2017.06.14
『BAUS』が描く、クリエイターの未来。加藤晃央がクリエイティブプラットフォームを立ち上げた理由

『BAUS』が描く、クリエイターの未来。加藤晃央がクリエイティブプラットフォームを立ち上げた理由

クリエイターの働き方を考えるとき、「フリー or 会社勤め」という所属の括りだけでは語れない時代になった。これからクリエイターの働き方はどう変化していくのか。2017年6月14日に立ち上がったクリエイティブプラットフォーム『BAUS』の発案者 加藤晃央さんと未来について考えてみた。

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『BAUS』加藤晃央さんと考える、クリエイターたちの未来予想図

フリーランスか、企業に属するか。

クリエイターのキャリアを考えるとき、どうしてもこの二択が主軸だった。

しかし、ここ数年で“複業”やサイドワーク、マイプロジェクト、リモートワークなどが注目。必ずしも「フリー or 会社勤め」という所属の括りだけでは語れなくなってきている。

では、これからクリエイターたちの働き方はどう変わっていくのか。

クリエイターの働き方を予想するうえで無視できないのが、2017年6月14日にオープンしたクリエイティブプラットフォーム『BAUS』だ。

クリエイティブプラットフォーム「BAUS」オフィシャルムービー

『BAUS』は求人サイトでもクラウドソーシングサービスでもない。クリエイターと企業・団体とつなげ、プロジェクト特化型のクリエイティブチームを構築できる新しいプラットフォーム。

オープンと同時に、オフィシャルパートナーとしてアドビシステムズやスマイルズ、オフィシャルサポーターとしてバスキュールやPARTY、AID-DCCといった名だたる企業が賛同。注目度の高さがうかがえる。

発起人である加藤晃央さんは、リリース第一弾の機能をこう語る。

「まずはプロジェクトチームに必要なスタッフを役職ごとにアサインする『MAKE TEAM』、プロジェクトベースではなく長期的な雇用関係をつくる『RECRUIT』、クリエイティブ業界の情報を発信する『MAGAZINE』、『BAUS』での実績を紹介する『PORTFOLIO』の4つを実装しています」

この『BAUS』立ち上げ背景にあるクリエイターたちの働き方、業界の変化とは?そしてクリエイターの未来とは?発起人である加藤さんにお話を伺った。


【Profile】
加藤晃央 Akiou KATO

1983年、長野県生まれ。武蔵野美術大学芸術文化学科在学中に起業し、株式会社モーフィングを設立。商品開発や広告企画制作請負の他、美大生のフリーマガジンPARTNERの発行、美大総合展覧会THE SIXを立ち上げる。また、美大生に特化した就職メディア「美ナビ」を運営。森ビル株式会社と共同で就職展覧会「美ナビ展」を開催し盛況を得る。2013年には、同世代のフリーランスや独立の流れを感じ、井口皓太とクリエイティブアソシエーション世界株式会社を設立。クリエイティブチーム株式会社TYMOTEにもメンバーとして在籍し自身も多様な働き方を摸索し、在籍する組織間を横断活動中。

『BAUS』は"クリエイティブ業界のGoogle”を目指す

加藤さん


― まず『BAUS』ですが、一見するとこれまでのクラウドソーシングや求人サイトのようにも…何が違うのでしょう?


『BAUS』が目指しているのは求人サイトでもクラウドソーシングサービスでもないんですよね。我々がつくろうとしているのはあくまでもプラットフォーム。Googleのようにひとつのアカウントで学生時代からプロフェッショナルになったあとまでずっと使っていけるような。

第一弾として、プロジェクトへのアサインや求人、ポートフォリオ登録、マガジンという機能からのスタートなのですが、今後はさらなる展開を考えています。

たとえば、決済に関わる機能、クリエイターの知的財産や著作権を共同で保有して運用していくような機能、保険の機能、さらには海外展開も視野に入れています。

日本のクリエイターが海外の仕事に、海外のクリエイターが日本の仕事に挑戦できるようにキュレーションして、グローバルにつないでいけるような仕組みですね。


― クリエイターにとっては生活の基盤になっていくイメージでしょうか。


近しいと思います。我々が考えていることって「どれだけクリエイティブ業界を皆でよくできるか」なんですよね。

クリエイティブ業界に対して「村社会」ような雰囲気を感じています。新しい人が参入するにはハードルが高いし、トップクリエイターのなかでぐるぐると仕事が回っている。少し閉鎖的なところがあってキャリアステップが見えにくい。

でも、どの企業も「人が足りない」ってことは口を揃えて言いますよね。採用ができないってこともあるんですけど、パートナーシップを結んでいる企業や個人のリソースがそもそも足りない、と。優秀なクリエイターはいろんな会社に引っ張られて分散依存されちゃいますからね。

たとえば、2〜3年に一度の発注のためにルートを確保しておくことって普通に考えると無理で。でも、必ず需要はある。僕らはロングテール化と呼んでいるんですけど、どのタイミングかはわからないけど、最高のモノをつくるためのルートを提供できるのが『BAUS』の特徴だと考えています。

クリエイター側の視点でいえば、仮にヒヨッコだったとしても『MAGAZINE』の機能で業界の心構えやティップスを学んでいく。そしてレベルにあったプロジェクトから、経験値を積むことができる。実績も公開できる。『BAUS』に登録すれば誰でもクリエイティブ業界に入っていけるようにしたいんです。

このようにしてクリエイティブ業界全体の底上げにつながれば、社会との接点も増えますよね。結果として、世の中全体がクリエイティブなものになっていけばいいな、と考えています。

これから必要とされるクリエイターになるために

加藤さん


― すこし大きな話ですが、これからの時代、より高い評価を得やすいクリエイターってどんな人になると思いますか?


