール]
森川夢佑斗/AltaApps CEO

1993年生まれ、大阪府出身。京都大学法学部在学中に、アルタアップス株式会社を創業。同社、代表取締役CEO。暗号通貨を一括管理できるウォレットアプリ「Alta Wallet」の提供を行うほか、ブロックチェーンを実用化していくにあたってコンサル業務を行う。著書に『ブロックチェーン入門』(ベスト新書)、『一冊でまるわかり暗号通貨2016~2017』(幻冬舎)など。

「格差」を肌で感じた少年時代。芽生えた闘争心|森川夢佑斗

現在、森川夢佑斗さんのもとには、講演依頼やコンサルティングのオファーがひっきりなしにやってくる。


24歳にして2冊の著作を出版。ブロックチェーン・暗号通貨に明るい有識者。京都大学在学中に起業し、スタートアップのCEOとコンサルを兼務する。


肩書きだけを切り取れば、エリートコースを歩んできたとも思える。ただ、これまでの人生、順風満帆だったわけではない。むしろ環境による「理不尽さ」と対峙してきたといっていい。


「決して裕福な家庭ではなく、どちらかと言うと持たざる者だった。ある意味、理不尽に感じることも多かったですね」


普段の生活の時々に同級生たちとの「格差」を肌で感じてきた少年時代。大学進学にしても国立しか選択肢はなかった。政治・法律の世界にも幻滅し、大学は自主退学した。

ただ、彼のなかに悲壮感や嘆きはない。むしろそこにあるのは闘志といってもいい。


「生まれ落ちた環境で人生の選択肢が無くなるなんておかしい。ぶっ飛ばしたい。理不尽な社会とか、既得権益に対してドロップキックしたいんですよ。」


こうして出会ったのがスタートアップの世界。そして今、「ブロックチェーン・暗号通貨*」で一石を投じていく、彼の挑戦がはじまったー。

(*)... この記事では「暗号通貨」の表記で統一しています

選択肢がないことに、ずっとムカついていた。

森川さん

ー 現在、ブロックチェーン・暗号通貨で注目される森川さんですが、原点に迫りたいと思います。まずどんな少年時代を過ごされたのか、伺わせてください。


それほど裕福ではない家庭で育ったと思います。両親には感謝していますが、子どもの時から「守られてきた」という感覚はあまり無いんですよね。だから、自分の人生は自分で何とかするしかないと思っていて。


家庭環境が少々複雑だったこともあり、自分の欲しいものややりたいことについて思い通りにいかないことも少なくありませんでした。文句を言ったとしても、空からお金が降ってくるわけでもないので、中学生くらいの時にはもう「自分でお金を稼ぐ」ということを意識していたかもしれません。


ー 子どもながらに「お金を稼ぐ」ということも実践されていた?


そんな大それたものではないですが、自分なりにはやっていたと思います。当時、『遊戯王』っていうアニメのトレーディングカードゲームが子どもたちの間で流行っていました。そのカードを中古で購入し、別の店で高く売って小銭を稼いだりしていましたね。いわゆるリアルな「せどり」みたいな感じで。中学くらいからは、インターネット掲示板を通じて、中古品の売買をしている時期もありました。

余談ですけど、遊戯王カードとかって残酷で、レアカードが出るかって確率じゃないですか。投下したお金が多いほうが、いいカードが手に入る可能性が高いわけですよね。そうするとグループ内でも偏りが生まれてくるわけですよ(笑)負けず嫌いだったので、そのルールの中でいかに食らいつくかに必死だった気がします。


ー ある意味、サバイバルする精神が育まれたと。


そうですね。ただ、別に稼ぎ方がうまかったわけではないんですよね。大学に進学してからは、大学の友だちと遊んだり学費の支払いのために、とにかくバイト漬けの毎日で。朝5時半に起きて朝から昼までパン屋で働く。そこから居酒屋で夜23時まで働く。1日14時間くらい働くのが普通。

