気鋭のクリエイティブカンパニー、3社の代表が集結! 語られたのは“未来のチーム”について。なぜ、彼らは新たな組織を模索する? 2018年、特別座談会のレポートとしてお届けします!
※NEWPEACE 高木新平氏(左)、The Breakthrough Company GO 三浦崇宏氏(中央)、dot by dot 富永勇亮氏(右)
働き方改革や副業・パラレルキャリアなど、多様な働き方について語られる機会が多くなった昨今。同時に理想のチームをつくり、いいアウトプットをしていくためには、どうしたらいいのか。
こういった問いに対し、集まってくれたのがdot by dot 富永勇亮さん、The Breakthrough Company GO 三浦崇宏さん、NEWPEACE 高木新平さん。日本をリードするクリエイティブカンパニー3社の代表だ。
そんなお三方における「新時代のクリエイティブチームをどうつくるか」というテーマで行われた座談会のレポートをお届けする。特にポイントとして語られたのが「会社と個人がゆるくつながっていく。対等な関係性になっていく」というものだったー。
座談会は、富永勇亮さん率いる『dot by dot』のユニークなチームづくりの話題からスタート。彼らが取り入れた「所属クリエイター制度」とは?
富永:
『dot by dot』でいえば、一番大切なのはいいクリエイターの価値を最大限に生かすということ。彼らの力を借りたいとなったとき、価値を感じてもらえるよう、会社として多様な働き方を許容していて。リモートワークにしても、シェアオフィスにしても、必然性があってやっています。
そのなかのひとつが「所属クリエイター」という仕組み。基本的にはフリーランスのメンバーたちなんですが、チームには所属をしてもらう。他の仕事も自由に受けていいけど、僕らの仕事も一部お願いしていく。その代わり、会社としては、個人の仕事におけるギャラ交渉や契約関係、PR、法務のところを見てあげるというもの。顧問弁護士や税理士への相談もできます。
三浦:
めっちゃいい制度ですよね。取り入れようと思ったきっかけとかあったんですか?
富永:
もう会社が人を囲ってしまう時代は終わるなって思ったんですよね。まず自分自身が独立するとき「外に出たい」と思ったわけじゃないですか。だったら自分の会社でもメンバーは囲わないほうがいい。その人が仕事を引っ張ってきてくれたり、仲間を引っ張ってきてくれたりするから。そう思うと会社と個人の関係性ってそれこそdot by dot、1対1の対等な関係で。これからはもっといろんな場所でそうなっていくと思ったんですよね。
[参考]会社は「社員を囲う牢屋」でなく、クリエイティブな場であるべき。dot by dot富永勇亮×衣袋宏輝
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/549
三浦:
富永さんにめちゃくちゃ共感しますね。会社が人を縛る仕組みはナンセンスでしかない。僕は新卒から10年、博報堂で働いたんですけど、サラリーマンの時から、会社に内緒でラジオの放送作家やったり、友だちのベンチャーを手伝ったりしてました。あとになって当時の上司から「思いっきり自由にやらせた方が三浦は伸びると思っていた」って泳がせてもらえた。いい人で良かったです(笑)
あとは、博報堂は独立するクリエイターが多いのですが、辞めさせないで、ゆるくつなぎとめておけばいいのにと思うんですよね。僕自身、独立した今も博報堂とはよく仕事をしています。「月1回の出社でOKだからいい仕事とってきてね」という“ゆるふわ兼業社員”としてつないでおけば、お互いにとって、もっといいコラボレーションもできたかもしれない。フィー的にも(笑)。
そうできない理由もわかります。まず「組織として外側と内側をはっきりと分けたい」っていう意識の壁がある。あと大手の広告会社には社内に「抜本的に人事制度から変えたい」と本気で取り組む人が生まれにくい。現状だけみれば、大きな問題もないし、わざわざ大きく変える必要もない。人事という役割もローテーションの一つに過ぎないから、そこに責任を持ったプロが育ちにくい。
ただ、会社側としても、どうすればイケてる人たちとつながり続けられるのか、考えなきゃいけない時代が来ているのは確か。意識と組織を変えないと、どんどん優秀なクリエイターが独立していってしまう。これからの時代、コアスキルと目的意識を持った優秀な人材にとっては、会社は自分の目指す場所へたどり着くための、ただの乗り物でしかないから。乗り心地とか、スピードとか、乗り物自体の質が問われるようになっていくのだと思います。
富永:
博報堂の話題が出たので、じつは僕からもお二人に聞きたい事があって。お二人とも博報堂出身で三浦さんが先輩、高木さんが後輩っていう関係ですよね。
三浦:
そうですね。直接は仕事したことはないですが、先輩と後輩ですね。
富永:
僕、就職とか、社員の経験ってないんですよ。お二人とも新卒で博報堂に入っているじゃないですか。そこでの経験で役に立ったことってあるんですか?