まず前提として、日本経済において「縦割りな業界の壁」ってなくなって、溶け合ってきていると感じていて。たとえば、自動車業界×IT業界で自動運転技術が誕生しています。クリエイティブ業界も日本経済の重要な機能として、横串で全業界と関わり始めてきていますよね。

そしてコンペに参加するユニットの規模や属性は関係がなくなり、さらには個人まで発注の権利を得る時代になっていく。でも、提案内容や強みが変わらなければ埋もれてしまいますよね。

そうならず、クリエイターとして評価されるために必要な能力は2つあると思っていて。1つは専門性です。「絶対この人にしかできない」みたいな能力。もう1つは横断性ですね。領域を超えてファシリテーションできるような能力。その辺りがAIや海外の安価な労働力に対して求められていくんじゃないか、と。

また、ここ最近感じるのは「個人が企業に依頼する時代が来ている」ということ。


― 企業が個人へ…ではなく?


はい。いわゆるシャワー型ではなく、力のあるクリエイティブディレクターのところへ企業から相談が来て、その個人が企業側に発注を依頼する。「制作会社はあそこにしよう」みたいな話が増えてきている。

『BAUS』では企業や団体のことをユニットと呼ぶんですけど、「ユニット→個人」の発注もできるし、「個人→ユニット」の発注もできる。ユニットにせよ個人にせよ、スキルセットを可視化して発注できる仕組みにして、これは業界の変化をとらえたものだと考えています。


― 若手クリエイターたちは何をしていくべきなのでしょうか?


それは僕にもわかりません(笑)。変化していく時代なので。でも確実に変革があります。だからこそ、領域を横断して飛び込んでいくというマインドは必要だと思っていて。月並みですが、だからまずはやってみる。断らない。チャレンジしていく。このあたりは大事ですよね。

何も予測できない状態なのに、自分の主観でシャットダウンしていくと、変化に取り残されることになるので。

僕自身も経験したんですけど、とにかくアクションをしてくれたほうがフックアップする側も可愛いんですよ。僕は美大生でしたが、VCでインターンをしたんですね。周りは東大とか慶應大とかばっかり。明らかに異質な存在だった(笑)。

だから、最初はどうアピールしていこうかと不安だったんですが、かなり可愛いがってもらえました。「時間守れよ」とか「ヒゲ剃れよ」とかイジられながら。美大出身がいない環境ってオイシイってことにすぐに気づきましたね。

『BAUS』誕生のウラ側にある挫折体験

加藤さんオフィス外観


― 美大時代にVCでインターンをしたり、いろんな肩書きを持っていたりと加藤さん自身の生き方も非常にユニークですよね。そもそも加藤さんはなぜ『BAUS』をつくろうと?


じつは、僕自身が約10年間、『BAUS』と同じようにスポット的にクリエイターを紹介したり、フリーランスのクリエイターをまとめる組織をつくっていたり、そんなことをやってたんです。5〜6年前にクラウドソーシングが出てきて、『BAUS』の構想もあったのですが、時期的にまだ早いと感じていました。

今でこそ、働き方改革が叫ばれ、”複業”やリモートワークの文脈とか、法律とかを見ていると、変わっていきそうな流れが来ている。だから、「今じゃないのかな」と。またクリエイティブ業界全体が働き方という側面で向かい風にさらされていたんで、いい意味で追い風にしていきたいと思っています。


― ご自身も美大卒で、クリエイターとして生きる選択はなかったのでしょうか?


なかったですね(笑)。美大に入学して、1ヶ月くらいで挫折をしていたんで。でも、周りの同級生たちには頼られたいと思っていた。だから、イベントやるときの会場手配や会計仕事をやったり…言うなればバックオフィスですよね。地道な活動を続けていました。何かやるときの代表ではないけど、事務局長的なポストは全部押さえて、「加藤頼れるぞ」みたいなポジションを築いていました。


― いわばプロデューサー的な立ち位置を見つけていった、と。その挫折を味わってもクリエイティブの側にいたかった。


アートやデザインっておもしろいですよね。ワクワクするし囲まれていたい。何より、クリエイターの視点や思考って僕自身の人生においても得るものが多かったんで、そこすらも委ねて。

僕は彼らの問いや答えを積み重ねて共通項や最大公約数をつくって意思決定していくタイプの経営者なので、『BAUS』に関してもクリエイターやアーティストたちに話を聞いてみたんです。

すると、彼らの口から自然発生的に出てきた言葉たちと自分の考えとの共通項がめちゃめちゃ多かったのでとても驚いて。そして「これはすぐにやらなきゃ!」と思ったんですよね。


― 最後に『BAUS』をどのように育てていきたいか、伺わせてください。


まずは企業やクリエイターの『BAUS』活用の成功事例が増えていったらうれしいですね。当然会員数も必要なので、1年後までには3万人を達成したいと思っています。

あとは『BAUS』をどんどん使ってもらって、僕らも思いつかないような使い方を見せてくれたらおもしろい。勝手にビジネスがはじまったり、プラットフォームならではの職種が生まれたり。プラットフォームとして自走するようになったら成功なんじゃないかと思います。


加藤さん中目黒


― たとえば美大生がキャリアを考えるとき、加藤さんのようなディレクターやプロデューサーってあまり意識しない職種だと思います。でも、『BAUS』のなかでそういう職種自体が可視化されることもあるかもしれない。改めて『BAUS』の可能性を感じることができました。ありがとうございました。


文 = 白石勝也
編集 = 田中嘉人


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