中国発ネット動画「微電影」は、2020年代の映像作品の最重要キーワードになるかもしれない。日本で精力的に仕掛けるのが、微電影レーベル『37.1°』だ。累計4,500万回再生、YouTuber/Artistのあさぎーにょ出演作品で衝撃を与えた。彼らはいったい何者? コロナ時代の新たな映像表現の可能性とは?
2019年12月27日にYouTubeに投稿された、1本の動画が大きな話題となった。
投稿したのは、人気YouTuber/Artistのあさぎーにょ。はじめのうちは、いわゆるよくあるYouTuberの動画にも見えるが・・・その衝撃の展開に、多く視聴者が度肝を抜かれ、SNSで話題となった。
あさぎーにょとこの作品を仕掛けたのがCHOCOLATE Inc.が映画会社SPOTTED PRODUCTIONSと共同で立ち上げた『37.1°(ナナドイチブ)』。彼らは日本初の「微電影(びでんえい)レーベル」を名乗る。微電影とは、中国発のネット配信映画の総称だ。
「とくに今、新型コロナウィルスの影響で、いろんな人が既存の枠組みを超えてインターネット上で動画を配信しています。日々、新しいアイデアが生まれている。」
こう語ってくれたのが、『37.1°』の外川敬太さんだ。
「今はiPhoneで撮影、編集し、誰でも瞬時に公開できるような時代ですよね。これから、映画という概念そのものがアップデートされて行くと思うんです。次のスタンダードが生まれるときだと思っています」
『37.1°』発起人の鈴木健太さんはこう補足する。今回は、お二人にこれからの映像の可能性について伺った。
(* 2020年6月9日現在、日本と中国での合計再生数)
【微電影レーベル『37.1°』】2019年、鈴木さんの発案をきっかけに、コンテンツスタジオ CHOCOLATE Inc.、映画会社SPOTTED PRODUCTIONSとの共同レーベルとして発足。YouTuber/Artistあさぎーにょとのコラボ動画をはじめ、人気アーティストSHISHAMOの楽曲をモチーフにした『またね(主演:今泉佑唯)』、SHE IS SUMMERの楽曲をモチーフにした『嬉しくなっちゃって(主演:浅川梨奈 )』をリリースしている。
ーー恥ずかしながら「微電影(びでんえい)」ってはじめて聞きました。どういったものなのでしょうか?
外川さん: もともとは、中国ではじまった「インターネットで公開される無料の映画」のことを指しています。
ただ、微電影はまだ生まれたばかりの新ジャンル。厳密に定義がされているわけではありません。僕らは、映画でもない、普通にYouTubeに上がる動画でもない、「中間」のようなイメージで捉えています。
ーー具体的に、「微電影」と通常の映画ではどんな違いがあるのでしょうか。
鈴木さん: まず1つは、入口が無料であったり、手軽に作れるなど「解放されている」という部分だと思います。
映画って本来、すごく敷居が高いものだと思われがち。難しいものではなく、誰でもカジュアルにつくって配信できたり、ネットで気軽に見たりできる。入口のハードルが下がることで、いろいろな広がり方をする可能性があると思っているんです。たとえば、iPhoneで撮影したプロトタイプ的な動画から劇場化やパッケージ化されていくなども考えられますよね。速度感が重要な時代に、まずはもっと気軽に「映画」を作れるフレームが必要だと思ったんです。
外川さん: また、既存の業界の固定概念や定義に囚われない表現ができることも違いの一つですよね。
たとえば、「映画とは映画館で公開するもの」とか「CMだったらこういうカメラを使って撮るべき」など、各業界には歴史の中で積み上がってきた、暗黙のルールのようなものがある。微電影では、「こうあるべき」というものがないので、前提を取っ払って企画ができます。
実際に、あさぎーにょさんの動画で言えば、「彼女のYouTubeチャンネルに上がる作品」として映像をつくりました。ただ彼女の持つ世界観を拡張することで、気づいたら映画を見ていたような重厚感をつくりだせた。
またこの動画はサントリー食品インターナショナル株式会社さんに協賛いただいていて、ブランドPRとしての側面も持っています。ブランドが持つメッセージをストーリーに乗せることで、より深く伝わっていくんじゃないかと思っています。
鈴木さん: 僕は「今の時代に適応した映画」を素直に考えて、実際に見てみたいんです。
主人公が実際のアカウントを持っていて「観客とリアルタイムのコミュニケーションがある映画」など、内容はもちろん、届けるための手段も、いろんな実験の余地があると考えています。
今、日本で「微電影」として前例を考えたりつくったりしていくことに、意味があると思っています。
ーー『37.1°』は「CHOCOLATE Inc.」、映画会社「SPOTTED PRODUCTIONS」、そして鈴木さんの共同のレーベルとして立ち上げられていますよね。実際は、どういった組織体制で運営しているのでしょう?