三浦:
…じゃあ、高木から(笑)
高木:
僕は1年しかいなかったんで…ほぼ新卒で終わりました(笑)僕らの代は100人入って、半分くらい辞めてますからね。
三浦:
起業志向というか、尖りまくった若手を入れた時期があったんですけど、当時は博報堂のカルチャーにマッチしなかったんですよ(笑)
高木:
そもそも僕は、思想的に「鶏口牛後」なんで、大企業は向いてなかったのかもしれないですね。
で、1年しかいなかったという前提で、学べたのは「ブランドとは何か」を考えることですかね。僕はネット視点でのクリエイティブチームに配属されたので、マスメディアの人の考えが新鮮でした。どういう考え方でつくられているか。初めてアサインされたのが、ハワイ州観光局のWEBのリブランディング案件だったんですけど。
富永:
それが、2010年とか?
高木:
そうです。打ち合わせで、クリエイティブの偉い人たちは「ハワイとは何か。そして、ハワイ州観光局とはどういう存在なのか。世の中に約束しなければいけない」と言って、どういうコピーやビジュアルをつくるかばかり議論していたんです。意味わからなかったですね。そんなことよりも仕組みのほうが大事だろうと。僕は、「ハワイ州観光局ってプラットホームだから、自分たちでコンテンツをつくるのではなく、メディアやSNSなどの記事や画像を集約したページを作るのが、いちばん投資対効果いいに決まってます」って主張し続けてました。あれは、思想の対立でしたね。
三浦:
結論としては…特に役に立ったことはないと。そういう事でいい?
高木:
いやいや、そんな事なくて(笑)。「何が価値なのか」を言語化する癖は、今のブランディングの仕事に生きてます。はい。
三浦:
僕はですね。博報堂にすごく感謝している。
高木:
僕もそうですよ。
三浦:
お前は「博報堂がキライ」って言った方がキャラが立つんだよ。貫いたほうがおいしい。世の中プロレスだから(笑)。
富永:
そんな三浦さんが博報堂で学べたこととは?
三浦:
僕は博報堂で新卒から10年間で、マーケティング、PR、クリエイティブと、3つの職種を経験しています。企画の100本ノックみたいなことも3~4年やっていたかな。だからクライアントへの提案の型をいくつも持っている。それはすごく役に立っていますね。
どんなアイデアやクリエイティブも、わかりやすく、ビジネスに及ぼす価値を説明できる。本来は、クリエイティブに解説っていらないじゃないですか。説明しないと伝わらないものに意味はない。超不毛。それでも経営者や事業部、様々な部署の方に対して、アイディアの価値を説明してビジネスを成立させるという観点ですごく有効だったと思っています。博報堂はクリエイターにとって最高の教育機関だったと思う。博報堂しか知らないけど(笑)
だから、僕は若い人たちに「事業のクリエイティブディレクション」について、ある程度教えられるという自負があります。まだ仮説なんだけど、それを自分の会社で証明したいと思っています。
あと、常々考えるのは、博報堂をはじめ、広告代理店がクリエイターのモチベーションや能力を堰き止めるダムになったらダメ。その構造を変えたい。クリエイターがどんどん自由に活躍することで、日本全体の挑戦も加速する。GOをそういった人たちがつながれるコミュニティにしていきたいんですよね。
つづいて話題にあがったのが、クリエイターたちのキャリアや働き方について。クリエイターが会社に所属することの意味とは?
