越後龍一さん(29)は「ぼくに特別なスキルはないです」と語る。なのに『水曜日のカンパネラ』のライブ撮影を頼まれたり、音楽制作会社でプロモーションを担当したり。プロジェクト推進役? 次世代ディレクター? いったい『越後龍一』って何者?!
VRユニット『全天球映像作家 渡邊課』がおもしろい。
たとえば、『水曜日のカンパネラ』や『D.A.N』、『Awesome City Club』といった若手アーティストたちのライブをVRで撮影。作品化するなど注目を集めている。
このユニット、バリバリのVRクリエイターたちがやっている? と思いきやそうでもないようだ。『渡邊課』のひとり、越後龍一さん(29)さんはこう語る。
「ぼくに…特別な能力はないです(笑)」
彼がおもしろいのは、時には「映像クリエイター」を名乗り、時には「Webマーケター」を、「コンテンツディレクター」も名乗る。つまり肩書き不明なのだ。
特別なスキルはなくともクリエイティブの世界で仕事ができる?どんなキャリアを歩めばいい? 肩書きや職種にとらわれず、自分の居場所をつくる、越後龍一さんの仕事のつくり方に迫った。
― 越後さんは「特別なスキルは持っていない」とおっしゃいますが、関わっている仕事はどれもおもしろい。どうプロジェクトに携わられているのか、気になります。
『水曜日のカンパネラ』のライブの撮影など携わらせていただいている『全天球映像作家 渡邊課』というVRユニットも、アーティストのプロモーションを携わらせていただいている音楽制作会社の仕事やCM制作会社の新規事業の仕事も、最初はラフに相談をいただいたことがきっかけなんですよね。ほとんど自分からやらせてほしいって営業をしたことはなくて。
ちなみに『全天球映像作家 渡邊課』は、相棒でもある渡邊徹さんに会社に呼び出されて、「VRをつかった新規事業を考えてるんだけど、どう思う?」って(笑)
― 「ただの相談」が仕事につながるものでしょうか?
たぶん、どんな相談もただ話を聞いてほしいわけじゃなく、なにかしら困っていることがあって、協力してほしいことがある。なので「この数字、定期的に調べましょうか?」「アイデア、一緒に考えましょうか?」と、提案させていただく。そうして来た球、もらった相談には全力で応えるようにしています。
― 金銭が発生しないような相談も大切にされている?
そうですね。きっかけは本当にラフでいいと思うんです。もともと前職の『CAMPFIRE』ではキュレーター(クラウドファンディングのプロジェクト推進役)として働いていて。とにかくたくさんの人と会い、まずは相談に乗っていくということをやっていました。本当に困っているコトがあり、それを解決する手助けをする。そんな風に自分の介在価値が仕事につながるほうが自然なこと。その時のスタンスが今につながっているのかもしれません。
― 「あなたに相談したい」、そう思ってもらえる価値ってどう発揮すればいいのか…
あくまでぼくの場合ですが、とにかく「相手」を意識して、何が提供できるか、考え抜くようにしています。たとえば、レポートひとつとっても、調べたら誰でもわかる情報をただ並べたところで意味はなくて。ググれば誰でも調べられる。「ふーん。詳しいんだねー」で終わっちゃう。
― データや情報の価値が相対的にさがっていく、と。
そうなんですよね。だから、数多ある情報も、どうしたら上手く活用できるか? 提案であったり、発見であったり、ひとつでもプラスになることを入れる。積み木みたいなもので、ひとつひとつの情報に価値はなくても、積み重ねてはじめて使えるカタチになる。
深堀して数値やデータを見たり、ビジネスモデルまで掘りさげたり、考察したり。そうすることではじめて相手に必要とされる付加価値になると思います。
僕自身、恥ずかしい話ですが、じつは、物知りな自分に酔っていたというか、満足していた頃があったんです。「おれ、めっちゃ詳しいよ。すごいよ」って。ただ、本当の意味では誰の役にも立てていませんでした。時代もすぐ変わっちゃうし、知っているってことに意味はそんなに無いんだなって。けっこう深く悩んだし、反省した。だから、一つひとつの相談を大切にするようになったし、伝え方を工夫したり、相手のことを事前に調べたり、この時間に意味があった」と思ってもらえるよう、自分の型を身につけていきました。
― たとえば、相談に全力で応えていく、仕事で価値を発揮するために、普段から心がけていることってありますか?
仕事は好きなことだけやる。逆に普段は、全く興味ないこと、少し毛嫌いしていることもあえて体験してみる。ここは意識しているかもしれません。「理解できない」とか「分らない」っていう感覚を極限まで無くす。感覚の限界をつくらない。具体的には1ヶ月に1つテーマ、予算を決めて体験するようにしていて。最近だと…まったく興味のなかったエステ体験をしたり、街中で歩いていたおじさんの後をついていって競馬場にいったり(笑)
たとえば、「10代、20代のインスタ女子たち」をターゲットにしたクリエイティブに携わる機会があったとします。理解できないからできませんってあり得ないと思うんです。「じつはぼくもインスタ女子なんです」といえるくらい体験したらいい。そうすれば「このクリエイティブはウケる」と語れるから。…まぁたとえ話なので、ぼくは今、全然インスタ女子ではないですが(笑)
― 机の上だけでみてもダメだ、と。
そうですね。ぼくはマーケターの肩書きで仕事をすることもあるのですが、数字やデータを補完するために、ぼく自身が何を体験しているか。どういった肌感と熱量で語れるか。ここも欠かせないと考えています。自信が持てるし、自分自身に鼓舞できますよね。
― なぜそこまでやるのでしょう?
いつも思っているのは、僕との時間で必ず、何かが前に進むものにしたい、ということ。せっかくぼくに相談してくれたのだから、5%でも、10%でも、パフォーマンスをあげたい。たとえば、それが10人になったら、すごい貢献になるかもしれない。自分の仕事は、誰の、どんな仕事に「効く」のか。「効く」って大事なことですよね。
打ち合わせで話が進まない、アイデアがおもいつかない、予算がとれない、担当者との関係調整がうまくいかない、人が巻き込めない…プロジェクトをやっているといろいろな課題がある。でも、主体者のみなさんのなかにある熱意みたいに、僕が介在して、スイッチを押す。きっかけになりたい。日々悩んでいる人、でも何かを実現したい人たちを全力で応援していきたいですね。
― ある意味では脇役といってもいいのかもしれませんが、越後さんのような活躍、価値の発揮の仕方があるのだととても勇気がもらえました。これからのさらなるご活躍、楽しみにしています。本日はありがとうございました。
[撮影]なかむらしんたろう
[撮影協力]喫茶とし
文 = 野村愛
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