NHK Eテレ『あはれ!名作くん』、TOKYO MX『ぐらP&ろで夫』などのアニメ作品を数多く手がける新海岳人さん。広告クリエイターからアニメ監督へ転身し、オリジナル作品を次々に発表している。彼の言葉、そして歩みに、表現者の在り方を見た。
「もっと自分自身の感情や経験を投影させた独自の作品をつくってみたい」
クリエイターであれば、一度はそう考えたことがあるはず。一方でクリエイターとしての表現欲求はあるものの、どのように解放していけばいいのかわからない人もいるだろう。
今回お話をうかがったのが、アニメ監督の新海岳人さん。新海さんは、NHK Eテレの『ビットワールド』内で放送しているオリジナルアニメ作品『あはれ!名作くん』(以下、『名作くん』)を手がける注目のクリエイターだ。
彼の経歴を紐解いてみよう。実は新海さん、2005年にパナソニックに入社し、広告クリエイターとして働いていた経歴がある。並行してオリジナルの会話劇アニメ(※)を次々に制作。2011年にフリーランスへ転身した。
彼の名が知られるキッカケとなったのは、東海テレビ『かよえ!チュー学』(以下『かよチュー』)を監督したこと。そして、2013年には『かよチュー』のプロデューサーだった遠藤純一さんと共にPie in the skyを立ち上げた。
(※)会話中心でストーリーを展開させるアニメ手法を新海さんが勝手にそう呼んでいる。
もともと広告クリエイターだった新海さんは、なぜTVやWebでオリジナルのアニメ作品を発表する存在へと変わっていったのか。そして、どのような想いを作品に込めているのか。彼の足跡を辿ることで、ひとりの表現者の生き方を探ってみたい。
― パナソニックでサラリーマンをしながら作品をつくっていたと伺いました。もともとでいえば、いつからアニメをつくっていたんですか?
大学時代からアニメをつくっていました。もともと漫画家になりたかったんですけど、絵をたくさん描くのがイヤで(笑)。
― 絵を描きたくなかったのに、アニメだったんですか?
ちょうどMacが市場に出回り始めたタイミングというのもあって、当時の芸大界隈では「映像=アニメ」だった気がします。NHKで『デジスタ』も始まり、「映像をつくったら俺もTVに出れるかも?」と…淡い期待でアニメをつくり始めました。
でも…できれば絵を描きたくない。すごく手間がかかるので(笑)。
そのとき目に留まったのが、石井克人さんやTUGBOATの多田琢さんのCMでした。auとか富士通などのCMのシュールな会話劇。そういったCMの世界観が好きだったので、自然と「会話劇をアニメにしたらどうなるだろう?」と考えるようになったんです。
― 学生時代に会話劇アニメにたどり着いていたんですね。
最初はパクってるみたいで抵抗もあったんですけどね。でも、『すごいよ!!マサルさん』の作者 うすた京介さんが、とあるインタビューで「松本人志さんのやっていることを漫画で表現しようとしている」と話しているのを読んで、こういう考え方もあるのか、と。
それからは真剣に会話劇アニメと向き合うようになって、とことんのめり込みました。必修だった写真の授業では教授に直談判してアニメ作品で単位をもらったり、グループ展に出品したり…とにかくオリジナルのアニメ作品をつくりまくったんです。学園祭の学内コンペで1位になったので、その勢いで学外のコンペにたくさん出して。ありがたいことに『デジスタ』にもたくさん出してもらうことができました。
この頃は本当に楽しかったですね。僕、子どもの頃から空想癖があって、小学校の通学路でずっと“お話”を考えることが好きだった。たとえば、「ドラクエの次回作を自分だったらどんなシナリオにするか」とか(笑)。アニメをつくるようになって自分の原点に戻ったような感覚もあって。
― しかし、就職先はアニメ関係ではなくパナソニックでした。アニメを仕事にするという選択肢はなかったんですか?
当時は今ほどアニメに思い入れがなかったんですよね。ミーハーな感じで始めちゃっていたし。
それよりも石井克人さんの影響を受けていたので、「最終的にCMでめっちゃおもしろい“お話モノ”をつくれるクリエイターになろう」と思いました。そんなときに演劇をやりながらパナソニックで働く大学の先輩が声をかけてくれたんです。「新海はアニメがおもしろいから、アニメつくりながらウチでCMの仕事やったら?」って。アニメづくりの楽しさは実感していたので、広告と両立できそうなパナソニックを選びました。
― 就職しても、オリジナルアニメ作品をつくり続けることにはどんな意味があったのでしょうか?