高木:
ひとりのクリエイターが、ひとつの仕事でどれだけたくさんお金がもらえるか?とだけ考えたら、フリーランスのほうが報酬が良かったりする。だから、優秀であればあるほど、独立するのはあたり前の選択肢になっていくと思うんです。それでも、会社に所属する意味合いが感じられるか、が僕ら経営者の頑張りどころですよね。それは、お金だけじゃなくて、その会社のビジョンやカルチャーと一体化したいかどうかだと思うんですよ。
富永:
僕が会社をつくる時も「冒険します」と声をかけて飛び乗ってきた人で立ち上げた。いわば冒険する船の乗組員で。フリーでもぜんぜん生きていける人たちだったから、なんの恐怖もなかったんですよね。
三浦:
会社は“物語”と捉えるとわかりやすいんじゃないかな。たとえば、Googleは「世界中の情報を整理し、すべての人々がアクセスできるようにする」という使命を掲げていますよね。その物語の登場人物になりたい人たちがのGoogleに集まっている。
高木:
だからビジョンが大事なんですよね。会社と社員の共犯ポイントだから。ただ、その関係がクリアであればあるほど、クリエイターはどんなスキルを提供できるのか、がシビアに求められますね。僕らの仕事は、具体的なアウトプットが出ますから。実際、打率もクオリティも高いクリエイターと、単純作業に甘んじるクリエイターと、格差が生まれている気がしますね。しかも評判がその格差をさらに広げていく。
三浦:
たしかに、そうなっていきそうだよね。ただ、会社を物語として捉えると、『シン・ゴジラ』みたいな大きな群像劇だと、どうしても主人公クラスの人たちはスーパーな人たちで、その他大勢はエキストラになる可能性が高くなる。でも、『ゴドーを待ちながら』みたいな登場人物の少ないシンプルな物語であれば、その舞台には1人しかいない。その代わり物語のスケールは小さくなる。結局、なにを選び取るかという選択の話だね。
つねに自身の能力が相対評価にさらされ、怯えながら生きていくのはしんどい。「エキストラでもいいから、すごく大きな映画に出ていたい」という価値観もあるだろう。それはそれでポジティブだと思うんですよ。
高木:
たしかに、何社も同時に動かすスーパークリエイターもいれば、粛々と自分の役割をこなす人もいる。会社と個人は目指すものが一致したら組めばいい。
三浦:
あらゆる個人と、企業の細分化されたニーズが、かなりの精度でマッチングしていく社会になっていくと考えていて。ただ、僕個人の場合でいえば、最前線ですごいヒリヒリしながら働きたい(笑)登場人物は少ないけど、それなりに大きな物語を描こうとしているから。
富永:
それって「関与度のレイヤー」だなって。つまり会社への関与度が高いほうが対価も得やすい。『dot by dot』でいえば、経営者や役員は、会社への関与度はMAXで、その次に関与度が高いのは社員たち。その次は所属クリエイターたち。一番低いのが、所属はしていないけど、シェアオフィスをつかってくれる人たち。どれくらい会社=物語に関与していきたいか。そこにどのくらいの対価を求めるか。“関わりのあり方”が多層化していくということなのかもしれません。
そして座談会は後半へ。語られたのは、これからそれぞれがどこを目指していくのか。特に白熱したのが「お金の儲け方」についてだった。
高木:
もうひとつ、僕が思っているのは「事業をクリエーションしたい」っていうこと。だからNEWPEACEではクライアントワークでも事業戦略まで踏み込みますが、今は自分たちでも2つの事業にチャレンジしています。プロダクトブランド『ONFAdd』とカレー専門店『6curry』と。どちらも世界マーケットを目指しています。ぼくらは新しいコンセプトを考えられるし、形にする技術もあるし、こういう会社から事業を生まれたら世の中面白くできるんじゃないかって。もちろん、資金繰りからオペレーションづくりまで慣れないことは山積ですが、インターネットのおかげで、挑戦コストが下がってるので、事業をしっかり立ち上げて、クリエイティブカンパニーの新しい金の稼ぎ方というか先行事例を作りたいんですよね。
[参考]
高木新平、リアルプロダクトで世界を狙う。ITから政治まで“企み”続けるクリエイターが選ぶ道なき道
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/904
三浦:
GOとして力を入れているのは、レベニューシェア(※)なんですよね。ただ、レベニューシェアで億単位の利益を出している会社はほとんどない。だからこそ、僕たちが業界のスタンダードになっていきたい。旗を立てたい。
(※)レベニューシェア とは?