当然、過酷な働き方が続くわけもなく、1週間で2回も感染性と急性の胃腸炎にかかるという経験もしました。こんな風には生きていたくないと、強く思うようになって。それがちょうど20歳くらいの時ですね。その時、お金のために自分の時間を犠牲にする感覚に嫌気がさしました。


ー その時、心の奥にあったのは、どういった種類の気持ちだったのでしょう。


自分で自分が生きたいと思える道が選べない。自分が選んだわけではない道で不利益を被る。ここにはずっとムカついていました。そんなこと世の中にたくさんあると言われるかもしれません、でも自分の意思で選んだことであれば、どのような結果になったとしても本望なんです。

起業にしてももそうですが、自ら選択し、失敗するなら受け入れられる。極論いえば、それで死んでしまっても仕方がない。ただ「選べない」って純粋にムカつきますよね。自分で何かを選び取れる。ここがものすごく大切なんだと思います。

格差や既得権益を、ぶっ飛ばしたい。

森川さん


ー モチベーションの根源は「憤り」にも近い?


そうですね。最初は、憤りに近かったかもしれません。やっぱり生まれた時から、格差があるのっておかしいと思うんです。いまは誰にとっても選択肢のある社会にしたいという気持ちのほうが強いですね。

「東大生の半分以上が、年収950万以上の親の子ども(*1)」っていう話がいい例ですよね。お金がないといい教育を受けたいという選択肢も限られてしまう。また、両親の学歴が、子供の学歴に影響が出ることも統計でわかっていることで、そういった連鎖まで起きてしまう。

自分は、まだ恵まれたほうだと思っていますが、それでもいろいろなハードルはあったと思うんですね。そういったものをできる限り取り除いていきたい。少なくとも、自分より下の世代がそうなるように働きかけたいんです。僕ら20代が「それは仕方がないことだよね」って諦めたら、10代はもっとひどい状態になっていく。ジリ貧じゃないですか。

いまの若い世代って「持たざるもの」というのが僕の実感で。バブルも、好景気も知らず、むしろ負の遺産のほうが多いのではないかと。昔からある「ルール」のなかで、機会さえも不平等の社会で生きている。この機会が不平等にしか与えられない社会から脱却していく、もしくは ひっくり返したいっていうのが、僕の生きる意義。取り組むべき課題だと捉えています。だからルールや制度を、今の時代にあったものに変えていかなければならないと思っています。

(*1) 東大生の親の年収 950万円以上が51.8% 教育格差は中学受験から始まる?(参考『AERA dot.』)


ー そこからなぜ起業する道を選ばれたのでしょうか?


UberやAirbnbなど、海外のサービスが驚くようなスピードで世界を変えていっている。あまりお金を稼げてなかった人の生活水準を上げていく。その状況を目の当たりにしたからですね。

もともと京都大学に進学したのは、政治家や官僚になり、過去のルールや制度を是正したいと思っていたから。ただ、あまりにもスピードが遅すぎる。先輩たちを見ていてると40歳くらいの人たちでも「椅子」が空くのをずっと待っていて。なかにはそのプロセスで目が淀んで当初の志を曇らせてしまう人もいる。そうはなりたくないと思ったのが正直なところです。

なぜ、ブロックチェーンだったのか?

森川さん


ー 起業するにしてもなぜ「ブロックチェーン」関連のサービスだったのでしょうか。


ブロックチェーンは「非中央集権」的な仕組みであり、今まで一部に集中していた機会を平等にしていく、社会を変えていく可能性があると思ったからです。例えば、暗号通貨の登場により、従来は国だけが握っていた通貨発行権の独占を崩壊させ、誰でも通貨を発行できるようにしました。

「従来のルールに縛られ、損を被る必要ない人も損をする」という矛盾を抱えた社会を、僕は変えたい。そんな社会にドロップキックしてやりたいんですよ(笑)


ー 最初からブロックチェーンをやるつもりだったのでしょうか?