僕はやっぱりオリジナル作品づくりは尊いことだと思っています。それは今も変わらない。自分自身を作品にしているわけですから。
広告などの受注の仕事も楽しさはあります。でも、当然表現の幅は制限されるわけです。オリジナル作品は産みの苦しみがありますが、自分のつくりたいものをつくることができる。いわば自分の分身です。だから、褒められると何よりも嬉しいんですよね。学生時代に経験したその感覚を忘れたくないから、オリジナル作品づくりをやめてはいけないな、と。
だから、パナソニックへ入社してからも約6年間ずっとつくり続けていました。本当は副業ダメなんですけどね。当時は所属していたクリエイティブのチームにもやっている人が何人かいたので、黙認状態で(笑)。ありがたいことに賞が獲れたり、NHKの番組で僕のクレジットが流れたりすると、先輩や同僚が「新海の名前見たぞ」って。
― えっと…あくまでも当時のお話ということで……。
でも、副業がキッカケで独立することになったんです。
『秘密結社鷹の爪』で有名なDLEと仕事をしたことがあって、そのときに「次は一緒に会話劇をやりたいね」という話をしていたんですね。
やり取りの相手が当時DLEのプロデューサーで、その後Pie in the skyを一緒に立ち上げる遠藤。彼から「東海テレビの深夜枠で、月曜から木曜に4本アニメを流すという強行スケジュールだけど、オリジナルができるよ」って。もうやるしかないですよね。そのタイミングで独立して、アニメ一本でやっていくことを決めました。
― おお…!念願のオリジナル作品ですね。
『かよチュー』は自分の名前が刷られたDVDが店頭に並んだり、自分が考案したキャラクターのグッズが販売されたり…そういう経験をたくさんさせてくれた作品です。
でも、やっぱり最初から週4本はオーバーペースでしたね。体力的なツラさよりも、時間がなくてあまり納得できていない台本でも提出しなきゃいけないのが悲しかった。
収録が隔週だったんで、一度に8本分録るんですよね。だから、僕は8本分の台本を1日で書かなければならないっていう…。あまりにもしんどいから、途中から週3本になったんです。木曜は再放送枠で(笑)。結果として、ものすごく鍛えられた期間だったと思います。
― その後遠藤さんとPie in the skyを立ち上げたことを考えると、『かよチュー』が新海さんのキャリアを変えたといっても過言ではないと思います。クリエイターにとってオリジナル作品はどういう役割なのでしょうか?
役割というか、最終目標のひとつだと思います。クリエイターであれば挑戦する価値はある。それも、自主制作じゃなくて、お金をもらってつくることに意味があると感じています。きちんと“プロとしてつくる”という。
はっきり言って、ビジネスの枠のなかでオリジナル作品をつくるチャンスは少ないです。僕自身、オリジナルと言っても「100%つくりたいものがつくれた」という経験はありません。時間とか、予算とか、スタッフとか、スポンサーの意見とか…制約はたくさんある。
でも、制約があるからこそ100%に近づけていくことが楽しいんですよね。「これができたらOK」というゴールはない。100%自分のつくりたいものをつくれるようになるまで、オリジナル作品を続けていきたいと思っています。
― 新海さんはオリジナル作品、特に『かよチュー』や『名作くん』にはどのような想いで取り組んでいるんですか?
友達との「仲の良さ」を表現したいんですよね。仲が良いからボケる、ツッコめるみたいな世界観が好きで。ツッコミがいなくてボケっぱなしのシュールなギャグマンガとかもあるけど、僕はツッコミが好きなんですよね。ひとつの友情のカタチというか。信頼関係がないとボケもツッコミもできないから。
僕は友達が多くて、飲みに行くことが多い。自分で言うのもヘンだけど、キャラクターとしても明るいほうだと思う。くだらない話もたくさんするし、飲みの席がキッカケで仕事につながることもあって、ものすごく楽しいんですよね。居酒屋のワンシーンのような“友達と一緒にいることの楽しさ”を作品にできればいいな、と思っています。
ありがたいことに、ファンのみなさんにも伝わっている印象はあるんですよね。『かよチュー』も『名作くん』も。ファンのなかにはキャラクター同士のカラミを二次創作してくれたり、勝手にグッズをつくってくれたりする人もいて。「できました」って見せてくれる(笑)。ホントはダメなんですけど、つくり手としては最高に嬉しいんですよ。キャラクターが愛されている気がして。
― ステキな関係ですね(笑)。最後に、今後若手クリエイターが新海さんのようにオリジナル作品をつくる道を歩むためにはどうすればいいのか、教えてください。
まぁ、自分のつくりたいものと社会の間の壁が高くなければ、そんなに難しい話じゃないと思います。つくりたいものをつくって発信していくこと。それだけです。
僕の場合、幸せなことにお互いに刺激を与えられる仲間や友達、家族に恵まれました。かけがえのない存在がいるからこそ、楽しくできている部分もあると思います。いろいろ偉そうに語ってしまいましたが、もしひとりで悩むくらいだったら、切磋琢磨できる仲間を探してみることのほうが大切なのかもしれませんね。
― 新海さんのアニメを観ている子どもたちは、楽しい大人になりそうですね。お話を聞いていて、すごく楽しく働かれていることを実感しました。ありがとうございました!
文 = 田中嘉人
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