外川さん: 「ネットでできる映画ってどんなものだろう」と日々、実験する集団として『37.1°』があるイメージです。だから実は「チームメンバー」が固定でいるわけでもなくて。一緒に製作をする監督や俳優さん、女優さん、アーティストさんも、毎回作品によって異なる方をアサインしています。
たとえば去年で言えば、あさぎーにょさん、ミュージシャンの「SHISHAMO」さん、「SHE IS SUMMER」さん、またサントリー食品インターナショナル株式会社さんに仲間になっていただき、3本の動画を撮影しました。
鈴木さん: とくに、いままで映画をメインでやっていなかった人たちも巻き込むことで、映画の可能性が広がっていくんじゃないかと思っていて。たとえば『37.1°』では、YouTube動画だと思って観ていたら映画のようになったり、MVだと思っていたら、どんどん拡張されてその世界観が大きくなっていったり…毎回新しいアプローチで作品をつくっています。さまざまなバックグラウンドの方を仲間にすることで、既存の枠組みにとらわれない実験ができると思います。
外川さん: そもそも、「微電影」と掲げているのも、既存の「短編映画」と区別したいという理由からなんですよね。単に映画が短くなったものになると、どうしてもハードルが上がってしまう。選ばれた人しかつくれないものにはしたくないんです。
鈴木さん: 微電影がもっと当たり前になれば、今までの映画のあり方を180度変えてしまう作品が次々に生まれていくるんじゃないかと思うんです。
これは僕自身、中学時代にリモートで映画制作をしたときの原体験からくるものでもあって。当時、YouTubeに短編映画を作って公開する「KIKIFILM」というチャンネルをやっていました。メンバーは全国各地に住んでいたので、打ち合わせも制作も、すべてリモートでやっていったんです。
そうして完成した作品が、ワンクリックで世界に向けて公開されていって。そしてたくさんの人から反応が来ることに、作り手として大きな感動がありました。
こういう風に、いろんな人がプロトタイピング的に映画を公開できたら。もっと気軽に、速度感重視で映画をアップロードするようなカルチャーが作れたら、もっといろんな表現が生まれるんじゃないかと。
ただ、それはきっと「できる」はずなのに、まだ誰もやっていない。だからこそ、『37.1°』としてそれを先導していきたいと思っています。
ーー今、映画館が休館したり、みんなで集まって撮影が難しかったり、これまで当たり前だったものが当たり前ではなくなっていますが…。これからの映像クリエイティブについて、お二人はどのように捉えていますか?
鈴木さん: この数ヶ月の様子を見ていると、みんながリモート環境になったことによって、多くの人が「動画」に触れる機会が増えたんじゃないかと思うんです。
プロも個人も、映画も音楽も演劇も、全てが「ビデオ通話」か「リモート撮影」になった今。これって見方を変えれば、逆にチャンスなんじゃないかなと。長い間変わってこなかった慣例が、大きく変わろうとしている。コロナの状況下で生まれたものが、今後のスタンダードになっていくこともありえるんじゃないかなと思っています。
外川さん: 映画に限らず、いろんな業界の人が会社や個人や国の壁を超えて、プロトタイプ的に新しいクリエイティブを生み出しているのがおもしろいですよね
たとえばオーケストラや合唱団がZoomを使って合奏・合唱したり。チョコレイト(CHOCOLATE Inc.)もスズケンさん(鈴木さん)も取り組んでいますが、「Zoom演劇」などの事例も増えていますよね。それと、フワちゃんが自宅で撮影したCMも面白かった。
CHOCOLATE Inc.主催の「劇団テレワーク」|即興公演#05「たぶん見たことはない演劇」
鈴木さん: 「自分でもできるかも」と思ってもらえるかが大事で。微電影でもそれが旗となって、年齢関係なくみんなが作ったり、遊べるようなプラットフォームができるといいなと思っています。
たとえば、今の小学生は、僕らからすると「今までと全然違う映像クリエイティブ」が身の回りにある状態。映像に対する考え方も違うはずですよね。また、上の世代の人で言えば、僕らが知らない映画の作り方や技を持っています。
鈴木さんがクリエイティブディレクターを務めるフルリモート劇団「劇団ノーミーツ」|『ダルい上司の打ち合わせ回避する方法考えた。』
外川さん: 旧来の映画のような文化と新しい映像のスタイルを組み合わせて、新しいものを生みだしていく。たとえば、YouTubeで展開するには、どうやって最適化していくのか。色々なところに、新しさや価値が埋もれている気がしていて。これを発掘していくのかが微電影の楽しさでもあると思っています。
ーー最後に、『37.1°』として今後やっていきたいことについて伺わせてください。
外川さん: 「今の状況だからこそ成立するコンテンツ」だけでなく、これから継続して楽しんでもらえるもの、さらには「お金を払ってでも観たい」と思ってもらえるコンテンツを作っていきたい、と強く思っています。
クリエイティブの境界がどんどん曖昧になっていく中で、まずは「微電影」という旗を立てること。そういう場を作ることが、映像に関わるクリエイターとしてやるべきことなのかなと思っています。
鈴木さん: 今、リモートの状況下によって「来たるべき未来」が少し早くやってきたように感じています。今まで変わらなかった、変えることのできなかったルールもやり方も変えざるを得ない今、ここから「令和の表現」が始まるのかもしれません。これからの時代における「映画」の新しい作り方、見せ方、伝わり方を考えていきたいです。
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