アライアンス(提携等)手段のひとつでアライアンスによって生まれた利益を、あらかじめ決めておいた配分率でわかちあうことをいいます。たとえば主に販売代理店を営んでいる会社が、ドロップシッピングのサービスを始めようというとき、開発力がないため開発力がある企業にシステムの構築を依頼することになります。その際、システム構築のコストを抑えようと販売代理店側は考えるはずですよね。また、開発会社としても向上心の高い会社であれば、開発後に生まれる利益に対しても興味を持つはず。こういった双方の思惑が合致したときに行き着きやすいアライアンス方法がレベニューシェアです。(引用:『WEBマーケティングブログ』
弊社の契約書ってかなりクリエイティブだと思うんですよね(笑)クリエイティブカンパニーとクライアントの関係性もアップデートしていかないといけないと思っているので。たとえば、3年以内に一定の利益に達しなかったら契約解消でいいですって謳っていたり、マネタイズの仕方を一緒に考えて、売り上げにコミットさせていただく契約だったり。事業価値、時価総額といった抽象的な部分にまでコミットして契約を結ばせていただくこともある。
博報堂時代に悔しかったのが、銀行マンとコンサルタントのほうがクライアントの社長に会えること。ゴールドマン・サックス出身のメンバーにその話をしたら、「広告代理店は企業の全体予算のせいぜい10%程度の宣伝費しかさわれないんだからあたり前だ」と言われて、すごく悔しかったです。その時、絶対に事業にコミットできるクリエイターになろうと思いましたね。
僕は“事業のクリエイティブディレクション”って、銀行とは違う、経営にとって価値ある仕事になり得ると思っています。クリエイターという仕事の社会的価値を上げていきたい。ちゃんと稼げるし、すごく豊かで自由な暮らしを手に入れられるんだって証明したいという野望もあります。
富永:
レベニューシェアを業界のスタンダードにするっていうGOのスタンス、すごい共感してます。クライアントとしては、イニシャルフィーを抑えられるし、僕らにとっても、投資した分のワンチャンあるし。ええ感じのエコシステムだと思う。
昔は話題をつくって、広告賞が獲れたらよかったね、と喜んでいたけど、それをつづけていくのはどこか虚しさもある。もっとその先が見たい。みんなもそう思っているんじゃないですかね。賞だけじゃない、モチベーションを考えて、みんなが頑張れる土壌を作っていきたいですね。
こうして幕を閉じた約3時間に及ぶ座談会。今回、気鋭のクリエイティブカンパニー、その経営者であり、クリエイターでもある3名の視点に触れることができた。個人としてどうキャリアを築くか。同時にどのような視点でチームにコミットしていくか。ぜひ参考にしてもらいたい。
(おわり)
文 = CAREER HACK
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