そこに関しては偶然ですね。ただ興味を持ったのは、必然かもしれません。体力をすり減らすバイトではなく、ITサービスに興味を持ちました。実際にいくつかのスタートアップや、ベンチャーで仕事をしていましたが、あまり自分に合わないなと感じていて。そんなことを思っていた2016年2月、たまたま知り合いの社長の紹介でベトナムでブロックチェーンの開発会社を立ち上げる手伝いをすることになったのがきっかけです。


ー すぐにその可能性に気がついた?


そうですね。きっかけはビットコインで仲介者なしに個人間で送金できることがおもしろいと感じました。そこから深掘って調べていくなかで、既存のビジネスを根底から変えるという確信がありました。当時はビットコインが5万円といった時代。今だと120万円(2017年12月現在)といった相場なので、けっこう早いタイミングだったかなと思います。

僕はインターネットの可能性に救われたと思っていて、見知らぬ誰かと掲示板で直接的にモノの売買をしたり、自分の知らない世界を教えてくれる。そんな自由な、ある意味カオスだったところも好きで。誰かに管理されたり、中間搾取されたりするものじゃない。もともと個人と個人が自由に繋がり、自由に活動が行われる場だと思うんですね。その世界観にも、P2Pという特徴を持つブロックチェーンがハマると思いました。

もちろんそれまでの仕事はおもしろかったですし、多くのコトが学ばせていただき感謝していて。ただ、自分がどうしてもやりたいと思えるほどのインパクトがなかったというのが正直なところです。

これからが本番。2018年はブロックチェーン元年に?

森川さん


ー 最後にこれからの展望について伺わせてください。


まずブロックチェーンについて、今はまだ暗号通貨にしか目が向いていませんが、これからが本領発揮だと捉えています。暗号通貨が広まったけれど、今はまだ使う先があまりありません。ただ、暗号通貨の経済がまわり始めていくと僕は考えています。たとえば、アプリで音楽を購入決済に暗号通貨が活用できるなど、先端をいくアーティストや企業が取り入れていく。すでにビョークというアーティスのニュー・アルバムが暗号通貨で購入できると話題(*3)になりました。

(*3)ビョークの新アルバム「Utopia」、仮想通貨「Blockpool」で購入可能--特典も仮想(『CNET』より)
https://japan.cnet.com/article/35110442/

こういったケースが多くでてきたとき、今までの社会、サービスのあり方が大きく変わるタイミングが必ずやってくる。個人的には2018年が黎明期、最初の1年になると思ってます。

僕らでいえば、とにかく実験的に暗号通貨やブロックチェーンで仕掛け続けようと考えています。たとえば、自社で提供予定の『Ginco』というサービスは、カンタンに言ってしまえば「暗号通貨のための銀行」です。おそらく銀行が担ってきた「預金・為替・与信」という機能は暗号通貨の世界でもありつづけるはずなので、そのポジションを取りに行く。他にも、クリエイター向けの通貨「CLAP」などを企んでいるところです。


ー まさに夜明け前といったところですね。ちなみにブロックチェーン関連のサービスにおいて重要だと考えているポイントはありますか?


あくまで僕らが重要視している部分ですが、アカデミックなところとビジネス的なところが融合する部分を、どう見つけていけるか。

僕らがつくった「AltaApps」という会社は、これまで1つのアプリをリリースしていますが、まだ実験段階といっていい。これから実社会に対して落としてこんでいくというフェーズですし、それが出来てはじめて、世の中的にも意味があると思っています。

ブロックチェーンや暗号通貨におけるプレイヤーが徐々に増えてきているタイミング。大手も本腰を入れてきたものの、まだまだ勝っていける。

本を2冊も出し、講演などやっている僕が言うのもおかしいのかもしれませんが、「知識人」みたいなポジションで、何も生み出さず、机上だけで語る人にはなりたいくない。「事業」をやっていきたいというのは強く思っています。社会実験も兼ねて仕掛けていく。既存業界をかき乱すことがしていきたいですし、それがカッコいいなって思っています。


ー ブロックチェーンがどういった可能性を広げていくのか。また森川さんが何を仕掛けていくのか。楽しみにしています!本日はありがとうございました。



文 = まっさん
編集 = 白石勝也


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